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空色唐辛子荘  作者: 空色唐辛子


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第五十四話 大好きな人との旅行準備

 十二月十六日。


 函館旅行まで、あと一週間。


 朝食を終えた母屋の居間には、今日も賑やかな声が響いていた。


「和真! あと七日だよ!」


「おはよう、フェンリス。今日も元気だな」


「だって! あと七回寝たら北海道だよ!」


 フェンリスは両手を広げ、嬉しそうに笑った。


 銀色から桃色へと変わる髪を揺らし、大きな尻尾をぶんぶんと振っている。


「三泊四日! 和真とずーっと一緒!」


「そうだな」


「楽しみだなぁ!」


 フェンリスは和真の隣へ座ると、いつものように腕へ抱きついた。


「ねえ、和真!」


「ん?」


「今日は何するの?」


「旅行の持ち物を確認して、あとは宿から届いた案内も見ておこうと思ってる」


「そっかぁ」


 フェンリスは嬉しそうに頷く。


 その様子を見ていたみゆが、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえばフェンリス、旅行の服は?」


「……服?」


「うん。北海道って寒いんでしょ? ちゃんと用意した?」


「…………あっ!」


 フェンリスの耳がぴんと立った。


「忘れてた!」


「ええっ!?」


 みゆが目を丸くする。


「もう一週間しかないよ!?」


「だ、だって! 和真と旅行に行くことばっかり考えてたから!」


 フェンリスは慌てて両手を動かした。


 すると、向かいに座っていたナディアが楽しそうに笑った。


「ははっ! お前らしいな」


「もう! 笑わないでよ!」


「だったら今日、買いに行けばいいだろう」


「……今日?」


「ああ。俺様も付き合ってやる」


 その言葉に、フェンリスの顔がぱっと明るくなった。


「本当!?」


「もちろんだ。和真が見惚れるような服を選んでやるぞ」


「……っ!」


 フェンリスの頬が赤くなる。


「み、見惚れるって……!」


「おや? 違うのか?」


「……違わないけど……」


 フェンリスが小さく呟くと、みゆが楽しそうに笑った。


「じゃあ、僕も行く!」


「みゆも!?」


「うん! フェンリスに似合う服、いっぱい選びたい!」


「……ありがとう!」


 フェンリスが嬉しそうに笑う。


 すると、隣でお茶を飲んでいたリディアが静かに口を開いた。


「……自分も同行していいですか?」


 三人が振り返った。


「リディアも?」


「はい。北海道の気温を考えると、防寒着の選定も重要です。それに、実際の衣服と人間化装置の相性も確認しておきたいので」


 リディアは淡々と答える。


 そして、少しだけ微笑んだ。


「……それに、皆さんとの買い物も楽しそうですから」


「リディア!」


 フェンリスは嬉しそうに彼女へ駆け寄った。


「もちろんだよ!」


「……ありがとうございます」


「じゃあ、四人で行こう!」


 みゆが元気よく手を上げる。


「賛成!」


 フェンリスも手を上げた。


 ナディアは腕を組んで頷く。


「よし。今日は徹底的に選ぶぞ」


「……少し不安ですが、楽しみですね」


 リディアの言葉に、三人が笑い出した。


 和真もその様子を微笑ましく眺めていた。


「じゃあ、俺は留守番だな」


「和真!」


「ん?」


 フェンリスは少し照れながら言った。


「……可愛い服、いっぱい選んでくるね!」


「ああ。楽しみにしてる」


「……えへへ!」


 その一言だけで、フェンリスの尻尾はますます勢いよく揺れた。


⸻


 午前十時。


 四人は大型商業施設へ到着した。


 フェンリス、みゆ、ナディアは人間化装置を使用し、人間の姿になっている。


 リディアもいつものゴーグルを外し、冬らしい服装に身を包んでいた。


「わあー!」


 フェンリスは大きな建物を見上げた。


「いっぱいお店がある!」


「今日はたくさん見て回ろうね!」


 みゆが嬉しそうに笑う。


「うん!」


 ナディアはスマートフォンで施設の案内を確認した。


「まずは冬服だな。そのあと昼食を取って、下着を見に行こう」


「……し、下着!?」


 フェンリスが思わず声を上げる。


 みゆがにやにやと笑った。


「当然でしょ? 三泊四日なんだよ?」


「そ、それはそうだけど……!」


 ナディアは楽しそうに口元を緩めた。


「せっかく和真と二人きりなんだ。気合いを入れないとな」


「……うぅ……!」


 フェンリスの顔が赤くなる。


 その隣でリディアが静かに頷いた。


「……確かに、下着は重要です。長時間の移動を考えると、着け心地も確認する必要があります」


「リディアは真面目だねぇ」


 みゆが笑う。


「……何か問題でも?」


「ううん! そういうところ、好き!」


 リディアは少しだけ目を丸くしたあと、小さく微笑んだ。


「……ありがとうございます」


 四人は笑い合いながら、最初の服屋へ入っていった。


⸻


「さて!」


 ナディアが腕を組んだ。


「まずは大事なことを決めよう」


「大事なこと?」


 フェンリスが首を傾げる。


「ああ」


 ナディアは真剣な表情で三人を見回した。


「和真は、どんな服が好きなのか!」


「…………!」


 フェンリスが目を見開く。


「そ、それ! すっごく大事!」


 みゆも頷いた。


「確かに! 和真が好きそうな服を選びたいよね!」


「……なるほど」


 リディアも考え込む。


「和真の普段の反応から推測するということですね」


「そういうことだ!」


 ナディアが満足そうに頷いた。


 こうして、四人による真剣な会議が始まった。


「僕はね!」


 最初に口を開いたのはみゆだった。


「和真って、可愛い感じの服が好きだと思う!」


「可愛い感じ?」


「うん! 白とか桃色とか、柔らかい雰囲気の服!」


「……確かに」


 フェンリスは頷く。


「和真、そういう服を見るとよく褒めてくれるよね」


「でしょ!」


 すると、ナディアが口を挟んだ。


「だが、それだけじゃないぞ」


「……ん?」


「和真は大人っぽい服にも弱い」


「……お、大人っぽい!?」


 フェンリスの耳がない頭を、思わず両手が押さえる。


 ナディアは得意げに笑った。


「俺様は実際に確かめているからな」


「……え?」


 みゆが首を傾げる。


「どういうこと?」


「ふふん。阿智村の旅行だ」


「…………!」


 フェンリスの表情が固まる。


 みゆも少し目を見開いた。


 あの旅行の夜。


 ナディアと和真が男女の仲になったことは、すでに二人とも知っている。


「……ナディア」


 フェンリスが小さく尋ねた。


「……その時、どんな服を着てたの?」


 ナディアは口元を緩めた。


「聞きたいか?」


「……う、うん……」


「よし。教えてやろう」


 ナディアは近くの椅子へ腰掛けると、楽しそうに語り始めた。


「まず俺様は、旅行前から準備していたんだ」


「準備?」


「ああ。下着も、寝間着も、香りもな」


「……香り?」


 リディアが反応した。


「香を用意したということですか?」


「そうだ。和真が落ち着けるようにな」


 ナディアは指を一本立てた。


「それだけじゃない。旅館には特別な料理も頼んでいた」


「特別な料理?」


 みゆが首を傾げる。


「スッポン料理だ」


「……ええっ!?」


 フェンリスが驚いた。


「そ、そこまで!?」


「当然だ。俺様は最初から本気だったからな」


 ナディアは堂々と言い切った。


 みゆは口元を押さえて笑う。


「ナディア、すっごく気合い入れてたんだね!」


「ふん。中途半端なことをするつもりはなかった」


 すると、リディアが静かに尋ねた。


「……それで、計画どおりに進んだのですか?」


「…………」


 ナディアの動きが止まった。


 三人が顔を見合わせる。


「……ナディア?」


 フェンリスが不思議そうに声をかけた。


 ナディアは少しだけ視線を逸らす。


「……途中まではな」


「途中?」


「ああ……」


 ナディアは腕を組み直した。


「客室露天風呂で和真と一緒に入って、部屋に戻ってから、とっておきの下着とネグリジェを見せたんだ」


「…………っ!」


 フェンリスが真っ赤になる。


 みゆも興味津々だった。


「それで!? 和真、どうだった!?」


 ナディアはにやりと笑う。


「驚いていたぞ。俺様から目を離せなくなっていた」


「わあ……!」


 フェンリスは思わず声を漏らした。


「す、すごい……!」


「ふふん。当然だ」


「……その後は?」


 リディアが尋ねる。


 ナディアはしばらく黙った。


 そして。


「……目が回った」


「…………え?」


 三人が同時に首を傾げた。


「……目が回った?」


 みゆが聞き返す。


「ああ。酒を飲んだあとに風呂へ入ったせいで、後から酔いが回ってな」


「…………」


「和真を誘惑して、あと一歩というところで……ふらついた」


 数秒の沈黙。


 そして。


「ぷっ……!」


 最初に吹き出したのはみゆだった。


「あははははっ!」


「ちょっと待って! ナディア、それじゃ失敗じゃん!」


「うるさい!」


 ナディアが顔を赤くする。


「俺様だって予想外だったんだ!」


 フェンリスも堪えきれず笑い出した。


「あははっ! そんなに頑張ったのに!?」


「笑うな、フェンリス!」


「だ、だって……!」


 リディアは少し考え込んだあと、真顔で言った。


「……計画の最大の弱点が、計画者本人の体調だったのですね」


「リディア!?」


 みゆが腹を抱えて笑った。


「あはははっ! それ言っちゃう!?」


 フェンリスも涙を浮かべながら笑っている。


 ナディアは頭を抱えた。


「……お前たち、本当に容赦がないな!」


 それでも、怒っているわけではなかった。


 四人はしばらく笑い続けた。


 やがて笑いが落ち着くと、みゆが尋ねた。


「でも、そのあとどうなったの?」


 ナディアは少しだけ表情を柔らかくした。


「……和真が介抱してくれた」


「……うん」


「水を持ってきて、休ませてくれてな。無理に何かしようとはしなかった」


 フェンリスは静かに聞いていた。


「……和真らしいね」


「ああ」


 ナディアは小さく笑った。


「酔いが落ち着いてから、ちゃんと気持ちを伝えたんだ」


「……気持ち?」


「俺様が和真を好きなことも、もっと近くなりたいこともな」


 少し照れくさそうに笑う。


「……それで、あいつも俺様の気持ちを受け止めてくれた」


 みゆが優しく微笑んだ。


「……そっか」


 フェンリスも小さく頷く。


 胸の奥が少しだけ痛んだ。


 けれど、不思議と以前のような苦しさではなかった。


 ナディアがどれほど和真を好きなのか。


 その気持ちが、今なら少し分かる気がした。


 すると、ナディアがフェンリスへ顔を向けた。


「だからな、フェンリス」


「……ん?」


「服も下着も大切だが、一番大事なのは自分の気持ちだ」


「……気持ち?」


「ああ。俺様も最後は格好なんてつかなかったからな」


 ナディアは苦笑した。


「無理に背伸びするより、素直に伝えた方がいい」


 フェンリスはしばらく考えた。


 そして、嬉しそうに微笑む。


「……うん!」


 みゆも頷いた。


「そうだね!」


 リディアは少しだけ口元を緩めた。


「……では、服装選びの目的は、フェンリスが自信を持てることですね」


「そういうことだ!」


 ナディアが笑う。


「よし! 改めて選ぶぞ!」


「おーっ!」


 みゆとフェンリスが元気よく手を上げた。


 リディアも少し遅れて、控えめに手を上げる。


「……おー」


 その姿に、また三人が笑い出した。


⸻


「まず一日目!」


 みゆが白いニットを手に取った。


「移動が多いから、暖かくて動きやすい服がいいよね!」


「うん!」


「それなら、この水色のダウンコートがよさそうですね」


 リディアが一着のコートを持ってきた。


「軽量で保温性もあります。雪の中を歩くことも考えると、適しています」


「わあ!」


 フェンリスは嬉しそうに目を輝かせた。


「可愛い!」


 ナディアも頷く。


「色も髪に合いそうだな」


 白いタートルネックのニット。


 黒い暖かなパンツ。


 水色のダウンコート。


 白いマフラーと手袋。


 足元は滑りにくい冬用ブーツ。


「……どうかな?」


 試着室から出てきたフェンリスを見て、三人が一斉に声を上げた。


「可愛い!」


「おお! 似合ってるじゃないか!」


「……バランスも良好ですね」


「……えへへ!」


 フェンリスは嬉しそうに笑った。


「和真、喜んでくれるかな?」


「絶対に喜ぶよ!」


 みゆが即答する。


 ナディアも満足そうに頷いた。


「まず一日目は決まりだな」


「うん!」


⸻


 二日目は、可愛らしい冬のデート服を選ぶことになった。


「ねえ、これ!」


 フェンリスが手に取ったのは、淡い桃色のニットだった。


「可愛い!」


「いいじゃん!」


 みゆはチェック柄のロングスカートを持ってきた。


「これを合わせようよ!」


「わあ!」


 リディアは暖かなタイツを選んだ。


「……北海道では足元の冷えにも注意してください。防寒性を優先した方がいいでしょう」


「はーい!」


 ナディアが白いロングコートを合わせる。


「よし。着てみろ」


「うん!」


 数分後。


「……じゃーん!」


 試着室から現れたフェンリスは、まるで冬のデートへ出かける女の子のようだった。


「わああ!」


 みゆが拍手する。


「すっごく可愛い!」


「ふむ。和真が好きそうだな」


「……完成度が高いですね」


 リディアも頷く。


 フェンリスは鏡の前でくるりと回った。


「えへへ!」


 すると、みゆがにやりと笑う。


「これで和真と腕を組んで歩くんでしょ?」


「……っ!」


 フェンリスの頬が赤くなる。


「……う、うん……!」


「写真もいっぱい撮ってもらいなよ!」


「……撮ってもらう!」


 ナディアが楽しそうに笑った。


「和真の腕にくっついて、思いっきり甘えてこい」


「……うん!」


 フェンリスは嬉しそうに頷いた。


 二日目も決まりだった。


⸻


 三日目。


 ここで四人の意見が分かれた。


「俺様は、少し大人っぽくした方がいいと思うぞ」


 ナディアがワインレッドのニットを手に取る。


「和真はこういうのにも弱い」


「でも、こっちの方が可愛くない?」


 みゆは白いニットワンピースを持ってきた。


「フェンリスには絶対似合うよ!」


「……どっちも可愛い……!」


 フェンリスは二着を見比べて悩んでいる。


 すると、リディアが静かに口を開いた。


「……両方試着すればいいのでは?」


「…………あっ」


 三人が顔を見合わせた。


 みゆが笑い出す。


「それだ!」


 ナディアも苦笑した。


「確かに、悩んでいるだけでは決まらないな」


 こうして、フェンリスによる試着大会が始まった。


 最初は白いニットワンピース。


「……どう?」


「可愛い!」


 みゆが即答した。


「すっごく可愛い!」


「……うん。フェンリスらしいですね」


 リディアも微笑む。


 続いて、ワインレッドのニットと黒いロングスカート。


 落ち着いたグレーのコートを合わせる。


「……こ、こっちは?」


 三人が一瞬黙った。


「……おお」


 ナディアが口元を緩める。


「いいじゃないか」


「……大人っぽい!」


 みゆも驚いたように目を丸くする。


 リディアは二つの服装を見比べて頷いた。


「……こちらは印象が大きく変わりますね」


 フェンリスは鏡を見つめた。


 普段の自分とは違う、落ち着いた雰囲気。


「……和真、どう思うかな?」


 その言葉に、四人は再び議論を始めた。


「僕は可愛い方が好きだと思う!」


「いや、俺様は大人っぽい方に一票だ!」


「……自分は後者を推します」


「リディアも!?」


 みゆが驚く。


「理由は?」


「……一日目と二日目が可愛らしい服装なので、三日目は変化をつけた方が印象に残りやすいと思います」


「……なるほど!」


 フェンリスが目を輝かせた。


 ナディアは得意げに頷く。


「ふふん。分かっているじゃないか」


 みゆは少し考えてから笑った。


「じゃあ、三日目は大人っぽい方にしよう!」


「いいの?」


「うん! 僕もこっち好きだし!」


 フェンリスは嬉しそうに笑った。


「ありがとう!」


 こうして三日目の服装も決まった。


⸻


 四日目は帰宅する日。


「帰りは動きやすい服がいいよね」


 みゆが言うと、リディアも頷いた。


「……飛行機での移動時間を考えると、締めつけの少ないものが適しています」


「じゃあ、これ!」


 フェンリスが手に取ったのは、淡いラベンダー色のニットだった。


「可愛い!」


 みゆが笑う。


「それ、フェンリスに似合いそう!」


 柔らかなニット。


 暖かなパンツ。


 一日目の水色のダウンコートを組み合わせる。


「……どうかな?」


 試着室から出てきたフェンリスが尋ねる。


「うん! 可愛い!」


「悪くないな」


「……防寒性も問題ありません」


 フェンリスは満面の笑みを浮かべた。


「やったぁ!」


 これで四日間の服が全て決まった。


「一日目は可愛く!」


「二日目はデート!」


「三日目は大人っぽく!」


「四日目は動きやすく、ですね」


 四人は顔を見合わせる。


「完璧!」


 フェンリスが嬉しそうに手を上げた。


 みゆも一緒に手を上げる。


「やったぁ!」


 ナディアは満足そうに笑い、リディアも控えめに拍手した。


⸻


 昼過ぎ。


 四人は買い物袋を手に、施設内のレストランへ入った。


「お腹すいたぁ!」


 フェンリスがメニューを開く。


「僕、ハンバーグ!」


「僕はオムライス!」


 みゆもすぐに決めた。


 ナディアはパスタを選び、リディアは温かなグラタンを注文した。


 料理が運ばれてくると、フェンリスは嬉しそうに手を合わせた。


「いただきまーす!」


 四人は食事を楽しみながら、旅行の話で盛り上がった。


「ねえ、フェンリス」


「ん?」


「函館で一番楽しみなのは?」


 みゆが尋ねる。


 フェンリスは少し考えた。


「……全部!」


「全部!?」


「だって和真と一緒なんだもん!」


 満面の笑みだった。


「飛行機も楽しみだし、雪も見たいし、美味しいものも食べたい!」


「ふふっ。確かに楽しそうだね」


「それに夜景!」


 フェンリスは目を輝かせた。


「和真と一緒に綺麗な夜景を見るんだ!」


 ナディアがにやりと笑う。


「そこで腕でも組んで、寄り添ってみたらどうだ?」


「……っ!」


 フェンリスの頬が赤くなる。


「……そ、そうしたい……!」


 みゆも笑う。


「手も繋いでもらって?」


「……うん!」


「写真も撮ってもらって?」


「……うん!」


「じゃあ、キスも?」


「…………っ!?」


 フェンリスが固まった。


「き、キス!?」


 みゆがくすくすと笑う。


「だって、二人きりなんだよ?」


「……そ、それは……!」


 フェンリスは真っ赤な顔で俯く。


 ナディアも楽しそうに笑った。


「まあ、無理にとは言わないがな」


「……うぅ……」


 フェンリスはしばらく黙っていた。


 そして、小さく呟く。


「……してもらえたら……嬉しいな……」


 三人が顔を見合わせた。


 みゆが優しく笑う。


「そっか」


「……うん……」


 すると、リディアが静かに口を開いた。


「……フェンリス」


「ん?」


「旅行中、緊張しすぎないでくださいね」


「……え?」


「和真と一緒に楽しむことが、一番大切だと思います」


 フェンリスは少し驚いたように瞬きをした。


 そして、嬉しそうに微笑む。


「……うん!」


 ナディアも頷いた。


「そうだな。まずは思いっきり楽しんでこい」


「うん!」


 食事を終える頃には、四人ともすっかり笑顔だった。


⸻


 昼食の後は、デザートを食べることになった。


「せっかくだし、甘いものも食べようよ!」


 みゆの提案に、フェンリスが真っ先に賛成した。


「食べたい!」


 四人はカフェへ移動し、それぞれ好きなものを注文した。


 フェンリスは大きな苺パフェ。


 みゆはチョコレートパフェ。


 ナディアはベリーのタルト。


 リディアはチーズケーキを選んだ。


「わあ……!」


 フェンリスは運ばれてきたパフェを見て目を輝かせた。


「すっごく美味しそう!」


「写真撮ろうよ!」


 みゆがスマートフォンを取り出す。


「みんなで!」


「いいな」


 ナディアも笑う。


 リディアは少しだけ首を傾げた。


「……四人全員を写すのですか?」


「そうだよ!」


 みゆが嬉しそうに答える。


「記念写真!」


「……分かりました」


 四人は顔を寄せ合った。


 フェンリスは満面の笑み。


 みゆは元気よくピース。


 ナディアは余裕たっぷりに微笑み。


 リディアは少し控えめながらも、柔らかな笑みを浮かべている。


 撮影された写真を見て、フェンリスが嬉しそうに声を上げた。


「わあ! いい写真!」


「でしょ!」


「……自分も、こういう写真は嫌いではありません」


 リディアがぽつりと言う。


 みゆがにやにやと笑った。


「じゃあ、これからもいっぱい撮ろうね!」


「……はい」


 リディアは小さく頷いた。


 それから四人は、互いのデザートを少しずつ分け合った。


「みゆ、それ一口ちょうだい!」


「いいよ! じゃあ、僕も苺ちょうだい!」


「うん!」


「……フェンリス、その苺は最後に取っておいたのでは?」


 リディアが尋ねる。


「えっ?」


 フェンリスがスプーンを止めた。


 みゆは慌てて笑った。


「い、いいよ! 無理しなくても!」


「ううん! みゆにあげる!」


「ありがとう!」


 ナディアはそんな二人を見て笑う。


「まったく、騒がしいな」


 そう言いながらも、彼女自身も楽しそうだった。


 フェンリスは三人を見回した。


 みゆ。


 ナディア。


 リディア。


 こうして一緒に笑って、買い物をして、食事をする。


 少し前まで、こんなに楽しい時間を過ごせるなんて思っていなかった。


「……ねえ、みんな」


「ん?」


「……今日は本当にありがとう!」


 フェンリスは満面の笑みを浮かべた。


「すっごく楽しい!」


 みゆが優しく微笑む。


「僕もだよ!」


「俺様も悪くない気分だ」


 ナディアが笑う。


 リディアも静かに頷いた。


「……自分も楽しいです」


 その言葉に、フェンリスはさらに嬉しそうに笑った。


⸻


 デザートを食べ終えた四人は、女性用の下着を扱う専門店へ向かった。


「……さて」


 ナディアが立ち止まる。


「ここからが本番だな」


「……ほ、本番!?」


 フェンリスが目を丸くする。


 みゆが楽しそうに笑った。


「四日間の下着も選ばないとね!」


「……う、うん……!」


 フェンリスは少し緊張した様子で店内へ入った。


 色とりどりの商品が並んでいる。


 可愛らしいリボン付きのもの。


 繊細なレースがあしらわれたもの。


 落ち着いた大人っぽいデザイン。


 フェンリスは思わず目を輝かせた。


「……わあ……!」


「いっぱいあるね!」


 みゆも嬉しそうに笑う。


 ナディアは得意げに頷いた。


「さあ、和真が喜びそうなものを選ぶぞ」


「……っ!」


 フェンリスの顔が赤くなる。


 すると、リディアが静かに口を開いた。


「……まず、サイズを確認しましょう」


「……サイズ?」


「はい。正しいサイズを選ばないと、長時間の着用で負担がかかります」


「……なるほど!」


 フェンリスは真剣に頷いた。


 店員に相談し、サイズを確認してから、四人は改めて商品を選び始めた。


 最初にみゆが手に取ったのは、白い下着だった。


「これ、可愛くない?」


「……わあ!」


 フェンリスの瞳が輝く。


 白を基調とした生地に、小さなリボンと控えめなレースが付いている。


「可愛い!」


「フェンリスに似合うと思う!」


 ナディアも頷いた。


「悪くないな。可愛らしい雰囲気だ」


「……うん!」


 フェンリスは嬉しそうに商品を手に取った。


「一日目はこれ!」


 続いて二日目。


 みゆが淡い桃色の下着を選んだ。


「これも可愛い!」


「……わあ!」


 フェンリスは嬉しそうに笑う。


「二日目の服と同じ色だね!」


「そうだよ!」


 みゆが得意げに頷く。


「服の色と合わせるのも楽しいんだよ!」


「……なるほど!」


 リディアも商品を確認する。


「……生地も柔らかいですね。着け心地もよさそうです」


「じゃあ、これにする!」


 二日目も決まった。


⸻


 そして三日目。


 ナディアが一着の下着を手に取った。


「……これだな」


 それは、落ち着いたワインレッドの下着だった。


 上品なレースがあしらわれ、少し大人っぽい雰囲気がある。


「…………!」


 フェンリスの目が大きく開かれた。


「……お、大人っぽい……!」


「三日目の服と合わせてみろ」


 ナディアは得意げに笑った。


「和真も驚くと思うぞ」


「……っ!」


 フェンリスは真っ赤になる。


「……ほ、ほんと……?」


「ああ」


 みゆも覗き込む。


「わあ! これもいい!」


「……確かに、色の組み合わせとしてはよさそうですね」


 リディアも頷いた。


 フェンリスはしばらく商品を見つめた。


 そして、小さく呟く。


「……僕、これ……着てみたい……」


 ナディアが口元を緩める。


「なら決まりだな」


「……うん!」


 フェンリスは嬉しそうに頷いた。


 四日目は、淡いラベンダー色の下着を選んだ。


 長時間の移動でも楽に過ごせる、柔らかな素材のものだった。


「……これなら問題ないでしょう」


 リディアが確認する。


「うん!」


 フェンリスは満面の笑みを浮かべた。


 これで四日分の下着が揃った。


 すると、ナディアがふと思い出したように言った。


「予備も一組あった方がいいな」


「……予備?」


「ああ。何があるか分からないからな」


「……そっか!」


 フェンリスは再び商品を見て回る。


 そして、一着の下着の前で足を止めた。


「……あっ……」


 淡い桜色。


 繊細なレースと小さなリボン。


 可愛らしさと上品さを兼ね備えたデザインだった。


「……これ……」


 フェンリスはそっと手に取った。


 みゆが隣から覗き込む。


「可愛い!」


「……うん……」


 フェンリスは少しだけ頬を赤くした。


「……すっごく好き……」


 ナディアも満足そうに頷く。


「なら、それにしろ」


「……うん!」


 フェンリスは嬉しそうに笑った。


 そして、商品を大切そうに抱える。


 みゆがにやりと笑った。


「ねえ、フェンリス」


「ん?」


「これ、和真に見せるの?」


「…………っ!?」


 フェンリスの顔が一気に赤くなる。


「み、みゆ!?」


「だって、すっごく可愛いじゃん!」


「そ、それは……!」


 フェンリスはしばらく俯いた。


 そして、小さな声で呟く。


「……見てもらいたい、かも……」


「……おっ?」


 みゆが嬉しそうに身を乗り出す。


「本当?」


「……う、うん……」


 フェンリスは真っ赤な顔で頷いた。


「……和真に、可愛いって思ってもらいたいから……」


 ナディアは優しく微笑んだ。


「だったら、自信を持て」


「……うん」


「お前が一生懸命選んだものだ。きっと似合う」


「……ありがとう……!」


 リディアも小さく頷いた。


「……自分も、よく似合うと思います」


「……リディアまで……!」


 フェンリスは嬉しそうに笑った。


 そのあと四人は、部屋着や靴下なども選び、ようやく買い物を終えた。


⸻


 夕方。


 四人が帰宅すると、居間では和真が旅行の資料を確認していた。


「ただいまー!」


「お帰り」


 和真が顔を上げる。


 そして、四人が持っている大量の袋を見て驚いた。


「……随分買ったな」


「えへへ!」


 フェンリスは嬉しそうに笑う。


「いっぱい買っちゃった!」


 みゆが楽しそうに続ける。


「和真! フェンリスの服、すっごく可愛いよ!」


「へえ。楽しみだな」


「……防寒性能も確認済みです」


 リディアも静かに頷いた。


「それなら安心だな」


 和真が笑う。


 すると、ナディアがにやりと笑った。


「下着もかなり気合いを入れて選んでいたぞ」


「なっ!?」


 フェンリスの顔が真っ赤になる。


「ナディア!?」


 みゆも楽しそうに笑った。


「すっごく可愛いの買ったんだよ!」


「みゆまで!?」


 フェンリスは両手で顔を覆った。


 和真は少し驚いたように目を丸くする。


「そ、そうなの?」


「……も、もう……!」


 フェンリスは真っ赤な顔のまま俯いた。


 ナディアは楽しそうに笑う。


「ま、旅行中のお楽しみだな」


「ナディアー!」


 居間に笑い声が響いた。


⸻


 夕食後。


 和真の部屋では、フェンリスによる小さなファッションショーが始まっていた。


「じゃーん!」


 フェンリスは一日目の服を着て現れた。


「どう!?」


「おお!」


 和真は思わず声を上げた。


「すごく似合ってる!」


「本当!?」


「ああ。可愛いよ」


「……えへへ!」


 フェンリスは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、次!」


 続いて二日目の服。


「……どうかな?」


「おお。こっちもいいな」


「……本当?」


「ああ。なんかデートって感じだな」


「…………っ!」


 フェンリスの頬が真っ赤になった。


「……デ、デート……」


 和真は少し不思議そうに首を傾げる。


「どうした?」


「……な、何でもない!」


 フェンリスは慌てて次の服へ着替えに行った。


 そして三日目。


「……ど、どう?」


 少し大人っぽい服装で現れたフェンリスを見て、和真は思わず目を丸くした。


「……おお」


「……へ、変かな?」


「いや」


 和真は首を横に振る。


「すごく綺麗だよ」


「…………っ!」


 フェンリスの顔が一気に赤くなる。


「……き、綺麗……?」


「ああ。普段とは違う感じで、すごく似合ってる」


「……えへへ……!」


 フェンリスは嬉しそうに俯いた。


 最後に四日目の服を見せる。


「……じゃーん!」


「うん。可愛い!」


「……えへへ!」


 フェンリスは満面の笑みを浮かべた。


 そして、和真へ尋ねる。


「ねえ、和真!」


「ん?」


「どれが一番好き!?」


「えっ!?」


 和真は少し考えた。


「……全部似合ってたけど……」


「一番!」


「……三日目かな」


「…………!」


 フェンリスの目が大きく開かれる。


「……ほ、本当!?」


「ああ。大人っぽくて、すごく綺麗だった」


「……っ!」


 フェンリスは真っ赤になった。


 そして、嬉しそうに笑った。


「……えへへ……!」


 和真はそんな彼女を見て微笑む。


「でも、本当に全部似合ってたよ」


「……ありがとう!」


 フェンリスは嬉しそうに和真へ抱きついた。


「旅行、すっごく楽しみ!」


「ああ。俺もだよ」


 和真は彼女の頭を優しく撫でた。


⸻


 それから数日。


 旅行の準備は順調に進んでいった。


 リディアはフェンリスの人間化装置を寒冷地でも安定して使用できるよう調整し、予備電源も用意した。


 和真は飛行機の予約内容や旅館への連絡を確認した。


 フェンリスのアルバイト先の店長夫妻が紹介してくれた湯の川温泉の旅館も、問題なく手配されている。


 出発前には店長夫妻へ改めて挨拶に行き、飛行機代を出してくれた常連客にも感謝を伝えた。


 そして。


 十二月二十二日。


 旅行前日の夜。


 和真の部屋には、大きな旅行鞄が二つ並んでいた。


「……よし!」


 フェンリスは満足そうに頷いた。


「準備完了!」


「忘れ物ない?」


「うん!」


 和真は荷物を確認する。


 四日分の着替え。


 防寒着。


 手袋とマフラー。


 冬用ブーツ。


 充電器。


 人間化装置の予備電源。


 必要なものは揃っていた。


「よし。大丈夫そうだな」


「うん!」


 フェンリスは嬉しそうに笑った。


 すると、和真がふと尋ねる。


「そういえば、下着もちゃんと入れた?」


「…………っ!?」


 フェンリスの肩がぴくりと跳ねた。


「……い、入れたよ!」


「そっか。ならよかった」


「……う、うん……」


 フェンリスは顔を赤くしながら、自分の鞄へ視線を向けた。


 中には、みゆとナディア、リディアと一緒に選んだ下着が丁寧にしまわれている。


 白。


 桃色。


 ワインレッド。


 ラベンダー。


 そして、淡い桜色。


 どれも大切に選んだものだった。


 特に、あの桜色の下着。


 フェンリスは思い出しただけで頬が熱くなる。


「……フェンリス?」


「……な、何でもない!」


 和真は不思議そうに首を傾げた。


 けれど、それ以上は何も聞かなかった。


 荷物を片付け終えると、フェンリスは和真の隣へ座った。


「……ねえ、和真」


「ん?」


「……明日、本当に北海道なんだね」


「ああ」


「……三泊四日……」


「そうだな」


 フェンリスは嬉しそうに微笑んだ。


「……ずっと楽しみにしてたんだ」


「知ってるよ」


「……えへへ」


 そして、和真の腕にぎゅっと抱きつく。


「……いっぱい甘えてもいい?」


「もちろん」


「……わがままも?」


「できる範囲ならな」


「……えへへ!」


 フェンリスは幸せそうに笑った。


 少しして、恥ずかしそうに顔を上げる。


「……ねえ、和真」


「ん?」


「……旅行中も、一緒に寝てくれる?」


「ああ。もちろん」


「……本当?」


「今だって一緒に寝てるだろ?」


「……そうだけど……」


 フェンリスは顔を赤くする。


「……旅館でも、隣がいいなって……」


 和真は優しく微笑んだ。


「いいよ」


「……えへへ……!」


 フェンリスは嬉しそうに和真の胸へ顔を埋めた。


 そして、しばらくしてから小さく呟く。


「……お風呂も……」


「ん?」


「……その……」


 フェンリスはもじもじと指を動かした。


「……一緒に、入ってくれる……?」


 和真は少し驚いた。


 けれど、すぐに微笑む。


「いいよ」


「……えっ!?」


「せっかく部屋に露天風呂があるんだし。一緒に入ろうか」


「…………っ!」


 フェンリスの顔が一気に赤くなる。


「……ほ、ほんと……?」


「ああ」


「……えへへ……」


 フェンリスは嬉しそうに微笑んだ。


「……ありがとう……」


 その声は少し震えていた。


 和真は彼女の頭を優しく撫でた。


「さあ、明日は早いし、そろそろ寝ようか」


「……うん!」


 二人は布団へ入った。


 フェンリスはいつものように和真へ抱きつき、胸元へ顔を埋める。


「……和真」


「ん?」


「……大好きだよ」


「ありがとう」


 和真は優しく答え、彼女を抱きしめた。


「……おやすみ、フェンリス」


「……おやすみ……」


 やがて、フェンリスは幸せそうな寝息を立て始めた。


 その表情には、以前のような不安はなかった。


 大好きな人との三泊四日の旅行。


 四日分の可愛い服。


 頑張って選んだ下着。


 そして、みゆとナディア、リディアと過ごした楽しい買い物の時間。


 全てが、大切な思い出になっていた。


 十二月二十三日。


 二人にとって忘れられない、特別な旅が始まろうとしていた。

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