第八話 備品選定
ドアが開く。
コンビニでの景色が頭をよぎる。
大学の近くということもあり、入口付近は若い人向けと思われる、おしゃれな文房具や雑貨が並んでいる。
…よかった。ここは、荒らされてない。
整然と並んだ商品たちを横目に、オフィス用品と書かれている看板の方向へ向かって歩き出す。
「あっ、ちょっと待ってくださいよ!」
気持ちが高ぶり、少し早足になっていたようで、白石さんから声をかけられた。
「すみません。ちょっと、気持ちが抑えられなくて…
オフィス用品は、あそこですね」
そう言い、意識的に歩く速度を緩めた。
オフィス用品売り場。
そこは、まるでデパートのような輝きだ。
様々な商品が用途ごとに分類されて並んでいる。
あぁ…欲しい…すべてが欲しい…
しかし、耐えるのだ。
白石さんへの提案事項を思い出すんだ。まずは、個人より組織だ。
自分の欲で動いては、後々、大きな問題につながりかねない。
まずは…
パンチを商品棚から取る。
ハンディタイプと大型タイプ。
女性には、ハンディタイプの方が握りやすいだろうか…
「白石さん!これ、一度握ってもらっていいですか?」
ハンディタイプを手渡す。
「あ!たしかに、これ、武器にいいですね!」
「そうでしょう!他にも使えるものを探してくるので、ぜひ、白石さんも探してみてください!良さがわかるはずです!」
やっと事務用品の良さが、少しは伝わったようで嬉しくなる。
買い物カゴを取りに行き、延長コードにコピー用紙、付箋、念のため各色のボールペンと替芯…と、次々にカゴに入れていく。
こんなものか…
あまり量が増えても、一度に持てないため、一旦切り上げる。
「白石さん、僕の方は一通り見繕ったんですけど、白石さんの方はどうですか?」
「これ、いいかなって思ったんですけど…」
そう言って見せてくれたのは、半円型のペーパーウエイト。
地球のような絵柄が入っていた。
女子大生が選ぶと、武器までおしゃれなんだと感心した。
「いいですね!おしゃれだし、飛び道具として使えますね!持てるだけ買っちゃいましょう」
「そうですよね!竹本さんが選んでくれたパンチもいいんですけど、パンチが届く距離まで来られるのも怖いと思って…」
「そうですよね!僕もそう思って、これ!」
カゴの中に入れていた商品を指差す。
「延長コードですか?」
「そうです!使い勝手を考えて、長さは1メートルにしてみたんですけど、端を持って振り回すだけで、相手を寄せ付けなくて済むかと思いまして!」
「なるほど…たしかにそうですね!」
「では、会計を済ましてきますね」
そう言って歩き出そうとした俺の腕を、白石さんが掴む。
「竹本さん…さっきのコンビニもでしたが、正直に言うとこんな状況で律儀に支払いをしているの、竹本さんだけだと思いますよ…」
衝撃の事実だ…
少なくともインフラが動いている以上、支払いをできる余地はある。
にもかかわらず、みんなは支払いをしないのか。
この商品一つひとつに、どれだけの費用と工数をかけてこの売場に並べられているのか。
それが頭をよぎらないのか!?
それに…
会計をしないと、後々、在庫と売上が合わなくなるじゃないか。
それを、いったい誰が処理をすると思っているんだ。
「それでも僕は、支払います。」
「そうですか…じゃ、もう好きにしてください」
「あ、白石さんの分も支払うので入れてください!」
カゴを差し出す。
しかし、白石さんは何も答えず、そのままレジへ歩いていった。
「……白石さん?」




