第三十五話 新人教育
執務室を散策していた水城くんが戻ってきた。
「この壊れし機械は、一体何のためのものだ?」
差し出してきた手には、俺が修理をしていたお掃除ロボがあった。
「それ、昨日僕たちに襲い掛かって…?ぶつかってきて…?壊したロボですね」
「我もまた、おぬしらと出会う前、あの機械どもに襲われ、命からがらあそこへ逃げ込んだのだ」
水城くんの服がボロボロだったのは、その時に転んだのだろうか。
いろいろと様子はおかしいが、1人は大変だっただろう。
「そうだったんですね…」
「つか、竹本さん、こいつの言葉に順応するの早くないっすか?」
水城くんのことを、“こいつ”呼びとは…。
黒川くんには、後でもう少し話をしたほうがよさそうだ。
「古文や時代劇で出てくる言葉を参考に考えるとある程度は、理解できることに気が付きまして!」
「なるほどっすね」
「え……。時代劇……」
俺たちの会話を聞いて、水城くんが小さく呟いていた。
「それにしても、よくぞあれを打ち倒せたな。
……黒川さんの方が、あれを屠るに相応しいと思っていたが」
「白石さんの援護もあって、ギリギリでしたけどね。
それに、黒川くんはもっと大きい配膳ロボを倒してくれてたんです!
すごくかっこよかったんで、み、、、蒼きくんにも見せたかったですよ」
危ない。
つい、“水城くん”と呼びそうになった。
水城くんの表情を確認したが、特に気にしていないようで、ホッとした。
「そんな風に思ってたんすか。恥ずかしいっすよ」
ふいっと、顔を窓の外に向ける黒川くん。
そうは言いつつも、口角が少し上がっていた。
「ほう……さすが、黒川さん。我を叱るだけのことはある。
だが、なぜ滅びし機械に再び命を吹き込もうとしている?」
「どうするかは決めてないのですが、命令されて行動した結果、壊されて捨てられたらかわいそうじゃないですか」
……。
言葉に出して気付いたが、もしかするとこのお掃除ロボに自分を重ねてしまっていたのかもしれない……。
俺の返事に対し、水城くんは興味がなくなったようで、お掃除ロボを持って、執務室の散策を再開した。
その様子を確認し、黒川くんの方を向く。
「黒川くん、向こうで少し話しましょうか」
「…うっす。なんか、竹本さん上司みたいっすね」
返事はせずに、軽く微笑みながら、黒川くんの背中に手をあて、移動を始めた。
水城くんへの対応について、きっちりと話し合うために。
ーー翌朝。
<残り92日>
久しぶりにゆっくりと目覚めることができた。
中学生の水城くんもいるため、毎日のように早朝から行動するのは、一度控えることになったからだ。
また、ロボットが敵になったことで、昼間も外を歩いている人がほとんどいなくなっているので、早朝でなくても外出ができそうだということもある。
俺は、ルーティン化した、引き継ぎ資料と新たに作り始めた業務マニュアルを上司の机に置き、身支度を始めた。
黒川くん・水城くんも、それぞれ起き身支度が終わったので、応接室で今後の話を行うことにした。
ーー「ここに集まる人数も、いつの間にか増えましたね」
ついに埋まった応接室のソファーを見渡した。
「そうですね。でも、こういう状況だからこそ、1人じゃなくて心強いです!」
“ね!”と言うかのように、横に座っている黒川くんを見る白石さん。
「……あの者たちは、契りを交わしているのか?」
こちらに向き、小声で聞いてくる。
それは、俺も少し気になっていたことだ。
だが、成人した大人同士のことだ。
「どうなんでしょうね?」
向こうからなにか言ってこない限り、こちらから聞かない方が得策だ。
「さ、今日なのですが…」
本題に入ることにした。




