18.告白いべんと、きちゃったのじゃ
3人の女の子にちんちんを見られるという精神的な屈辱を負ったあと、俺は全裸のまま寮に戻った。
ごっちゃんが着物の帯を貸してくれようとしたんだけど、まさか、帯をちんちんにあてるわけにもいかないし、断った。
俺はスキル《身体能力強化》で寮にダッシュで帰った。
風が、気持ちよかった。
なんか、もう、水中じゃないかってくらいの風圧でちんちんブラブラして、うひひ。
新たな快感に目覚め……死にたい……。
俺は部屋に戻ってから、服と下着を取り、風呂に向かった。
汗をかいたし砂や埃で汚れていたし、何よりも気分をさっぱりさせたかったのだ。
「うっうっ」
全裸であることが当然のお風呂で俺は泣きながらシャワーを浴びた。
惨めだ。惨め過ぎる。
よりにもよって、明日、異世界に連れ去るか告白するかしようとしていた相手に、ちんちん見られた……。もう、あわせる顔が無い。
俺はしばらくの間、湯船につかって泣いた。
とぼとぼと部屋に帰ると、妹がベッドにちょこんと座って、タブレット端末をいじっている。
あれ。ごっちゃんそっくりの妹を見ていたら、なんか涙が溢れてきた。
「わわっ。どうしたの?」
俺は立ち上がろうとする妹を手で制してから隣に座った。俺の体重でベッドが凹み、妹の身体が傾いて、俺に寄り添うようになった。俺も妹に体重を預ける。
「さっき、酷い目に遭った」
「うん。大変だったね」
妹の手が俺の頭に優しく触れる。よしよしと、撫でてきた。
「なあ。女の子の価値観で教えてほしいんだけど」
「うん」
「異性の裸を見たらどうする?」
「どうするって?」
「やっぱ、嫌いになっちゃう?」
「嫌いにはならないと思うけど……」
「いや、でも、顔を真っ赤にして『きゃーえっちー』でしょ?」
「んー。それは、いきなり裸を見せられたら恥ずかしくなっちゃうんだよ」
「でしょ?」
「うん。でも、嫌いとは違うと思うんだよ」
「そう?」
「うん」
「変な物を見せるなんて許せないって、怒ったりしない?」
「んー。逆に『恥ずかしい思いをさせちゃって、ごめん』って思うんだよ。だから、ワシ――」
「そっかあ。でも、お前は俺の深層心理と繋がっているからなあ」
「え? そうなの?」
「そうだよ。お前は俺の能力で生み出した架空の妹なんだから、やっぱ、俺が望む答えを言うようになっていると思うんだよ」
「初耳なのじゃ……。ワシ、お主の能力で創られた存在じゃった?」
「うん……。彼女どころか友達すらいない非モテの俺がさ。寂しさを紛らわすために能力で生み出した存在なんだよ」
「寂しかったの?」
「うん。3年前……。異世界の魔王を倒して日本に戻って……。なんか言いようのない寂しさを覚えたんだよ」
「うん」
「それで、胸に開いた穴のような寂しさを埋めたいって思っていたら、スキル《運任せの乱発能力》でスキル《架空の妹創生》が出て、お前が生まれたんだよ」
「しょ、衝撃の事実なんだよ……」
「ごめんな」
「でも、どうして、そんなことを今、言うの?」
「それが……」
分かってる。
言いにくいけど、言わないといけないんだ。俺自身のために。
「俺、好きな人が出来たんだ」
「うん。それって、誰?」
「知ってるだろ。何度も言わせるなよ。お前の姿や喋り方が、どんどん近付いているんだし……。もう、隣に並んでも違いが分からないくらいそっくりなんだぞ。って、俺と知識を共有しているんだから、知っているだろ」
「う、うん。そうじゃった」
「俺、お前に逃げてた。自分で創りだした幻に癒やしを求めていた」
「ワシ、癒やし系かー。厳しいお姉さん系のつもりじゃったんだがのう」
「でもさ、こんなんじゃ駄目だよな。人を好きになったのに、その人とそっくりの幻を作って甘えるなんて」
「うん。ごっちゃんは、どんびきじゃねー」
「だからさ。もう、お前を呼びだすのは止めようかと思うんだ」
「そっかぁ……。ワシ、用済みかぁ……」
「うん。ごめん。本当にごめん。俺の都合で作り上げておいて、いまさらさようならなんて勝手すぎるけど……」
「うん」
「3年間、本当にありがとう」
「うん。どういたしまして」
お互いにぺこり。
「あの、さ」
「ん?」
「本当に、本当に、勝手で悪いんだけどさ」
「なあに?」
「最後の最後にさ、膝枕してくれないかな」
「んー?」
「やー。未練がましいというか。最後に兄妹のスキンシップをしたいというか……。ごっちゃんと仲良くなれるとは限らないし、それこそ、膝枕をしてもらうなんて夢のまた夢だし。だから、さ」
「そっかー。ええよ」
妹がベッドに乗って膝をぽんぽんと叩いた。
俺は少し照れくさかったけどそっと、頭を妹の膝に乗せた。
妹のひんやりとした手が、風呂上がりでほてった俺の額に触れる。
「ごめんな……」
「んー?」
「本当はお前に命や感情なんてないのかもしれないけど……。俺、お前のこと大事だったから、本当に、本当の妹みたいに思ってた」
「んー」
「でも、ごめん。ありがとう。今まで、ありがとう」
「うん。私も感謝しているよ。ありがとう」
「もう、このスキルは使わないよ。だから、お別れだ」
「そっかー。最後かー。そうだね。ごっちゃん、怒るからね」
「うん。さようなら」
俺はスキルを解除し――。
ガチャッ。
ドアが元気よく開いた。
「兄ちゃん、アイス貰ってきた―」
妹そっくりの人が袋アイスを2つ手にして部屋に入りかけたところで、スッと消えた。
あれ?
妹は俺の頭を抱えて膝から下ろすと、ベッドから降りて、床に落ちたアイスを拾う。
「アイス、食べよっか」
「う、うん」
俺が起き上がると、妹は再び俺の隣に座り、アイスを出して小さな舌でぺろぺろとなめ始めた。
「え、あれ?」
「んー。食べないの? 袋に入ってたから綺麗だよ?」
「あ、うん」
袋を開けて、アイスを1口かじった。イチゴバニラの甘さが口いっぱいに充満する。
「何で、消えないんです?」
「え。消えないよ?」
「ちょっと、待って……。え?」
「アイス溶けるよ?」
「あ、うん」
あー。
やっちまった……。
この人、まさか。
「あの、もしかしてですけど、貴方、僕の能力で生み出した妹じゃなくて」
「うん。ごっちゃんです」
ごっちゃんだ!
俺が恥ずかしい秘密を白状したり、告白したり、膝枕してもらったりしたの、ごっちゃんだ!
さあ、どうする。
片思いしている女の子に遠まわしに告白しちゃった直後、同じベッドで寄り添うように座ってアイスを舐めている状況で、俺はどうする。
ははーん。
あれだ。
別にどうもしなくて良い。
そろそろ、塩とか醤油とかソースとかケチャップとか、うっとうしい4人組が俺の部屋に乱入してきて馬鹿騒ぎするはずだ。
ほら……。
……。
……誰も来ない。
もう夜遅いもんな。みんな訓練で疲れているから熟睡中だよな。
ぺろぺろ。
アイスを食べ終わっても誰も来ない。
「ゴミ箱、どこ?」
「あ、うん。捨てておく」
しまったー。
条件反射的に、ごっちゃんの舐めたアイスの棒が入った袋を受け取ってしまった。
いや、捨てれば良いんだけど、勿体ないし、かといって取りだして舐めるような変態行為はしたくないし、いや、捨てればいいんだけど、でも、やっぱ片思いしている女子の舐めたアイスの棒なんだし、捨てるには忍びないんだけど、一旦捨てておいてごっちゃんがいなくなったらペロペロしようなんて悪巧みせずに、いや、捨てればいいんだけど。
「ん、ゴミ箱、無かった?」
「あ、ある。あります。ゴミ野郎が部屋の隅にいます。って、ははっ、ゴミ野郎は俺ですね!」
俺はごっちゃんから離れたくなかったのでスキル《小人による瞬間移動》でゴミを飛ばして捨てた。
「膝枕、再開する?」
「あ、いえ、その、ありがとうござました。十分に堪能しました……」
したいけど、恥ずかしいもん。さっきは妹だと思いこんでいたから頼めたんだもん。
それから、互いに無言になった。
二の腕の体温を交換するだけの時間が、緩やかに流れる。
「はっきり言ってほしい……かな」
「ごめんなさい! 調子に乗ってました! いろいろとすみません! でも、けして、意図的にごっちゃんそっくりの女の子を作り出したわけじゃなく、偶然、似てしまっただけですし、エッチないたずらとか、そういうのは一切してません! 本当です!」
俺はベッドの上で土下座した。
平身低頭、謝るしかない。
「俺の知らないものは作れないわけで、当然、裸とか知らないんで、そういうエッチないたずらとかできないんで、ほんと、妹に接するようにしていたので、何もやましいことなど、一切なく」
「んー。そうじゃなくて……」
不満げな声が聞こえる。
ごっちゃんが土下座したままの頭を上から、つんつんと突っついてきた。続いて、のの字を書くように、ぐりぐりしてくる。
「流星が、好きな子そっくりの女の子を能力で創ったとか、好きな子そっくりの子に膝枕をしてほしいとか……。そういうのは……。えっと、分かったんだよ。でも、ね……」
不満げな声はだんだんと、少しずつ言い淀みだし、何だか言いにくそうにしている。
怒ってないのかなーと、ゆっくり上体を起こしたら、ごっちゃんめっちゃ真っ赤で、ハロゲンヒーターみたいにおでこから熱を放射していた。
向かい合った瞬間、俺の顔も熱を受け取って、汗を噴き出すんじゃないかという熱を帯びてきた。
「ごっちゃんは、まだ『好き』と言われてないんだよ……」
きたーっ。
絶対、どう考えても、実はごっちゃんも俺のこと好きでしたって表情だ。
もう照れまくって顔まっかだけど、告白してほしいから必死に耐えて俺を見つめている!
これ、俺の勘違いじゃなかったら、絶対、良い返事が貰えるよ!
というか、もうOK的なアレじゃないの。
この先の展開、間違いなく、好きです、私もだよ!
というか、深夜の自室にふたりきりで、このシチュエーション。
え、まさか、ごっちゃん、最初からこうなることを期待して、来ていたの?
そうだよ。そうに違いない。
よ、よし、俺も、男だ。
男なら、人生に一度は、女の子にモテる瞬間がある。
それが今だ。
告白だ。
「ごっちゃん、俺、ごっちゃんのことが」
ごっちゃんの肩に手を置いた。
ごっちゃんは視線をそらさずに、俺の手に手を重ねてきた。
そして、部屋の中央、何もない空間に突然、透明な筋みたいなのがシュッと走った。
まるで、空間がずれたかのような不思議な断面から、白薔薇のような服を着た長身金髪の美女がスルッと出てくる。
「やっと帰ってこられました。護国殿。世界の端まで飛ばされるかと思いましたよ」
クッコロさんだ!
さらに窓ガラスがパリーンと粉々に砕けて、何者かが勢いよく飛び込んできた。
「いた! こんなところにいたのね! ダーリン!」
げえっ。さっきまで対峙していた、全裸にペイントしたかのようなボディライン丸出しの、三つ目痴女悪魔だ!
「さあ、赤井流星よ。特訓は終わっていませんよ。私と互いに辱めあって、新たな一面を開発しあおうではありませんか」
「あら。貴方、流星っていう名前なの。素敵ね。そんな素敵な貴方の、ダイヤモンドよりも硬いアレで、私の初めてを奪って。このキャラで未経験なのを馬鹿にされるのは、もう嫌ッ!」
「ひいっ」
俺はベッドで身を丸めてごっちゃんの背後に隠れる。
「ふーん。そういえばさっきも気になってたんだけど、流星はいつの間にかクリストリスと仲良くなっていたんだよね」
「そ、そんなこと、ナイですよ」
「深夜にふたりきりで体育館にいたよね」
「あ、あれは、本当に訓練のつもりで」
「でも、全裸だった」
「ちょっと、クッコロさん! 説明して! 何してたか説明して!」
「うむ。流星が私のおっぱいを食い入るように見つめていたから、赤ちゃんみたいに可愛く思えて、胸が少し、きゅんっとした」
「違うでしょ!」
「あら。ダーリンはおっぱい好きなのね。ほら、見て。私のおっぱい、そんな小娘のよりも立派なおっぱいを見て。スライムよりも柔らかくて変幻自在なのよ。ほら、ほらぁ。へーんけい、流星型おっぱいよ」
「お前は悪魔クラスに帰れよ!」
「置いてかれちゃったから、私には帰る手段がないのよ。ね、ダーリンの部屋に泊めて」
「他の場所に泊まれよ!」
「もう。うぶなんだから。良いじゃない。どうせ私たち、明日になったら異世界転移訓練学校でのことはぜんぶ忘れちゃうわ。だから、楽しみましょう」
「え?」
俺は、痴女悪魔に押し倒されてしまった。
けして彼女の誘惑を受け入れたわけではない。彼女の言葉に気をとられてしまい、抵抗できなかったのだ。
ぜんぶ忘れちゃう……。
そう、俺は異世界に召喚されて、一時的に、この異世界転移訓練学校にいるだけだ。
明日、ここでの記憶を失ってから、召喚された先へと向かうことになる。
それは、ごっちゃんのことを忘れるということだし、ごっちゃんと2度と会えなくなることも意味していた……。
告白は成功したかもしれない。
けど、ごっちゃんのことを忘れて、離れ離れになってしまうという問題は、解決していないのだ。




