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新世界編 第九話


「――ガハッ、……戻った、のか……?」


空間がガラスのように砕け散り、スイートルームの絨毯に叩きつけられるようにして、ナオキとセリア、そして力なく項垂れるミヤビの三人が帰還した。

 ナオキは全身の激痛に顔を歪めながらも、真っ先にポケットからストップウォッチを引っ張り出す。


カチ、カチと刻まれる秒針。

『残り、二時間二十八分四十二秒』


「……よし。向こうの世界と移動でかかった時間は合計三十分弱ってところか。まだ二時間以上ある。余裕はあるな」


安堵の息と共に、口内に溜まった血の味を吐き捨てた。

 ――その時だった。


「ナオキさん!! セリアさん!!」


バァンッ! と扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込んできたのは、トウヤとルカだった。トウヤの腕の中には、この世界の魔脈から強引に魔力を吸い上げ、眩いほどの純白の光を放つ『極大貯蔵の魔導球アーティファクト』が抱えられている。


「ナオキさん、その人が……」

「ああ。……ミヤビだ。お前の、姉ちゃんだよ」


ナオキが支えていたミヤビの身体をゆっくりと床に下ろす。

 ミヤビは、憑き物が落ちたような虚ろな目で、おそるおそる顔を上げた。


「……トウ、ヤ……?」


震える声。それは先ほどまで「帝国の絶対者」として君臨していた者の威厳など微塵もない、ただの怯えた少女の響きだった。

 本来なら、別の世界線の存在がこの世界に降り立てば、システムの修正力によって存在そのものが消去されるか、記憶を書き換えられる。だが、トウヤの抱える魔導球から溢れ出す膨大な魔力の奔流が、ミヤビの輪郭を、その強大な【魔導演算】のスキルごと、この世界に強引に繋ぎ止めていた。


「姉ちゃん……っ、姉ちゃん!!」


トウヤが堪らず駆け寄り、ミヤビを強く抱きしめる。

 その温もりに触れた瞬間、ミヤビの目から堰を切ったように涙が溢れ出した。


「ごめんね、トウヤ……。私、あなたがいなくなってから、ずっと間違えて……っ。バケモノになって、みんなを殺して、あんなに……っ」

「いいんだ、いいんだよ姉ちゃん! 分かってる、全部見てたから……っ。姉ちゃんがどれだけ辛かったか、俺、知ってるから!!」


姉弟が号泣し、再会を分かち合う。その光景を、ナオキは壁に背を預けてしばらく満足そうに眺めていた。


だが。

 ふと、ナオキの脳裏に猛烈な違和感が過った。


(……待てよ。『全部見てた』?)


ナオキは、泣きじゃくるトウヤをジロリと睨んだ。


「……おい、トウヤ」

「ひぐっ……ナオキ、さん……?」


涙を拭いながら顔を上げたトウヤに、ナオキは一歩踏み出す。


「お前、さっき『全部見てた』って言ったな。……いつからだ?」


トウヤの金色の魔眼が、一瞬だけ泳ぐ。ナオキはその視線を逃さない。


「お前が見せた『最高確率のルート』……あの白服からスキルを奪って、別の世界線から演算能力者を調達するっていう作戦。……お前、最初から『ミヤビを連れてくるように』仕向けてたのか」


「えっ、トウヤが……?」

 ミヤビが驚きに目を見開く中、トウヤは震える声で、だが確かな意志を持って告白した。


「……俺の目には、見えていたんです。別の世界線で、絶望して、狂気に堕ちて……それでも俺を求めて泣いている姉ちゃんの姿が。……ナオキさんなら、セリアさんなら、絶対に姉ちゃんを殺さずに救ってくれる。そう信じて……この手段ひとつしかないって、嘘で誘導しました」


トウヤはギュッと拳を握りしめる。


「本当は、アイリさんとツカサさんを救う別の方法も、ありました。……でも、これが『アイリさんとツカサさんを助けられる可能性が一番高い方法』だったのは、本当です。だから……許してください」


ナオキは、絶句した。

 つまり、あの絶望的なミヤビとの死闘も。すべてはトウヤが「自分の姉を救うため」に描き、ナオキという最大の駒を盤上で踊らせた結果だったのか。


アイリとツカサを救い、同時に、別の世界で苦しむ肉親をも救い出す。

 かつてナオキがルカたちのために冷徹な「盤面の支配者」として振る舞ったあのやり方を、トウヤはさらに高度な、誰も見捨てない「愛と信頼」を基盤とした戦略で塗り替えてみせたのだ。


「…………はっ」


沈黙の後。

 ナオキは堪らず天を仰ぎ、腹の底から愉快そうに声を上げて笑った。


「はははははッ! おいマジかよ……ッ!」


傷が痛むが、それ以上に、心の底から込み上げる規格外の高揚感と呆れが勝っていた。


「……セリア、聞いたかよ。こいつ、俺にスキルを獲得させるために俺を絶望に叩き落として土下座してたくせに、そのすぐ後に、俺をダシに使って自分の目的まで果たしやがったぞ」

「ええ。本当に、タチの悪い弟子に育ちましたね、ナオキ様」


セリアも呆れたように息を吐き、けれど心底誇らしげに口角を上げた。


「ナオキさん、ごめんなさい……っ。俺、また二人を利用して……」

「謝るな、トウヤ。もう土下座は勘弁だ。どうせ反省してねえんだろ、お前」


ナオキは歩み寄ると、トウヤに向かってニカッと笑い出す。


「最高のプロデュースだ。お前はもう……俺を完全に超えやがったな。これからは俺も『トウヤ様』と呼ばせてもらうわ」

「それがいいですね、ナオキ様。では私は改めまして『トウヤ大魔神様』とお呼びします」

「えええ!? ちょ、からかわないでくださいよ!」


ナオキとセリアが並んでそう茶化すと、トウヤの目が驚きでまん丸に見開かれた。

 ひとしきり笑い合った後、ナオキは再び手元のストップウォッチを凝視し、表情を引き締めた。


「……だがトウヤ。ミヤビの『魂』の問題がある。神の領域の扉を開けるほどの演算を行えば、負荷でこいつの魂が消滅しかねない。どうするつもりだ?」


ナオキの真っ直ぐな問いかけに、トウヤは抱えていた極大貯蔵の魔導球を強く握り直し、静かに、だが揺るぎない覚悟で口を開いた。


「俺の【真実の魔眼】のスキル魔力……俺の『魂の形』そのものを、全部このアーティファクトに渡します。それを身代わりに消費して、姉ちゃんの魂を守るんです」


その言葉に、ミヤビが弾かれたように顔を上げた。


「な……っ!? トウヤ、だめよ! そんなことをしたら……あなたの大事な能力がっ!」

「……それでいいのか、トウヤ」


ミヤビの悲鳴を遮るように、ナオキが低く重い声で尋ねた。


「お前は二度と、その眼のスキルを使えなくなるんじゃないのか? ルカに並び立ち、盤面支配で俺を超えた、その最強のチートがなくなるんだぞ」


ナオキの鋭い視線を受け止めながら、トウヤは憑き物が落ちたように柔らかく笑った。


「いいんです。……それに、このスキルの『最悪のデメリット』も判明したので。手放すにはちょうどいいんです」

「デメリット?」


ナオキの眉が寄る。


「ナオキさん、SF漫画も読むって言ってましたよね?『シュレディンガーの猫』って聞いたことありますか? 箱の中の猫が生きているか死んでいるかは、観測して初めて確定するってやつです」

「ああ。聞いたことはあるが……それがどうした?」


「……俺の目でアイリさんとツカサさんを助ける方法を『検索』した時。俺が、平行世界で苦しむミヤビ姉ちゃんの世界を『観測』してしまったことで……その世界が『実際に存在する世界』として確定してしまったんです」


「……なんだと?」

 ナオキの顔色が変わる。


「本来、平行世界なんてものは『無数の可能性』でしかありません。でも、俺の魔眼がピンポイントで覗き見てしまったせいで、姉ちゃんがバケモノになって苦しむ地獄のルートが、現実になってしまった。……つまり、俺たちが見つけていなければ、俺たちが死んで姉ちゃんが狂うあの世界線は、そもそも存在しなかったんです」


トウヤは、ひどく痛そうに顔を歪め、ミヤビを見つめた。


「ごめん……っ。姉ちゃん、俺が……俺が姉ちゃんを見つけちゃったから、あんな地獄を味わわせることに……ッ!」


懺悔するトウヤの頬を、ミヤビの両手が優しく包み込んだ。


「……トウヤ。いいのよ」

「姉ちゃん……」

「私は、トウヤが私を見つけてくれて、本当に嬉しい。あんなに泣き虫だったトウヤが、こんなに立派になって、私を救い出してくれた……。それだけで、あの暗闇にいた時間は無駄じゃなかったって思えるの」


ミヤビはトウヤの額に自分の額をコツンと合わせ、愛おしそうに微笑んだ。


「ちょっと!! ミヤビさん!!」


感動的な空気を切り裂いて、ルカがずかずかと二人の間に割り込んできた。


「いくら実のお姉ちゃんでも、顔近すぎるっすよ!! トウヤの顔が赤くなってるじゃないっすか! 離れるっす!!」

「あら、いいじゃない。減るもんじゃあるまいし」

「減るっす!! 私の心の平穏が減るっす!!」


ルカがトウヤの腕を引っ張って引き剥がそうとする姿に、ゼファーのスイートルームを満たしていた重苦しい空気が、ふっと温かく緩んでいった。


ひとしきりルカに振り回された後。

 トウヤはスッと表情を引き締め、かつて神から与えられた淡い金色の瞳で、真っ直ぐにナオキを見つめた。


「……それと、ナオキさん。最後にもう一つ、お願いがあるんです」

「なんだ、言ってみろ」


「今、この世界には『この世界線のミヤビ姉ちゃん』と『別世界線のミヤビ姉ちゃん』が同時に存在している状態です。アーティファクトの魔力だけでは、別世界から来た姉ちゃんの記憶と存在をこの世界に固定するのは、一時的にしかできないんです」


トウヤは、真剣な眼差しでナオキを見据えた。


「だから……ナオキさんの持つ【世界線再構築マスターコマンド】のスキルの魔力を、存在を固定するための対価として使わせてください。それがあれば、二人ともこの世界にずっと存在し続けることができます」


静寂が落ちる。

 弱者でありながら誰よりも泥臭く足掻き、強大なチート転生者たちを喰い破ってきた男。その背中をずっと一番近くで見てきた男が導き出した、あまりにも鮮やかで完璧な『答え』だった。


「……はっ」


ナオキは堪えきれないように吹き出した。


「そんなんでいいなら、いくらでも持っていけ。そもそもこのチートは、お前が俺を誘導して手に入れさせたようなもんだろ。実質お前のスキルみたいなもんだ、好きに使え」


ナオキは豪快に笑う。

そこで安心したトウヤが、ふと思い出したように顔を上げる。


「それと、ルカ」

「ん? なんすか?」


「俺の【感覚共有ライン】のスキルが進化したんだ。ミヤビ姉ちゃんも繋げるようになった。……繋げてもいいか? そうしないと、特に別世界線の姉ちゃんはスキルが強すぎるから、『魔薬』の症状に一人じゃ耐えられない」


「あ、そういうことなら全然いいっすよ! ……って、ちょっと待つっす!!」


ルカの顔が、ボンッ! と音を立てるように真っ赤に染まった。


「そ、それじゃあ……私とトウヤが、その、えっちなことする時、どうするんすか!! ミヤビさんにも全部筒抜けになるってことじゃないっすか!!」


「あら、ルカさん?」


途端に、ミヤビが意地悪そうに目を細め、口元をニヤリと歪めた。

 先ほどまでの暗い絶望の影は完全に鳴りを潜め、すっかり「弟とその彼女をからかうお姉ちゃん」の顔になっている。


「うちのトウヤと、もうそんなご関係に?」

「あわわわっ! ち、ちがっ! まだそういうことにはなってないっすけど、いや、嘘はよくないっすけど、えー、いや、いずれはその、不可避というか……っ!」


真っ赤になって慌てふためくルカの姿に、心からの明るい笑い声が響き渡った。

 ひとしきりルカをからかって笑い合った後。

 ミヤビはふと表情を和らげ、壁際でその騒がしくも温かい光景を見守っていたセリアの元へ、ゆっくりと歩み寄った。


「……セリア」

「なんですか、ミヤビ」


セリアは、先ほどまでのことなど何もなかったかのように、すまし顔で応じる。だが、その瞳はかつての地下牢時代のように、ひどく穏やかで優しい。

 ミヤビは、セリアの泥と血に汚れたメイド服の袖にそっと触れた。


「……ありがとう。そしてごめんなさい、こんなに傷だらけにしてしまって」


ミヤビの静かな感謝に、セリアは小さく息を吐き、ミヤビの涙をハンカチで乱暴に、けれど愛おしそうに拭った。


「貸しですよ。バカ女二人を助けた後、私がナオキ様の一番になる方法を一緒に考えてください」

「ふふっ……なによそれ。助けに行くのに、変な子」


ミヤビがくすくすと笑うと、セリアもつられて小さく吹き出した。

 そして、セリアはどこか誇らしげに目を細める。


「それにしても……あのミヤビが、世界を滅ぼすほどの『絶対者』になっていたなんて。少しだけ驚きましたよ」

「……からかわないでよ。ただの、惨めな八つ当たりなんだから」

「ええ。ですが……」


セリアは、ミヤビの両手をぎゅっと握りしめた。


「その強さがあれば。今度はもう間違えずに、大切な人たちを守れますね」


その言葉に、ミヤビはハッとして、それから、今までで一番綺麗な、憑き物の落ちた笑顔で力強く頷いた。


「ええ……。もう絶対に、手放さないわ。私たちの希望も、この光も」


二人の間に、もう言葉はいらなかった。

 地獄を共に這いずり回り、再び奇跡のように交わった、二つの世界を越える共通の軌跡。彼女たちは互いの無事を確かめ合うように、静かに、強く抱擁を交わしたのだった。



「――おいお前ら。悪いが、時間がない。もういいだろ、早くしろ」


水を差すようなナオキの不躾な声に、セリアが身を離しナオキに体を向ける。

ナオキは淡々と、トウヤがアーティファクトと共に用意していた装備や物資を選抜していた。


「ナオキ様、空気を読まない男は嫌われますよ」

「うるさい、時間がないんだ」


「いや師匠、まだ二時間以上余裕あるっすけど」

「うるさいルカ。一秒でも早く行きたいんだよ。ってか俺とセリアとミヤビに早くポーションよこせ。何で傷だらけの俺とセリアを放って普通に会話してんだよお前らは」

「ああー、二人なら大丈夫なのかと思ってたっす!はい、 ルカちゃん印の特製ポーション! 帝都の大商会がスポンサーについてる、非売品の特級品っすよ!!」

「大丈夫なわけねえだろ……」


呆れてぼやきながら、ルカが誇らしげに鞄から取り出した小瓶を受け取り、ナオキとセリアが一気に呷る。途端に、別世界線でズタズタに引き裂かれていた筋肉や骨が熱を持ち、急速に再生していく。

 自分が与えてしまった傷から二人が完全回復したのを確認して、安堵したようにミヤビもそれを呷る。

 そして、静かにアーティファクトへ両手を翳した。


「……トウヤ、ナオキ、あなたたちのスキル、使うわよ。まずは白い部屋へのハッキングに使って、残りは私の記憶と魂のこの世界への定着に使わせてもらうわ」


同時に、トウヤの瞳から眩い金色の光がスッと抜け落ち、アーティファクトへと吸い込まれていく。世界を盤面として支配していた最強の魔眼を失い、ただの少年の瞳に戻ったトウヤ。だが彼は、ふらつきながらも力強くミヤビの背中を支えてみせた。

 そしてナオキの腕からも、死すらも無かったことにできる神に等しい権限【世界線再構築】の光が、パラパラと剥がれ落ちていく。


二つの途方もないチートスキルを燃料として喰らい、アーティファクトが太陽のように激しく発光した。


カッ……! と、空間が爆発的な光に包まれる。

 部屋中のあらゆる隙間が、純白の『無数の数式』で埋め尽くされていく。次元の壁を物理的に削り取るような、凄まじい高周波の音が響き渡り、空間そのものがグニャリと歪んだ。


「が、ぁぁ……ッ!!」


ミヤビの口から苦悶の叫びが漏れ、鼻から一筋の血がツツーッと流れ落ちる。

 二つの莫大なスキルが魂の身代わりになっているとはいえ、神のシステムに直接ハッキングを仕掛ける情報処理の負荷は、常人の脳髄など一瞬で焼き切るほど凄まじいものだ。


(……マジかよ。これほどの無茶を、ツカサとアイリは二人だけでやってのけたってのか。あいつら、何を対価にして……)


ナオキは絶句する。愛する妻たちが、自分の記憶のためにどれだけの対価を支払ってくれたのかを悟り、奥歯を噛み締めた。


限界を迎えているのは、ミヤビだけではない。彼女と『感覚共有ライン』で繋がっているトウヤとルカもまた、激しい負荷のフィードバックに襲われ、両膝を床に突いた。


「トウヤ! ルカ!」

「大丈夫……っす、師匠……! ミヤビさんも、ギリギリ魂の形は保ててる……!」


「……っ、開けええええええええっ!!!」


ミヤビの血を吐くような絶叫と共に、部屋を埋め尽くしていた数式が一斉に一点へと収束し、虚空に巨大な光の亀裂を走らせた。


パキンッ!!


世界と世界の境目がガラスのように割れる音が響き、部屋の中央に、『純白のゲート』がポッカリと口を開ける。


「……ごめんなさいナオキ。私とトウヤは、ここまでよ」


ミヤビは荒い息を吐きながら、首を横に振った。


「チートを手放した反動と、このハッキングで……私たちの魂は今、ひどく不安定なの。この状態であの『白い部屋』の高密度な情報の海に入れば、システムに触れる前に魂が分解されてしまうわ」


トウヤも苦しげに顔を上げ、頷く。


「それに……俺たちがこの世界に留まって『アンカー』にならないと、この開いたゲートも維持できない。……ナオキさんたちの帰り道が、作れなくなっちゃいます」


その言葉に、扉に飛び込もうとしていたルカがハッと足を止めた。

 今の限界ギリギリのミヤビとトウヤを残して、自分がゲートを潜ればどうなるか。この二人にもし敵の攻撃があったら、守る人が、誰もいなくなってしまう。それに、もし私だけが白い部屋へ行って、私との感覚共有ラインが切れてしまったとしたら、アンカーとなる二人の魂は重圧に耐えられないかもしれない。


ルカはどうしてもツカサとアイリを助けに行きたい気持ちを抑えながら、泣きそうな顔をグッと堪え、ナオキに向かって宣言した。


「……師匠。私は、ここで二人を全力で支えるっす! だから……絶対、絶対、ツカサさんとアイリさんを連れて、勝って帰ってきてください!」


「上等だ。俺たちの帰り道、頼んだぞ。……さて、セリアは、今回もどうせ来るんだろ」

「はい、ナオキ様。見てくださいこの美しく強そうなメイド装備を。準備も万全です」

「お前、死ぬかもしれないんだぞ。魂ごと消滅するかもしれない。わかってるのか?」

「死にません。この私が、白い部屋ごときで死ぬわけがないでしょう」

「どっから来るんだよその自信は」


呆れたように、けれどどこか頼もしげに息を吐き、ナオキは前を向いた。


「――ふう。よし、行くぞ!!」


ナオキは叫び、セリアと共に一気に床を蹴った。

 二人に迷いなど微塵もない。光のゲートの向こう側――神の領域『白い部屋』へと飛び込んだ。

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