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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
16/35

じゅうに じゆうに振る舞う彼

「いってきます!」


 私は家を飛び出した。今日は月曜日。学校です!



「おはよう!」


 教室のドアを開けて挨拶すると、瑞樹ちゃんが読んでいた文庫本から目線を私に移し、手を振ってくれた。


「ゆっきー、おはよう!」


 かなり久しぶりに会った気がして、私は勢い余って瑞樹ちゃんに抱きついてしまう。でも、彼女は嫌な顔ひとつせずに、笑顔で迎えてくれた。

 もう、瑞樹ちゃん天使。かわいい。エンジェルミズキ、イズキュート。


「カラオケ、どうだった?」


 挑戦的な笑みで訊かれ、私は笑いながら答えた。


「いろいろあったけど、楽しかったよ」


 そう、本当にいろいろあった。

 私は瑞樹ちゃんに、一昨日の出来事を事細かに話した。彼女は目線を合わせてくれるし、途中でうなずいたり相づちを打ってくれたりするから話す方としても結構話しやすい。

 途中で寝ちゃったことや、カナくんに抱きしめられたこと、廣山さんが熱で倒れてしまいあまり歌えなかったこと、帰りにかなり厄介な人に出会ってしまったこと……。

 すべて聞き終えた瑞樹ちゃんは、笑顔で「進展あってよかったじゃん」と言った。私も実は少しだけそう思っている。

 それにしても、高田くんってなんであんなところにいたんだろう?たしか彼は難関校の岸羽高校に通っていたはず。岸羽といえばこっち方面ではないし、そもそも高田くんの家は私の家と正反対のところにあったと思うんだけど。

 そのとき、吉川先生が入ってきた。みんなそれぞれ自分の席に座る。先生は生徒と目を合わせ、口を開いた。


「今日は転校生がいます!」


(こんな早くに?)


 私はそう思った。だってまだ入学してすぐだ。高校の転校ってあんまり聞いたことないし、珍しい……。

 先生に呼ばれて入ってきたのは、男の子だった。


「岸羽高校から来ました、高田志侑です。よろしくお願いします」



 それは、紛れもなく、あの高田志侑だった。

 高田くんは、家庭の事情だか何だかで転校してきたらしい。でも、池高と岸羽って別にそんなに距離ないし、わざわざ転校してくるってほどじゃ……。


「佐野!」

「ひっ」


 高田志侑。この人が私の名前を呼ぶ声をまた聴くことになるとは思ってもいなかった。


「やっぱり佐野だ。元気だった?」

「高田くん、私たち卒業してからまだ一ヶ月くらいしか経ってないんだけど」


 なんでこの人、私に話しかけてくるんだろう。私にウソコクしてきたくせに、なんで普通の顔してこんなことできるの? 神経を疑う。

 ヤンキーっぽく言えば「どの面下げて~」ってやつですね。


「ウソコクの時はごめんな。俺、ずっと謝りたかったんだ」


 意味分かんない。ウソコクされたのって、中二の頃の話なのに。


「でも、俺気付いたんだよ。佐野のことが好きなんだって」

「え?」


 今のは、告白? 高田くんが、私を好きってこと?

 ……ありえない。


「どうせまた嘘でしょ? 私、もう騙されないから」

「嘘じゃねえよ?」


 顔が、すごく近い。座っている私に目線を合わせて屈んでいた高田くんは、どんどん顔を近づけてくる。なんでかっこいい人ってどいつもこいつも顔近づけてくるんだろう。

 私は無視することにした。こんな人に惑わされる必要なんてない。私の好きな人はカナくんだもん。


「あれ? まさか佐野、好きな人でも出来た?」

「なっ!」


 私は一気に顔を赤くさせた。もう、バレバレだ。なんで私ってすぐに顔が赤くなるんだろう。


「ふぅーん……」


 高田くんは、クラスの男子をじろじろ見ながらにやにやしていた。ど、どうしよう……。


「ま、気長に俺も頑張るよ」


 高田くんは不敵に笑った。が、頑張らないでいただきたい……。

 すると、カナくんたちが現れた。わ、これはヤバイかも! 私がカナくんを好きって、バレないかな?


「あれ? 志侑くんって佐野さんと知り合いだったの?」


 カナくんのコミュ力が高すぎて怖い。初対面&初めての会話だというのにいきなり下の名前予備とか、フレンドリーすぎるよ。

 てか、高田くんの話昨日したのに、聞くんだ? 高田くんに怪しまれないようにかな……。

 対する尾川くんは、険しい顔をして高田くんを見ていた。ああ、尾川くんと高田くんって、絶対気が合わない気がする。


「カナ、やめろよ」


 尾川くんは昨日の私の話を気にしているのか、カナくんの肩を引っ張って引き寄せ、彼の顔を覗きこんだ。カナくんはわかりませんというような顔をしている。


「なんだよ、隆夜。嫉妬してんの?」


 彼がにやにやしながらそう言うと、尾川くんは「んなわけないだろ気持ち悪い。変な顔すんな」と吐き捨てて、カナくんの顔をいじっていた。やっぱ、このペアかわいいなあ……。

 私がぼんやりとその光景を見ていると、高田くんが「へえ……」と意味深に微笑んでいた。

 うわ、怖っ! ば、バレちゃったかな? 瑞樹ちゃんにも分かりやすいって言われちゃったし、どうしよう……。


「そうだよ。俺ら、中学の時同じクラスだったんだ。な、佐野!」

「う、うん……」


 こんな強引な人のどこがいいんだろう。なんでこの人、モテてたんだろう。すごくふしぎ。

 あと、私に話を振ってくるのはやめていただきたく思う。


「そーなんだ! 仲良かった?」


 カナくんは、高田くんのことを探っているのか、色々な質問をしていた。たとえば、高田くんがウソコクのことを包み隠さず逝ってしまうタイプなのか、わざと隠すタイプなのか、とかを探ろうとしているんだと思う。だから、ああやって質問をしているんだ。

 尾川くんは目を細めて高田くんを睨んでいたけど、高田くんが彼の視線に気付くと、にっこりと笑った。この人、ほんと何も変わってない。人の心をもてあそぶような人のままだ。

 まあ、ウソコクする時点で最低だと思うけど。



 それからの一週間。高田くんへの告白ラッシュが続いた。本当に、あんな人のどこがいいんだか……。

 多分、顔だけ見て告白してるだけだと思うけど。だって、たった一週間であの裏表のありすぎる高田くんの本性を知ることなんてできるはずないもん。


 私と瑞樹ちゃんの会話は、高田くんのことばかりだった。

 あんまりウソコクのことを言いふらすのはどうかと思ったけど、毎日彼が私に話しかけてくるものだから、説明するにはそのことも含めなければ説明として成り立たない。仕方ないかな、と思ってそのことを話した。


「ふーん、高田ってそんな人なんだ。人は見かけによらないってこのことだね」


 瑞樹ちゃんは頬杖をつきながらつぶやく。私はうなずきながら激しく同意した。


「ほんと、そうだよ! 高田くんに告白してる人は頭どうかしてるよ。顔だけで選ぶって、おかしいと思う」


 そう言いつつ、私もカナくんにひとめぼれだったなあと考える。でも、あれは顔で選んだわけじゃない。彼の優しさに惹かれたんだから。……って、なんで熱弁してるんだ私。

 入学式の時のことを思い出していると、瑞樹ちゃんはにこにこ笑った。え、な、なに?


「ゆっきーはほんとに一途だねえ。桧原しか眼中にないじゃん」

「ちょっ、瑞樹ちゃん!!」


 そんな普通の声量でカナくんの名前を出してくるとか、なんて恐ろしい子!


「か、カナくんはカナくんだもん……」


 ぼそぼそとつぶやく私を見て、彼女は驚いていた。え?


「へ~。下の名前で呼ぶようになったの?」

「あ! ち、ちがう。ちがうのこれはっ!」


 私は焦って否定した。と言っても、瑞樹ちゃんの言った事は事実だ。

 私は項垂れて、瑞樹ちゃんの机に寝そべった。

 お父さん、お母さん。なんで私ってこんなに分かりやすい性格なんでしょうか。今だけ高田くんのポーカーフェイスが羨ましいよ。今だけ。今だけだけどね!


「まあまあ。分かりやすいところがゆっきーのかわいいところだよ」

「それ、慰めになってないから……」


 ぽんぽんと頭を軽く叩かれる私は、力なくつぶやいた。


 次の週の月曜日の、4月25日。みんなだいぶ学校にも慣れてきて、高田くんへの告白ラッシュもやっとおさまった。

 ホームルームで、吉川先生が黒板に白いチョークで書いたのは、「校外学習」の文字だった。行き先は近くの山。ゴールデンウィークが明けてから二週間後の五月二十一日からだ。

 何をするかと思ったら、完全にキャンプだった。

 お昼は弁当、夜はカレー。朝は自由。一泊二日のキャンプである。テントを張って寝るらしい。夜中に星の観察もするのだとか。楽しそう!


「班は出席番号順です。一班六人で、高田くんがいるから……」


 普通、転校生は一番最後の出席番号になる。だから、一番最後の班に入ると私は思い込んでいたんだけど……。


「先生、俺、知ってる人がいる班がいいんですけど」


 高田くんがそう言った。げ、まさか……。


「そう? いいわよ、どこにする?」

「佐野さんの班」


 即答だった。恥ずかしげもなくすらっと言ってのける。た・か・だあああぁぁぁ~!!

 なんで! なんで校外学習まで高田くんと一緒に行動しなきゃいけないの!? A組に転校してきたってだけでも嫌なのに、このたのしい校外学習を高田くんにつぶされてたまるか!


「わ、私は嫌です!」


 考えるべきだった。でも、言ってしまった。だって、嫌だもん!


「そう? でも、高田くんは転校生だし……」


 先生~! しっかりしてよ! 高田くんだけ転校生だからって自由に班を選べるなんて、そんなの差別だよ!

 突っ込みすぎて疲れた。


 結局、高田くんは私たちの班にやってきた。ちなみに他のメンバーは木坂くん、岸本さん、小崎くん、鹿留ししどさん。それから瑞樹ちゃんと私。そして高田くん。この班だけ七人だ。やだなあ……。

 私はため息をついた。他のメンバーと話したことはほとんどない。てか、まったくない。この校外学習で仲良くなれたらいいんだけど。


「ゆっきー、大丈夫?」

「高田くんがいなければまったく問題なかったんだけどね……」


 思わずそうぼやくと、後ろから問題の人たかだくんが現れた。


「なに? 俺がどうかした?」


 ひっ、地獄耳! 怖い。この人怖い。


「高田よろしくねー! 校外学習、同じ班だよね!」


 瑞樹ちゃんが貼りつけた愛想笑いで高田くんに接している。こっちも結構怖かった。瑞樹ちゃん、結構猫かぶりっすね。


「ああ、誰だっけ?」


 高田くんも怖っ! 完全に裏出てるなあ……。

すると、瑞樹ちゃんが私の腕を引っ張って耳元でささやいた。


「あいつ、超ウザいね! あたしあいつきらい!」


 どうやら、瑞樹ちゃんもお気に召さない様子。高田くんは性格悪いから、内面を知ってる人は嫌うみたいだ。


「み、瑞樹ちゃん落ち着いて! 気持ちは分からなくもないこともなくもない……け、ど?」


 自分でも何が言いたかったのかよく分からなくなってきた。私は何の話がしたかったんだ。


「あたし椎名瑞樹です。ゆっきーの大! 親友ですっ」


 私の腕にしがみつきながら、瑞樹ちゃんは言った。だ、大親友……!?

 大親友という言葉に舞い上がっている私とは対照的に、高田くんの目はまさに獲物を狙う肉食獣そのものだった。


「へえー。椎名瑞樹ねえ……」


 高田くんは品定めするように瑞樹ちゃんをじろじろ見てから、鼻で笑った。


「バカっぽい名前」

「は!?」


 彼女は今にも高田くんにつかみかかりそうだった。

 それにしても、バカっぽいってのはひどいと思う。しかも、名前だよ? 名前がバカっぽいってどういう意味?


「しかも、佐野のあだ名ゆっきーって……センス悪すぎ」

「あぁ!?」


 瑞樹ちゃん、キレてる。彼女にも本性があったとは知らなかった。そして何より、高田くん毒吐きすぎです。

 二人は散々口論をした後、チャイムが鳴ったのでそれぞれの席に着いた。



 その次の日。相変わらず高田くんは少し浮いていた。クラスの人は遠巻きに見ているだけ。

 たまに勇気のある女の子数人が照れながら話しかけていたけれど、その時の高田くんの猫かぶりはすごかった。超笑顔である。怖い。誰、この人。

 男子はほとんどが「モテやがって」というような嫉妬ばかりなので、声をかけに行く人はほとんどいなかった。例外が一人いるけど。


 その日の昼休み。薄々そうなるだろうなとは思っていたけれど、ついにその時がやってきてしまった。


「お前、ちょっとモテるからっていい気になってんなよ!」


 校外学習で同じ班になった木坂くんが、教室で叫んだ。む、胸ぐら掴んでらしゃる。木坂くんのことはよく知らないけど、真面目そうな顔してバイオレンスですね……。


「木原、だっけ? そんなひがまないでよ」

「木坂!」


 高田くん、懲りない。にやにやしながら挑発している。うわあ、どうしよう……!

 名前を間違えられた木坂くんは頭がキンキンするような高い声を出している。私、男の子が出す高い声って苦手なんだよなあ。

 そんなときだった。


「おい、もー。二人して何やってんだよー」


 のんびりした明るい声で言ったのは、ただ一人高田くんに普通に接していた男子でもあるカナくんだった。さりげなく二人の間に割って入って、両者を見上げる。微笑む。かわいい。


「志侑くんはシャイなんだよ、由人よしと。分かりにくいだけなんだって」


 木坂くんにそう言ってまた微笑みかける。そのあと、高田くんの方を見て言った。


「志侑くんも突っかかんなよなー。せっかく同じクラスになったんだしさ、仲良くしよーよ」


 高田くんの肩を(背伸びしながら)ぽんぽんたたき、にこにこと笑うカナくん。高田くんはそれを見て、目を細め静かに笑った。


「お前、ちっさいな」

「は!?」


 爆弾発言である。

 高田くんはカナくんの頭に手を乗せて、いつものように意地悪そうな笑みを浮かべた。彼は多分身長170センチを超えていると思う。だから、チビ……いや、ミニサイズのカナくんと並ぶと、身長差を感じるのです。ハイ。


「なんだよ、人が気にしてること言うなよ!」

「牛乳ちゃんと飲めよ」

「飲んでるし!」


 いつの間にか、木坂くんは姿を消していた。二人の口論は、その後もずっと続き、昼休みが終わるまで繰り広げられた。微笑ましいとばかりに見つめている人もいれば、迷惑そうに顔をしかめている人もいた。

 私? 私はもちろん微笑ましかったので見守らさせていただきました。

 でも、それよりも尾川くんと高田くんのキャラがかぶっていることが気になった私でした。

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