第四十話 新規課題
<残り91日>
ーー昨日は、泥のように眠っていた。
気がつかないうちに、疲れがたまっていたようだ。
今朝も恒例となっている、応接室での会議が始まる。
食料に寝床、さらにシャワーと、最低限生きていくために必要な物はそろった。
「…そこで、しばらくはこの会社を拠点に、なるべく外出を控えて生活するのはどうでしょうか」
そうすれば、俺も日中に仕事をすることができる。
昨日は、仕事が進まなかった分の埋め合わせもしなければ…。
「実は…昨日、気になったんですけど…」
白石さんが、話しづらそうに切り出した。
「ドームの端の位置って、移動してる気がして…」
「白石ちゃん、それってどういうことっすか?」
真剣な表情に似合わない口調で、黒川くんが聞き返した。
「それが、昨日、ジムの場所を地図にメモしたじゃないですか」
白石さんが、地図を取り出し机の上に置いた。
「昨日、見た感じでメモしただけですけど、ドームの端が、ビル1個分ぐらい、こっちに来ている気がして」
指差された地図の印をみると、見間違いとは言えないズレがあった。
「ドームが…動く、だと?
それはもはや、この状況の定義が根底から覆るということだ。
どうするんだ。俺たちの世界は、今、理そのものが変わろうとしているぞ…」
「水城。普通に喋れねえなら、真剣な話の時は黙ってろ」
「黒川さん!言い方…」
黒川くんの言葉に、地面を見つめだした水城くん。
その様子に気がついた白石さんが、黒川くんをたしなめてくれた。
「みず…蒼きくん、今後は、もう少しだけ、僕にも分かりやすく話してくれると助かるよ」
「…うむ」
俺の言葉を聞いて、水城くんは地面を見つめることはやめてくれた。
黒川くんには、もう少ししっかりと話をしておく必要があったようだ。
「で、ドームの話に戻るんですけど、端がこちらへ移動しているか、移動している場合、その距離を確認した方がいいと思うんです」
「わたしも、勘違いじゃないのか確認したいです」
俺の提案に、白石さんが乗ってくれた。
「2人が行くなら、俺も行くっすよ」
「我は残る。鉄片へと成り果てた哀れな機械を…」
「水城は、留守番ってことだな。
半日以上、俺たちが戻らなかったら、ここ好きに使えよ」
「…うむ」
黒川くんが、勝手に俺の会社の使用許可をだしてしまったことが腑に落ちないが…。
「書類などを動かすときは、後で他の人が整理しやすいように、束で動かしてもらえると助かります」
「戻ってこなくてもか…?」
こちらを向いて、不安そうな表情を浮かべる水城くん。
「はい。戻らなくてもです。ドームが無くなった後、僕の同僚たちが困らないようにしてほしくて。でも、なにかあっても誰か1人ぐらい戻れるように頑張りますね」
安心させたくて言った俺の言葉に、水城くんは、少し泣きそうな表情になってしまった。
「竹本さん。こういうときは、戻ってくるから、って言いましょうよ」
白石さんが、向かいの席で頭を抱えている。
おかしい、間違ったことは言っていないはずだが。
「そ…そうですね。戻ってくる予定なので。では、準備ができ次第、出発しましょうか」
そうして、俺たちはドームの端を確認するため、準備を始めた。




