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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
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番外編 気になるあの子(奏音目線)

カナくん目線の番外編です。

よろしくお願いします。

「一年A組の、佐野優樹菜です……」


 ツインテールの女の子は、そう言って少し顔を赤くした。俺が自分の名前を言うと、遠慮がちに自己紹介してくれたんだ。

 佐野優樹菜。彼女は、俺の高校生活に大きく関わることになる子だった――――。



「なー隆夜」

「んー?」


 昼休み。購買で買ってきたらしい焼きそばパンを口にくわえた隆夜に、俺は声をかけた。ほぼ毎日一緒に昼ごはんを食べている俺たちは、中学の時から仲の良い親友だ……と、少なくとも俺は思っている。

 そんな彼に聞きたかったことは、ただひとつ。入学式で知り合った佐野さんことだ。

 彼女は入学式の日、廊下の隅でしゃがみこんでいた。なんでそこにいるのか、なんでしゃがんでいるのか。わからなかったけど、とりあえず体調が悪かったりしたら保健室に行った方がいい。

 そっと声を掛けると、佐野さんは驚いたような表情をしていた。そして、俺のことをじっと見る。ツインテールの髪を揺らしながら、彼女はこくこくうなずいて「大丈夫」と言った。


 あの日のことを、今もついさっき起こったことのように思ってしまう。今日は四月14日だから、もうあれから一週間近く経っているというのに。


「隆夜はさ、佐野さんのこと、どう思う?」


 思えば、女子にさん付けで呼ぶことはほとんどなかった。最近よく声をかけてくる廣山も、廣山さんとなんて呼ぶのは寒気がする。でも、逆に佐野さんは、佐野と呼び捨てするのは気が引けた。

 それは多分、彼女が男子と積極的に話すタイプではないからだと思う。廣山は男子としょっちゅう絡んでいるし、俺たちも同性の友達のように話している。だけど佐野さんは何か違う。友達、という枠に入れるには、なんとなくだけど抵抗があるんだ。


「佐野さん? あー……おとなしい子だな〜とは思ったけど」

「そっか」


 やっぱり、隆夜も俺と同じように佐野さんと呼んでいた。彼もきっと、俺と同じような気持ちなんだろう。

 そして、俺も隆夜も普段周りにいるような女子とは全くタイプの違う彼女に、興味を抱いているのだと思う。多分、恋愛感情とかそんなのではなくて、ただ興味本位で気になってるんだ。

 だいたい俺は恋というものをしたことがないし、誰が好きとかどうでもいい。中学の頃は、隆夜などの男友達と、男子といても平気な女子たちと一緒にいることが多かったから、余計かもしれない。

 でも、別に恋愛には興味がないというのが本音だったりする。


「で、どうしたんだよ。まさか好きにでもなったのか?」


 にやにやしながら聞いてくる隆夜に、俺はつい声を荒げてしまった。


「そっ、そんなわけないだろ! ……隆夜だって、知ってるくせに」


 言い終わった途端、恥ずかしくなってくる。耳の後ろの髪を触りながら、顔が熱い気がしてうつむいた。恥ずかしい。

 俺は小さくごめんとつぶやいた。


「別にいいけどさ。俺だって本気で言ったわけじゃねえよ。カナのこともちゃんとわかってるし。すぐ真に受けるよな、お前」

「隆夜のこと、信用してるんだろ」


 ぼそぼそと言うと、隆夜は笑った。大きな声で、笑った。

 眩しかった。俺はずっと隆夜が羨ましかったんだ。何も隠さずに、おおらかに生きる隆夜が。すぐ隣にいるはずなのに、手が届かないようなその眩しさが、知り合った頃からずっと、ほんとは羨ましかった。


「ばーか。人なんて簡単に信用するもんじゃねえよ」


 歯を見せて笑い、俺の頭をぐしゃぐしゃ撫で回す彼の姿は、誰よりも格好良くて、綺麗だった。


(なんで、彼女つくらないんだろうなあ……)


 それが、長年の俺の疑問だった。



 耳も熱い。熱でもあるのかもしれない。

 昼休みが終わったあとの五時間目。現国。すげー眠い。

 ただでさえ現国は眠いのに、なんでわざわざ食べ終わったあとの一番眠くなるこの時間にさせるのだろう。もうちょっと時間割の組み方も考えてほしい。教師はそんなことも考えてないのか。

 さすがに授業中に大あくびをするのは嫌なので、手で口を隠して小さくあくびした。眠い。


「カナ、眠いの?」

「ん~?」


 後ろから背中をつついてきたのは、最近よく話す廣山だ。こいつは話しやすいから、普段はあまり遠慮とかしない。こんなのに遠慮するとか、そんなのに労力を費やす暇があればもっと違うことをする。

 でも、それくらい気を許せる友達なんだと思う。


「廣山は眠くねーの?」

「眠くなかったらわざわざあんたに話しかけたりしないよ」


 そーかよ。

 つまり俺は眠気対策のための会話相手ということだ。なんだよそれ、利用じゃんか。

 心の中で散々文句を言いながらも、話し相手ができたことに若干喜んでいた。何もせずにぼけっと一時間過ごすよりも、こっちの方がよっぽどいい。

 先生に気づかれないようにこっそりと小声で話し続けた。

 女子、か。あんまり、いい思い出はないな。


 ほとんど誰にも話していないけど、俺は小六くらいの時に女子からいじめられたことがあった。理由はたしか、俺が主犯格の女子の友達をフったからだったと思う。理不尽な話だった。(俺からすると)

 主犯格の女子は、結構知り合いとかが多くて気の強いやつだった。だから、有る事無い事言ったり俺の悪い噂(もちろん嘘)を流したりして俺の周りに人が来ないようにしてきた。

 最初は俺も反抗したけど、そのうち面倒になって放置するようになった。そしたらどんどんひどくなるし、もう学校に行くのが苦痛になりつつあった。


 親や先生に相談なんて、できるはずなかった。いじめられてるってだけで恥ずかしいのに、いじめてるやつが女子だなんて知られたら、どうしようもないやつだと思われそうで怖かったってのが主な理由だ。

 だからあの頃は、とにかく我慢するしかなかった。


「なんであんた生きてんの?」


 何度そう言われたことだろう。あの時の刺すような視線は今でも忘れられない。彼女たちのすべてが怖かった。行動も、言葉も、見た目もすべて。

 何回か廊下ですれ違った時にぶつかられたり足を引っ掛けられたりしたこともあった。最初のうちは女子だけだったのが、だんだん男子も増えてきた。その中には、それまで仲良くしていた人もいて、余計に怖かったこともある。


 いじめなんて、よくある話じゃないかもしれない。でも、きっとどこの学校でも、いつの時代でもいじめってものはあるんだと思う。それがネットを扱うものだとしても、直接的ないじめだとしてもだ。

 いじめって、それぞれいろいろあると思うけど、俺の場合はまだ軽かったのかもしれない。結構すぐ終わったから。ものを盗まれたわけでもなかったし。

 ただ、陰口言われたりちょっといたずらされたりしただけだ。そのくらい、今ならきっと我慢できる。でも、あの時の自分からしたらかなり深刻な問題だった。

 いろいろ考えた。どうすれば許してもらえるのか。主犯格の女子の友達と付き合えばいいのか?そう考えたこともある。それがいじめられる理由だったんだから。

 でも、何と無くそれは嫌だった。少なくとも、自分をいじめるような人と付き合うとかは嫌だったし、まず付き合うってなにかよく知らなかったからだ。


 だから今でもあんまり自分に好意を寄せられないように気を配っているはずだ。

 好かれたくない。また小六の時のようにいじめられたくない。そういう気持ちが、あるから。


 そういえば一度、トイレから出たところで水をぶっかけられたこともあった。あれはたしか男子にされたと思う。トイレを出てすぐのところに隠れて、バケツに水を入れて待ち伏せしていたらしい。

 もちろん服も髪もびしょびしょになった。夏ではなかったから、すごく冷たかったのを覚えている。

 彼らは言った。


「お前が相谷(あいたに)をフるから悪いんだぞ!」

「そうだぞ、ちょっとモテるからって調子乗ってんなよ!」


 相谷というのは、俺がフった主犯格の友達のことだ。たしか彼女のことが好きだった人がいたと思うから、それで恨んでるやつがいたのかもしれない。でも、それは俺に関係ないと思う。


 幸いにも、水をぶっかけられたのは放課後だったから、着替えたりせずにそのまま走って帰った。

 親には適当に言い訳しようと考えていた。蛇口をひねったら水が噴き出してきたとか、放課後の掃除で水が入ったバケツをひっくり返して水をかぶったとか、言い訳ならいくらでもあったから、大丈夫だろうと考えていた。

 でも、俺が思っているほど簡単に親は騙せなかった。


「嘘ついたって無駄よ。相谷さんのお母さんから聞いたんだから。奏音、あんたいじめられてるんだって?」


 まさか、母親があんなにはっきりといじめという言葉を使うとは思っていなかった。

 大きなショックを受けたとともに、俺へのいじめはその日以来なくなった。

 というか、いじめられた原因はその相谷なんだけどな、と思ったのは一応いらないことだと思ったので言ってはいない。



 あれから、女子と関わりを持つのを避けはじめた。

 友達のように接してくる普通の女子は避けたりしなかったけど、明らかな好意を示してくる女子は避けた。あからさまに避けるようじゃまたなにがあるかわからないから、さりげなく離れる。そうやって、自分に好意を向けさせないようにしていた。

 時には嫌われるようなことを言ってみたりもした。でも、そうやって中学時代を過ごしているうちに、疲れてしまった。だから、三年生になった頃からは極力女子を避けるようにした。


 そして、無事高校生になれたんだけど、そこで出会った佐野さんは、今まで俺が見てきた女子とは違った。

 男子と関わらない女子は中学の時もいた。けど、佐野さんはそういうのじゃないんだ。話せるのに、遠慮してる。そういう感じだった。だから、気になったのかもしれない。

 俺が話しかけると恥ずかしそうにしてるのがかわいいなあと思ったり、突然変なこと言い出したりするのが面白かった。

 入学式の日の帰りも、楽しかった。もしかしたら俺は佐野さんのことを好きなのかもしれないとも思った。でも、やっぱ、結論を出すのはまだ早い。


 それも全部含めて、俺は佐野優樹菜という女子が気になってる。だから、絶対もっと親しくなって、佐野さんのことを知ってやることにした。

 もしかしたら、こんなに女子のことが気になったのは初めてかもしれない。これが恋愛感情かはまだわからないけど。まあ、それは別にどうでもいいと思う。

 とりあえず今は、佐野さんのことについて知るべきだと思うから。

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