転生者救済編 第三話
「――目標の現在位置、特定しましたわ。『ガルデニア軍事共和国』の国境都市、その地下深くにある軍の特秘施設がここから一番近いポイントです」
国境を越え、深い森の中にカモフラージュして停泊させた魔導装甲馬車の中。
ツカサが空中に展開したホログラムの地図には、都市の地下に広がるアリの巣のような施設図が赤くハイライトされていた。
「この赤い点が、今回救うべき『転生者』か。……ツカサ、こいつらの裏社会での評判は?」
「それが、最悪の一言ですわ」
ナオキの問いに、ツカサは冷たい声で即答した。
「国から強制的に働かされている身分ではありますが、裏社会における彼らの通り名は『選別者』。この軍事国家に集められた孤児や奴隷たちを買い叩き、軍の各部隊へ斡旋しているバイヤーの元締めです。彼らのリーダーの鑑定スキルは絶対で、彼が『才能あり』と見込んだ子供は軍の上層部や暗殺部隊に高値で売られ、『才能なし』とされた子供は……地雷原の歩兵として、文字通り使い捨てにされています」
「……なっ!? ただのクソ野郎じゃないっすか! 絶っ対にぶっ飛ばすっす!」
腕を組んで聞いていたルカが、ギリッと奥歯を噛み締める。
子供の命を値踏みし、死地に送り込む。それが同じ地球からの転生者だという事実に、強烈な嫌悪感がこみ上げていた。
「同感だ。軍事国家の闇にどっぷり浸かった、ただの外道だな。救うような相手じゃない」
ナオキが忌々しげに言葉を吐き捨てる。
「ひどい……。才能がないから地雷原を歩かせるなんて、そんなの、あの真っ白な空間にいた神と同じ……ううん、悪魔みたいだよ……っ」
アイリが自身の両腕をギュッと抱きしめ、痛ましそうに顔を伏せる。かつて自分たちが味わった絶望を、今度は自分より弱い子供たちに押し付けている男。絶対に許せないという思いが、その可憐な顔に暗い影を落としていた。
「……ナオキさん。いくら同じ地球からの転生者で、神に対抗するための戦力が必要だとしても……さすがに、こんな奴を味方にするのは俺は嫌です。無理じゃないですか?」
トウヤが、ホログラムの地図を睨みつけながら言った。
「ああ。俺たちの本来のターゲット(条件)からかなり外れているように見えるな」
ナオキの言葉に、ツカサは深く頷いた。
「そうですわね。最初から強力な『チートスキル』を与えられ、国の中枢に取り込まれているような転生者は、すでに権力に溺れているか、あるいは強力なスキルの代償として『魔薬』にあてられ、精神がいかれてしまっている可能性が高いです。そんな手遅れな連中を今さら説得して仲間に引き入れるなんて、リスクが高すぎますわ。現在地から一番近いというだけですので、今回は見送ってしまっても良いでしょう」
ツカサの冷徹な指摘は、この救済の旅における重要な戦略と合致していた。
それに続くように、トウヤが力強く主張する。
「それはそうなんですが、放っておくことはできません。子供たちを助けに行きたいです」
トウヤの真っ直ぐな意見に、ルカも「その通りっす! さすがトウヤっす!!」と力強く同調する。
ある一点で全員の意見は一致していた。「救済」の対象ではない、と。
かと言ってトウヤとルカが助けたいと言っている以上、放置するわけにもいかない。
ナオキは無言のままホログラムの地図をスワイプし――一直線に、地下の最深部へと続く『侵入ルート』を決定づけた。
「……だが、国境付近の軍の特秘施設を正面からぶっ壊せば、せっかくの『アイドルツアー』という隠れ蓑が台無しになる。国中の軍隊を敵に回して、泥沼の戦争に逆戻りだぞ」
ナオキの冷静な指摘に、トウヤたちがハッと息を呑む。
「だから……極上の『エンタメ』にしてやる」
「アイリ、ツカサ、ルカ、セリア。お前らは地上で、軍の目を完全に釘付けにするド派手なゲリラライブをぶち上げろ。お前らの放つ圧倒的な光こそが、俺たちの最大の陽動になる」
「ナオキ……!」
アイリの顔に、パッと明るい希望の光が宿る。
ルカも、自分たちの「アイドルとしての力」が子供たちを救う武器になると理解し、闘志に満ちた顔で強く頷いた。
「その隙に、俺とトウヤの裏方組で地下のネズミの巣を無音で制圧し、子供たちを根こそぎ奪い取る」
「軍の連中が地上の熱狂にうつつを抜かしている間に、外道には……俺たちのやり方で、最高の『絶望』を味わわせてやろうぜ」




