古ノ国覚書 三
この項では霊廟について記述しよう。霊廟とはすなわち王族の墓場のことだが、クレトス王の時代、その場所は隠されるようにしてあった。
【霊廟 ヴォルナスタ】
王立図書館ヤクタの真下に入口を持つ、うらぶれた空気の洞窟から続く霊廟。王城の庭にあった霊廟は、王子の強い希望あって図書館の地下へと移されたらしい。
元々魔女の書庫として利用されていた空間を墓として造り直しているため、完成自体は早かった。『住人』が増える度改築を繰り返し、王子が成人を迎えた後もそれは続いたという。
初めは王族の汚点を隠すための場所であったが、次第に国自体の汚点を隠すための場所となり、「穢れ無き水の王国アクリアル」の演出には欠かさないものとなった。それは後に大きな歪みを齎すものとなるはずだったが、その前に王国は滅亡したのだろう。
基本的に王妃らはヴォルナスタをなきものとして扱ったが、王は食糧や生活用品の援助を惜しまなかった。彼は朧火の森側から霊廟を訪れ、王子らと歓談し、時に鍛錬を手伝った。
最初は灰の城側から訪れていたのだが、住人の怨嗟の視線に遭い、やむなく朧火の森側に入口を造り、王族にのみ解ける封を施したのだった。
【王子 アルレイーヴァ】
光りなき者、アルレイーヴァ。盛大に誕生を祝われたものの、すぐ国民に死産が伝えられた。しかしヤクタ地下への霊廟移動により、国民は暗に王子の生存を知り、言葉にのせることは憚られたものの、『棄て場所』としてのヴォルナスタは周知されることとなった。
非常に聡明かつ腕の立つ剣士。八つの頃ヴォルナスタへ移動した。視覚以外の感覚が鋭く、霊廟内であれば王付きの騎士に劣ることなく剣をふるえる。
【白の貫き手】
火傷を抱えた可憐な騎士。乳飲み子の頃棄てられ、剣に興味を示したため王子と共に育った。
王子とは主従の関係であり、日課はヤクタから贈られた本を王子に読み聞かせることであったと手記には書かれている。
【灰の城の女主人】
親に名を贈られなかったため、王子の棄てた名アルレイーヴァより「アルレ」と名付けられた。灰の城の中では最古参の内の一人。数少ない王子と同年代の友人で、成人した頃に灰の城の管理を任されるようになった。
【セオンの狂犬とシャールカ】
人に住処を荒らされ、人に食糧を奪われた彼らが、人に悪魔と呼ばれるようになったのは皮肉である。彼らはただ食べ物を求めただけであり、シャールカで言われるような邪悪性は何処にもない。しかし襲われたシャールカにとっては至極当然な意見であり、ここにも名状しがたき悲劇の一端が感じられる。
手記の記述はここまでだが、セオンの狂犬について再考されるのはこの時代から百年ほど先、現在から言えば四百年ほど前の話である。現在は絶滅した彼らは、今では良くお伽噺の中で『皆に恐れられているが、主人公に知恵を授ける森の主人』として描かれる。
【王子と王女】
王女が王子の存在を認識していたかどうかは定かでない。王妃は姫を溺愛しており、国の暗部からは遠ざけたがっていただろう。
だが、霊廟のもうひとつの入口は朧火の森に造られた。そして霊廟の洞窟内の広間にあった花は、朧火の森のものだという。手記内にはっきりとした記載はないが、それだけで少しは推し量れるものだろう。




