第三話 クレーム対応
い…
痛った〜!
これ、顔を殴られた?
え?なにを間違えたんだ…
………。
あ、そうか!
あんな若者が、俺みたいなおっさんに食料を恵んでもらうなんて、プライドが許さないか!
しかも、女の子の前で。
すまない。若者よ。
ここは、大人の俺が先に気付くべきだったな。
よしっ。
「すみません!わたしがコンビニで食料買ってくるので、その後、わたしから食料を奪っていただけませんか?」
「おまえ、ほんとに意味わかんねえよ!」
その声のトーンに、咄嗟に腕で顔を隠す。
ーーバキッ
左腕から嫌な音が鳴った。
ーーと思ったら、激痛が走る。
やばい、これは折れたのでは、なかろうか。
いや、まだだ。まだ、右腕がある。
そして、後ろには、女の子。
オフィスには、書類の束がある。
なんとか切り抜けなければ…
よし、ここはクレーム対応を思い出すんだ。
そうだ。後ろの女の子は、クレームを出してしまった新人社員だ。
そうすると、ここで俺が一番すべきことは何だ。
そう、謝罪だ!
ここで重要なのは、謝るポイントを間違えないこと。余計な推察は一切不要。
ストレートで勝負だ!
「度重なるわたしの態度に不快にさせてしまい、ほんとうに申し訳ございません。
もしよろしければ、そちらのご希望をお伺いしても…?」
これでどうだ!どこが悪いかもわかっていない相手に怒り続けるのは、意外と労力が必要だ!そこを逆手にとったこの手法。
名付けて…
ボクチン、バカだから、ゆるしてチョー作戦!
ーーだめだ…
痛みで頭がおかしくなってきたのかもしれない。
しかし、作戦内容自体に問題はないはずだ。
さあ、彼はどう出る!?
「おまえ…今の状況わかってんのか?」
お…
作戦が効いたみたいだ!
少しクールダウンしている!さすが、俺!って、やっぱり、頭が少しおかしくなっているな。
寝不足もたたっているのかもしれない。
「えっと…状況というのは、お兄さんが後ろのお姉さんから食料を奪おうとしていることですか?」
「いや、そうじゃなくて…、もういいわ。おまえと話すのもめんどうだ…」
男はそう言うと、どこか呆れたような様子で去っていった。
「大丈夫ですかっ!?」
去っていく男の背中を見ていたら、後ろから声をかけられた。
大学生くらいだろうか?
さっきの男にやられたのか、おしゃれな服や鞄が汚れている。
「ははは。ちょっと殴られたけど、なんとかなりましたよ。あなたは大丈夫ですか?」
「おじさ……
お兄さんのおかげで助かりました。ほんとうにありがとうございました!
私、白石 華音って言います!お名前聞いてもいいですか?」
この子、“おじさん”って言おうとしたのに、気をつかってくれたな。
まあ、まだ俺30代だし、おじさん呼びは傷つくから助かるが…。
「わたしは、竹本 剛。少し行ったところのビルで働いているんだけど、今日はどこのコンビニも店員さんがいなくて困っててさ」
「…えっ?
おじ…、竹本さんって、本当にこの状況がわかってないんですか?」
「え〜っと…さっきの男の人も言ってましたけど、“この状況”って、どういうことでしょう?」




