毒 2
「ひ弱なディーヴァね」
ジートは跪くジャンクスのすぐそばまで来ていた。
放たれた強烈な蹴りで、乾いた音を立てながらジャンクスの大杖が石壁の下に消えていく。
体重をかけるものを失ったジャンクスは、なすすべなくうつ伏せに倒れこんだ。
「所詮瞬間移動程度しか使い道がないんだよ、あんたは。エリザベスは何かあると真っ先にあんたを戦場に行かせた。その理由がわかるかい?」
ジートはジャンクスの髪を無造作に掴み、ぐっと顔を引き上げた。
「時間稼ぎだよ、あんたを信用してたんじゃない。あんたが敵とやりあってる間に援軍を到着させる、それがあいつのやり方だ。まあ今回は時間稼ぎにもならなかったが」
だらしなく開いたままのジャンクスの口からは、苔色の唾液がポタポタと滴り落ちている。
ジートは掴んでいた頭を乱暴に床にたたきつけてから、ジャンクスの背中に手のひらを当てた。
触れた箇所からどす黒い煙が上がり始める
「が」
おかしな声を上げると共にジャンクスの身体が痙攣を始める。
全身を致死量の猛毒が駆け巡り、意志とは関係なく反応しているのだ。
「ディーヴァは精霊の贄だ。お前にはその価値すらなかった」
腐臭を放ちながらジャンクスの身体は炭のように黒く乾燥し、
やがて風に溶けるようにして消えていった。
「さあ、次は誰が来るか…な」
ジートは言いかけたが、同時に胸に強烈な痛みが走るのを感じた。
喉を通って温かい血が上ってくる。
全身に力を入れて歯をくいしばると、口内に溜まった鮮血が口角から滴り落ちた。
ジートはジャンクスが塵と消える瞬間、確かに声を聞いていた。
「裏切り者に死を」
恨みがこめられたジャンクスの声。
もはや意識はなかったはずなのに、力強く鮮明に聞こえてきたそれを、ジートは認めようとしなかった。
「こ…」
命術、その単語が頭の中を駆け巡る。
ディーヴァが命と引き換えに使用できる最後の呪文。
精霊との対話に成功したもののみに許される究極の業だ。
しかし、それにしては妙だった。
ジートの周囲には視覚的変化がまるでない。
奴はなんの魔法を使った?
外部からの攻撃であればヴェノムクリスタルの身体へのダメージはないはず。
なぜ内臓が裂け、血があふれてくる?
ジートの頭を様々な考えが過ぎる。
しかし、その間にも身体の奥深くがえぐられるような痛みは止むことがなかった。
“このままでは死ぬ”
ジートが次に取った行動は、自らの体内をヴェノムクリスタルの膜で覆うことだった。
体表を覆うのとは違い、これには高い集中力と高度な魔力が必要となる。
いくら毒への抗体を持つジートであっても、さらされた臓器に猛毒のクリスタルが刺されば死は免れない。ただ、こうする以外に方法はなかった。ジートの考えは、ある一つの可能性まで既に行き着いていたのである。




