第三十六話 衛生管理
「さ、今日なのですが、そろそろ体洗いたくないですか…?」
そう。
ドームが現れてかれこれ1週間。
濡らしたタオルで体を拭いてしのいでいたが、残り90日以上もこのままとはいかないだろう。
「たしかに…。
体が汚れていると、病気にもかかりやすくなりますし、せめてシャワーを浴びたいですね」
長い髪の毛を触りながら白石さんが賛成してくれた。
本当は、もっと早く髪を洗いたかったのだろう。
「そうですよね!
なので、会社の西側でシャワーを浴びられるジムやマンガ喫茶など、探しませんか。
その際、着替えとコインランドリーもあればいいんですけど」
提案中、白石さんと黒川くんは頷いてくれていたが、水城くんは真顔…というより、少し嫌そうな表情をしている気がした。
「シャワー探すのは、良いと思うんすけど、満喫って機械系多くないっすか?」
「言われてみれば…。
では、ジムをメインに探してみますか」
なるべく、こちらに攻撃してくる可能性のあるロボとは出会いたくない。
「我に湯浴みなど不要だ。
お主らの帰りをここで待つことにする」
水城くんが、小さめの声で呟いた。
「そんなこと、言わない!
怪我もしてるし、綺麗に洗っておかないと膿んだりするよ!」
たしかに、白石さんの言うとおり、体を清潔に保っていないと、怪我も悪化する可能性はあるか…。
「み…、蒼きくん、じゃ着替えとシャワーに入れる場所があるかは僕たちが探してくるので、両方見つかった後に、一緒に行きましょう?」
横に座っている水城くんに提案をする。
「でも…」
「お前の心配をみんなしてんだよ!
いいから言われたとおり、シャワーが見つかったら浴びるんだ!」
何か言い掛けた水城くんを遮り、正面に座っている黒川くんが言いきった。
言葉と態度にある圧をもう少しどうにかできないものか…。
「もう!もう少し優しい言い方できませんか!?
着替えは探してくるから、シャワーだけは一緒に行こう?
服のサイズは150センチでいいかな?」
「“S”。大人用の」
白石さんの助け船に、少しむくれたような表情で答える水城くん。
「じゃ、決まりですね。蒼きくんは、1人で残ってもらって、僕たちは準備ができ次第出発しましょうか。
留守任せますけど、大丈夫ですよね?」
「案ずるな。我を誰だと思っている?」
留守番は、問題なさそうだ。
ーー会社を出発し、20分ほど歩いた。
今日は、早朝でもないに関わらず、人の気配はほとんどいない。
人口が減ってしまったのか、または、ロボットに警戒しているのか、なんにせよ好都合だ。
「竹本さんって、服いつも綺麗っすよね」
ぽつりと黒川くんが聞いてきた。
「ああ、僕、基本的に1週間分は会社に着替えをストックしているんですよ。
身だしなみは、社会人の基本ですから」
そうだ。
パリッとシワの伸びたシャツとネクタイは必須アイテムだ。
「仕事人間なのは感じてましたけど、1週間分って、多すぎませんか…」
「案外そうでもないですよ。
ほら、今だってさすがに足りなくなってますし」
それに、俺には向かうべき仕事が山積みなんだ!
そうだ。
本来なら、もう月末月初の処理は済んでいないとダメなのに、どうにかオンラインに復帰できないものか…。
ーーそんな会話をしながら歩いているうちに、ドームの端近くまでやってきていた。
辺りを見回すと、リサイクルショップを見つけた。
「あそこだと、服をおいてそうですね」
リサイクルショップ内では、子供服からスーツまで幅広く置いてあった。
とりあえず、各々動きやすそうな服を一式買っていく。
もちろん、水城くんの服も忘れずに。
「そういえば、黒川さん。
水城くんに対して、もう少し優しい言い方できないんですか!」
少しはなれたところで、白石さんが話していた。
俺以外からも言われた方が、黒川くんも態度の振り返りができるだろう。
なにより、怒っている白石さんは少し…。
そうして、リサイクルショップを後にし、次はジムを探す。
地図への記載は白石さんに任せ、歩き始める。
「あれ…もう少し向こうだった気がするけど…」
白石さんが、ドームと地図を見比べ小さく呟いたことも知らずに…。




