第十七話 退勤
さて…どうしたものか。
38年間、殴り合いなんて、したことが無かったというのに、この2日で3回目だ…。
「おい、おっさん!ボーッとするとか、なめてんのか!?」
男が急にキレ出し、こちらに殴りかかってくる。
咄嗟に腕で顔をガードする。
「ガハッ…」
男の拳が、腹に当たった。
一瞬呼吸ができなくなり、痛みが走る。
よろめきながら後ろに下がり、男と距離をとる。
「ハッ!弱えーな。おっさん。さっさとリタイアして、食料わたせよ」
正直、今すぐ逃げ出したい。
漫画みたいに、ここで助けが来てくれればいいのだが…。
横目で店員の方を見る。
あちらは激しい殴り合い…
いや、店員の一方的な暴行にも見えるが、今すぐに助けには来てくれなさそうだ。
自分1人で耐えしのぐしかない。
ふーっ。
気合いを入れ、護身用にポケットの中に入れていた“あれ”を握る。
なるべくは使いたくなかった。
しかし、ここでやらないと、仕事に戻れなくなる。
「すみませんが、それはできません」
言い終わるとほぼ同時に、握りしめたパンチで男を殴った。
ーードサッ
当たりどころがよかったのか、男が倒れた。
これぞ必殺技、
“パンチでパンチ”。
いや、今はそうじゃない。
警戒しながら倒れた男へ近づき、口元に手をかざす。
スースー
よかった。呼吸はしている。
店員の方は、どうなっただろう。
振り返って見てみると、そちらもちょうど男が倒れたようだった。
「店員さん!大丈夫でしたか?」
急いで駆け寄ろうとしたが、殴られた腹が痛み、歩くことしかできなかった。
「あぁ、大丈夫ですよ。怪我させてもよかったんで。
暴れる万引き犯を怪我させないように取り押さえた時の方が大変でした」
さらっと凄いことを言ってのけたな…。
「店員さんが居てくれて助かりました…ありがとうございます」
そう言いながら、搬入口の扉を開ける。
ーーガチャッ
少し離れた段ボールの影から白石さんがこちらを見ている。
「…お二人とも、大丈夫でしたか!?」
俺たちのことを確認するやいなや、駆け寄ってきた。
「うん。大丈夫でしたよ。この店員さんが手伝ってくれたんで、なんとかなりました」
「よかったです!
あの…店員さん…よかったら、私たちと一緒に行動しませんか?」
白石さんの発言に驚いた。
…が、それもそうか。
俺みたいなおっさんと2人なんて、不快でしかないよな。頼りにもならないし。
「あ~、いいっすよ。ちょうどシフト終わる時間なんで」
「よかった!ありが…、って、え!?
シフトが入ってたから、さっきまで商品を並べてたんですか!?」
「あ、そうっすよ。それ以外に何があるんすか?」
「竹本さんといい…あなたといい…」
なぜか白石さんが頭を抱えている。
シフトが決まっている以上、働くのは当たり前じゃないか。学生さんには、まだ難しいのか?不思議だ…。
「あ、お名前聞いてもいいですか?」
「俺、黒川 亮っす。お客さんたちは?」
「私は、白石 華音。で、こちらが、昨日知り合った…」
「竹本剛です。よろしくお願いします」
「了解っす。白石ちゃんと竹本さんっすね」
「あの~ちょっと気になったんですけど…」
さっきから気になって仕方なかったことを尋ねてみる。
「お店の中で働いてた時と、印象だいぶ違いませんか…?」
「え?当たり前じゃないっすか?プライベートまでキッチリしてたら、もたないっすよ」
「あ…そうですよね…ははは」
同意はしてみたものの、ショックが隠せない。
同志だと思ったのに…。




