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最終話②

「――それじゃあ、陰湿な人たちの完全一掃と、帝都の真の復興を祝って! かんぱーいっ!!」


アイリの元気いっぱいの音頭と共に、グラスの触れ合う澄んだ音が部屋に響き渡った。


帝都を一望できる、ナオキたちの拠点のテラス。

 心地よい夜風が吹き抜ける中、大きなテーブルにはセリアが腕によりをかけた豪華な料理が所狭しと並べられている。


「んん〜っ! セリアさんの唐揚げ、やっぱり最高っす! トウヤ、これすっごく美味しいっすよ! はい、あーんっ!」

「ちょっ、ルカ、自分で食えるから! ナオキさんたちも見てるだろ……っ」

「あらあら、若いって素晴らしいですわね。私たちも負けていられませんわよ、あなた?」

「バカ言え。俺はもう肉より野菜でいいんだよ、ほら、アイリもツカサもこのサラダ食え、美味いぞ」


顔を真っ赤にして照れるトウヤと、お構いなしに唐揚げを突っ込むルカ。

 そんな二人を微笑ましく(そして少しだけからかうように)見つめながら、ツカサは優雅にワイングラスを傾け、ナオキは呆れたように笑いながらサラダを盛り付けていた。


元貴族たちの反乱から、数週間。

 新たに得た情報からダンジョンシステムと元貴族たちを完全に掌握したツカサと、アイリの魔導放送による完璧な情報統制により、帝都の混乱は瞬く間に鎮圧された。

 今や王都は、システムに強要されるわけでも、理不尽な誰かに縛られるわけでもなく、人々が自らの意志で汗を流し、活気に満ちた復興の槌音を響かせている。


「でも、本当に良かったっす。アイリさんの腕も、ツカサさんも、すっかり元通りになって」


ルカが、ふと真面目な顔になって口を開いた。

 右腕を元気いっぱいに振り回して見せるアイリは、「へへーん」と胸を張る。


「私のアイドルとしての回復力と、ナオキが徹夜で調整してくれた特製ポーションのおかげだよ!ちょっと傷跡残るかなーと思って心配してたけど、もうこんなに綺麗!! 」

「ええ。とはいえ、もう二度とあんな無茶はごめんですわ。当面はご奉仕してもらいます」


ツカサがチラリと視線を向けると、ナオキは「悪かったよ、何でもやるって」と笑いながら小さく肩をすくめた。

 あのダンジョンでの出来事は、三人の間で深く話し合って清算することができた。システム上の婚約も契約し直し、スキルも復活している。

 それはダンジョンから表にさえ出れば感覚共有ラインがあるからとも言えるのだが、より深く愛情を感じられるひとつの機会だったようにも思う。

不謹慎だが、あの経験や大ゲンカがあったからこそ、今こうして全員が笑い合ってテーブルを囲めていることが、何よりも得難い奇跡のように感じられるのだ。


「……ナオキさん」


ふと、トウヤがグラスを置いて、正面に座る男を真っ直ぐに見据えた。


「俺、ナオキさんみたいに頭は良くないし、裏から世界を操るなんて器用な真似はできません。でも……ルカの隣で、ルカが迷わないように『真実』を見極めて、一緒に理不尽をぶっ壊すことならできるようになりました。強力なスキルを入手してお互いの魔熱が酷くなるかと思いましたが、それもありません」


トウヤの言葉に、ルカが嬉しそうに彼の手をギュッと握りしめた。

 かつて、魔薬の熱に浮かされて壊れかけていた少女と、そんな彼女を見て泣くことしかできなかった非力な少年はもういない。

 二人の胸の奥では、【感覚共有ライン】が穏やかに、力強く拍動している。今のところ安定していて、容量がオーバーするようなこともないようだ。互いの痛みを半分持ち合い、どんな理不尽も跳ね除けることができる、最強のパートナーの姿がそこにあった。長期的に見てアーティファクトの代替は必ず見つけたいが、短期的には、もう必要ないのかもしれない。


「これからも、ルカの隣は俺が守ります。だから……安心してください」


それは、ただの決意表明ではない。

 ずっと背中を追いかけ、憧れ続けてきた『タチの悪い恩人』に対する、一人前の男としての報告だった。


ナオキは息をゆっくりと吐き出すと、少しだけ意地悪く目を細めた。


「……安心しろ、だ? 生意気言ってんじゃねぇよ。お前らが暴れ回った後の建物の修繕費、誰が裏で帳尻合わせてると思ってんだ」

「うっ……それは、すいません……」

「師匠! トウヤをいじめないでほしいっす!それに事務は師匠だってやらないじゃないっすか!!」


ルカが抗議の声を上げるが、ナオキはふっと口角を上げ、手元のグラスをトウヤの方へと軽く突き出した。


「だが……まぁ、真実を見極めて、最高のタイミングで天井ぶち破ってきやがったことだけは、褒めてやる。お前も立派な、この盤面と俺たちの『共犯者』だな。トウヤ」


その言葉は、ナオキからの最大限の、そして絶対的な「合格通知」だった。

 トウヤの顔がパッと輝き、彼は慌てて自分のグラスを手に取ると、ナオキのグラスにカチン、と軽い音を立てて合わせた。


「はいっ!!」


嬉しそうに笑うトウヤを見て、アイリとツカサが顔を見合わせてクスリと笑う。


「ふふっ、良かったねトウヤ君。でも、うちのナオキの方が百倍かっこいいけどね!」

「ええ、その点に関しては一歩も譲りませんわよ」

「なっ、何言ってるんすか! トウヤの【魔眼】で敵の正体見破った時の方が絶対にかっこよかったっす! ステータス偽装もスキルも全部見抜いたんすからね!!私の彼氏が宇宙一っす!!」


ルカがむきになって立ち上がり、アイリとツカサと「どっちの男がかっこいいか」という果てしない口論(のろけ合い)が始まってしまう。

 残された男二人は、顔を見合わせて深々とため息をついた。


「……女ってのは、なんでああ張り合いたがるんだろうな」

「あはは……。でも、なんか、いいですね。こういうの」


トウヤがテラスの柵に寄りかかり、眼下に広がる帝都の夜景を見下ろす。

 そこには、作られたシステムのホログラムではなく、人々が灯した本物の暖かな光が、星屑のように無数に瞬いていた。


「ええ。とても綺麗です」


いつの間にか背後に控えていたセリアが、トウヤのグラスに新しい果実水を注ぎながら、穏やかに微笑んだ。


「それはお前もだ、セリア。ありがとう」


「も、もったいないお言葉です……っ」


ナオキの言葉に、普段は完璧で隙のないセリアの頬が、夜景の灯りよりもほんのりと赤く染まる。

 グラスに添えられた彼女の左手――その薬指には、アイリやツカサとお揃いの、真新しい指輪がキラリと光っていた。

 あのダンジョンでの一件のあと、正式な『三人目の妻』となってくれた。


「ナオキ様……。この身も心も、一生を懸けて妻としてお支えいたします」

「だから、あんまり重くすんなって。俺の隣で、普通に笑っててくれればそれでいいよ。と、言いたいところだが、お前は魔王のように威張ってる俺が好きで、普通は嫌なんだよな。まあ隣にいるなら退屈は、させないさ」


ナオキが苦笑しながらセリアの頭を強く撫でると、彼女は感極まったように瞳を潤ませ、幸せそうに深く、深く頷いた。


「……さて。明日からまた、忙しくなるぞ」


ナオキが立ち上がり、夜風に前髪を揺らしながら夜景を見つめる。

 その後ろ姿に、トウヤはかつて抱いたのと同じ、いや、それ以上の憧れと親愛を込めて、力強く隣に並び立った。


「はいっ! どこまでも付き合いますよ、ナオキさん!」


賑やかな笑い声が響くテラスの夜は、どこまでも明るく、優しく更けていく。

 世界を裏からぶっ壊した規格外の転生者たちと、その意志を継いだ若き勇者たちの物語は、こうして賑やかに、最高のハッピーエンドを迎えたのだった。

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