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毒 4

「……」


 ジートは完全に倒した。そのことをレアンドラは確信している。しかし“このまま何も起きないはずがない”、その確信もまた、彼女の身体を緊張させた。


近くで何かが起こりそうな気配はない。先ほどまでの喧騒とは打って変わって静寂な時間が流れた。妙な胸騒ぎを感じたレアンドラは、ユグドラシルの太い幹の先端に立ち、その成長を促した。


まるで歌う様な呪文の詠唱を受け、樹は天高くその身体を太く、大きくしていく。フラーモの中心地が見渡せる位置まで上がると、レアンドラはある異変に気付いた。フラーモから土煙が上がり、街を掻き分けて何かが蠢いている。


「あれは……なんだ?」


 巨大ないくつもの蛇の頭が、崩れ落ちる瓦礫の下から這い出てくる。その周辺は見る見るうちにおぞましい紫色の体液に染められ、やがて土煙すらも毒々しい色へと変貌していった。その姿は伝説に語られる怪物“ヒュドラー”そのものだった。


「どうして?」


 レアンドラの居る場所にまで届くほどの金切り声と地鳴り。そして遥か遠くからでも視認できるほどのヒュドラーの巨体。全身を襲う戦慄と戦いながら、レアンドラは考えを巡らせた。


なぜジートを倒したと同時にヒュドラーが現れたのか。

そもそもジートがここに来た目的は何か。

自らフラーモ内部に侵入することなく、敢えて防壁付近で騒動を起こしたのか。


ディーヴァそれぞれが持つ命術は、自身の身体に刻まれた精霊の記憶が生み出す唯一無二のもの。生まれたときから決まっており、本人もその詳細を自覚しているが、互いにどういった術なのかは一切明かされることがない。もしジートの持つ命術が究極の召喚術だったとしたら…そしてそれが自らの死と引き換えに発動されるものだったとしたら。


「ジートの狙いは自分の命と引き換えにフラーモを崩壊させること?」

気付いた瞬間、レアンドラは地を高く蹴り上げてフラーモへと駆け出していた。地表が盛り上がり、凄まじい速さで成長する樹の根がその身体を高速で運ぶ。いくつもの悲鳴と消え行く命を感じながら、レアンドラは高まる動悸を必死に抑えていた。

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