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第7話 食堂での嫌がらせ


 朝の光が差し込む食堂は、今日も静かに整えられていた。

 長いテーブルの端、夫人用に用意された席にセリーヌは腰を下ろす。


 背筋をまっすぐに保ち、控えている使用人たちの方へ目をやる。

 その隣にはマルグリットが緊張気味に立っていた。

 「奥様付き侍女」となって二日目。まだぎこちないが、その表情には誇らしさが宿っている。


 ――今日はどんな一日になるのだろう。


 セリーヌが小さく息を整えたその時だった。



 料理を載せた銀盆を持ち、軽やかな足取りで現れたのはリュシアンヌだった。

 いつも以上に整えられた髪と微笑み。

 一見、献身的な侍女のように見えた。


 だが、その碧眼は冷たい光を宿していた。


「失礼いたします、奥様。こちら、本日の朝食でございます」


 よく通る声とともに、彼女はセリーヌの前に近づいて――。


 カシャンッ。


 盆の端がわずかに傾き、陶器の皿が大きな音を立てて落ちた。

 焼きたてのパンと温かなスープが、真新しいドレスの裾へ飛び散る。


「――っ」


 熱さに小さく息を呑みながらも、セリーヌは声を上げなかった。


 一瞬、空気が凍る。


 だが次の瞬間、背後に控えていた若い使用人の一人が、口元を押さえながら小さく笑った。

 それにつられるように、別の者も視線をそらしながら肩を震わせる。


「ご、ごめんなさい、奥様!」

 リュシアンヌは目を見開き、慌てたふりをして布巾を差し出す。

 だが、その唇の端には、確かに愉悦の影が浮かんでいた。



 セリーヌはゆっくりと顔を上げた。

 周囲の嘲笑、リュシアンヌの芝居がかった態度。

 その全てを見渡したうえで、静かに微笑む。


「大丈夫よ、これくらい」


 衣服に染みしているスープを拭くマルグリットにお礼を伝える。


「マルグリット、ありがとう。」


 毅然とした声だった。


 嘲笑していた使用人たちは、面白みを失ったように顔をそむけた。

 リュシアンヌもまた、一瞬だけその笑みを歪める。

 だがすぐに「失態を反省する侍女」の顔へ戻し、頭を下げた。



 本来なら、その場に座るはずのレオンハルトがいれば、何かが変わっていたのかもしれない。

 だが彼は、朝早くから執務に出かけていた。

 妻と顔を合わせぬよう、意図的に屋敷を出たことは明らかだった。


 だからこそ、セリーヌは自ら立ち向かわねばならなかった。

 笑われても、冷たくされても、心を折るわけにはいかない。


 ――ここで生きていくと決めたのだから。


 彼女は静かにハンカチを取り出し、ドレスについた染みを押さえた。

 その仕草は、ひとつの誇りを守るかのように揺るぎなかった。



 廊下の陰に退いたリュシアンヌは、唇を噛みしめた。

「……面白くない」


 粗末な扱いに動揺し、涙でも見せるかと思った。

 だが、あの女は笑顔を崩さなかった。

 まるで挑発するように、静かに受け止めてみせた。


 ――ならば、次はもっと巧妙に。


 リュシュアンヌは心の奥で嫉妬と憎悪が渦巻く。


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