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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
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12/35

きゅう きゅうごうしつにて熱唱すべき

「ひゃー、おっきい……」


 私は目の前に建っている大きな建物を見て、感嘆の声を漏らした。

 私、佐野優樹菜。人生で初めてのカラオケです!!


「なにボケっと突っ立ってんのよ。さっさと入るわよ」

「う、うん!」


 ぼーっとその建物を見つめる私にそう言ったのは廣山さん。前、

 昨日までは明らかに敵意むき出しだったんだけど、さっきアレクで少し話してからは、廣山さんの態度も軟化してきたみたいだった。ま、なにはともあれ一応仲良くなれたんだからいいよね!

 私はうきうきしながらカラオケ店ボワール・サクスに入った。

 フロントは広い。学生フリータイムが四人。全員合わせて4432円。ということは、一人1108円もするのかあ……。カラオケって、結構高いんだね。

 私たちに割り当てられたのは九号室。先に歩いて行く桧原くんたちを追いかけて、私は九号室に入った。


「うわあ、広い!」

「そうか?」


 入った瞬間そう言った私に、尾川くんは首を傾げながらドアを閉めた。四人にしては広い部屋だと思う。

 黒で統一された部屋には、ソファーとテーブル、それからテレビがあった。曲を入力するリモコンは大きめ。マイクは二本。カラオケ、楽しそう!


 最初に誰か歌うかを決める時に、少しだけもめた。私は初めてだからということで除外してもらえたんだけど、三人の中で決まらなくて、結局じゃんけんで決めることになった。

 結果、尾川くんの一人負け。最初の曲は、尾川くんによる「スパイダーモンスター」というものだった。


「スパイダーモンスター

 オレンジに輝く

 猫が笑ってる

 スパイダーモンスター

 桃色のモンスター

 クモが笑ってる」


 かなり謎な歌詞だった。オレンジに輝く猫って、なんなの……。

 結果は83点。歌い終わった尾川くんは息を整えながらマイクを廣山さんに渡した。どうやら、二番手は廣山さんのようだ。

 彼女は上機嫌で「青い空の彼方」を歌い始めた。


「空の向こう

 僕は見てた

 いつも君と

 描く未来図

 僕らきっと

 いつも見てた

 あの青い

 空の向こう」


 この歌、なんか知ってる気がする。そう思った私は、自然と一緒に歌っていた。


「君がいなくなったあの夏の日

 君がいなくなったあの晴れた日」


 廣山さんが、息を吸う。次はサビだ。


「青い空の彼方

 向こうに

 きっと君がいるから

 青い空の彼方

 向こう側に

 きっと未来開く

 その向こう側」


 彼女はそのあとの二番も楽しそうに歌っていた。この曲、いいよなあ。ちなみに点数は87点だった。

 その次の三曲目。歌う番になったのは桧原くんだった。今日集合するのが一番遅かった罰として、バリバリの恋愛曲を歌わされることになったらしい。選曲されていたのは、「I love you」だった。


「頑張れよーカナ」

「カナ、ちゃんと歌うのよ!」

「ひ、桧原くんがんばれー」


 尾川くんと廣山さん、そして私の声援に、桧原くんは苦笑いしながら「俺音痴なんだよ」と言った。こういうのって、やっぱりいいよね。高校生って感じする。

 桧原くんの次に歌うのは私だから、早めに曲を予約しておくことにした。「Dream」っていって、RI⋆COという私と同い年の歌手の女の子が歌ってるやつ。

 たしかRI⋆COは作詞作曲ができる子だったから、この「Dream」はRI⋆COが作ったんだよね。そういえば、「I love you」も彼女の曲だったような気がする。

 そのとき、桧原くんが歌い始めた。


「いちごミルクの飴を投げて

 私にくれるのは嬉しいけれど

 やっぱり私は

 飴よりあなたが欲しい」


 とにかく謎な歌詞だ。RI⋆COってこんな歌詞もかくんだね。

 間奏に入ったとき、桧原くんの顔はすでに真っ赤だった。「全部歌わないとだめ?」と尾川くんに上目づかいで聞いていたけど、もちろん尾川くんが途中終了を許すはずもなく、彼は続きをしぶしぶ歌った。


「顔色悪いあなたの頬を

 優しく撫でる春の風も

 今は姿を見せない」


 また、どんな歌詞だよ……と内心呆れながらも歌を聞き続けた。桧原くん、歌上手いなあ。


「I love you

 あなたに伝えたい

 この気持ちは

 どこへ()かせればいいの」


 それにしても、桧原くん声高い! 女性ボーカルの歌なのに、普通に歌ってる。自分で音痴だとか言ってたけど全然そんなことないし、上手。

 ……わ、私ピンチかも!? みんな歌上手かったけど、私別に歌得意じゃないもん。


「うわっ、カナ96点!? 天才じゃん!」


 画面を見ていた廣山さんがそう叫んだ。慌てて私も画面を見ると、そこにはオレンジ色の文字ででかでかと96と示されていた。ひ、桧原くん歌上手い……! ハードル上げられちゃった。

 私、90点台なんて絶対取れないよなあ。カラオケ自体初めてだし。

 私はしぶしぶ桧原くんからマイクを受け取った。うわああ、曲始まっちゃったよ!


「うわべだけの関係

 そんなのなんて

 必要ないって思ってた私

 どうしてなのか

 分からないけれどでも

 いつもの場所で

 また会いたい」


 うわあ、もう私、ほんと下手くそ! RI⋆COの足元にも及ばないよ!

 私は自分の絶望的な歌唱力に呆れながら歌い続けた。


「Dream

 誰かが願った想いは

 ねえいつまでも君の

 心の中で眠ってる

 Dream

 私が願った想いは

 ねえいつまでも君に

 届かないまま終わる

 Dream」


 点数、せめて80点はいくかな……?

 すると、金色の文字で100と出てきた。え、え? ひゃく?


「うわああ! すっげ! 写メ撮ろうぜ!」


 ぽかんとする私をよそに、尾川くんはポケットからスマホを取り出して画面の写真を撮っていた。100点だなんて、信じられない。


「佐野さん、カラオケ初めてなんじゃなかった?」

「は、初めてだよ!」


 訝しげに訊いてくる廣山さんに、私はぶんぶん首を振りながら叫んだ。


「初めてカラオケ来て100点なんて、すごいな!」


 満面の笑みでそう言ってくるのは桧原くん。か、かわいい……! 笑ってる、めっちゃ笑ってる。

 なんで桧原くんってこんなにかわいいんだろう。……あ、男の子にかわいいかわいいって言ってたら失礼かな。でも、私ってかわいくないからかわいい人ってたとえ男の子でも羨ましいんだよね。

 彼の笑顔につられて私もへらっと笑うと、桧原くんはテーブルに肘をついてその手で顔を隠してあっちを向いてしまった。か、顔背けられた……! やっぱり私って、かわいくないんだ。悲しい。


「ちょっと、次尾川でしょ? さっさと曲いれなさいよ」


 廣山さんが待ちきれないとばかりに怒っていらっしゃる。尾川くんは「はいはい」と言いながらめんどくさそうにリモコンを手にした。

 入力した曲は「教室」。ちょっと前に放送されていたドラマ「クラスメイト」の主題歌だ。この曲なら、私も知ってる。

 意外と私もいろんな曲知ってるんだなあと思いつつ尾川くんの歌声に耳を澄ました。彼もまた、歌うのが上手だった。みんな、歌ったりするの結構好きなのかな?


「窓から見える桜は

 いつしか雪になり

 忘れてしまった青春

 取り戻すため走れ

 クラスメイトと共に

 過ごした教室覚えていて

 忘れないでいてほしい

 あの教室を」


 尾川くんの点数は88点だった。まあまあだな、とつぶやきながら彼はマイクを廣山さんに渡そうとする。しかし、彼女は「なんであんたが使ったあとのマイクで歌わなきゃならないのよ」と吐き捨てて、私が手に持っていたマイクを奪っていった。あ、とられた。


「リモコン貸して」


 リモコンは桧原くんの目の前に置かれていたので、廣山さんは桧原くんにそう言って手をのばす。彼はそれを手渡した。

 廣山さんが選んだ曲はRI⋆COの「ねずみの国のリコ」という曲だった。RI⋆CO、流行ってるんだなあ。

 初めてこの曲を知ったときは「自分の名前題名に使っちゃうんだ……」とびっくりしたけど、アップテンポな曲で歌詞もファンタジーな感じだし、好きなんだよね。

 私が「ねずみの国のリコ」を思い出していると、曲のイントロが始まった。


「ここはねずみの国

 誰もが夢見る世界

 ねずみたちのダンスに合わせて

 歌え歌えや子どもたち


 見つけた

 子どもよ

 さあおいで

 リコと一緒に歌おうよ


 ねずみの国にせっかくきたんだから

 楽しんでくれなきゃねずみたちが怒っちゃうの

 勉強なんてあとにしちゃいなさい

 ねずみの国では遊ばなくちゃ

 だめだから」


 そこまで歌い終わると、一番と二番の間の間奏が流れ出した。廣山さんはこめかみをおさえながら深呼吸している。どうしたんだろう?


「廣山さん、大丈夫?」


 何も言わないということは、あまり知られて欲しくないのかもしれない。そう思って、私は小声で聞いた。

 すると廣山さんは何か言おうとして口を開いたけど、言葉にする前に歌が始まったから、また歌い始めてしまった。


「ここはねずみの国

 誰もが大好きな世界」


 だんだん、廣山さんの声が近くから聞こえてきたり遠くから聞こえてきたりするようになってきた。なんか、頭がくらくらする。

 私はテーブルに顔を伏せて、そのままゆっくりと目を閉じた。

 廣山さんのかわいい歌声が、耳に残っていた。

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