第五話 コピー用紙
「まず、わたしに傷の手当てをさせてください。
わたしのせいで怪我をさせてしまったのに、そのまま解散とかありえないです。
その次に…
さっきの状況を見たうえで、わたしを1人にするんですか?
食料抱えた女なんて、ネギを背負ったカモですよ!」
たしかにその通りだ…。
しかし、帰らねばならない場所がある。
そう、俺には月末処理が待っているーー
あ…ダメだ。
寝不足の深夜ハイのようになっている。
もしかして、これがアドレナリンの力なのかーー。
…っと、その前に白石さんをどうするか。
正直、早く仕事に戻りたい。
ネットが復活したときに、オフラインでできる業務は終わっている状態にしておきたい。
でも、ここで白石さんを1人置いていくのは、さすがに人道的ではない気がする。
仕方ないーーー
「わかりました…。じゃ、集めるものは集めて、一緒に行きましょうか」
「はい!よろしくお願いします!」
覚悟を決めた。
俺が、逮捕されたとしても、死にはしない。
だが、白石さんがもし襲われたら、死ぬ可能性がゼロではない。
そう自分に言い聞かせながら、食料探しに加わる。
「案外、缶詰が少ないですね…。"あんこ”ぐらいしか残ってなさそうですね…」
「そうですよ。外からも入れないみたいで、保存ができて、そのまま食べれる物って言ったら缶詰一択になるじゃないですか」
「なるほど…。中から出られないだけじゃなくて、外からも入れないんですね。ということは、もうこの辺りの地域が隔離されているってこと…か…」
知りたくない事実を知ってしまった。
外からも物資が持ち込めないとすると……
ーーコピー用紙の残数が怪しい。
領収書の申請ミスがあれば、少なくとも1件あたり2枚以上必要だ。
社員一人あたり2件の申請ミスをしているとして、社員数が150人超…
単純計算で、最低600枚の用紙が必要だ。経費精算だけでこの枚数だ。
月末月初の処理は、経費精算だけじゃないというのに。
ガタガタガタガターーー
「え!?竹本さんどうしたんですか!?顔!真っ青で震えてますよ!
そんなに怪我が痛みますか!?」
いや、待てよ…。
外部と連絡が取れないせいで、内容が怪しい領収書の確認もできないんだった。
ということは…
さらに倍以上の用紙が必要になるじゃないか!
「竹本さん!竹本さん!!わたし、近くのドラッグストアで痛み止め探してきますから!食料見張っててください!」
そう言って立ち上がった白石さんの左手首を掴んだ。
ーーガシッ
「きゃっ!竹本さん!?どうしたんですか?」
「白石さん…。
一つ、重要なことを教えてくれませんか…。
この辺りで、事務用品を取り扱っている店を知りませんか?」
「え?事務用品ですか?って、怪我!怪我は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫です。問題ありません。左腕が動かないだけで、右腕があれば処理速度は落ちますが、業務はできるので」
「いや、ほんとに何を言ってるんですか!?左腕、動かないなら、全然大丈夫じゃないじゃないですか!
もう!竹本さんはここで、じっと食料見張っててください!ドラッグストア行ってきますから!」
そう言って、小走りで去っていく白石さんの背中を見つめる。
一回り以上、年下の子に怒られてしまった。
それに、事務用品の店のことも聞けずじまいだ…。
コンビニの床に座り込み、天井を見上げる。
脇には、預かった食料。
……コピー用紙。
あと何箱残っていただろうかーー。




