第六十六話 あおいのわがまま
――翌朝。
空色唐辛子荘のリビングには、朝食のいい香りが漂っていた。
キッチンでは酒菜が朝食の準備を進めており、テーブルではみゆとフェンリスが楽しそうに話している。
そんな穏やかな朝のひととき。
「おはよう」
リビングの扉が開き、和真が姿を現した。
その隣にはナディア。
さらに、二人の足元を一匹の赤狐がトコトコと歩いていた。
「おはよう、和真!」
「おはよー!」
フェンリスとみゆが挨拶を返す。
「おう。お前ら、朝から元気だな」
ナディアがそう言いながら、和真の腕に自分の腕を絡ませた。
「ちょっと、ナディア。歩きにくいって」
「別にいいだろ。昨日は散々俺様に甘えてきたくせに」
「なっ!? お、お前!」
「ははっ! 冗談だ」
楽しそうに笑うナディア。
和真は顔を赤くしながら、困ったように頭を掻いた。
そんな二人を見て、みゆがニヤリと笑う。
「へえ……ずいぶん仲がいいね?」
「ああ。昨日は俺様の番だったからな」
「ふふっ、よかったね、ナディア」
「当然だ」
ナディアは満足そうに胸を張った。
フェンリスも少し照れくさそうに笑う。
「昨日は僕たちも、その……和真と一緒だったしね」
「そうそう。フェンリスなんて、朝になってもなかなか離れなかったんだよ?」
「み、みゆ! それは言わなくていいだろ!」
「あははっ!」
楽しそうな笑い声が響く。
しかし――。
「…………むぅ」
その光景を少し離れた席から見つめている者がいた。
あおいである。
九本の尻尾が、椅子の後ろでゆらゆらと揺れていた。
いや。
正確には、少し不機嫌そうに左右へ動いている。
「……ずるいのじゃ」
小さく呟く。
和真には聞こえていない。
昨日はナディア。
その前の夜は、みゆとフェンリス。
三人とも、和真との距離をますます縮めている。
もちろん、あおいだって和真に甘えてきた。
年末から年始にかけては、毎日のように和真の膝を独占し、夜も一緒の布団で眠っていた。
それは本当に幸せな時間だった。
けれど――。
(わらわだけ……まだなのじゃ)
和真は優しい。
頼めば抱きしめてくれる。
頭も撫でてくれる。
寂しいと言えば、そばにいてくれる。
それでも、あおいの胸には、ずっと伝えられずにいる想いがあった。
自分も、みんなと同じように恋人として見てもらいたい。
ただ守られるだけではなく、一人の女性として気持ちを受け止めてほしい。
(……わらわも、和真が好きなのじゃ)
好き。
大好き。
誰よりも大切。
長い孤独の中から救い出してくれた人。
自分に温もりを教えてくれた人。
今では、その人のいない毎日など考えられない。
だからこそ――。
(もう、我慢はせぬぞ)
あおいは小さく拳を握った。
そして、ある決意を固めた。
そのときだった。
「……あおい?」
「ひゃっ!?」
突然名前を呼ばれ、九本の尻尾が一斉に跳ね上がる。
顔を上げると、和真が不思議そうにこちらを見ていた。
「どうした? なんか難しい顔してるぞ?」
「な、なんでもないのじゃ!」
「そうか?」
「う、うむ! 気にするでない!」
あおいは慌てて顔を背けた。
そんな様子を見ていたナディアが、何かを察したように口元を緩める。
「……なるほどな」
「ん? なんだよ」
「いや、なんでもねえ。お前も大変だな、和真」
「だから何が!?」
ナディアは答えず、愉快そうに笑った。
その足元では、赤狐――紅月が不思議そうに首を傾げていた。
人間たちの言葉を聞きながら、何やら賑やかな朝だと思っているらしい。
紅月は和真の足元へ近づくと、ちょこんと腰を下ろした。
「お、キツネちゃん。腹減ったか?」
和真がしゃがんで頭を撫でる。
紅月は気持ちよさそうに目を細めた。
「あとでご飯にしような」
そう言って優しく微笑む和真。
その姿を見たあおいは、ますます頬を膨らませた。
(……キツネにまで優しくしおって)
もちろん、紅月に嫉妬しているわけではない。
ただ――。
(今日は絶対に、わらわの気持ちを伝えるのじゃ!)
あおいの決意は、ますます固くなった。
◇◇◇
朝食が終わり、各々が自由に過ごし始めた頃。
あおいはリビングを見渡していた。
(まずは……フェンリスじゃな)
あおいにとって、フェンリスは特別な存在だった。
誰よりも和真を慕い、長い間その想いを胸に抱いてきたことを知っている。
函館旅行から帰ってきたあと、二人の関係が変わったことも感じていた。
そんなフェンリスに、きちんと話しておきたかった。
「フェンリス」
「ん? どうしたの、あおい?」
ソファでくつろいでいたフェンリスが振り向く。
「少し……話があるのじゃ」
「話?」
「うむ。二人きりで話したいのじゃが……よいかえ?」
「もちろんいいよ」
フェンリスは笑顔で立ち上がった。
二人は人の少ない場所へ移動した。
窓から差し込む冬の日差しが、床を柔らかく照らしている。
あおいはフェンリスの前に立つと、少し緊張した様子で両手を合わせた。
「……フェンリス」
「うん?」
「わらわは……和真が好きじゃ」
「……え?」
フェンリスが目を瞬かせた。
「うん。それは知ってるよ?」
「そうではないのじゃ」
「え?」
あおいは一度深呼吸をした。
そして、まっすぐにフェンリスを見つめた。
「わらわも……和真の恋人になりたいのじゃ」
「…………えっ!?」
フェンリスの耳がピンと立った。
「こ、恋人!?」
「うむ」
「えっと……その……本気なの?」
「もちろんじゃ」
あおいは真剣な表情で頷いた。
「わらわは和真を愛しておる。ずっとそばにいたいし、これからも一緒に生きていきたいのじゃ」
「…………」
フェンリスは言葉を失った。
あおいが和真を慕っていることは、もちろん知っていた。
年末年始には和真を独占され、寂しい思いもした。
けれど、こうして正面から気持ちを伝えられるとは思っていなかった。
「……そっか」
フェンリスはゆっくりと視線を落とした。
「……和真のこと、本当に好きなんだね」
「うむ。誰にも負けぬつもりじゃ」
「そ、それは僕だって負けないよ!」
「ふふっ。そうじゃろうな」
あおいが小さく笑った。
その笑顔を見て、フェンリスもつられるように笑う。
しかし、すぐに考え込んでしまった。
「……でも、僕に聞くってことは……」
「うむ。フェンリスに、嫌な思いをさせたくないのじゃ」
「…………」
「わらわは、おぬしがどれほど和真を想っておるか知っておる。じゃから、何も言わずに進むのは嫌なのじゃ」
フェンリスは胸元に手を当てた。
正直に言えば、複雑だった。
和真が大好き。
できることなら、ずっと自分だけを見ていてほしい。
函館で過ごした日々。
あの旅行で、ようやく和真との距離が縮まった。
それが、どれほど嬉しかったことか。
けれど――。
目の前のあおいも、同じなのだ。
和真を好きになり、一緒にいたいと願っている。
その気持ちを、自分の都合だけで否定することなどできなかった。
「……あおい」
「なんじゃ?」
「僕、和真が大好きなんだ」
「うむ。知っておる」
「だから……できれば独り占めしたいって思うこともあるよ」
「……うむ」
「でも、あおいのことも大切だし、あおいが和真を好きになるのも……嫌じゃないんだ」
フェンリスは少し困ったように笑った。
「ただ……やっぱり、ちょっと複雑かな」
「……すまぬ」
「謝らなくていいよ!」
フェンリスは慌てて首を振った。
「僕だって、みゆやナディアと同じ人を好きになってるんだからさ。あおいだけ駄目なんて言えないよ」
「フェンリス……」
しばらく考えたあと、フェンリスは大きく息を吐いた。
「……うん。わかった」
「本当かえ!?」
「和真がいいって言うなら、僕は反対しないよ」
あおいの表情がぱっと明るくなった。
「ありがとうなのじゃ!」
「わっ!?」
あおいが勢いよく抱きつく。
フェンリスは驚きながらも、その体を受け止めた。
「ちょ、ちょっと、あおい!」
「嬉しいのじゃ! 本当にありがとうなのじゃ!」
「あはは……でも、ひとつだけ約束してよ?」
「なんじゃ?」
「僕だって和真に甘えたいんだから、またずっと独り占めするのは駄目だよ?」
「……むぅ」
「そこで悩むの!?」
「……わかったのじゃ」
「本当?」
「うむ。なるべく気をつけるのじゃ」
「なるべくって……」
フェンリスは苦笑した。
しかし、あおいが嬉しそうに尻尾を揺らしている姿を見ると、それ以上は何も言えなくなってしまった。
◇◇◇
次にあおいが向かったのは、みゆのところだった。
「みゆ!」
「んー?」
ソファでくつろいでいたみゆが顔を上げる。
「どうしたの、あおい?」
「少し話があるのじゃ」
「いいよ。何の話?」
あおいはみゆの隣に腰を下ろした。
少し緊張しながら、先ほどと同じように切り出す。
「実はのう……わらわも和真の恋人になりたいのじゃ」
「いいよ!」
「…………」
「…………」
あおいが固まった。
「……え?」
「だから、いいよ?」
みゆはニコニコと笑っている。
「……まだ、何も説明しておらぬのじゃが」
「うん。でも、何を言いたいかはわかったから」
「……よいのかえ?」
「もちろん!」
あまりにもあっさりした返事だった。
あおいは思わず瞬きを繰り返す。
「……みゆは、不満ではないのか?」
「んー? どうして?」
「わらわも和真を独り占めしたいと思うことがあるのじゃぞ?」
「知ってるよ?」
「……むぅ」
みゆは楽しそうに笑った。
「だって、年末なんてすごかったじゃないか。和真の膝も隣も布団も、全部あおいが独り占めしてたでしょ?」
「うっ……」
「あのときは僕だって寂しかったんだからね?」
「……すまぬ」
「あははっ! 怒ってないよ」
みゆはあおいの頭を優しく撫でた。
「でもね、あおい」
「なんじゃ?」
「和真のことが本当に好きなら、ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃ駄目だよ?」
「……うむ」
「和真って、優しいけど、そういうところは鈍いからね」
「それは……わらわも思うのじゃ」
「でしょ?」
二人は顔を見合わせて笑った。
「それにさ」
みゆがいたずらっぽく目を細める。
「今度、僕と一緒に和真を驚かせてみない?」
「……驚かせる?」
「そう! 二人で思いっきり甘えてみるんだ。和真、きっとどうしていいかわからなくなるよ!」
「おお……!」
あおいの目が輝いた。
「それは楽しそうじゃ!」
「でしょ? 和真が困った顔するの、僕けっこう好きなんだよね」
「ふふっ。みゆは本当に悪戯好きじゃのう」
「そういうあおいだって、嫌いじゃないでしょ?」
「……否定はせぬ」
「あははっ!」
楽しそうに笑う二人。
あおいは胸の奥が温かくなるのを感じていた。
みゆは、何も迷わず受け入れてくれた。
もちろん、和真の気持ちが一番大切なことはわかっている。
それでも、こうして背中を押してくれる仲間がいることが嬉しかった。
「ありがとう、みゆ」
「どういたしまして!」
みゆは笑顔で答えた。
「でも、あおい」
「なんじゃ?」
「最後に決めるのは和真だからね?」
「うむ。それはわかっておる」
「だったら大丈夫!」
みゆはあおいの背中を軽く叩いた。
「頑張ってね!」
「うむ!」
あおいは力強く頷いた。
◇◇◇
三人目。
それは、ナディアだった。
あおいがリビングへ戻ると、ナディアは窓際の椅子で本を読んでいた。
足元では紅月が丸くなっている。
「ナディア!」
「あん?」
ナディアが顔を上げた。
「なんだ、あおい。そんなに慌てて」
「少し話があるのじゃ!」
「……ほう?」
ナディアは本を閉じた。
あおいの真剣な表情を見て、何となく察したらしい。
「和真のことか?」
「なっ!? なぜわかったのじゃ!?」
「ははっ! お前、今朝からずっと和真ばっかり見てただろ」
「うぅ……」
「それで? 何を言いに来た?」
あおいは少しだけ姿勢を正した。
「わらわも……和真の恋人になりたいのじゃ」
「ああ、いいぞ」
「…………」
再び沈黙。
「……え?」
「だから、俺様は構わねえって言ってるんだ」
「……本当かえ?」
「なんだ? 反対されると思ってたのか?」
「……少しだけ」
ナディアは呆れたように笑った。
「お前が和真に惚れてることなんて、とっくに知ってる」
「……うむ」
「それに、俺様が反対したところで、お前は諦められるのか?」
あおいは少し考えた。
そして、首を横に振った。
「……無理じゃ」
「だろうな」
ナディアは満足そうに頷く。
「だったら最初から俺様の答えなんて決まってる。自分の気持ちくらい、自分で伝えてこい」
「ナディア……」
「ただし」
ナディアが人差し指を立てた。
「和真がどう答えるかは、あいつ自身が決めることだ。それだけは忘れるなよ?」
「……うむ!」
「よし」
ナディアは笑みを浮かべた。
「それで、ほかの二人には話したのか?」
「うむ! フェンリスもみゆも、和真がよければと許してくれたのじゃ!」
「……は?」
ナディアが目を丸くした。
「お前……もう二人に聞いてきたのか?」
「うむ!」
「はははっ! なんだそりゃ!」
突然笑い出すナディア。
あおいは少し不満そうに頬を膨らませた。
「な、何がおかしいのじゃ!」
「いや、悪い悪い。お前、ずいぶん律儀なんだな」
「当然じゃ! みんな大切な仲間なのじゃから!」
その言葉に、ナディアは一瞬だけ目を細めた。
「……そうか」
そして、穏やかな笑みを浮かべる。
「なら、しっかり伝えてこい。お前の気持ちをな」
「うむ! ありがとうなのじゃ!」
あおいは嬉しそうに頭を下げた。
その様子を、紅月がじっと見つめていた。
赤い狐の耳が、ぴくりと動く。
和真。
あおい。
フェンリス。
みゆ。
ナディア。
ここへ来てから何度も聞いている名前。
中でも、和真という人間の名前は特によく耳にする。
紅月は首を傾げた。
どうやら、みんなあの人間のことが大好きらしい。
昨夜もナディアは和真と寄り添い、とても幸せそうにしていた。
そして今、あおいも同じように和真を求めている。
人間というのは、不思議な生き物だ。
そんなことを考えながら、紅月は再び丸くなった。
一方、あおいは廊下を歩きながら、胸の前で小さく拳を握っていた。
(フェンリスも、みゆも、ナディアも……みんな許してくれたのじゃ)
嬉しかった。
けれど、まだ安心するわけにはいかない。
あおいには、どうしても話しておきたい相手がもう一人いた。
あの三人をまとめて叱ることができる人物。
和真に対しても遠慮なく説教をする人物。
そして何より、あおい自身も信頼している人物。
(……最後はユエじゃな)
あおいは足を止めた。
少しだけ緊張する。
フェンリスは戸惑いながらも認めてくれた。
みゆは笑顔で応援してくれた。
ナディアは当然のように受け入れてくれた。
しかし――。
(ユエは……何と言うじゃろうか)
あおいは小さく息を吸った。
そして、ユエを探して歩き出した。
◇◇◇
あおいがユエを見つけたのは、母屋の縁側だった。
冬の澄んだ空気が庭を包み、柔らかな日差しが差し込んでいる。
ユエは湯呑みを片手に、静かに庭を眺めていた。
「……ユエ」
「……あら、あおい」
呼びかけに気づいたユエが振り向く。
「どうしたの? そんなに改まって」
「少し……話があるのじゃ」
「話?」
「うむ。大切な話じゃ」
あおいの真剣な表情を見て、ユエは湯呑みを置いた。
「……そう。なら、そこに座りなさい」
「うむ」
あおいはユエの隣に腰を下ろした。
九本の尻尾をそっとまとめ、膝の上で両手を重ねる。
フェンリス。
みゆ。
ナディア。
三人には、自分の気持ちを伝えることができた。
けれど、ユエは少し違う。
和真が誰かと親密になるたびに、きちんと向き合うよう諭してきた人物だ。
自分も叱られるのではないか。
そう考えると、どうしても緊張してしまう。
「……それで?」
「う、うむ……」
あおいは一度深呼吸した。
「ユエ。わらわは……和真が好きなのじゃ」
「……ええ。知っているわ」
「そ、それも……ただ好きというわけではないのじゃ」
「そうでしょうね」
「…………」
あおいは目を瞬かせた。
「……驚かぬのか?」
「今さら何を驚く必要があるの?」
ユエは呆れたように息を吐いた。
「あなたが和真にどれだけ懐いていると思っているの? 年末から年始にかけて、ほとんど離れなかったでしょう」
「うっ……」
「膝の上も、隣も、寝るときまで。あれだけ甘えておいて、誰にも気づかれていないと思っていたの?」
「……むぅ」
あおいは恥ずかしそうに俯いた。
「そ、それは……」
「別に責めているわけではないわ」
ユエは少しだけ表情を和らげた。
「それで? 私に何を聞きたいの?」
あおいは顔を上げた。
「……わらわも、和真の恋人になりたいのじゃ」
「…………」
「和真のことを、誰よりも大切に想っておる。これからもずっと、そばにいたいのじゃ」
「……そう」
ユエは静かに頷いた。
「それで、あなたはどうしたいの?」
「……わらわも、和真に愛してほしいのじゃ」
あおいの声が少し小さくなった。
「今までも、和真はわらわに優しくしてくれた。寂しいときは抱きしめてくれたし、眠れぬ夜にはそばにいてくれた」
「ええ」
「じゃが……わらわは、それだけでは満足できなくなってしまったのじゃ」
あおいは胸元に手を当てた。
「もっと、和真の特別になりたい。和真に好きだと言ってもらいたい。わらわからも、もっと気持ちを伝えたいのじゃ」
ユエは何も言わず、耳を傾けていた。
「……欲張りじゃろうか?」
あおいが不安そうに尋ねる。
すると、ユエは小さく首を横に振った。
「好きな相手に愛してほしいと願うこと自体は、おかしなことではないわ」
「……本当かえ?」
「ええ。ただし、相手の気持ちも大切にしなければいけない。それはわかっているでしょう?」
「うむ!」
あおいは力強く頷いた。
「じゃから、まずはユエにも話しておきたかったのじゃ」
「……私に?」
「うむ。ユエはいつも、みんなのことを考えておるからのう」
その言葉に、ユエは少し意外そうな顔をした。
「……そう」
そして、小さく息を吐く。
「気持ちはわかったわ。けれど、私が決めることではないでしょう」
「……む?」
「あなたが恋人になりたい相手は、私ではなく和真でしょう?」
「うむ」
「だったら、和真本人に聞きなさい」
ユエは当然のことのように言った。
「あなたの気持ちを伝えて、和真がどう思うのか聞けばいい。それだけの話よ」
「……じゃが」
「何?」
「フェンリスとみゆ、それにナディアには、もう話してあるのじゃ」
「…………は?」
ユエの動きが止まった。
「……今、何と言ったの?」
「三人には、すでに話したのじゃ!」
あおいは嬉しそうに胸を張った。
「フェンリスは少し悩んでおったが、和真がよければ反対せぬと言ってくれたのじゃ!」
「……そう」
「みゆは、すぐに許してくれたぞ! 今度、一緒に和真を困らせようとまで誘われたのじゃ!」
「……みゆ」
ユエの眉がぴくりと動いた。
「それからナディアも、和真の気持ちが大切じゃと言ってくれたのじゃ!」
「…………」
ユエは片手で額を押さえた。
しばらく沈黙が続く。
「……あのね、あおい」
「なんじゃ?」
「どうして当の本人より先に、三人全員へ話を通しているの?」
「……いけなかったかえ?」
「いけないとまでは言わないけれど……」
ユエは深いため息をついた。
「まったく。あなたたちは、どうしてそういうところばかり行動が早いのかしら」
「……むぅ」
あおいは少し不安そうに俯いた。
「わらわは……みんなと仲違いしたくなかったのじゃ」
その一言に、ユエは顔を上げた。
「和真は大好きじゃ。じゃが、フェンリスもみゆもナディアも、わらわにとって大切な仲間なのじゃ」
「…………」
「誰かを悲しませてまで、自分だけ幸せになりたいとは思わぬ」
あおいは膝の上で拳を握った。
「じゃから、先にみんなへ気持ちを伝えたかったのじゃ」
ユエはしばらくあおいを見つめていた。
やがて、ふっと表情を和らげる。
「……そういうことだったのね」
「うむ……」
「なら、あなたの考えはわかったわ」
ユエはあおいの頭にそっと手を置いた。
「でも、恋愛というのは、誰かの許可を集めれば成立するものではないのよ」
「……うむ」
「三人が反対しなかったからといって、和真も同じ気持ちとは限らない。それに、あなた自身も無理をする必要はないわ」
「わかっておる」
「本当に?」
「うむ。わらわは……和真の本当の気持ちが知りたいのじゃ」
あおいはまっすぐにユエを見つめた。
「和真がわらわをどう思っておるのか、ちゃんと聞きたいのじゃ」
ユエは小さく頷いた。
「それなら、もう私から言うことはないわ」
「……よいのかえ?」
「ええ」
「怒らぬのか?」
「どうして怒る必要があるの?」
ユエは呆れたように笑った。
「あなたが誰を好きになろうと、私が口を挟むことではないでしょう」
「……ユエ」
「それに、いちいち私に許可を求める必要なんてないわ」
ユエはあおいの頭から手を離した。
「ただ、自分の気持ちだけを押しつけないこと。和真の言葉をきちんと聞くこと。それだけは忘れないで」
「うむ!」
「だったら、あとは和真に聞きなさい」
その言葉を聞いた瞬間、あおいの表情がぱっと明るくなった。
「ありがとうなのじゃ!」
勢いよく立ち上がるあおい。
九本の尻尾が嬉しそうに広がった。
「わらわ、行ってくるのじゃ!」
「ええ。頑張りなさい」
「うむ!」
あおいは勢いよく駆け出した。
その後ろ姿を見送りながら、ユエは再び湯呑みを手に取る。
「……まったく」
小さく呟いた。
「本当に、あの子たちは……」
しかし、その表情はどこか穏やかだった。
◇◇◇
あおいが和真を見つけたのは、母屋のリビングだった。
和真はソファに座り、何やら書類を確認していた。
管理人としての仕事だろう。
その足元では、紅月が丸くなって眠っている。
「……和真!」
「ん?」
呼びかけに気づいた和真が顔を上げた。
「お、あおい。どうした?」
あおいは小走りで近づいた。
「今、少しよいかえ?」
「ああ、いいぞ」
和真は書類をテーブルに置いた。
「何かあったのか?」
「うむ……」
あおいは和真の前に立った。
しかし、いざ顔を見つめると、急に胸が高鳴ってしまう。
(……ど、どうするのじゃ)
フェンリスにも、みゆにも、ナディアにも、ユエにも話せた。
なのに。
肝心の和真を前にすると、言葉がうまく出てこない。
「……あおい?」
「ひゃっ!?」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃ!」
和真は少し心配そうに首を傾げた。
「何か困ってるなら、遠慮しないで言ってくれよ?」
「……うむ」
その優しい言葉に、あおいは少しだけ落ち着きを取り戻した。
そして――。
「……和真」
「ん?」
「今夜……一緒に寝てもよいかえ?」
「……え?」
和真が目を瞬かせた。
あおいは両手を胸の前で合わせ、上目遣いに見つめる。
「駄目……かのう?」
その表情を見て、和真はふっと笑った。
「なんだ、そんなことか」
「……む?」
「もちろんいいぞ」
「…………!」
あおいの狐耳がぴんと立った。
「ほ、本当かえ!?」
「ああ。何か予定があるわけでもないしな」
和真はいつものように優しく微笑んだ。
「一緒に寝たいなら、いつでも言ってくれよ」
「……っ!」
あおいの胸が、じんわりと温かくなった。
(……やっぱり、和真は優しいのじゃ)
嬉しくて、思わず抱きつきたくなる。
しかし、今日は少しだけ我慢した。
今夜、ちゃんと伝えたいことがあるからだ。
「……それでは!」
「ん?」
「今夜、和真の部屋に行くのじゃ!」
「ああ、わかった」
「約束じゃぞ?」
「約束だ」
和真が笑顔で頷く。
あおいは満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ……楽しみなのじゃ!」
そして、くるりと身を翻す。
「では、また夜にのう!」
「ああ。またあとでな」
あおいは足取りも軽く、リビングを飛び出していった。
残された和真は、少し不思議そうに首を傾げる。
「……なんか、今日はやけに嬉しそうだな」
足元で眠っていた紅月が、その声に反応して顔を上げた。
「ん? キツネちゃんもそう思うか?」
紅月は首を傾げる。
和真は笑いながら、その頭を優しく撫でた。
「まあ、あおいが元気なのはいいことだよな」
そう言って、再び書類に目を戻す。
まさか、あおいがどんな決意を固めているのかなど、このときの和真は知る由もなかった。
◇◇◇
一方、自室へ戻ったあおいは、扉を閉めるなり、その場で小さく飛び跳ねた。
「……やったのじゃ!」
九本の尻尾が一斉に広がる。
「和真が……今夜、一緒に寝てもよいと言ってくれたのじゃ!」
嬉しさのあまり、頬が緩んでしまう。
もちろん、ただ一緒に眠る約束をしただけだ。
肝心の想いは、まだ伝えていない。
けれど、それでいい。
今夜こそ。
自分がどれほど和真を愛しているのか、きちんと言葉にするのだ。
「……ふふっ」
あおいは鏡の前へ移動した。
そこに映っているのは、いつもの自分。
小柄な体に、狐耳と九本の尻尾。
長い髪。
そして、どこか幼く見える顔立ち。
あおいはじっと鏡の中の自分を見つめた。
「……今夜は、少し違うわらわを見せたいのう」
普段は和真に甘えてばかりいる。
膝に座ったり、抱きしめてもらったり、頭を撫でてもらったり。
それも大好きだった。
でも、今日はそれだけではない。
一人の女性として、勇気を出して想いを告げたい。
「……よし!」
あおいは小さく拳を握った。
「今夜は、とびきり綺麗にしていくのじゃ!」
そして、衣装箪笥の前に立った。
さて。
何を着ていこうか。
和真はどんな姿を喜んでくれるだろう。
いつもとは少し違う髪型もいいかもしれない。
あおいは次々と服を取り出し、鏡の前で合わせ始めた。
「……これでは、いつもと変わらぬのう」
一着目を戻す。
「こちらは……少し派手すぎるかえ?」
二着目も戻す。
「むぅ……なかなか難しいのじゃ」
そうして、あおいの小さな衣装選びが始まった。
すべては、今夜のため。
和真に、自分の想いを届けるためだった。
◇◇◇
衣装箪笥の前には、いつの間にか何着もの服が並べられていた。
「……むぅ」
あおいは腕を組み、真剣な表情で悩んでいた。
いつもの和服。
少し華やかな着物。
以前、和真に似合うと言ってもらえた服。
どれも気に入っている。
しかし、今夜は特別なのだ。
「……これでは、いつもと同じじゃ」
あおいは鏡に映る自分を見つめた。
小柄な体。
長い髪。
そして、頭の上にある狐耳と、背後に広がる九本の尻尾。
普段の自分を、和真はよく可愛らしいと言ってくれる。
それは嬉しい。
とても嬉しいのだが――。
「……わらわも、たまには綺麗と言われたいのじゃ」
ぽつりと呟く。
フェンリスも、みゆも、ナディアも。
三人とも、それぞれ違った魅力を持っている。
フェンリスは明るく、一途で、和真への想いがまっすぐだ。
みゆは甘え上手で、いつも和真を困らせながら楽しそうに笑っている。
ナディアは自信に満ちていて、和真の隣に立つ姿がとても自然だった。
では、自分はどうだろう。
「……わらわには、何があるのじゃろうか」
少しだけ不安になる。
和真に甘えることなら、誰にも負けない自信がある。
けれど、それだけでは足りないような気がしてしまう。
あおいはもう一度、鏡の前に立った。
「……いや」
小さく首を振る。
「誰かと比べる必要などないのじゃ」
フェンリスも、みゆも、ナディアも、それぞれのやり方で和真に気持ちを伝えてきた。
だったら、自分も同じでいい。
誰かの真似をするのではなく、自分らしく。
そのうえで、今までとは少し違う姿を見せたい。
「……ふふっ」
あおいは小さく微笑んだ。
「そうじゃ。わらわには、わらわのよさがあるのじゃ」
そう呟くと、再び衣装箪笥を探し始めた。
そして――。
「……おお!」
一着の和服を見つけた。
現代風に仕立てられた、柔らかな生地の和服だった。
色は落ち着いた淡い桜色。
裾や袖口には、小さな白い花模様があしらわれている。
帯を使わず、前合わせを内側の留め具で整える作りになっており、着心地も軽い。
「……これじゃ!」
あおいは嬉しそうに服を広げた。
派手すぎず、地味すぎない。
普段の自分とは少し違う、落ち着いた雰囲気がある。
「これなら……和真も喜んでくれるかのう」
胸元に服を当て、鏡の前でくるりと回る。
九本の尻尾がふわりと揺れた。
「ふふっ……よいではないか!」
衣装は決まった。
次は髪型だ。
あおいは鏡台の前へ移動し、普段まとめている髪をほどいた。
さらさらと長い髪が背中へ流れ落ちる。
狐耳の周りを丁寧に整え、櫛を通す。
「……うむ」
鏡の中には、いつもと少し違う自分がいた。
髪を下ろしただけなのに、不思議と雰囲気が変わって見える。
「……和真は、気づいてくれるじゃろうか」
あおいは頬を赤らめた。
想像する。
今夜、和真の部屋を訪ねる。
和真が扉を開ける。
そして、自分を見るなり――。
『あおい、すごく綺麗だな』
「~~~っ!」
あおいは両手で頬を押さえた。
「そ、そのようなことを言われたら……!」
九本の尻尾が一斉に広がる。
「……嬉しすぎて、どうにかなってしまうのじゃ!」
誰もいない部屋で、一人赤面するあおい。
その姿は、普段の落ち着いた九尾とはずいぶん違っていた。
◇◇◇
夕方。
空色唐辛子荘には、夕食の準備が進む音が響いていた。
キッチンでは酒菜が料理を作り、ひかげが手伝っている。
「酒菜さん、こちらのお野菜は切っておきました」
「ああ、助かる。じゃあ次はそっちの皿を並べてくれ」
「はい」
リビングでは、みゆがフェンリスと話していた。
「ねえ、フェンリス」
「ん?」
「今日のあおい、なんだかすごく嬉しそうだったね」
「……うん」
フェンリスは小さく頷いた。
「和真に話せたのかな?」
「どうだろう。でも、あれだけ嬉しそうなら、何かいいことがあったんじゃない?」
「……そっか」
フェンリスは少しだけ笑った。
正直、まだ複雑な気持ちはある。
けれど、あおいが幸せそうなのは嬉しかった。
「……あおいも頑張ってるんだね」
「うん。僕、応援してるよ」
「みゆは本当に余裕だよね……」
「そうかな?」
「そうだよ!」
みゆは楽しそうに笑った。
「だって、あおいが和真を好きなのは前から知ってたし」
「それはそうだけど……」
「それに、和真が誰を大切に思ってるかは、和真自身が決めることだからね」
フェンリスは少し驚いたようにみゆを見つめた。
「……みゆって、時々すごく大人だよね」
「時々って何さ!」
「あははっ!」
二人が笑っていると、ナディアがやってきた。
「なんだ、楽しそうだな」
「あ、ナディア」
「ん? あおいの話か?」
「うん。今日、和真に気持ちを伝えるみたい」
「へえ……」
ナディアは口元を緩めた。
「ようやく決心したか」
「ナディアは、どう思う?」
フェンリスが尋ねる。
「何がだ?」
「あおいのこと」
「俺様は別に構わねえよ」
ナディアはあっさり答えた。
「ただ、和真がどう答えるかはあいつ次第だ」
「……うん」
「それに、あおいは長いこと一人で寂しい思いをしてきたんだろ?」
ナディアは腕を組んだ。
「せっかく自分から幸せを掴もうとしてるんだ。応援してやればいい」
「……そうだね」
フェンリスは小さく微笑んだ。
すると、みゆがニヤリと笑う。
「でもさ、和真ってあおいのお願いには本当に弱いよね」
「ああ、間違いないな」
ナディアも笑った。
「年末なんて、ほとんど言いなりだったからね」
「……あれは僕も困ったよ」
フェンリスが苦笑する。
三人は顔を見合わせた。
そして、ほぼ同時に笑い出した。
そのときだった。
「何がそんなに面白いんだ?」
和真がリビングに入ってきた。
「お、和真!」
「おかえりー」
「おう。どこ行ってたんだ?」
ナディアが尋ねる。
「ちょっと母屋の片付けをな。あと、キツネちゃんが庭に出たがってたから、一緒に歩いてきた」
和真の足元には紅月がいた。
赤い毛並みの狐が、トコトコとリビングに入ってくる。
「へえ、キツネちゃんもすっかり慣れたね」
みゆがしゃがみ、紅月の頭を撫でる。
紅月は少しくすぐったそうに目を細めた。
「本当だよな。最初は警戒してたのに」
和真も微笑んだ。
「……ところで、さっき何の話をしてたんだ?」
三人は一瞬だけ顔を見合わせた。
「……内緒!」
みゆが楽しそうに答える。
「は?」
「女同士の話だよ」
「いや、フェンリスもナディアもいたよな?」
「僕だって女だよ!」
「俺様も女だぞ。何か文句あるのか?」
「いや、そういう意味じゃなくて!」
和真が慌てる。
そんな姿を見て、三人はまた笑い出した。
「……なんなんだよ、もう」
和真は困ったように頭を掻いた。
その足元で、紅月が不思議そうに首を傾げていた。
◇◇◇
やがて夕食の時間になった。
住人たちがテーブルを囲み、賑やかな食事が始まる。
「いただきます!」
みんなの声が重なった。
今夜の料理も酒菜の手作りだ。
温かい煮物に焼き魚、具だくさんの味噌汁。
寒い冬には嬉しい献立だった。
「うん、うまい!」
和真が笑顔で箸を進める。
「そりゃよかった。冷めないうちに食えよ」
酒菜が満足そうに笑った。
そんな食卓の中で――。
「…………」
あおいは、いつもより少し静かだった。
箸を動かしながら、時折ちらちらと和真を見ている。
(……今夜じゃ)
胸が高鳴る。
(今夜こそ……和真に、わらわの想いを伝えるのじゃ)
けれど、いざそのときを考えると、急に緊張してしまう。
もし、和真が困ってしまったら。
もし、自分の気持ちを受け止めてもらえなかったら。
そんな不安が、ほんの少しだけ胸をよぎった。
「……あおい?」
「ひゃっ!?」
和真に名前を呼ばれ、あおいはびくりと肩を震わせた。
「ど、どうしたのじゃ!?」
「いや、今日はずいぶん静かだなって」
「そ、そうかえ?」
「ああ。何か考え事でもしてるのか?」
「な、なんでもないのじゃ!」
あおいは慌てて首を振った。
「そ、そうか?」
「うむ! 気にするでない!」
和真は少し不思議そうにしながらも、それ以上は聞かなかった。
そんな二人を見ていたみゆが、小さく笑う。
「……ふふっ」
フェンリスも、あおいの緊張に気づいたようだった。
ナディアは何も言わず、楽しそうに食事を続けている。
一方、ユエだけは――。
「……まったく」
小さく呟きながら、静かに味噌汁を飲んでいた。
◇◇◇
夕食が終わった。
食器の片付けも一段落し、住人たちはそれぞれの時間を過ごし始める。
あおいはそっと席を立った。
「……では、わらわは部屋に戻るのじゃ」
「ん? もう寝るのか?」
和真が尋ねる。
「ち、違うのじゃ!」
「え?」
「……あとで、和真の部屋に行くのじゃ」
「ああ、そうだったな」
和真は思い出したように笑った。
「わかった。待ってるよ」
「……うむ!」
あおいは嬉しそうに頷いた。
そして、小走りでリビングを出ていく。
その後ろ姿を見送りながら、みゆが小さく手を振った。
「……頑張ってね、あおい」
その声は、和真には届かなかった。
◇◇◇
自室へ戻ったあおいは、扉を閉めた。
そして、しばらくその場に立ち尽くす。
「…………」
心臓が、どきどきとうるさい。
「……落ち着くのじゃ」
胸元に手を当て、深呼吸をする。
「すぅ……はぁ……」
もう一度。
「すぅ……はぁ……」
少しだけ落ち着いた。
あおいは衣装箪笥から、昼間選んでおいた服を取り出した。
淡い桜色の現代風の和服。
落ち着いた色合いに、可愛らしい花模様。
丁寧に着替え、鏡の前に立つ。
「……うむ」
次に、髪を下ろす。
長い髪が背中へ広がり、いつもとは違う雰囲気になった。
櫛で整え、狐耳の周りも綺麗にする。
九本の尻尾も一本ずつ丁寧に毛並みを整えた。
「……よし」
最後に、もう一度鏡を見る。
そこには、少し緊張した表情の自分が映っていた。
「……和真」
小さく名前を呼ぶ。
「わらわは……おぬしを愛しておる」
鏡に向かって、何度も練習した言葉を口にした。
たったそれだけなのに、顔が熱くなる。
「……うぅ」
あおいは頬を押さえた。
「こんなことで、今夜ちゃんと言えるのじゃろうか……」
不安になる。
けれど――。
フェンリスは受け入れてくれた。
みゆは応援してくれた。
ナディアは背中を押してくれた。
ユエは、自分の気持ちをちゃんと伝えるように言ってくれた。
そして、和真は今夜、一緒に寝ることを喜んで承諾してくれた。
「……大丈夫じゃ」
あおいは鏡に向かって微笑んだ。
「わらわは、和真が大好きなのじゃ」
それだけは、絶対に変わらない。
ならば、恐れることなどない。
「……行くのじゃ!」
あおいは意を決し、部屋を出た。
◇◇◇
夜の廊下は静かだった。
窓の外には月が浮かび、冷たい風が木々を揺らしている。
あおいはゆっくりと歩いていた。
一歩。
また一歩。
和真の部屋へ近づくたびに、胸の鼓動が大きくなる。
(……もうすぐじゃ)
廊下の先。
見慣れた扉がある。
何度も訪れた、和真の部屋。
今までは、寂しくなればすぐに駆け込んでいた。
甘えたくなれば、何も考えずに扉を叩いていた。
けれど、今夜は違う。
ただ甘えに来たのではない。
自分の想いを、きちんと伝えに来たのだ。
あおいは扉の前で立ち止まった。
「…………」
小さく息を吸う。
そして――。
コン、コン。
「……和真」
少し震える声で呼びかけた。
「わらわじゃ。あおいじゃ」
すぐに、部屋の中から返事があった。
「ああ、あおい! ちょっと待ってくれ」
足音が近づいてくる。
あおいは思わず背筋を伸ばした。
九本の尻尾を綺麗に揃える。
そして――。
ガチャ。
扉が開いた。
「お、来たな。あおい」
和真がいつもの優しい笑顔で迎えてくれる。
しかし、次の瞬間。
「……ん?」
和真の動きが止まった。
視線が、あおいの姿へ向けられる。
普段とは違う服装。
綺麗に下ろした長い髪。
そして、頬を赤らめながら自分を見上げるあおい。
「……あおい?」
「な、なんじゃ……?」
「今日、なんか雰囲気違うな」
「……っ!」
あおいの狐耳がぴくりと動いた。
「そ、そうかえ?」
「ああ。髪も下ろしてるし……」
和真は少し照れくさそうに笑った。
「その服、すごく似合ってるよ」
「…………!」
あおいの顔が、一瞬で真っ赤になった。
「ほ、本当かえ!?」
「ああ。本当だよ」
和真は優しく微笑む。
「いつもと違って、なんだか新鮮だな」
「……ふふっ」
あおいは嬉しそうに笑った。
「そ、そうか……」
九本の尻尾が、ゆっくりと揺れ始める。
和真に褒めてもらえた。
たったそれだけで、昼間から悩んでいたことがすべて報われたような気がした。
「……とりあえず、入るか?」
「うむ!」
和真が扉を大きく開ける。
あおいは小さく頷き、部屋へ足を踏み入れた。
そして、扉が静かに閉まる。
今夜こそ。
ずっと胸の奥にしまっていた想いを、和真に伝える。
あおいはそう決意しながら、そっと和真を見上げた。
◇◇◇
夜も更けてきた頃。
和真はあおいの服装を改めて眺めた。
「それにしても、その服、本当に似合ってるな」
「……ふふっ。そうじゃろう?」
「ああ。色もあおいにぴったりだし」
「実はのう……昼間からずっと悩んでおったのじゃ」
「えっ、そんなに?」
「うむ! 和真に喜んでもらいたかったからのう」
あおいは照れくさそうに笑った。
「髪も、いつもとは違うようにしてみたのじゃ」
「うん。すごく綺麗だよ」
「…………!」
その言葉に、あおいは固まった。
「……き、綺麗?」
「ああ」
「……可愛い、ではなく?」
「もちろん可愛いけど、今日は綺麗って言葉も似合うと思う」
「~~っ……!」
あおいは両手で顔を覆った。
「……どうした?」
「……和真は、ずるいのじゃ」
「ええ!?」
「そのようなことを……さらりと言いおって……」
九本の尻尾が嬉しそうに揺れる。
和真は照れるあおいを見て、思わず微笑んだ。
「……喜んでもらえたならよかった」
「……うむ」
あおいはそっと和真を見上げた。
「……とても、嬉しいのじゃ」
それから二人は、たくさんのことを話した。
神社で過ごした日々。
初めて母屋へ来た頃のこと。
一緒に食事をしたこと。
年末年始、忙しい神社で二人並んで働いたこと。
あおいが寂しさに耐えられず、和真の部屋へ駆け込んだ夜のこと。
楽しい思い出も、少し恥ずかしい思い出も。
一つひとつ、確かめるように語り合った。
やがて、あおいが小さく欠伸をした。
「……ふぁ……」
「眠くなったか?」
「……少しだけじゃ」
和真が時計を見ると、すでにかなり遅い時間になっていた。
「そろそろ寝ようか」
「……うむ」
あおいは頷いた。
そして、少しだけ恥ずかしそうに微笑む。
「……今夜も、抱きしめて眠ってくれるかえ?」
「もちろん」
和真は布団を整えようとしたが、あおいが小さく袖を掴んだ。
「……和真」
「ん?」
「……今夜は、特別なのじゃ」
「ああ」
「わらわは……おぬしの恋人になりたいと言った」
「うん」
「じゃから……もっと、近くにいたいのじゃ」
あおいの声は少し震えていた。
和真は静かにその目を見つめた。
「……あおい」
「……無理にではないのじゃ。ただ……」
あおいは和真の服を小さく握った。
「わらわの気持ちを、全部受け止めてほしいのじゃ」
和真はしばらく黙っていた。
それから、あおいの髪に指を滑らせ、優しく撫でた。
「……わかった」
「……本当かえ?」
「ああ。あおいがそう望むなら」
あおいは深く息を吸った。
「……ありがとうなのじゃ」
和真はあおいの頬に手を添えた。
「怖くなったら、すぐ止めるから」
「……うむ。わかっておる」
あおいは小さく頷き、和真の首に腕を回した。
「……和真のことが、好きじゃ」
「俺もだよ」
二人はもう一度、静かに唇を重ねた。
そのキスは、先ほどまでのものより少し長く、少し熱を帯びていた。
あおいの尻尾が、ゆっくりと揺れた。
やがて、あおいが小さく息を吐いた。
「……和真」
「ん?」
「……服が、邪魔じゃ」
その言葉に、和真は少し驚いた。
「……あおい」
「わらわは……おぬしの肌に、直接触れたいのじゃ」
あおいは頬を赤く染めながらも、まっすぐ和真を見つめていた。
「……わかった」
和真は静かに立ち上がり、あおいの服に手をかけた。
「……自分で脱ぐか? それとも、俺が?」
「……和真に、脱がしてほしいのじゃ」
「……わかった」
和真はゆっくりと、あおいの服の留め具を外していく。
あおいは息を潜め、ただその手を見つめていた。
布が一つ、また一つと外れ、白い肩が露わになる。
あおいの耳がぴくりと動き、尻尾が小さく震えた。
「……寒いか?」
「……少しだけじゃ。でも、和真の手が温かいからのう」
和真は微笑み、残った布を丁寧に取り除いた。
やがて、あおいは何も纏わない姿になった。
月明かりが薄いカーテン越しに差し込み、あおいの肌を淡く照らす。
少し幼が残る容姿、小さな胸、細く白い肌
九本の尻尾が、無防備に広がっていた。
「……和真」
「……綺麗だよ」
「~~っ……!」
あおいは両手で顔を覆いかけたが、すぐにやめた。
「……おぬしも、脱いでほしいのじゃ」
「……ああ」
和真は自分の服に手をかけ、ゆっくりと脱いでいく。
あおいはその様子を、恥ずかしそうに、けれど目を逸らさずに見つめていた。
服が床に落ちる音が、静かな部屋に小さく響く。
やがて二人は、何も隔てない姿で向かい合った。
「……和真」
「ん?」
「……布団に、入りたいのじゃ」
「……ああ」
和真は布団を開き、あおいに手を差し伸べた。
あおいはその手を取り、ゆっくりと布団の中へ入っていく。
和真も隣に横になり、すぐに布団をかけた。
あおいはすぐに体を寄せてきた。
「……触れても、よいかえ?」
「もちろん」
あおいはそっと手を伸ばし、和真の胸に触れた。
温かい。鼓動が、はっきりと感じられる。
「……本当に、ここにおるのじゃな」
「ああ」
「わらわのそばに……」
「ずっとそばにいるよ」
あおいは小さく息を吐き、和真に体を預けた。
肌と肌が触れ合い、互いの体温がゆっくりと混じり合う。
「……温かいのじゃ」
「そうだな」
「……もう、離れたくないのじゃ」
「離さないよ」
和真はあおいを優しく抱き寄せた。
あおいの九本の尻尾が、和真の腰や太ももに絡みつく。
二人の息が、近くで重なる。
あおいは和真の首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「……和真」
「ん?」
「……好きじゃ」
「俺も、好きだよ」
和真はあおいの額に唇を寄せ、静かに口づけをした。
あおいは目を閉じ、その温もりに身を委ねる。
――ここから先は、言葉を超えた時間だった。
◇◇◇
しばらくして。
部屋の明かりはすでに消されていた。
布団の中で、二人は静かに抱き合っていた。
あおいの呼吸は、少し乱れたまま、徐々に落ち着きを取り戻していく。
和真の胸に頬を預けたまま、あおいは小さく息を吐いた。
肌と肌が直接触れ合う感覚が、まだ残っている。
「……はぁ……」
「……大丈夫か?」
「……うむ。大丈夫じゃ」
あおいの声は、少しだけ掠れていた。
けれど、その表情はどこか満たされたように柔らかかった。
「……和真」
「ん?」
「……痛くはなかったのじゃ」
「……そっか」
「むしろ……温かくて気持ち良かったのじゃ」
あおいは和真の胸に顔を埋め直した。
「わらわの中に、和真を感じたのじゃ」
「…………」
「変なことを言っておるか?」
「……ううん。変じゃないよ」
和真はあおいの頭をゆっくりと撫でた。
「俺も……あおいを感じられた」
「……ふふっ」
あおいは小さく笑った。
「……嬉しいのじゃ」
「ああ」
「……本当に、恋人になれたのじゃな」
「そうだな」
あおいは和真の肌に、今度は優しく指を這わせた。
「……離さないでほしいのじゃ」
「離さないよ」
「……ずっと、そばにいてほしいのじゃ」
「ずっとそばにいる」
あおいの九本の尻尾が、ゆっくりと和真の体に絡みつく。
まるで、自分の大切なものを守るように。
「……和真」
「ん?」
「……大好きじゃ」
「俺も、大好きだよ」
和真はあおいの額に、もう一度優しく口づけをした。
あおいは目を細め、満足そうに目を閉じた。
「……おやすみ、和真」
「おやすみ、あおい」
やがて、あおいの呼吸がゆっくりと深くなっていく。
それでも、和真の体に触れる手だけは、離さなかった。
まるで、もう二度と離れたくないと言っているようだった。
こうして、二人の特別な夜は、静かに更けていった。
◇◇◇
――その頃。
和真の部屋の片隅。
机の陰から、二人の様子をじっと見つめている小さな影があった。
紅月である。
実は、あおいが和真の部屋を訪れる少し前から、こっそり入り込んでいたのだ。
和真は気づいていなかった。
あおいも今夜は和真のことで頭がいっぱいだったため、その存在に気づくことはなかった。
紅月は、布団の中で幸せそうに寄り添う二人を不思議そうに眺めていた。
(……また、くっついてる)
ここへ来てから、何度か見かけた光景だった。
みゆも、フェンリスも、ナディアも。
みんな和真のそばにいると、嬉しそうに笑っている。
そして今夜は、あおいだった。
普段から和真に甘えているあおいだが、今夜は特に幸せそうだった。
何度も和真の名前を呼び、抱きつき、嬉しそうに尻尾を揺らしていた。
和真もまた、そんなあおいを優しく抱きしめていた。
(……いいな)
紅月は小さく尻尾を揺らした。
狐にとって、寄り添うことは特別なことだった。
大切な相手と体を寄せ合い、互いの温もりを感じる。
かつて母親と暮らしていた頃も、寒い夜には母親の温かな毛並みに包まれて眠っていた。
けれど、今の紅月には母親がいない。
山で一人過ごしていた時間は、寂しかった。
そんな自分を迎え入れてくれたのが、和真たちだった。
温かい寝床。
毎日の食事。
優しく撫でてくれる手。
ここへ来てから、紅月は寂しさを感じることが少なくなっていた。
中でも和真は、特別に優しかった。
自分が近づけば笑ってくれる。
頭を撫で、抱き上げ、話しかけてくれる。
けれど――。
(……わたしも、もっと仲良くなりたい)
紅月はじっと和真を見つめた。
あおいのように、気持ちを伝えてみたい。
嬉しいときには嬉しいと。
寂しいときには寂しいと。
和真の名前だって、自分の声で呼んでみたい。
しかし、今の紅月にできるのは、鳴いたり尻尾を振ったりすることだけだった。
(……わたし、狐だもん)
紅月は自分の前足を見つめた。
赤い毛に覆われた、小さな前足。
四本の足で歩く、いつもの姿。
みんなが呼んでくれる「キツネちゃん」という名前も嫌いではなかった。
けれど、それは本当の名前ではない。
母親がつけてくれた、大切な名前があるのだ。
(……紅月)
母親が何度も呼んでくれた名前。
紅月――あかつき。
その名前を、和真にも教えてあげたかった。
けれど、言葉にすることができない。
(……どうしたらいいんだろう)
紅月は小さく首を傾げた。
そのときだった。
ふと、遠い昔の記憶が蘇った。
◇◇◇
――まだ、母親と山で暮らしていた頃。
幼い紅月は、いつも母親の後ろをついて歩いていた。
大きくて、温かくて、優しい母親。
食べ物の探し方も、危険な場所も、山で生きるために必要なことは、すべて母親が教えてくれた。
そんなある日のこと。
母親は紅月の前で、不思議なことをした。
突然、体が淡い光に包まれたのだ。
驚いた紅月は、思わず後ずさった。
すると――。
四本の足で立っていた母親の姿が、ゆっくりと変わっていった。
体が伸び、前足が腕になり、後ろ足が人間の足へと変わっていく。
やがて光が収まると、そこには一人の女性が立っていた。
紅月は目を丸くした。
目の前にいるのは、見知らぬ人間。
そう思って警戒したものの、すぐに気づいた。
匂いが同じだったのだ。
大好きな母親の匂い。
姿はまったく違うのに、間違いなく母親だった。
女性の姿になった母親は、驚いている紅月を優しく抱き上げた。
そして、何かを話しかけてくれた。
幼い紅月には、その言葉の意味はよくわからなかった。
けれど、優しい声だけは覚えていた。
その日、母親は人間の姿で山を下り、街へ向かった。
そして夕方になると帰ってきて、再び狐の姿へ戻ったのだった。
それからも母親は、ときどき同じことをしていた。
幼い紅月にとって、それは不思議な出来事だった。
けれど、母親がどうしてそんなことをできるのか、深く考えたことはなかった。
◇◇◇
(……あっ!)
紅月の耳が、ぴんと立った。
(……お母さん!)
あのときの光景。
不思議な光。
人間へと姿を変えた母親。
紅月は自分の前足を見つめた。
(……わたしにも、できるかな?)
母親と同じ狐なのだ。
もしかしたら、自分にも同じことができるかもしれない。
人間の姿になれれば――。
和真とお話ができるかもしれない。
本当の名前を教えられるかもしれない。
そして、今よりもっと仲良くなれるかもしれない。
紅月はもう一度、和真を見つめた。
和真はあおいを抱きしめたまま、静かに眠っている。
あおいも幸せそうに目を閉じていた。
(……わたしも、あんなふうに笑いたい)
小さな胸に、ひとつの願いが芽生えた。
紅月はそっと立ち上がった。
そして、眠っている二人を起こさないよう、机の陰へと戻る。
(……やってみよう)
まずは、母親の姿を思い出す。
あの日、母親を包み込んだ淡い光。
四本の足が二本になり、人間の姿へ変わっていった不思議な光景。
紅月は目を閉じた。
(……変われ……)
じっと集中する。
(……お母さんみたいに……)
しかし――。
「……くぅ?」
何も起こらなかった。
紅月は目を開け、自分の前足を確認した。
いつもと同じ赤い前足。
毛並みも、爪も、何ひとつ変わっていない。
(……あれ?)
不思議そうに首を傾げる。
もう一度、目を閉じた。
今度はもっと強く念じてみる。
(……変われ、変われ……!)
しばらくして、そっと目を開ける。
しかし、結果は同じだった。
(…………)
紅月は自分の前足をじっと見つめた。
そして、少しだけ耳を伏せる。
(……難しい)
母親は、あんなに簡単に姿を変えていたのに。
自分には、どうすればいいのかさえわからない。
それでも――。
(……もう一回!)
紅月は諦めなかった。
再び目を閉じ、母親の姿を思い浮かべる。
何度も。
何度も。
けれど、その夜は結局、一度も姿が変わることはなかった。
やがて眠気に負けた紅月は、小さく丸くなる。
(……明日も、やろう)
そう心に決め、静かに目を閉じた。
◇◇◇
翌日から。
紅月は、誰も見ていない場所を探しては、密かに変化の術を試すようになった。
庭の植え込みの陰。
母屋の縁側の下。
誰もいない部屋の隅。
目を閉じ、母親の姿を思い浮かべる。
しかし、何度試しても、姿は変わらない。
それでも紅月は諦めなかった。
母親にできたのだから、自分にもできるはず。
いつか人間の姿になって、和真に本当の名前を教えてあげるのだ。
そして――。
(……和真!)
自分の声で名前を呼びたい。
ただ、それだけの小さな願い。
けれど、紅月にとっては何より大切な目標になっていた。
こうして。
空色唐辛子荘の誰にも知られることなく、小さな赤狐の挑戦が始まった。
しかし――。
この秘密の練習が、やがて空色唐辛子荘に新たな騒動を巻き起こすことになるとは。
このとき、まだ誰も知らなかった。




