第六話 導入提案
天井を見つめていると、ふと、気が付いた。
そうだ。コピー用紙以外にも必要なものがあるじゃないか!
まず、付箋。
確認が必要な内容を書き込めるよう、大きめの物を大量に用意しないと。
そうすれば、ネットがつながった時に、一目見れば確認内容が把握できる。
次に…
竹本がそんなことを考えている頃、白石は竹本のことを考えていたーー。
竹本さん…。ほんとうに大丈夫なのかな…。
ドラッグストアで、痛み止めを手に取りながら、さっきの震えていた様子を思い出す。
腕が動かないって言っていたし、包帯とか必要かな。あとは、消毒液と軟膏と…。
ふと、湿布薬が目に入った。
「…ふふふ。湿布って、なんだか竹本さんっぽい」
つい頬を緩めながら口走ってしまう。
とりあえず、これぐらいでいいか。
早く戻らないと、また、誰か来ても嫌だしね。
湿布薬も手に取り、小走りでドラッグストアを後にした。
ーーパタパタパタッ
誰かが走って来る音がする。
白石さんだとは思うが、確信が持てるまではこのまま、座っておくか。
「…竹本さーん?」
やはり白石さんだったようだ。
「ここです」
そう言いながら立ち上がる。
「あ、そこに居たんですね!色々持ってきたんで、手当てしますよ!」
「ありがとうございます。
ちなみに、事務用品を取り扱っているお店ってありましたか?」
「さっきから何を言ってるんですか?事務用品、事務用品って、今必要じゃないですよね!」
「え?何を言ってるんですか?物流が止まって間もない今だからこそ、必要な物を集めておかないといけませんよね?」
「そうですよ?だから、食料を集めてるんじゃないですか」
ーーふむ。
なぜか、少し噛み合わないぞ。
食料は、たしかに必要だ。
ただ、食料があるだけでは、仕事にならない。そう、事務用品がなければ!
そうか!もしかして…
「あの、白石さんって学生ですか?」
腕に添え木をあて、包帯を巻いてくれている白石さんに聞いてみた。
「急になんですか?大学生ですけど…」
やはり学生だったか。
つまり、まだ事務用品の必要性を実感する前。だから、話が噛み合わないんだ。
そうだ!会計システムの導入を社内提案した時を思い出すんだ!
相手には、必ずしも必要がない。しかし、導入することで、いかに業務の効率化がはかれるか、メリットを明確にするのが一番。
まずは、提案を始めるタイミングが重要だな。突拍子もない提案だと思われない、最高のタイミングを見計らって…畳みかける!
そう考え込んでいる間に、手当てが終わったようだ。思ったより手慣れていた。
「はい。できました。骨が折れてるかもしれなかったので、きつめに固定したんですけど、痛くないですか?」
「痛くないです。固定してもらったおかげで、指先が動かしやすくなりました。ありがとうございます。タイピング程度なら、これで業務に支障はなさそうです。助かりました」
「タイピングって…。
でも、助けてもらったのは、わたしの方なので、お礼はいいですよ。じゃ、食料、集めてしまいますか」
よし。まずは、相手の希望を叶える。
これで、こちらの意見に耳を傾けてくれる可能性がグッと上がるはず。
「そうですね」
率先して食料を集める。
カップ麺もこの際、好き嫌いは言わずに持てるだけ。
「これぐらいですかね?」
買い物カゴに集めた食料を見せる。
「え?何でカゴに入れてるんですか?鞄、わたしてましたよね?」
「はい。支払いが済んだらこの鞄に入れますね!」
「竹本さん…この状況で、支払いとか…」
「あ!支払いは、僕に任せてくださいね!学生さんに払わせるわけにはいかないので!」
何か言いたげな表情をする白石さんに気付かず、セルフレジに向かう。
よし。ここは、現金可だな。
カゴを台に置き、レジの機械を挟んだ反対側に鞄を広げる。
…ピッピッピッ
バーコードをスキャンしながら、袋詰めをしていく。
ーーくそう…
左腕が使えれば、もっと効率よく作業できたのに。
白石さんを待たせて、もし、機嫌が悪くなったら、提案のタイミングが遠のくじゃないか。
なにか…
なにか、この状態を打破する案はないのか…
そうだっ!




