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2.脱逃成功!

風が耳元をヒューヒューと通り抜け、肺はボロボロのふいごのようになっていた。息を吸い込むたび、焼けつくような刺すような痛みが走る。


「逃げ切れない!全然逃げ切れない!この小人たちのアキレス腱はバネでできてるのか!ゴブリンは動きの遅い初心者用経験値だなんてデマを流した奴は誰だ!出てこい、お前の足の小指を砕いてやると約束する!」


アルファは後ろを振り返った。緑の小人たちは距離が開いても脱落するどころか、陣形をますます固めている。得体の知れない汚れがこびりついた錆びた武器を振り回し、背筋が凍るような「ギャギャッ」という奇声を上げる。まるでスーパーの特売日に半額卵を見つけたおばさんたちのように、生物力学に反した狂気の勢いで彼に押し寄せてくる。


このままではダメだ。これ以上走り続ければ、ゴブリンの錆びた包丁に八つ裂きにされなかったとしても、横紋筋融解症になって異世界初の「走り死にした転生者」になってしまう。


アルファの脳みそがフル回転する。視線は右手にずっと握り締めていた、食べかけの焼き麩の串に落ちた。それは地球の現代工業文明の結晶。でんぷんと唐辛子粉、クミンパウダー、高温が完璧に融合した屋台の神料理だ。冷めきってはいたが、強烈なクミンの香りが異世界の空気の中でもしぶとく、魅惑の香りを放ち続けていた。


「賭けてみる!異世界の田舎者ども、こんな濃い味のハイテク合成香料を食べたことないだろ!」


アルファは急ブレーキをかけた。何かの魔物の糞で滑りやすくなった地面を、枯れ葉だらけの地面に靴底が深い溝を二筋刻んで滑る。彼は振り返り、甲子園決勝九回裏のエース投手さながらの構えを取り、全身の力を右腕に込める。


「いけ!地球技術の贈り物!工業クミンの恐怖を味わえ!」


「シュ――ッ!」


半串の焼き麩が空に綺麗な放物線を描き、ゴブリンの群れの真ん中へ見事に飛び込んだ。


「ギ?!」

一番前の二三匹のゴブリンが急に足を止めた。クルミより少し大きい程度の脳みそでは、これまで見たこともない奇妙な匂いを処理しきれない。そのうちの一匹が近づき、長い爪の生えた汚い手で焼き麩を掴み、慎重に上のクミンパウダーを舐めた。


次の瞬間、そのゴブリンの両目が銅鑼のように大きく見開かれ、瞳には絶品の珍味を目の当たりにしたような衝撃の光が映った。


鋭い鳴き声を上げ、体全体が興奮で激しく痙攣しながら、串ごと麩を口に突っ込み、「カチャカチャ」と噛み砕いた。


隣のゴブリンたちも目を赤くして飛びかかり、土に落ちたわずかなクミンのカスを巡って緑の小人たちが殴り合い始める。まるでゾンビ映画で生肉を奪い合う光景そのものだ。


「よし!クミンは次元を超えた神器だ!」

アルファの心にわずかな希望の火が灯った。だがその火は完全に燃え上がる前に、無情に消されてしまう。


なぜなら、クミンに完全に魅了されて地面で殴り合っている三五匹のゴブリンのほか、残りの二三十匹はそちらをちらりと見ただけで、再び食欲と破壊欲に満ちた血に飢えた視線をアルファに向けてきたからだ。


彼らにとって、串に刺さった団子など、160斤もの逞しい筋肉を持つ生きた人間に比べれば、魅力は皆無だった。


他より一回り大きく、古い鉄鍋を兜代わりにかぶったゴブリンの首領が、前に立ちふさがる仲間を蹴り飛ばし、自分よりも長い錆びた大きな柴刀を掲げて高く跳び上がり、アルファの頭を真っ二つに叩き割ろうとした!


「ふざけるな!焼き麩一串でたった三匹しか足止めできないのか!費用対効果が悪すぎるだろ!こいつらは人間の肉にどれだけ執着してるんだ!俺は唐僧じゃないぞ!!」


柴刀が風を切って迫ってくる。刃から漂う腐敗した血の臭いさえ感じられる。


避けられない。急ブレーキで脚の筋肉がけいれんしたままで、効果的に身をかわすことなどできない。


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」


生きるか死ぬかの極限的なプレッシャーの中、アルファはすべての理屈も恥も捨てた。脳は「聖騎士は優雅であれ」「魔法は詠唱が必要」といった余計な設定をすべてフィルタリングする。システムがこんな地獄のスキルを押し付けてきたのには、きっと理由があるはずだ!


アルファは目をぎゅっと閉じ、両足を開き、両手を前で適当に、どこのアニメから拾ってきたか分からない意味のない印を結び、全身の力を振り絞り、空中にいるゴブリン首領に向かって絶叫した。


「食らえ――睾・丸・捻・転・術!!!」


ブーン――!


神聖な金色の光も、華やかな魔法陣も何もない。アルファの恥ずかしすぎる叫びが響いた瞬間、目には見えないが魂が震える不気味な紫色の波紋が空気に広がった。


飛び上がったまま、アルファを一刀両断にしようとしていたゴブリン首領は、空中でまるで見えない壁にぶつかったかのように体が硬直した。


「ギ……?」


顔の凶悪な表情が一瞬固まり、その代わりに言葉にならないほどの驚きが浮かぶ。


続いて、一瞬静まり返った森の中に、はっきりと、背筋が凍るような物理的な音が響いた。


「ぷちっ……ギャギャギャギャ――!!!」


それはまるで弾力のある牛の腱をペンチで挟み、容赦なく反時計回りに二回ひねり上げたような音だ。


まるまる720度の激しいひねりで、内部の神経や血管、繊細な組織が0.1秒で固い結び目に捻り上げられた!!!


「ギャギャアアアアアアア!!!!!!」


ゴブリン首領はこの世のものとは思えない絶叫を上げた。人間の鼓膜が耐えられないほどの高音まで上がったところで、声が裏返った。


手に持った柴刀が「ガチャン」と地面に落ち、短い両手が生理的な限界を超えた速さで腰布の下の部位をぎゅっと押さえる。


空中から地面に叩きつけられると、沸騰したお湯に投げ込まれたドジョウのように地面で激しく転げ回り、両目は白目だけになり、口からは泡が溢れ続ける。醜い緑の顔には激痛で紫色の血管が浮き出、涙と鼻水が顔中にまみれた。


「ひぃっ――」


アルファは目を開け、その光景を見て、自分が使い手でありながら思わず息を呑み、無意識に両脚を閉じた。


「こ、これは人間に対して悪意しかないだろ!俺がやったのか?ただ叫んだだけで効くのか?しかも効き目が怖すぎる!!!!」


「これは魔法じゃない、完全に拷問だ!異世界の大魔王が来てもこれを見たら通報したくなるだろ!」


だが他のゴブリンたちは首領の惨状に怯える様子はない。貧しい知能では、首領が突然地面でてんかんのように踊りだした理由が理解できない。怒りの鳴き声を上げ、そのままアルファに突進してくる。


「クソ!まだ諦めないのか!お前たちが礼儀を知らないなら、明るくまっすぐな『聖騎士』の俺だって手を厳しくするぞ!変だとは思うが生き残らなきゃいけないんだ!」


アルファは完全に我を忘れ、再び走り出した。だが今度はもう無抵抗の負け犬ではない。「五属性魔法適正MAX」がもたらす恐ろしい魔力回復速度と、詠唱ほぼ不要の即発動のおかげで、走りながら後ろを振り返り、狂人のように次々と「発砲」していく。


「おい!睾丸捻転!」


「ギキッ!」「ギャアアア!」

弓を撃とうとしていたゴブリンが股を押さえて棘の茂みに転げ落ちた。


「おい!歯痛術!」


「ギギギ……」

武器を投げ捨てたゴブリンが頬を押さえ、苦しみで頭を木に打ち付ける。歯の神経が壊死するような激痛に、自分の頭蓋骨を叩き割りたくなるほどだ。


「そこのおい!雌だろうが雄だろうが!食らえ――妊婦の痛み術!!!」


アルファの叫びと同時に、槍を投げようとしていたゴブリンのお腹に不気味な光が灯り、続いてひざまずき、平らなお腹を両手で押さえ、人間の出産時の最大レベルの陣痛のような絶望の鳴き声を上げる。泥の上で無意識に「ふ――い――ふ――い――」とラマーズ法の呼吸を練習し始める。


「捻れ!捻れ!捻れ!みんな捻れ!痛め!痛め!痛め!みんな痛くなれ!」


森にはボス悪役さながらのアルファの狂った笑い声と、ゴブリンたちの次々と響く凄惨な鳴き声が渦巻いている。


本来はスリリングな異世界モンスター追跡劇だったはずが、アルファによって肉体的ダメージと悪趣味にあふれた交響曲会場へと変貌してしまった。通り過ぎた場所には、股を押さえて転げ回る者、歯が痛くて木に頭を打ち付ける者、出産の痛みを味わって横たわる緑の小人たちが散らばる。元々生気にあふれていた森は、悪魔が見ても涙を流す地獄と化していた。


「はあ……はあ……」


どれほど走ったのか分からない。前方の木々が次第に疎らになっていく。眩しい陽光が暗い森を突き破る。


アルファは茂みから飛び出し、見知らぬ紫色の野花が咲き乱れる開けた平原に転げ込んだ。


そよ風が吹き、遠くの花々の香りが漂ってくる。


アルファは柔らかい草の上にへたり込み、激しく息を喘ぐ。汗がネタになる柴犬Tシャツをびしょ濡れにしている。震える首を回し、後ろの森の縁を眺める。


そこは静まり返っていた。ゴブリンは一匹も追い出してこない。


もし自然の声を聞けるエルフがいたら、森の奥から聞こえてくる、生理的な苦痛に満ちた恐ろしい悲鳴がぼんやりと聞こえてくるだろう。


「やっと……生き残った……」


アルファは大の字に草の上に横になり、異世界の不自然なほど青い広い空を見上げる。生き残った安堵のためか、それとも価値観が完全に砕けたためか、目尻から一滴の涙がこぼれ落ちた。


「俺はたぶん……他人の金玉を捻り、出産の痛みを味あわせて自分の身と尊厳を守った、この世界初の聖騎士だろう……」


つぶやきながら右手を上げ、長く力強い指を眺める。


「この両手は美味しいイチゴのケーキや紅焼き肉を作るためのものだったはずなのに……今や消せない罪悪感にまみれてしまった……女神め、この畜生め!神像を見つけたら赤ペンキをぶちまけるだけじゃなく、祭壇に糞をしてやるぞクソッ!!!」

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