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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
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はち はちみつドロップ

「ごめーん、待ったぁ?」

「今来たところだよ。それにしても、かわいいね」

「やだぁ、恥ずかしい~!」


 ……バカップルが横でそんなことを言っていた。いちゃいちゃはこんな公衆の面前でするようなものじゃないと思うけど。

 私は大きなため息をついた。


 ここは、アレクの前。

 まだ来ている人はいない。早く来すぎちゃったみたいだ。まだ約束の時間の30分前の、11時半。

 私はそわそわしながら髪を触った。いつもはツインテールなのに、髪の毛おろして来ちゃったけど、結んだ方が良かったかな? 食べるときは髪結んだ方がいいよね。どうしよう?

 不衛生な子だって桧原くんに思われたら嫌だなあ。今のうちに結んでおこう。

 私は高めの位置で髪を一つにまとめた。アレクの窓ガラスで確認して、よし。

 しばらく待っていると、向こうから走ってくる人が見えた。うーん、あれは……。


「尾川くん!」

「あ、佐野さん早いね。まだあと20分もあるじゃん」


 尾川くんは自分の腕時計をちらっと見てそう言った。尾川くんも早い。あと20分かあ……。まだ結構時間あるね。

 ってか、なんか尾川くんすこいオシャレだなあ。

 そのとき、尾川くんがげほげほと咳をし出した。のど痛いのかな? でも、私、のどあめなんて持ってないしなぁ……。

 試しに斜め掛けにしていたバッグのファスナーを開けて飴がないか探してみる。すると、出てきたのは『はちみつドロップ』と包装に書かれた飴だった。


「尾川くん、これなめとく?」

「え?」


 尾川くんは私の手の中のはちみつドロップをじっと見つめると、それを手にしてすばやく袋から取り出して口の中に放り込んだ。


「甘っ! ……佐野さん、ありがと」


 尾川くんは私の方をちゃんと向いてお礼を言ってくれた。こういうところ、彼はきちんとしている。

 私は尾川くんを見上げた。あ、後ろに寝癖ついてる。慌てて出てきたのかな?

 そういえば尾川くんって、背が高い。私よりも結構高いから、それなりに背はあると思う。170、はないかな? 160後半くらい?

 私はしばらくの間そんなことばかり考えていた。


「ごっめーん! 支度手間取っちゃって~」


 先ほどのバカップルみたいな台詞を口にしながら走ってきたのは廣山さん。ひらひらした花柄のワンピースに、上から淡いピンク色のカーディガンを羽織っている。うわあ、オシャレだ……。

 それに比べて私はフツー。デパートで買ってきた何の変哲もない長袖のティーシャツに、水色のフレアスカート。靴はスニーカー。

 私、何でこんななんだろう……。なんか、廣山さんと並ぶと恥ずかしいよ。


「あれ? カナは?」


 廣山さんは尾川くんを上目づかいで見つめながらそう言った。そういえば桧原くん、遅いなあ……。


「まだだけど?」


 尾川くんはまだ廣山さんには怒ってるみたいだ。声が重い。それとそっけない。このままじゃ雰囲気悪いよ! ど、どうすれば……。


「ひ、廣山さん!」

「うわっ、ちょっといきなり大きな声出さないでよ」

「え、ごめん」


 声をかけたつもりが怒られてしまった。なにか穏やかな会話をしたい……。

 そのとき、頭にはちみつドロップが思い浮かんだ。これだ!


「廣山さん飴食べる? のど痛くない?」

「はあ? ……まあ、くれるってんならもらっておくわ。何味?」

「え、あ、はちみつ」

「はちみつ~? セレクト子どもっぽいわね。ったく」


 廣山さんは嫌そうな顔をしながらも、はちみつドロップを受け取ってじろじろ包装の袋を見ると、それを開けて口の中に放り込んだ。まあまあね、とつぶやいている。よかった。

 案外廣山さんって、話しやすいかもしれない。


 予定時間ぴったり。桧原くんが現れた。息を切らしながら走ってくる。


「……ごめん、遅れた!」


 そう謝る桧原くんに、尾川くんと廣山さんが返事をする。


「いや、奇跡的に時間ぴったりだぞ」

「あ、今一分になった。だから、カナ、あんた遅刻ね」


 何故か廣山さんの桧原くんにたいする風当たりがいつもよりずっと強い気がするのは、私だけ……?

 桧原くんはシンプルな服を着ていた。そういえば、当たり前だけどみんなの私服を見るのはこれが初めてだ。


「お、じゃあアレクの金は全部カナに払ってもらうか!」

「は!? ありえねーだろ!」

「あははは!」


 は、話に入り込めない。三人のノリについていけない。この人たち、しょっちゅうこのスピードで会話が進んでるの?

 というか、まずなんで私もこの場に誘われたんだろう? 三人で十分楽しめそうなのに。

 廣山さんだって、普通に話してるし、わざわざ男女の比率合わせなくてもよかったんじゃ?

 だんだん暗い方向に思考が進んでいったところで、アレクに入ることになった。


「佐野さん」

「え? あ、桧原くん」


 声をかけてきたのは桧原くんだった。目線を合わせてはちらちらと横を見たりしている。どうしたんだろう?


「あ、その、髪型変えたんだなって思って」

「……ああ、うん!」


 気づいてもらえたんだ! よかった……。誰にも気づいてもらえなかったら、さすがに悲しいもんね。


「なに食べるー?」


 廣山さんがどこから取ってきたのか、メニューを広げて言った。席は偶然にも目の前で空いたため、すぐに座ることができたんだ。

 私、アレクってあんまり来ないんだよね。なに食べよう……。


「俺ダブルバーガーにしよっかなー」

「え、隆夜あれデカいって! 食べきれるわけねえじゃん!」

「そんなデカくねえよ」


 ダブルバーガーっていうのは、下からパン、肉、レタス、チーズ、肉、パンとなっているバーガーのことらしい。たしかに量は多いけど、尾川くんなら食べきれそうじゃない?


「じゃ、あたしハンバーガーで」

「あ、わ、私もそれにする!」


 私はとっさに廣山さんに合わせた。彼女ならこういうところたくさん来ていそうだし、合わせておけばそれなりにいいものが食べられるだろう。

 廣山さんには疎まれたけど、私は彼女と同じハンバーガーセットを頼んだ。


「なんで一緒のもの頼むのよ。気持ち悪い」


 廣山さんは心底嫌そうな顔をしながらそう言う。気持ち悪いとまで言わなくても……。


「う、だってこういうところあんまり来たことないし、なに頼めばいいのか分からなかったんだよ」

「はあ……。アレクにあんまり来たことないって、あんたは箱入り娘か!」

「えええ!」


 そこでツッコミが入るの!? やっぱり廣山さんたちのテンションって分からない!

 私が驚いていると、いちいち驚くなうるさい、と怒られてしまった。なんか私今日、怒られてばっかりだなあ。


「じゃ、俺買って来るわ」


 尾川くんがそう言って立ち上がった。一人で大丈夫かな? と思ったら強引に桧原くんを連れて行ってしまった。

 ……あれ!? 私と廣山さんが残っちゃったじゃん!


「……」


 会話ゼロ。

 尾川くんたちはレジが混んでいるのかなかなか帰ってこないし、廣山さんはさっきからスマホを見つめている。私、携帯電話とか持ってないんだよね。


「あ、の。廣山さんなに見てるの?」

「あんたに関係ないでしょ」


 画面から一切目を離さずに彼女はつぶやく。また「関係ない」か……。

 しばらくすると、廣山さんがスマホの画面をこっちに向けてきた。びっくりしながらそれを見る。そこには、桧原くんと廣山さんが二人で写っている写真が映しだされていた。


「これ……って?」


 恐る恐る訊いてみると、そんなにびくびくしないでよ、と呆れられた。面倒くさそうにしながらも説明をしてくれる。


「これは昨日の帰りに撮ったの。あたしが委員会で遅くなったからって、待っててくれてたから一緒に帰ったのよ」

「え……?」


 そうだったんだ……。でも、なんでそのことをわざわざ私に言うんだろう?

 別に私、全く関係ないよね?


「なによ、その顔」

「ふえ?」


 廣山さんは腹立たしそうにしている。どうしたんだろう?


「もっと怒りなさいよ、悲しみなさいよ! そんな写真見せるなって言えばいいじゃない! これだからおとなしい女って苦手なのよね!」

「ええぇ!?」


 意味が分からない。怒りたくもないし悲しくもないのに、どうして怒ったり悲しんだりしないといけないのだろうか。別に私は写真を見せられたくらいで怒ったりしないけど……。

 それに、どうして廣山さんの方が怒っているのだろうか。よく分からない。


「あーもう! だから、好きな男子が他の女子とツーショット撮ってて、あんたは嫌じゃないの!?」

「え? ……ああ。別に、嫌じゃない、です。だってそんなの、人の自由でしょ……?」


 もしかして、廣山さんはこれが嫌がらせのつもりだったのだろうか。ツーショットを見せて私が傷つくのを見たかったのだろうか。

 でも、ツーショットってそんなに大事かな? 私はあんまり需要性を感じないんだけど。


「なんなの、この子……」


 廣山さんはうなだれていた。よくわからないけど、これは私のせいなのかな?

 とりあえず、ごめんなさいと謝っておいた。反応は全くないけど、多分聞こえてたと思う。


「おーい、持ってきたぞー」


 尾川くんの声に、私たちは顔を上げた。そこには男子二人組がトレイを持って立っている。

 私たちは慌ててそれを受け取った。……というか、席。


「席おかしくない!?」

「いや、これが普通じゃないかな」


 叫ぶ私に冷静に対処したのは尾川くん。これが普通?

 まあたしかに普通か、と納得してしまう。私と廣山さん、桧原くんと尾川くんが隣。たしかに普通だ。

でも、廣山さんと隣ってのはいろいろと普通じゃない! 横からすごい冷気が来るし! 寒いよ、この席!


「ハンバーガーはそっちか。はい」


 桧原くんがハンバーガーセットが二つ乗ったトレイをこっちに差し出した。とっさに手を出すと、廣山さんも受け取ろうとしていたみたいで二人で受け取るような形に。

 彼女にはすごく嫌そうな顔をされたけど、気にしない気にしない。だってこんなのいちいち気にしてたら今日を乗り越えられないよ。あーもう、泣きそう。


「いただきまーす」


 さっそくハンバーガーにかぶりつく。あ、おいしい。

 ドリンクはメロンジュースにした。こんなところにもメロンジュースってあるんだね。びっくりした。

 廣山さんは……コーヒー!? えっ、なんかしかもブラックで飲んでない? 怖っ。

 桧原くんはオレンジジュース、尾川くんはコーヒー……。なんでこんなにコーヒー族多いの?

 メロンジュースを飲みながらそんなことを考えていると、早くも桧原くんがバーガーを食べ終えていた。桧原くん、何バーガーにしたんだろう?

 そのとき、私の背後にある席から大声が聞こえてきた。


「なんでそんなこと言うんだよ!」

「うるさいわねっ、あたしの勝手でしょ!?」


 カップルのケンカらしい。他の三人も目を見張っている。いくらなんでも、こんなところで大声でケンカしなくてもいいのに……。

 声を聞いていると、さっきアレクの前にいたあのバカップルだということが判明したつい先ほどまではこっちが恥ずかしくなってしまうほどの台詞を言い合っていたというのに、なんなの、この手のひらの返しようは。

 これだから付き合うって怖いんだよね。だから、私はこの間も、桧原くんに好かれてないということに安心してたんだ。


「佐野さん、大丈夫?」

「えっ」


 うつむいている私を見て気分が悪いのかと誤解して心配してくれたのは、隣に座る廣山さんだった。は、初めて話しかけられたかも……!


「だ、大丈夫! 心配しないで!」


 私がそう言うと、別に心配なんかしてないと言われてしまった。え、もしかして廣山さんってツンデレ?

 えー、なんか意外。でもなんか、かわいー。


「廣山さんかわいーね」


 正直にそう言うと、ガチデコピンされた。めっちゃ痛いんですけど……。廣山さん、デコピン流行った時に極めたタイプか。


「痛い……」

「さ、佐野さん、すごい音したけど大丈夫?」


 戸惑いながら心配してくれる桧原くんに「大丈夫だよ」と返事すると、横から廣山さんに足を踏まれた。やめて! この靴まだ結構新しいんだよ!

 その光景を見ていた尾川くんは、複雑そうな表情をしていた。んん? どうしたんだろう?


「尾川くん? どうしたの?」

「え? あ、ああ、なんでもない」


 私の言葉に、尾川くんは作り笑いを浮かべながら答えた。尾川くん、ほんとにどうしたんだろう……?

 何かあったのかな。それとも、私たちのこのやり取りに呆れてるとか? ぎゃっ、めっちゃ迷惑じゃん、私!

 絶対それだ……。私たちのやり取りがあまりにもくだらなさすぎて尾川くんは疲れてるんだ。そしてその争いの低レベルさについていけないんだよ! なんて恐ろしい!


「つーか、廣山お前さっさと食えよ」

「は!? あたしだけじゃないじゃない! なんでこっちには言わないわけ!?」


 尾川くんの言葉に、廣山さんがキレた。私の方を指差しているから、たぶんこっちというのは私のことなんだと思う。

 でもさ、人のこと指差しちゃいけないって、廣山さん教えられなかった? かなり失礼な行為だと思うけど。


「指差したりするなよ、廣山」


 今度は桧原くんが口を挟む。ああぁ、そんなことしちゃったら、廣山さんが……。


「いぃっ!?」


 私は思わず飛びのいた。理由はというと、廣山さんがすごい冷気を身にまとっていたから。

 や、やばい。これはきっと、廣山さんめちゃくちゃキレてる。それ以外考えられない。


「何よあんたたち! この子ばっかりちやほやして! バカバカ!」

「わ、私っ!?」


 飛び火! まさかの飛び火!

 なんで私まで巻き込まれてるの?いや、そもそもこのメンバーの中に私がいるというのがおかしいんだっけ?

 とりあえず、どっちだろうと私が話に入れられたというのは事実。私は、よくある少女漫画のヒロインのように、三人をかわるがわる見つめてオロオロするほかなかった。


「み、みんな落ち着いてよ!」


 さすがに「私のために争わないで!」なんて名台詞は言えなかったので、とりあえず仲裁に入ろうとする。

 なんでそんな火花散らしてるの!? 目ヂカラ強いですね、みなさん……じゃないよ!

 みんな怖いんだけど! せっかく遊びに来たのに、ケンカなんかしてたらもったいないよ!


「最初に佐野さんに突っかかった廣山が悪いんだろ」


 むすっとしながらそうつぶやく尾川くん。するとそれに反応した廣山さんが大声をあげる。


「はあ!? 尾川だって挑発してきたじゃない」

「つか、この会話不毛じゃない……?」


 最後に桧原くんの呆れた声。収集がつかない状態になってしまった。どうすればいいの、これ……。

 私はため息をついて、残りのハンバーガーを頬張った。



 そんなわけで雰囲気の悪いままアレクを出てきてしまった。だ、大丈夫かな……?


 私、佐野優樹菜。カラオケが楽しくできるか不安です。

 誰かお助けをーっ!! 

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