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水の亡国  作者:
第五項: 灰の城
18/46

七: 狩人 トータ 02

 闇を照らすのは、男の持つ炎剣だけだ。

 炎剣は男がふるう度に紅の軌跡を奔らせ、真っ暗な空間を切り裂く道標となる。

 小気味良い音が聞こえ、ふっと短く息を吐く。そのまま勢いよく後ろを振り向き、番えた矢を迷いなく放った。狙い違わずに矢は射られ、迫る骸骨を粉砕する。

 二人は、石造りの橋に追い詰められていた。

――まずい。

 顔を強張らせる青年の横で、男はやや迷いながらも、燃え盛る紅の剣を掲げた――。





――水の城


 守人曰く、鎖のひとつは既に壊されているらしい。

 宙に浮かぶ王城を指しながら、オーロラの名を持つ女は王国について語る。

『アクリアルには特別な場所があり、それらが鎖の担い手の居場所となっています。空中庭園、霊廟、図書館、儀式場…。それらがあなた方の目指すべき場所となります』

「特別って、どう特別なんだ?」

『王国にとって重要な者たちに縁深い場所です』

「ふーん……図書館も?」

 庭園は王女、霊廟は誰か王族、儀式場は司祭。多少は亡国の歴史を聞きかじっているトータも、それくらいは想像がつく。だが図書館がそこまで亡国に重要な場所だとは思えない。

『そうですね…。図書館は、歴史を綴る場所です。その中には幾許かの真実が隠されている。なにより、図書館は「魔女」の居場所でした』

「ああ…」

 それを聞き、トータは深く納得した。


――大国アクリアルを滅亡せしめしは、悲哀の魔女である。

 

 世界の根幹には水櫃があり、全ての源となる“水”がそこには満ちている。全てを意のままに出来る力がそこにはあり、災厄の象徴にも祝福の象徴にも例えられた。

――魔女は、水櫃を自ら造ろうとしたのだ。そして廃王は、その狂気に自らの狂気を喚び覚まされたのである。



「非道な実験や人と思えぬ所業を書き連ねた蔵書だらけの場所、王立図書館…。どっかで聞いたことある気がする」

『前回ここを訪れた方々もそう言っていましたね』

 そうなのか、と頷きかけ、気になる物言いに眉を顰める。この守人は言葉通り悠久の時を生きているのだろうが、その理由をトータはまだ知らないのだ。

「そういえばさ、この亡国何回か甦ってるけど…それって、前回までは中途半端にしか止められなかったってこと? 封印したは良いが、数百年経つと解ける、みたいな」

『申し訳ありませんが、それはご自分でお探し下さい。ただ言えることは、王立図書館と儀式場…そこが、全ての答えとなるでしょう』

 思わずむっとしかけるが、先ほどのオーロラの行動を思い出して目を伏せるに留めた。あんな風に必死になられると、調子が狂う以前に困惑してしまう。

「そういやさ、北側にある門の左にある道って、なに? ちょっと下ってみたけど、小さい洞窟に繋がってるだけだった」

 ハイロリアへ到達したトータは、うろうろしている最中に北の大門に行き当たった。

 後から聞けばそこはドラゴンとの戦闘場だったらしいが、トータが訪れたのは幸いにも戦闘後だったらしい。焼け焦げ煙を漂わせる大地を尻目に、のんびりと周囲を観察することが出来た。

 そうして見つけたのがその小道。図書館の地下部分に続くという奇異さで、少し気になったのである。

『それは霊廟へ続く道ですね』

 あっさりと返ってきた答えに、トータは目を丸くした。

「霊廟…墓? あんな所に?」

『ええ。不便な立地ではありますが、王族の遺体はあそこに保管されておりました。勿論そこにも鎖はあります。誰も気付かないようでしたら、わたしが皆さんに喚起しようと思っていたのですが…。あなたが気付いたなら、あなたに任せましょうか』

「え」

 ぎくりと体を固まらせる。これは非常に困る流れであった。

「いや俺、悪霊とかと戦ったことないし…」

『霊廟には管理者がおります故、悪霊に蝕まれることはありません。墓守たちが襲ってくることはあるでしょうが…』

「俺後衛だし、ひとりじゃ無理かなーって…」

『では誰かを誘いましょう。見立てでは、前衛には騎士が最良の候補ですが…おや、戦士でも問題はありませんよ?』

 突然破顔した守人に、トータは嫌な予感を覚える。オーロラはトータの後ろを見ていた。

「話は聞いた。仲間が必要なのだな? 不肖クレスランス、微力ながらも助太刀いたそう」

 力強く、張りのある声――緑がかった黒髪の男は、快晴の空のような青目を輝かせ、振り向いたトータにしっかり頷いて見せる。

 身に付けた紅の鎧は燃えるようで、立ち姿は隙のない戦士そのもの。右手に真っ赤な剣を携えており、ひと目で腕の立つ男だと分かる。しかし見る者が一番注目するのは、太陽のように翳りない明るい笑顔であろう。

 第一印象、そりの合わなさそうな男だ。トータは静かな暮らしがしたい。

「いやその、俺あんまり自信ないし…」

「そうは言っても、トータ殿だったか? 貴公は何故この亡国へやってきたのだ? 敵を倒し、皆に平和をもたらすためであろう?」

 ――これは骨が折れそうだ。

 トータは軽く顔を引き攣らせ、じりじりと男から距離をとろうとした。

 しかし。

「いや、俺はだな、知り合いを探してここまで来ただけだからさ…」

「なんと!」

 言い逃れのつもりで言ったトータだが、クレスランスは何故かいたく感動したように目を見開き、

「人助けか…! なるほど、貴公とは気が合いそうだ! よし、二人で協力し、霊廟の鎖を解放しようではないか!」

「ってええ!? なんでそうなる!?」

 なんやかんやで、トータは戦士と霊廟へ行くことになってしまったのだった。





――霊廟への小道


 そんな訳で、トータは飛んで火に入る夏の虫状態になっている。


 オーロラの推薦した騎士も霊廟へ行くらしい。トータとしてはせめて彼と組んで行きたかったのだが、如何せんクレスランスがやたら張り切ったため、二人で向かうことになってしまった。

「私のことは呼び捨てにしてくれて構わない」

「へいへい…じゃあクレスとでも呼ぶよ」

「クレスか! いや新鮮だ、皆私をランスと呼ぶから」

「あ、じゃあランスで」

「いやいやいや、是非クレスと呼んでくれ!」

「…………りょーかい」

 適当に答え、ざくざくと道を下る。空には薄靄(うすもや)がわだかまり、吹き(すさ)ぶ風がトータの短い黒髪を揺らした。左手の崖上には図書館があり、トータたちはその地下にあるという霊廟を目指している最中だ。

 老女に持たされた物の中で、霊廟で役立ちそうな物を思い浮かべつつ、隣を歩く男に訊ねる。

「それ、聖具?」

「ん? ああ、この剣か? そうだな、城にいた鍛冶屋に鍛え直してもらったものだ。元は真っ白だったんだが、私用にしたから赤くなったらしい。私が見出すことの出来る性質が火なんだそうだ」

 戦士が左腰に帯剣している剣は、柄まで真っ赤な派手なものだ。だが下品さは感じられず、むしろ高貴な雰囲気を漂わせている。ランスが剣身に指を滑らせると、むき出しの剣の腹が薄く発光した。

「へぇ。そりゃすごい。…ん? ってことは、その爺さん聖者?」

「さぁ? その辺は詮索していない。ともかく、この剣は炎の力を帯びているので、戦闘は期待してくれて構わないぞ!」

 火は不浄を払うものだからな! そう言って男は眩いばかりに破顔する。トータは辟易した顔で頷きつつ、下っている道の先を見下ろした。

 先に行くに従い、薄暗くおぼろげになる道だ。なだらかな曲線は途中で小さな洞窟に繋がり、見る者を引き込むような空気を発している。

「墓かぁ…苦手だな」

「馴染みない場所か?」

「当たり前だろ」

 言い返すと、ランスは肩を竦めて首を振る。

「私は一時期墓守の真似ごとをしていたことがあったからな。夜な夜な死体が蘇るとかいう噂の村があって、護衛を任されたことがあったのだ。結局『闇水』らの仕業だったのだが」

「うはぁ」

 

 闇水とは、人の“水”に干渉しようとする者たちのことだ。単に研究するだけなら問題ないのだが、生者から“水”を抜き取ろうとしたり、死体を使って人の“水”の構成を探ろうとしたりする危ない連中である。悲哀の魔女の系譜を辿る彼らは、聖職者に狩られつつも勢力を伸ばしていっているらしい。

「守人の話を聞くに、そういう腐敗はなさそうだが」

「死体があるってだけで気味悪いわ…」

 虚ろな目で徘徊する死者。その様を想像し、トータは寒気がして肩をさする。

 男の経験談は頼もしいとも思えず、ますます気が滅入ってくるのだった。





――洞窟の中


 そんな憂鬱な気持ちで向かった霊廟は、存外日の差す明るい場所であった。

 迷路のような通路こそ暗鬱としていたものの、突如として現れた広大な空間は、暖かな空気の満ちる場所だったのだ。

「なんだここ。遊び場…?」

 休憩所ともいえる空間は、しかしどちらかといえば公園のようにも見える。あちこちに置かれたベンチ、神木に似た大樹、可憐な花の浮かぶ池。

「墓参りに来た人用だったのか?」

「いや、それはおかしい。ここは王族の墓だぞ?」

「そういやそうだった。それならこんな遊び場兼休憩場所みたいなのはいらないよな」

「そうだな…うん。ここは、普通の墓じゃないみたいだなぁ」

 なにやら奥の洞穴(ほらあな)を観察していたランスが、しみじみと感じ入ったような顔で頷く。その姿に顔を顰めながらも、トータは説明を求めるのは控えた。

 どうもこのクレスランス、喰えない男である。馬鹿かと思えば、意外に様々な物への造詣の深さを窺わせる。伊達に戦士として生きていないということか。

「死体とかは、何処に収めていたんだ?」

「もう少し進んでみようか」

 ランスに促され、トータも洞窟の先へと進んだ。再び薄暗さが周囲を覆い、じめじめとした感覚が舞い戻ってくる。

「あっ」

 気を抜いていたトータは、長い通路の向こうに人影が見えたような気がし、はっと目を見開いた。

「どうした?」

「今、あそこに人がいたような…。また餓鬼か?」

「ふむ。流石は狩人の目だ。気を付けて進むか」

 青目を眇めたランスは、腰に結わえた炎剣に手をやる。トータも頷き、背の矢筒から弓を取り出す。

 だが姿を現したのは、外見は餓鬼のようでありながら、性質は憶病な敵と言えぬモノであった。

 二人を見るなり逃げ出す餓鬼を見ながら、トータとランスは顔を見合わせる。

「……なんだ?」

 奇妙な霊廟内の雰囲気。

 その異様さに、トータもようやく気付き初めていた。





――灰の城


 訝しみつつ進んだ先は、やっとトータの想像する『墓』であった。

「こっから霊廟か。長かった…」

「よし、張り切って行こうじゃないか!」

「…さっきの台詞の手前言い辛いが、ここからが長いんじゃないかな…」

 王族の紋章の描かれた石造りの扉――うねるような渦が(つた)と葉で飾られた長剣を囲む、アクリアル独特の紋章である。

「おー。なんかすごいな」

「ああ。この紋章が意味するのは、アクリアル王族の自然への親和性といったとこか。それにより王に自然の神々の加護があることを主張していた。剣は王のウンディーネ、渦は水の流れを象徴している」

「ん? 炎の渦かと思った」

「炎の渦にも見えるが、これは水の流れで出来る渦だな。アクリアルは水の国だから」

「なるほど。……入るか」

 重い扉に手をかけ、体重を乗せて押す。ランスもすぐ加わり、二人は息を合わせて両開きの扉を開けた。

 ――王家の霊廟、ヴォルナスタ。

 広がる闇は、訪れる者を飲み込むかのように、押し潰そうとするかのように。



――回想中


「そう、そこまでは良かったんだよな」

 つい先ほど、この霊廟を訪れたばかりの時を思い出しつつ。

 トータは深く息を吐き、自分史上最大の失敗に頭を抱えるのだった。



――姑息な小物の計画


 その男が現れたのは、霊廟に入ってすぐのだ。

「そこの旅人さん、ちょっとお願いがあるんだ!」

 ランスの炎剣の灯りを頼りに歩いていた二人は、素っ頓狂に明るい声に振り向いた。雑な格好の男が、通路の向こうから手を振っている。

「大事な物を落としてしまったんだ! 助けてくれないか?」

 やたら調子の(みなぎ)った男だ。

 服装こそ擦り切れた布の上下で、まるで餓鬼といった出で立ちだが、顔は普通の人間である。トータは胡乱気に目を細めつつも、無視はせず男を出迎えた。

「大事な物?」

「ああ、凄く大事な物なんだ! だが敵の骸骨に盗られてしまって…」

「骸骨? ここの敵は動く骸骨なのか?」

 あまり歓迎したくない事実に、うへぇと顔を顰める。

「協力をして欲しいんだ。母の形見で、あれがないと、私は…」

 そこまで言うと、急に男はしおれた表情で項垂れた。その様は哀れとしか言いようがないが、幾許かの怪しさを覚え、トータはランスに目配せする。ランスの方も同じ思いらしく、戦士は肩を竦めて首を振った。

「…あんたさ、何者? 亡国に挑んできた人?」

「私か? 私は元は騎士だったのだが、ここで迷う内に出られなくなってしまった! なぁお願いだ、少しの間で良いから協力してくれないか? 別に悪い話ではないから」

 そう言われると疑いたくなるのが人間だ。トータは注意深く男を窺いつつ、小声でランスに話しかける。

「怪しいよな」

「そうだな。しかし…こいつは、断ってもついて来そうだ…」

 あんたみたいだな、という感想は心の内に留め、男に向き直る。男の小さな茶目には、そこはかとなく狂気があるように感じられた。

「…盗った骸骨って何処? 言っとくが、妙な真似をしたらすぐに殺す」

「協力してくれるのか? 有り難い! こっちだ、すぐだから!」

 そう言って男が指差すのは通路の奥側。炎剣の灯りが届かず、突き当たりなのかまだ道が続いているのかすら分からない。

 なるべく男を先頭にするようにしながら、トータは慎重に通路の奥を目指した。

 男が黙ると、途端に霊廟の静けさが如実に襲いかかってくる。

 三人分の靴音と息遣いだけが響く、恐ろしく空虚な空間である。

「……まだか?」

「そこだよ。物凄く強い骸骨なんだ、気を付けてくれ」

 男は立ち止まり、闇を指差す。すかさずランスが炎剣をかざすが、それでも晴れないほど深い闇だ。

「……なにもないぞ」

 男を視界の端に捉えつつ、トータはそっと弓に矢を番える。いつでも射れるように。やはり、この男はおかしい。

 だがその警戒も虚しく、男は既に不思議な微笑で佇んでいる。

「お人好しだな。あなた方の遺品は、私が形見として持っていようじゃないか」

「な」

 反問の言葉は、奇怪な音によって搔き消された。固い何かを擦り合わせるような音が、トータのすぐ横から聞こえる。

「っ!」

 即座に状況を理解したトータは、後ろに跳んで距離をとろうとする。だが横から伸びてきた手が、トータの体をとんと軽く押した。

 翡翠の目を、大きく見開く。

 一瞬後には、トータの体は宙に投げ出されていた。




 暗転する視界。かろうじて受け身をとったが、頭上では激しい剣戟の音が響いていた。

「クレス? 無事か?」

「そっちこそ無事か?! 何処にいるんだ?」

 慌てて周囲を見渡せば、どうも彼は霊廟の二階から一階に落ちてしまったようである。先ほど居た辺りを見上げてみると、手摺のない簡易バルコニーのようなものが微かに見えた。

 反動をつけて起き上がり、肩かけ鞄から閃光弾を取り出す。受け身が間に合ったのか、痛みは少ない。

「クレス、こっち!」

 球型の閃光弾を思い切り壁に叩きつけ――一瞬だけ炸裂する光が、周囲の状況を鮮明に映し出す。

 バルコニーの真ん中で剣舞を繰り広げる戦士が、光に照らし出される青年の姿を確認した。

 再び戻った闇の中、足甲が床を蹴る音が聞こえ、トータのすぐ隣に紅の戦士が着地する。

「とりあえず、走れ!」

 そうして二人は、骸骨との楽しくない追いかけっこに突入する羽目になる。




 物語は戻って冒頭へ。

 霊廟内を適当に駆け回った二人は、二つの建物を繋ぐ橋へと追い詰められていた。

 後ろから数十体もの骸骨が追いかけて来てはいるが、向こう側にも何体か骸骨の影が見える。まさに袋の鼠だ。

「うっそだろ…」

「これは…致しかたないか? トータ殿、失敗したら許されよ」

「は?」

 とりあえず橋の中腹まで来たトータたちだが、なにやらランスが炎剣を構え、トータを後ろに追いやった。「後ろの敵は任せた」とだけ言い、じりじりと距離を測るように後退し始める。

 後ろに下がるランスに押されつつも、トータは「何をするつもりか」と訊ねた。

「――この剣で敵を吹き飛ばす」

「なるほど…って、ええ?!」

 そんな無茶なと反論する余地もなく、数十体の骸骨は押し合いへし合い迫ってきている。思わず後ずさると、ランスが剣を大上段に振り上げ、トータに叫んだ。

「今だ!」

 戦士の裂帛(れっぱく)の声を受け、数本だけある特製の白矢を取り出す。素早く弓に番え、背後の骸骨たちへ放った。矢は着弾と同時に小さな爆発を起こし、周りの骸骨たちを吹き飛ばす。

 トータが向こう側の建物に走るのを確認し、ランスは構えた炎剣を苛烈な気合いを込めて振り下ろした。吹き荒れるように炎が渦巻き、凄まじい業火の軌跡となって橋に叩きつけられる。

 それは戦士の思惑を超え、太陽のように強烈な一撃であった。

 ほとんど爆発のような斬撃を受けた橋はあっけなく崩壊し、骸骨数十体を巻き添えにして谷底へ落ちていく。

 後に残った二人は呆然と顔を見合わせ、どちらからともなく乾いた笑いを溢すのだった。





――篝火


「……正直橋落とすまでするとは思わなかったけど、初めにあの男の言うこと聞こうと思ったのは俺だからな…。俺からも謝っとく」

 回想を終えたトータはひとつ息をつき、素直に頭を下げた。ランスが大袈裟に首を振る気配が感じられる。

「頭を上げられよ、トータ殿。私もまさかあそこまで酷い一撃になるとは思わなかった。この状況は私のせいだ」

「いや、さっき言った通り、俺のせいでもあるんだけど…。てか、その剣凄くないか? なんか段々お前ひとりでも守護者を倒せる気がしてきた」

「いや…鍛冶屋曰く、先程のように爆発を起こすのは滅多に出来るものではないらしい。私が魔法使いではないからなのだが、深淵から”水”を喚び出すには一日は置かないといけないとか」

 つまり、一日に一度の大技だった、という訳だ。

 安堵にも落胆にも似た感情を覚えたトータは、消えかけた篝火に枝を継ぎ足す。

「なんにせよ、後少しは待ってみるか…」



 そうして騎士の到来を待っていた二人は、向こうの塔から微かに聞こえる戦闘音に目配せし合った。

「来た?」

「みたいだ」

 二人同時に立ち上がり、破壊された橋の所まで行く。橋の程近くの部屋で休んでいたので、音を聞きつけてやって来た骸骨の対処が面倒だ。

「なんかこっちの方が骸骨多いような気も。何でだ?」

「恐らくこっちの方が主な霊廟なんだろうな」

「ふーん」

 間断なく襲撃してくる骸骨を処理しつつ待てば、程なく騎士が向こう側の橋の切れ端に姿を現す。女性も一緒のようだ。その背を狙う敵を倒してやり、トータは騎士へと叫んだ。

「すまない! 俺たちが橋を落としてしまった! 不可抗力なのだが、左側から回って来てくれ! こっち側と同時に操作すれば降りる橋があるようなんだ!」

 きちんと聞こえるか不安だったが、頷き返す騎士の姿にほっと息を吐く。何故かランスが後ろから手を振っているが、段々慣れてきたので無視。トータも骸骨処理作業に加わる。

「よっし、とりあえず俺たちも跳ね橋の方に行くか」

「そうだな。騎士を待たせてはいけない」

 見えてきた希望に意気揚々と走り出す二人だったが、更なる困難が待ち受けていようとは、露ほどにも考えていない。

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