第十八話 方針検討
黒川くんも加わり、3人で俺の会社に向かう。
さりげなく、自分の分の食料も持ち出していた黒川くんをみると、やはり仕事はできるタイプのようだ。
「黒川さんって、普段もあんなに朝早くからシフト入ってるんですか?」
たしかに、スーパーに着いた頃はまだ明け方だったな…。
白石さんの疑問もよくわかる。
「あぁ…。今日は…ってか、この状況で帰れないうえに、他の店員どっか行くしで仕方なくっすよ。残業は嫌なんで」
「早くから仕事をするのも、残業じゃないんですか?」
「なに言ってんすか。朝は自主練みたいなもんじゃないっすか。そう竹本さん、思いません?」
急に俺に話を振るのか…。
「そうだな。残業は漢字の通り、残った業務だしな」
「そうっすよね!」
うん。
白石さんより歳が近いからか、はたまた社会人だからか、まだ、話は合うようだ。
そんな他愛ない会話をしているうちに、俺の会社に戻ってきた。
ここは、何度戻ってきても、安心感がやっぱりあるな。
白石さんにしたように、会社やオフィスのフロアの案内をする。
「おぉ〜いいっすね。バックヤードって、地面は固いし室温も低いしで、俺が冷蔵されてたっすけど。
ここなら人に戻れる気がします」
「それは良かったです。応接室は白石さんが使ってるので、食料とか片付けたら、黒川くんが使えるスペース、こっちで用意しますね」
「なんか、助かります!竹本さんって、いい人っすね!」
こんなにストレートに褒めてもらうなんて、いつぶりだろうか…
「そうですよね!私なんて、昨日から竹本さんに助けてもらってばかりですよ!」
会話に割って入るように、白石さんにも肯定してもらった。
嬉しくて口元が緩むのを押さえた。
「いやぁ…。そんなことないですよ。たまたま、そういう状況になってるだけで…」
状況の流れでしてきたことでも、こんなに人に評価してもらえるなんて…。
おっさん…嬉しくて泣いてしまうぞ!!
口にしたら、引かれてしまうようなことを考えながらも、平静を装う。
「とりあえず、食料の整理と今後のことについて検討していきましょうか」
2人を応接室の方へ誘導する。
上座に並んで座るよう促し、2人が座ったのを確認し、自分も席に着く。
「まず、僕たちの置かれているこの状況の整理からしましょうかーー」
そう言いながら、白紙のコピー用紙とペンを机に置いた。
要点を箇条書きにしていく。
・“ドーム”によって外部と遮断
・通知は、スマホ→不定期?
・残り日数:97日
・人口が半数になる必要がある→リタイア人数1人∕人口総数は?
・リタイア人数が一定数に達すると終了?
っよし。こんなもんか。
要点を書き出した用紙を2人の方に向ける。
「まず、僕が把握しているのがこの情報。2人はどうかな?」
「そうっすね~、俺が知ってるのは、とりあえず物資が届かないんで、スーパーの在庫が数日しか持たないってことぐらいっす」
「なるほど…。そうなると、残りの日数を耐えしのげるよう食料をどうするか…が問題か…
白石さんはどうですか?」
紙に要点を加筆しながら尋ねた。
「そうですね…わたしはここにある以上のことは知らないですね。あ、ただ、このリタイアした人なんですけど、今朝起きたらいなくなっていたんですよね…」
「それってどういうことっすか?」
昨日のことを知らない黒川くんに、白石さんが説明をしてくれている間に、さらに加筆する。
リタイアした人が自動でいなくなることなんてあるのだろうか。
いや、そんなことを言い出したら、ドームで隔離されている時点でありえないか。
ーーー「そうなんっすね!ってことは、竹本さんは、恩人ってことっすね!」
「そうですね!」
黒川くんへの説明が終わったようだ。
説明の締めが少し照れ臭い。
「よし、じゃあ整理した内容をもとに考えると、まずは、食料の確保が優先かと思います。
ただ、なるべくリスクを減らして食料を確保するために、防具などの調達が先かと思うんですが、どうですかね?」
「そうっすね。それがいいと思うっすよ」
白石さんも、黒川くんの隣で頷いてくれている。
「ただ、防具なんてどこにあるんっすか?」
「ふふふ。よくぞ聞いてくれましたね。
それは、もちろん…」
「あ、文房具店があるんですよ。竹本さんがさっき使ってたパンチとか」
なんということだ…。
俺の話を遮るように白石さんが被せてきた。
つい、じとっとした目で白石さんを見てしまう。
「あ、すみません。竹本さん、この話になると長くなるんで。じゃ、とりあえず文房具店に行きませんか?」
プレゼンの機会を奪われた悲しさから、
すぐには立ち直れそうにない。




