3.(ᵒ̤̑ ₀̑ ᵒ̤̑)wow!*✰
ゴブリンの絶叫が響き渡る地獄のような森からようやく逃れたアルファは、平原の陽当たりがよく草の柔らかい場所を見つけ、大の字になって寝転がった。
太陽の光が森の冷たさを払い、埃まみれになった柴犬柄Tシャツをそよ風がなでる。
大きく息を吸い込んだ彼は、まず草地の周囲を探し回った。運よく茂みの際に野イチゴのような小さな実を見つけ、服で適当に埃を払って二粒口に放り込む。
甘酸っぱい果汁が口の中で弾け、激しい運動による脱水と空腹がどうにか少しだけ和らいだ。
アルファが野果を噛みながら、左の車輪痕の残る土道へ進むか、右の小川をたどって水源を探すか考えていたところ――
「ドカーン――!!!」
平原の先の谷間から突然重たい爆発音が響き、体の下の草地まで微かに震えた。続いて、騒がしい罵声、金属がぶつかり合う音、何かが肉体に叩きつけられる鈍い音が次々と聞こえてくる。
「誰か喧嘩してるのか?」
野果を噛む手が止まった。
好奇心は猫を殺すという言葉もあるが、こんな人っ子一人いない異世界で、面白い情報が転がっているのなら見ない手はない。
それに、これは異世界の風土、そして戦闘力の水準を知る絶好の機会でもある。
彼はすぐに身を低くし、泥の中を這うトカゲのようにそっと斜面を登っていく。
やがて盛り上がった土塁とコケだらけの巨岩の陰に身を隠し、半分だけ頭を出して下を眺めた。
その光景を見て、口の中の野果を飲み込むのを忘れてしまった。
土塁の下の盆地は、まさにカオスの渦だった。
極めて奇抜なローブをまとった二つの勢力が激しく戦い合っている。
左側の一派はフード付きの真っ赤なローブを身に着け、背中には歪んだ太陽の紋様が刻まれている。
右側は濃い紫のタイトな衣装の上に黒いマントを羽織り、胸には意味不明の妖しいルーンが描かれている。
彼らの狂気じみた歪んだ表情からして、互いに相容れない熱狂的な教派同士の争いであることは明らかだ。
盆地の真ん中には、黒い金属の箱が静かに置かれていた。
表面には複雑な彫刻が施され、中心にはコウモリの紋章がある。アルファにはそれがどの勢力のものかさっぱり分からなかったが、「開けたら世界が滅ぶ」というボス宝箱のような雰囲気を強く感じた。
周囲がどれほど凄惨な戦いになろうと、誰も箱に向けてスキルや武器を放とうとはしない。まるで箱に絶対防御の結界が張られているかのようだ。
だが箱のほかは、この教徒たちの戦闘レベルは、法治社会から来たアルファをあきれさせるものだった。
「受けよ!異端者!聖火の洗礼を受けろ!」
赤ローブの教徒の一人が、ルビーを埋め込んだ法杖を掲げ、熱弁をふるいながら半分近く呪文を詠唱する。
法杖の先にバスケットボール大の眩しい火球が凝縮された。勢いよく法杖を振りかざすと、火球が轟音を立てて飛び出す!
だが法杖を振った瞬間、足元に魔物の糞だと思われる新鮮な粘液を踏んでしまった。
赤ローブの男は「すべるっ」と、その場で見事な横開きのスプリットを決める。
敵陣を狙っていた火球は法杖の角度がずれ、まっすぐ自陣の最前線にいた頭の禿げた戦士の尻へと叩き込まれた。
「ドカン!」
「ああああああ!俺の尻!尻が焼けちまったクソッ!どこ狙ってんだ!」
禿げ戦士は煙を上げ、なんだか異様な肉の香りが漂う臀部を押さえ、地面で大暴れする。
「好機だ!闇のために!」
紫ローブ陣営から、ヒゲのある男が毒を塗った二つの短剣を手にした刺客が目を輝かせる。
何らかの隠密スキルを発動させ、半透明の残像となって、見事にスプリットした赤ローブ魔法使いの背後に回り込む。
「闇の背刺し!」
ヒゲ刺客は悪笑いを浮かべて短剣を高く掲げ、魔法使いの心臓めがけて突き立てようとする。
寸前のところで、尻を焼かれた禿げ戦士が激痛で暴走し、目を閉じたまま大きな鉄球ハンマーを360度ぶん回した。
重たい鉄球が風を切り、見事にヒゲ刺客の後頭部に直撃する。「ドスン」と鈍い音が響き、刺客は悲鳴を上げる間もなく、バットで打たれたボールのように飛んでいく。
彼の手にあった敵を刺すはずだった毒短剣は、美しい放物線を描き、「プスッ」と見事に自陣の小隊長の太ももに刺さってしまった。
「オオーッ!!!」紫ローブ小隊長は狼のような絶叫を上げる。「誰だ!誰が背後から刺してきた!この毒は昨日調合した『三歩倒れ』だぞ!」
戦いの知能の下限を突き破った瞬間、戦場の様相は完全に制御不能の淵へと転がり落ちた。
「早く!治癒術!解毒しろ!」
紫ローブ小隊長は黒ずんだ太ももを抱えて地面を転げ回り、自陣の神官に必死に叫ぶ。
紫ローブの神官は分厚い瓶底眼鏡をかけた細身の男だ。慌てて分厚い法典を開き、両手に柔らかい緑の生命の光を纏う。
「隊長、耐えて!今行く――」
「ふざけるな!」
その瞬間、どこからか硬い木屐が飛来し、靴底には得体の知れない生き物の糞がこびりついている。
音速に迫る勢いで空を駆け、「バシッ」と神官の顔に直撃した。
衝撃で眼鏡が飛ばされる。強度近視の神官は視界がぼやけ、その場で三回転した後、治癒の光を掲げたまま、敵陣へと突進していく。
「隊長!生命の奇跡を感じよ!」
神官は手の緑の光を、左手を斬られた赤ローブの狂戦士の胸にぶつけた。
奇跡は本当に起きた。
緑の光が赤ローブ狂戦士を包み込む。断裂した傷口は瞬時に止血し、体力は頂点まで回復。疲労で蒼白だった顔は血色よくなり、なんと前立腺の不調まで治ってしまった。
「……」赤ローブ狂戦士は力に満ちた自分の体を見つめ、目の前の目を閉じて神聖な面持ちの敵神官を眺める。
「い、いえ、当然のことです……」紫ローブ神官は存在しない眼鏡を押すように手を動かす。
「ありがとうよ兄弟、いい人だな」
赤ローブ狂戦士は感動して神官の手を握ると、そのまま力いっぱいビンタをかました。
神官は空中で三周半回転し、泡を吹いて泥沼に叩き落された。
魔法や高位職業のスキルがすっかり尊厳を失ったのを見て、両陣営はある種の合意に達したらしい。
派手な詠唱スキルは完全に諦め、人間最古で純粋な路上の喧嘩へと回帰した。
「食らえ聖光の裁き!」
赤ローブ教徒の一人がどこからか錆びた折りたたみ椅子を拾い上げる。
なぜこの異世界に折りたたみ椅子があるのか!?
腕を振り回し、紫ローブ教徒の頭に思いっきり叩きつける。「ガシャン」と大きな音が鳴り、椅子は相手の頭の上で「U」の字に曲がった。
「異端者め!髪型を乱すな!」
頭から血を流した紫ローブ教徒だが戦闘意欲は旺盛。相手の髪を掴み、もう片方の手で伝説の武術――二指禅を繰り出す。
「見ろ!目突きだ!」
「あっ!目が!卑怯者め!」
赤ローブ教徒は目を押さえて絶叫しつつ、右足を高く上げ、攻城槌のような勢いで思いっきり真上に膝を突き上げる。
「ドスン!」
この鈍い衝突音は、騒がしい戦場の中でも鮮明で、致命的だった。
肉体的にも魂的にも砕けるような音だ。
紫ローブ教徒の動きが一瞬で固まる。
怒りの紅紫色だった顔は死人のように真っ白に変わり、目玉は飛び出し、口は大きく開いたまま声が出ない。
両手は力なく相手の髪を離し、震えながら股間の不可解な場所を押さえる。
そして膝がくずれ、まるで祈るように地面にひざまずき、茹でたエビのように丸まって、地面でけいれんし泡を吹き始めた。
「よくやった!汚らわしい罪の根源を砕け!」赤ローブ陣営から歓声が上がる。
「こんな卑怯な技を使うとは!紫闇教派の戦士よ!報復せよ!真の痛みを知らしめよ!」紫ローブ陣営も負けじと叫ぶ。
次の瞬間、盆地全体が下品な技の祭典と化した。
猿の玉掴みを繰り出し、敵の股間を掻き回す者。相手は両脚を閉じてペンギンのように戦場を跳ね回る。
武器を捨て、敵の耳に噛みついて離さない者。二人は狂ったピットブルのように泥の中を転げ回り、全身泥だらけになる。
さらには、体格の良い赤ローブ教徒が、体重を活かして細い紫ローブ教徒の顔にどっかり座り、腰をひねり続ける。
物理的な窒息と体臭という生化兵器の二重攻撃を仕掛ける。下になった紫ローブ教徒は地面を叩き、豚のようなうめき声で懇願する。
最もとんでもないのは、誰かが投げた物体が戦場を飛び交うようになったことだ。
ボロボロの靴、誰かの足から剥ぎ取られた悪臭のする靴下、魔法薬の空き瓶の破片、さらには半分食べたカビの生えたサンドイッチまで空を舞う。
「パチッ!」
カビのサンドイッチが、大きな呪い魔法を詠唱していた紫ローブ魔法使いの開いた口にピタリと入った。
魔法使いは息が詰まり、サンドイッチごと呪いを飲み込む。次の瞬間、お腹を押さえてその場で激しい下痢を始めてしまう。
アルファは巨岩の陰に伏せ、手に持った野イチゴを口に入れたまま、口を開けて石化したようになっていた。
彼は元々、異世界の戦いといえば剣気が万里を駆け巡り、魔法が天地を砕き、叙事詩的で騎士道に満ちた悲壮な交戦だと思っていた。
だが現実は、コスプレ衣装を着た中年男たちが、髪を掴み合い、股間を蹴り、臭い靴を投げ、味方を回復魔法で誤って助けてしまう極道小学生のケンカだった。
「カチャカチャ……」
アルファは機械的に野果を噛み続け、目は盆地の中央から離れない。
周囲がどれほど凄惨でも、コウモリ紋章の黒い箱は相変わらず静かに横たわり、一ミリも汚れていない。
まるで周囲の愚かさと混乱の世界とは別の次元に存在しているかのようだ。
飛ばされた教徒が箱にぶつかりそうになると、空中で腰をひねり、物理法則を無視して軌道を変え、横の岩を砕いてしまう。箱には絶対に触れない。
「こいつら……本当に偉大な信仰のために戦ってるのか?これ、スーパーの特売野菜をめぐって喧嘩するおばさんたちと変わらないじゃないか!」
アルファは心の中で思わずツッコミを入れた。




