第十六話 接客業務
「あの…よかったら、バックヤードから外に出ますか?」
「え?出られるんですか?」
男性からの思いもよらない提案に驚いた。
「あ…はい。商品の搬入口になるんですけど、店の裏手に出られます」
「ありがとうございます!竹本さん行きましょう!」
驚いているうちに、白石さんが返事をしてくれていた。
店員の男性の後ろを2人でついていく。
鮮魚コーナー近くの扉から、バックヤードへ入る。
少し肌寒い。
さらに奥に進んでいくと、段ボールが大量に積まれた場所がある。
その段ボールが囲むように、人が一人寝転がることができそうなスペースがあった。
「あの…もしかして、ここで寝泊まりしてるんですか?」
「そうですよ。ドームのせいで帰れないので、雨風がしのげるだけマシだと思って」
たしかに、屋外で寝るよりはマシだが、固いコンクリートの上に段ボールを敷いただけでは疲れが取れないだろう。
どこか無気力な様子に見えるのは、疲れからきているのかもしれないな。
「そうなんですね…あまり無理はしないようにしてくださいね」
心配そうに白石さんが声をかけている。
「あ、慣れてるんで大丈夫ですよ。あ、それよりここが裏口です」
裏口の扉の鍵を開けてくれた。
「ありがとうございます!」
お礼をいいながら、扉を開けるーー
ーー「おう!ちょうどいいタイミングで開いたぞ!」
野太い男の声がした。
ヤバイ…
そう思ったときには、扉を掴まれ閉めることもできなくなってしまった。
体格のよい男性が2人、目の前に立っている。
店内に逃げてもいいが、さっきレジから見た人影が店内に入ってきていた場合、挟み撃ちになる。
「よう。食料、貰ってくぜ」
背負っているリュックへ手が伸びてくる。
「すみません。これは、お渡しできません」
咄嗟に後ろへ下がる。
「あ…そう。それなら、奪うだけだ」
言い終わるのと、ほぼ同時に殴りかかってくる。
「竹本さんっ!」
後ろから、悲鳴に近い白石さんの声がする。
またこのパターンか…。
避けることも防ぐことも間に合わないと判断し、目を閉じる。
俺はただ、仕事を進めたいだけなのに…。
昨日から、まともに仕事ができていないストレスで気が狂いそうだ。
ガンッーー
また殴られた…?
おかしい。
殴られた痛みも衝撃もなく、目を開けてみる。
俺を殴ろうとしていた男が頭を押さえてうずくまっている。
男の近くには、缶詰が落ちている。
「おい!大丈夫かよ!?なにやってるんだよ!」
もう1人の男が、うずくまっている男に声をかけている。
その光景に唖然としていると、後ろから声をかけられた。
「大丈夫ですか?俺で良ければ協力しますよ」
缶詰を手に持った、店員が話しかけてきた。
「あ…あぁ、彼のこと、あなたがしたんですか?」
うずくまっている男を指差す。
「そうですよ。搬入口から入ってくるのは、強盗と同じですから」
表情も変えずに飄々と言ってのける。
頼もしすぎる…。
俺が女なら、いまので惚れていたかもしれない。
…が、いまはそれどころじゃない。
「ありがとうございます。すごく助かります。協力お願いします」
「はい。お客様が円滑に退店できるようにするのも仕事のうちです」
「白石さんは、中で待っていてください」
店員と2人で外に出て扉を閉める。
それとほぼ同時に、うずくまっていた男が立ち上がってきた。
「おまえ、よくもやってくれたな」
完全に怒らせてしまった…。
2対2ではあるが、如何せん体格が違いすぎる。
店員の男は、そんなことも気にせず、缶詰をぶつけた男へ向かっていった。
俺は、自動的に残った男の相手をすることになった。




