毒 3
ジャンクスは風を操るディーヴァだが
全身を覆うヴェノムクリスタルの前で、その魔術は無力だった。
にもかかわらず、なぜ自分の体内へダメージを与えることができるのか。
息を止め、徐々に体内をクリスタルで覆っていく。
ズキズキとした痛みはあるが、それがさらに増加していくようなことはなかった。
ジートは確信した。
ジャンクスの命術はカマイタチ、対象者が息を吸い込むごとに気流を生み出し
体内を傷つける。焦れば焦るほど息が荒れ、その者を死に追い詰める。
クリスタルがゆっくりと体内を覆い尽くした後、ジートはゆっくり息を吸い込んだ。
のどの奥でキリキリと風が渦巻く音がする。
手練の魔法使いであっても、事実に気付いたところで対抗の仕様がない魔術。
しかし、ジートにとってそれは当てはまらなかった。
「ジャンクスめ、この程度か。最弱のディーヴァらしい術ね」
慢心し、立ち上がろうとしたジートの足元から、目にも止まらぬスピードで木の根が飛び出してきた。
周囲の石壁が音を立てて崩壊を始めると同時に、太い木の幹がジートの前に立ちふさがる。
逃れようと咄嗟に宙に舞ったジートだったが、傷ついた状態では思ったような動きがとれず
あっという間に太い木の幹に身体の自由を奪われた。
手にしていた杖はどこかへ零れ落ち、身体の自由は一切きかない。
けたたましい崩壊音とともに青い匂いが充満し、土煙の中から一人の魔女が姿を現した。
「レアンドラ……」
ジートを締め付ける木の幹の根元で、黒い瞳がキラリと光る。
「ジャンクスは死んだか」
会話をしている最中も植物はじわじわと成長を続け、石片が木の表面を滑り落ちていく。
ジートの身体を締め付ける力が強まり、ヴェノムクリスタルで覆われた体表も
さすがに嫌な音を立て始めた。
「お前がもう出張ってくるとは。この樹はユグドラシル(世界樹)ね」
「そうだ。お前の毒は浄化される。最後に言うことはあるか?」
レアンドラが言うと樹の幹はより太く、肥大化していった。
高く、小さい音を立てながらジートの身体にヒビが入り始める。
ジートはグラグラと頭を揺らしながらも、不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「あんたもすぐにあの世に送ってやるよ」
その捨て台詞がレアンドラの耳に届くか届かないかというところで、
強烈な炸裂音と共にジートの身体が弾け飛んだ。
キラキラと太陽の光を反射しながら、ヴェノムクリスタルの粉体が風に消え、
その隙間からどす黒い血が幹の表面を流れ落ちる。
ユグドラシルがその成分を細胞レベルから分解し、
即座に水のように透明な液体に変えると、自らの体表から吸収し始めた。
ユグドラシルはあらゆる毒素を分解し、生命の源である水へと還元する力を持つ。
その実体は長い間伝説とされてきたが、樹のディーヴァであるレアンドラが現れたことにより
地底深くに息づく存在が明るみとなった。
ディーヴァは本来、その身に元素の精霊を宿し生まれるものだが
レアンドラはユグドラシルという存在からの加護を受けて生まれた稀有な例である。
凄まじい毒を含むヴェノムクリスタルではあるが、
遥か太古からその身を地中に横たえてきた伝説の前には赤子も同然だった。




