第九話 社内案内
「なんですか?」
レジの前に立っている白石さんが振り返る。
よかった…怒ってはいないようだ。
「どうして、僕のカゴに入れてくれないんですか?」
「自分の物を人に支払わせるのが好きじゃないんです」
そういいながら、俺が持っているカゴからパンチと延長コードも抜き取り、セルフレジで会計を始めた。
「学生さんに支払わせるなんて、社会人の恥ですよ!僕が払います!支払わせてください!」
「結構です。バイトもしてるんで、そういった面では、わたしも一応社会人です」
「そこまで言うなら、仕方ない…」
バイトで稼いだお金の使い方を、他人の俺がとやかく言うのは筋違いだ。
白石さんの分の支払いは諦めて、自分の分だけで、会計を行った。
支払いを終え、店を出る。
「じゃ、とりあえず…
僕の会社行きましょうか」
「え?まさか、仕事をって言いませんか?」
「ははは…」
バレてしまったか…
「し…仕事なんて、シマセンヨ!」
「片言になってますけど…?」
白石さんが、冷ややかな目でこちらを見てくる。
仕方ない。
残っている仕事は、白石さんがいない時にしよう。
「いや、とりあえず、この荷物を保管できる場所が必要かと思いまして。
僕の会社なら、社員カードがなければ入室できないし、僕以外の社員は隔離の外だと思うので、安全かと…。
他に安全な場所をご存じなら別ですが」
「それなら、たしかに安全ですね…」
「じゃ、決まりですね。会社はこっちです」
やっと戻れる。長い休憩になったな…。
これは、“私用外出”の申請が必要か。
あとでそれらしい理由を考えておかないと、女子大生を助けていた、なんて書けないな。
そんなことを考えながら
オフィスに向けて歩き始めた。
ーーーーオフィスが入っているビルに着いた。
「ここの5階です」
自動ドアを通りながら説明をする。
外がよく見えるガラス張りの広いロビーを進んだ先に、駅の改札のようなゲートがある。
「まず、ここが社員証が必要で…。
僕が先に通るので待ってくださいね」
ビッと社員証をかざすとゲートが開く。
ゲートを通り抜けたあと、振り返り社員証を白石さんの方へ差し出す。
「これで入ってください」
「わかりました」
ビッ。
エレベーターへ向かう。
ボタンの近くにある四角いマークに、社員証をかざす。
「ここでも社員証が必要で、社員証をかざさないと、オフィスがある階で止まってくれないんですよ」
と、説明している間に到着したエレベーターに乗り込んだ。
『5階です。』
アナウンスと共に、エレベーターの扉が開く。
見慣れた景色にほっとする。
「ここが僕の会社です。
ただ…大変申し訳ないんですけど、さすがに、社員じゃない方を奥までは案内できないので、会議室と応接室まででお願いしていいですか?」
「は…はぁ。大丈夫ですけど…」
少し腑に落ちないと言わんばかりの返事が返ってきたが仕方ない。
「先に、もろもろの場所、案内しますね。一旦、食料以外の荷物はここに置いておきましょうか」
「わかりました」
トイレ、非常階段…と、フロアを案内する。
「…で、ここが給湯室で、食料はここに置いておきましょうか。
ここでいつでもお湯は用意できるので、好きに使ってくださいね」
「わかりました。お箸やコップもあるんですね。助かります」
「そうなんです。やっぱり、食事をすぐ取れるって大切なので」
「え?給湯室って、食事を用意する場所じゃないと思うんですけど…」
「バイトだと、どうしても時間が決まってますもんね。じゃ、応接室に一度戻りましょうか」
いぶかしげにこちらを見ている白石さんの少し前を歩く。
応接室のソファーに向かい合って座る。
「白石さん…。
実は、お願いがありまして…」
少し真剣な面持ちで切り出した。




