第三十四話 人員配置
青木くん、もとい蒼きくん…じゃなく、水城くんも含め、4人で食料を集め、ビルを後にした。
ーー会社への帰り道。
「蒼きくんはさ、ドームができた日、1人でなにしに来ていたの?」
「我は、己が器たるパーソナルコンピューターに宿すべき“禁断の力”を求め、この地へと降り立った」
また、よくわからない言葉を話している。
さすがの白石さんも、今回の返事には困惑した様子がうかがえる。
「うん…。そっか…。
じゃ、学校は?休みだったのかな?」
「学校などという、凡人どもが群れ集う狭き檻に、この我が収まると思うな…。
我は、定められた枠に囚われる器ではない。」
「そうなんだね…」
独特な話し方のせいか、白石さんも言葉につまり始めた。
「こんなんじゃ、学校でも浮くだろ」
2人の会話を後ろで聞いていた黒川くんがボソッと呟いた。
幸い水城くんには聞こえなかったようでホッとした。
さっきからの様子をみる限り、黒川くんと水城くんは、2人っきりにしない方がよさそうだ。
ーー会社に戻り、白石さんが水城くんに社内案内をしている。
遠目でみる限り、新人の入社案内を行っているようで、少し懐かしい気持ちになる。
そんないつもの日常に戻れるのは、まだ90日以上先か…。
それまで、無事でいられるのかも問題だが…。
それより今は、水城くんが寝起きする場所の確保だ。
「黒川くん、少し手伝ってもらえますかね?」
「いいっすよ」
休憩していた黒川くんに声をかけ、デスクの移動を始める。
「さすがに男3人が寝るには、狭くなってきたっすね」
そうだ。
俺が業務を行えるスペースを確保しているため、必然的に寝転がれるスペースは狭くなっている。
だが、業務を止めることはできない。
となると…。
「そうですね…。
僕が使っているデスクも移動するしかないですね…」
そう告げ、パソコン・資料類をデスクの上へまとめていく。
「竹本さん…、なにしてんすか?」
「ああ。業務に必要な荷物をまとめているんだよ」
「いや、それは見ればわかるんすけど、いまそれやる意味が…」
…。
デスクが使えなくなる以上、別の場所を用意するしかないということが…、わからないのか…?
黒川くんは、いろいろと通じるところがあると思っていたのに残念だ。
「とりあえず、業務で使うものは倉庫に移動しようかと思いまして。
寝袋を置いていたスペースが空いてきたので、そこにでも」
「そうなんっすね」
そうして、全員の横になれるスペースの確保ができた。
ちょうどそこに、社内案内から水城くんが戻ってきた。
「我が寝床はここか…
質素だが、許してやろう」
「人になにかをしてもらったら、まずはありがとうって、習わなかったか?」
黒川くんからの圧に、水城くんの目が泳ぎだした。
「……ぁりがとう」
「おう。次からは、もっとハッキリな!」
敬語?ではなくなった黒川くんは、威圧的なタイプのようだ。
執務室の中を散策する水城くんを見ながら、小さめの声で黒川くんに話しかける。
「黒川くんって、水城くんのこと、あまりよく思ってないのですか?」
「え!?そんなことないっすよ」
意外に大きかった声に、水城くんが驚いたように振り返る。
“なにもないよ”と念を込めたジェスチャーを送ると、頷き執務室の散策に戻っていく。
「すんません。声でかかったっすね。
でも、どうしてそんな風に思ったんすか?」
「さっきもそうだけど、水城くんへの態度が厳しく感じて…」
アゴに手を置き、少し考え込んでいる。
考える姿も案外、絵になる。
これは、スタイルの差なのか…。
「そうっすね...。
俺、前は不動産屋で営業してたんすけど、その時、人に対しての態度とか口調とかがすごく苦労したんすよ」
わかる。わかるぞ。
今の敬語もどきだと、中々大変だったろうに…。
「だから、できるなら早いうちから、対人関係学んだ方が良いと思ったんすけど…」
「黒川くんなりの思いやりだったんですね。
すごい良いと思うんですけど、もう少しだけ、優しい言葉を…」
「え!?俺が営業だった時の10倍は、優しく言ってるんすけど…」
「……そうですか。
じゃ、なにかあったら、僕の方でもフォロー入れておきますね」
黒川くんの前職は、相当厳しい会社だったのかもしれない。




