第三十三話 人員追加
黒川君の視線の先には、十代半ばに見える男の子が床に座り込み、コンビニ弁当を食べていた。
「えっと…、きみ…。
そのお弁当、痛んでないかな?」
「我が腹を、そこらの凡人どもと同列に語るな。
些細な刺激で揺らぐ程度の器ではない。
我が腹には、凡人には到底理解し得ぬ「力」が宿っているのだ…」
…。
……。
初めてのタイプだ。
さて、どうすればよいのか…。
同じような話し方をした方がよいのか?
いや、こちらの質問に対しては、返事をしている。
であるならば、普通に言葉は伝わっていると…
「お腹は大丈夫ってことかな?
家族とか知り合いは、近くにいる?」
長考している間に、白石さんが話しかけていた。
「何度言わせる……。
我が腹は、問題ない。
そして――
ここには、家族もいない。知り合いもいない。
すなわち、俺を知る者は存在しない。
この地では、俺はただの一人の旅人――
誰にも縛られぬ、完全なる自由だ。」
「え~と、お腹は大丈夫そうでよかった。
ドームの中に、知り合いは居ないっていうことでよかったかな?」
白石さんには、話がすんなり伝わるようだ。
もしかすると、若者の言語なのかもしれない。
「竹本さん…。なんなんっすか?あの話し方…」
黒川君が小声で話しかけてきた。
よかった。あの言語に抵抗があるのは、俺だけではないようで安心した。
「いや…僕もよくわからなくて…。
とりあえず、白石さんに任せましょう…」
そう告げ、白石さんの方へ視線を戻す。
男の子をよく見ると、衣服は薄汚れ、膝の部分にいたっては、破れてしまっている。
「…まだ理解できぬか。
さっきから、我が答えたことを毎回復唱させおって。
“知り合いは居ない”と言ったら、居ないのだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
我は、同じ答えを繰り返すほど安い存在ではない」
「そっか…。ちょっと待ってね」
困ったような表情を浮かべた白石さんが、こちらへ振り返り小声で話しかけてきた。
「あの子、1人みたいですし、さすがに放っておきたくないんですけど…」
そこまで言って、言葉に詰まる白石さん。
その後に続くのは、“だいぶ変わった子だからどうしましょう”だと推測される。
「そうっすね…。
ちょっと、あれな子っすけど、放っておくには子どもすぎっすね」
「黒川くん、言い方…。
放って置けないって言うところは同感なので、彼がよければ一緒に行きましょうか。
食料もここで多少は調達できそうですし」
3人で顔を見合わせ、頷いた。
「待たせてごめんね。
よかったら、わたしたちと一緒に行かない?」
「…そこまで言うなら、仕方がない。
貴様らの旅路――
この俺が、共に歩んでやろう。
俺の名は――水城蓮。
蒼き深淵の旅人と呼ぶがいい。
さて…お前たちの名は?」
…。
……。
本名で呼び合うのはダメなのか…?
もしかして、ドーム内の決まりか…?
いや、俺たちは普通に呼び合っているが…。
「わたしは、白石 華音。
こちらのスーツの人が、竹本さんで、もう1人の方が黒川さん。
それで…、蓮くんって呼ぶのはダメってことかな?」
「……何度言わせれば理解する?
“蒼き深淵の旅人”だと、そう言っているではないか。
我が二つ名を、軽々しく聞き返すな。」
「めんどくせ~」
横にいた黒川くんが、ボソッと呟いた。
その声が聞こえたのか、水城くんの表情が曇る。
「あの~。
さすがに、長いと呼びにくいので、せめて“蒼き”とか“旅人”とかはどうでしょう?」
俺の質問に、曇った表情が少し明るくなった。
「……ほう。
我に対して、その丁寧な物言い――気に入ったぞ。
特別に許そう。以後、我を好きに呼ぶがいい」
「じゃ、“蒼き”くんと呼ばせてもらうね」
「うむ。よきにはからえ」
よし。
これなら、青木くんと思えば差し障りなく呼べそうだ。




