第二十八話 資料作成
「あいつら…元気かな…」
「竹本さんにも心配する人がいるんですね…」
無意識に呟いてしまっていたようだったが、少し失礼な返事が返ってきた。
「実は…してたんですよね…。結婚」
「え!?奥さんいるんですか!?」
「会社に住んでいるのかと思ってたっすよ!」
2人とも、俺をどんな人間だと思っていたのか…。
「"元”嫁と娘が1人。もう小学生になるかな。
当時は、仕事の忙しさを言い訳にして、家庭を顧みてなかったんです。
ある日、仕事から帰ったら、リビングの机の上に離婚届と結婚指輪だけ置かれていて、2人がいなくなってたんですよ」
「………」
「まあ、僕が家族と話し合う時間すら作らなかったのが悪いんですけどね。
ちゃんと話し合うのが怖くて、向き合うことを避けて仕事に逃げてたんです…。
それ以来、2人とは会えてないですけど、せめて金銭面だけでも苦労はさせないよう、養育費は全力で振り込んでますよ!」
「そうだったんですね…」
「元気にしているといいっすね…」
「そんなことより!
ここまで、3,125歩だったんです!」
白石さんと黒川くんが顔を見合わせて苦笑いをする。
「歩数はわかりましたけど、それがどうしたんですか?」
「よくぞ聞いてくれました!
まず、僕は会社を出る前に、歩幅を測ったんです。
1歩は、会社のカーペットタイル2枚弱、5歩で8枚分でした!
カーペットタイル1枚が50㎝だったので…」
「竹本さん、細かい説明は大丈夫なので、結論を…」
早口でしていた説明を遮られてしまった。
条件設定は重要だというのに…。
「つまりですね、僕の歩幅は約80㎝、ここまでが3,125歩ということは、会社からドームの端まで約2.5㎞ということです!」
「そうなんっすね。で、それがなんすか?」
黒川くんが、あまり興味がなさそうに返事をしてくる。
こんなに重要な情報が手に入ったというのに…。
「これで、会社から東側のドームの端までを測ることで、ドームの大まかな直径と中心がわかりますよ!」
「中心っすか…。たしかに、中心ってなにかありそうっすね」
「そうですね。わたしも少し気になります…」
「では、明日は東側を測りに行きましょう!」
2人が頷いたことを確認し、その場を後にした。
ーーーー会社に戻った。
白石さんがメモを取った地図を受け取り、自分で取っていた地図のメモと情報をまとめていく。
それに合わせて、明日の準備として道の選定も進めていく。
2人は、応接室で談笑しているようだった。
息抜きにコーヒーを入れに行く。
ふと、西日が差す窓に目がいった。
ブラインドを上げ、ドームを眺める。
ーー『どうして、あなたはいつもそうなの!?
わたしたちのこと、本当に考えてくれてるの!?』
『そんなこと言われたって、仕事なんだから仕方ないだろ!』
『まんま…ぱっぱ…』
『ああ、ごめんね。びっくりしたね。あっち行こうね』
『とりあえず、今日は会社に泊りだから。いってくる』
ーー最後に交わした会話を思い出した。
空の色が感傷に浸るにはちょうどいい。
窓に手を触れる。
………。
さっ…。
コーヒーを入れるか…。
窓から手を離したその時。
ズズズズズズ…。
ドームの端が、少しこちらに近づいたように見えた。
第一章 ー完結ー




