17.うごごご、だよ。次元の狭間から悪魔が襲来したのじゃ
闇夜の深い断裂から、粘着質で濃密な気配が零れ落ちてくる。おそらく、これが魔力というやつだろう。血や臓物が腐敗したような臭いを孕み、生温かい風が漂ってくる。
「大丈夫? 拙いことになったんじゃよ!」
更地となった体育館跡地に、銀色の羽を生やしたごっちゃんが飛んできた。
「空だけじゃなく、流星も拙いことになっておったー!」
勢いがつきすぎていたごっちゃんは、視線を首ごと逸らした拍子にバランスを崩して転びそうになった。
「変なもの見せるな―!」
体勢を崩したままぴょんっと飛んで、くるくると回転して、体操選手のようにY字で着地した。銀の羽が解けて、蝶々の髪飾りになって頭にとまる。
「ど、どうして流星は全裸なの! クリストリスは何でおっぱい丸出しなの!」
上空の異常事態に気をとられて忘れていたが、俺は全裸だった。不幸中の不幸のさらなる不幸中の、ほんのわずかな幸いなことに、俺の股間で猛っていた闘神は恐怖で眠りについている。
というか、通常形態とはいえ、ごっちゃんに見られたっぽい。俺は両手で股間を覆い隠して身体を小さくした。
泣きたい。
俺のガラスハートが、粉々に砕ける……。
「護国殿。私は赤井流星と互いに辱めあっていたのです」
「違うよ!」
もうやけっぱちで俺は叫んだ。
好きな女の子の前で全裸になってちんちん見られちゃったら、俺にはもう大声で叫んで、色々とうやむやにするしかないのだ。
「必殺技の特訓をしていて服が吹っ飛んだだけです! 激しい特訓のせいです!」
「早く何かを着てよ!」
「何かって、何もないよ! ごっちゃんの服を貸してよ!」
「無理だよ。着物の下は肌着なんだよ!」
あたりは綺麗に更地になっているので、服などあるはずもない。
「私の服を貸しましょうか?」
「いいから、クリストリスはプルンプルンの胸を隠して! いつまでも出していると、ワシが精神ダメージを喰らうんじゃよ!」
こうやっていつまでも馬鹿騒ぎしていられたのなら、どれだけ幸せだっただろうか。
上空で、まるで夜空の裂け目から溢れかえるように、魔力が次々と現れる。
「悪魔クラスの生徒だよ。どの子も魔王級ばかりだよ」
「俺が……。俺のせい?」
上空の悪魔はあっという間に千近くに達した。
一つ一つが異世界を支配するほどの強大な魔王だ。身体の芯から震えがこみ上げてくる
「うっ、ううっ」
俺は俯いてしまった。背後から亡霊や死者がのし掛かってくるかのような、あらがいようのない圧力。
俺はもう、二度と空を見上げることができないかもしれない。
「はっ……はっ……はっ……」
情けない。俺は息の吸い方を忘れてしまったかのように、小刻みに吐き続ける。
ああ、だんだん胸が苦しくて、目がちかちかしてきた。
「ふむ」
脳筋だから脅威を理解できていないのか、同等の危機を経験したことがあるのか、クッコロさんはごく自然に軽く息を吐く。
「よく分かりませんが、悪魔などは滅ぼしてしまっても良いのでしょう?」
小石でも蹴るかのように軽く言ってのけ、クッコロさんは剣を一閃したあと、虚空に手を突っ込んだ。
手首から先が壊れたテレビのように乱れて消える。どうやら彼女の特殊技能で異空間から何かを取り出そうとしているようだ。俯いたまま横目でちらっと見ただけだから判然としないが、学習ノートのような、書物らしきものだ。
「つい先日、私は新たな能力を求めて異世界へ赴き、畏るべき禁断の魔導書を発見しました。そこに書かれていた、魔属性の敵を一瞬にし焼き殺す術を使いましょう」
術?
近接戦闘に特化した肉弾戦騎士かと思っていたけど、クッコロさんは術も使えるの?
「神霊樹に住まう神龍よ、猛き煉獄の炎で我が眼前の敵を焼き尽くせ! コー・エル・オー・ゾグド・サン……。滅ぼせ! 神々の黄昏!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!」
まるで俺の体内を食い千切るかのような悲鳴が炸裂した。自我の崩壊に苦しむ哀れな人間が悶え苦しむ悲鳴。
上空の悪魔に変わった様子は無し。
叫んだのは俺だ!
俺はクッコロさんに飛びついてノートを奪い取った。
「なんで! なんで! なんでこれが?」
間違いない。日本の俺の部屋の机の引き出しの中に隠してあるはずのノートだ。ゴグヨ製のノートの表紙を黒のマジックで塗りつぶした、俺お手製の恥ずかしい過去だ。
「急に叫ばないでください。しかし、その魔導書、術が発動しませんね」
「当然でしょ! 何を考えているんですか! というか、どっから出したの!」
「ノートサイズの物を異世界から持ってくることなど、容易いことです」
「やめてよ! それは筆者を対象にした、精神を蝕む術だよ!」
「ふむ……。辱めれば新たな能力に目覚めるかと期待したのですが、そう都合よくはいきませんね」
む……。紋章の浮かぶ金眼が意外と真面目な表情をしている。美系でまつ毛が長いから伏し目がちに考え込む顔は、やはり綺麗だ。
怒り任せとはいえ、額がくっつきかねないほど顔を近づけてしまった。恥ずかしいから、不自然にならない程度の早さで離れる。
「ああ。そうそう。貴方の部屋のベッドの下に、護国殿によく似た女性の裸体が描かれた書物がありましたが、これはいったい――」
「ぎゃああああああああっ!」
クッコロさんの手にあるのは、かつて俺が自転車で1時間かけて県外の書店で買ったエロ漫画だ。
駄目だ、この人、ただの天然バカ脳筋だ。
と思ったんだけど、クッコロさんはエロ漫画を捨てると(いや、俺の部屋に戻しておいてくれよ!)俺の顎に触れ、クイッと持ち上げた。
「緊張は解けたようですね。さあ、まだ、空を見上げられないほど怖いですか?」
俺はクッコロさんに顎を上げられているから、自然と上を見ていた。何の抵抗もなく、上空に群がる悪魔の群れを、視界に収めた。
「貴方は私が見込んだ戦士です。あの程度の悪魔に恐怖しないでください」
金眼に輝く紋章を見ていると、まるで勇気が湧いてくるようだ。
「膝の震えは治まったようですね」
クッコロさんが視線を降ろす。つられて俺も下を見て、全裸だったことを再認識。
「ぎゃああああああああっ!」
俺は股間を押さえ、恐怖とは別の理由で縮こまり、震えるように体を小さくした。
ああ、もうやだ。
クッコロさんにはさっきから何度も見られているし、ごっちゃんにだって、また……。あれ?
そういえば、ごっちゃんはさっきからやけに静かだな。
「あの、ごっちゃ――」
なんだか見覚えのあるノートのような物を食い入るように見ている。
「あれ?」
俺は股間を押さえている。当然、さっきクッコロさんから奪取したはずの黒いノートは手元にないわけで……。
「あの、ごっちゃん、それ……」
「う、うむ。いかんのう。照れるのう」
はにかんだごっちゃんが開いていたページには、理想のお姫様というタイトルで下手なイラストがあり、さまざまな設定が書き込んであった。
簡単にまとめると、そのキャラクターは伝説の勇者ブルー・スターが救った異国のお姫様。姫様はブルー・スターのことが好きになり、ふたりは恋人になる……という設定だ。
ブルー・スターは俺の名前、赤井流星を英語にしたものだ……。
そして、イラストは、ごっちゃんそっくりの長い黒髪だ。格好自体は、昔のファンタジーゲームに出てくるような、ビキニアーマー。最初の授業でごっちゃんが着ていたようなものだ。
「ひいいぃ……。やめて、やめてぇ」
「ねえ、これ、ワシ? ワシ? のう、流星。お主はこういうのが好きなの?」
「ひいいぃぃ」
うるんだ上目づかいの魅力は破壊力ありすぎて、俺から理性と正常な判断力を奪っていく。恥ずかしくて逃げ出したい気分と、思いっきり抱きつきたい気分が混在して、もう俺は混乱まっただなか。
どうすりゃ良いんだ。
誰か。誰か助けて……。
(……か……)
え?
気のせいだろうか。何か聞こえた?
ごっちゃんには聞こえていないのか、顔をノートで覆って、眼から上だけちらっと出しては、さっと隠れる。
(……いか……)
よく聞き取れない……。
いか? イカ? 脚が何本だっけ。たくさんある、あのイカ?
(……らが……。ちから、が……欲しいか……)
あ、違った……。
これ、目覚めるやつだ!
何者かが俺の心に直接語りかけ、取り引きを持ちかけてきているんだ。
精神的に追い込まれた俺が、誰かに助けを求めたから何者かが応えてくれているんだ。
何というアホなタイミングだ。
(自分と周囲だけ時間を巻き戻すか、人の記憶を消す能力をください)
(駄目、だ……)
(何でですか。力をくれるんですよね?)
(周囲という、条件だと……我の記憶まで……消えてしまう……)
「え?」
反射的に見上げると、上空の悪魔の群れから数人が俺たちの方へと降りてきた。
俺たちの前に降り立ったのは四体の魔物。
俺に語りかけていたのは、この中の魔物の誰かなのか?
俺をからかうために話しかけてきたのか?
無骨な刀を肩に乗せた隻腕の悪魔が、クッコロさんの前に立ち、値踏みするかのように見下ろす。着流しの胸元を開け、まるで侍のような風貌だ。
双頭の悪魔が、爬虫類のような頭それぞれの視線で俺とごっちゃんを睨み、にたりと笑う。
額に第三の目を持つ女性タイプの悪魔と、四本腕の三メートル近い巨体の悪魔が、やや離れた位置から俺たちの様子を窺っている。
サムライ、トカゲ、サキュバス、ギガンテスといった感じだな……。
最初に口を開くのは、双頭のトカゲ悪魔だ。
「くっくっくっ。我ら魔神ゾニアルゲノムグルベノスゾンギ様に仕えし悪魔千大将軍」
「長ッ! 多ッ!」
魔神の名前は長くて覚えられないし、上空の奴らを含めているんだろうけど、大将軍が千体は多すぎる。四天王くらいにしておいてよ……。
それに、千大将軍って、仙台を連想するから、あまり怖くないネーミングだ。
俺の突っ込みを怯えとか驚愕とかと受け取ったらしく、双頭の悪魔は気分よさげにゲッゲッと喉を鳴らす。
「ゾニアルゲノムグルベノスゾンギ様の右腕と呼ばれる我ら千の魔王。主の命にて使いとしてこの地に降臨するものなり。ゲッゲッゲッ」
「多ッ。ゾニなんとか様の右腕、多ッ! どんだけ異形なんだよ!」
俺の突っ込みに反応するのは、妖艶な3つ目の女悪魔だ。
「貴様。先ほどから股間を覆い、いったいどのような武器を隠し持っているのかと思えば……」
第3の目が開き、全てを強制的に見通すかのような、鋭くも禍々しい眼光を放つ。
3つ目の悪魔っ子は全裸にペイントしただけのようなボディライン丸出しで、頭部や脇から巨大な羊の角みたいなのをはやしている。存在自体がエロ系だ。股間もお尻側から伸びる湾曲した角のような物の先端で隠しているだけで、かなり際どい。
蠱惑的な笑みを浮かべてから、唇を舌先でぺろり。
「ただの全裸ね」
「見られたーッ! 悪魔にも見られたー! ねえ、僕、何したの。何で、こんな短期間に3人もの女の子に裸を見られなきゃならんの!」
「貴方は私を女の子扱いするですね。やはり、見どころがあります」
何故かクッコロさんからの好感度が上がった。
「わ、私が、女の子……。そんなこと言われたの初めて……」
悪魔っ子が頬を染めて変なフラグを立てようとしている。
「わーっ! 記憶を消す能力がほしい! さっき契約を持ちかけてきた悪魔、早く! 早く!」
叫んでみても返事はなかった。くそうぅ……。
「赤井流星よ、安心してください。私の世界ではオークが全裸で闊歩しています。グロテスクなちんちんは見慣れていますし、直視に耐えないような物は何本も切り落としました。大丈夫。貴方のは小さくて可愛いです。切断対象ではありません」
わーっ!
さっき俺の股間を平然とつついていた金髪美女がちんちん言ってる。
「ふふふっ。私も魔獣どもの刺や鱗に覆われた一物を飽きるほど見ているわ。人間の貧相な皮膚で覆われた不格好で矮小な一物を見たところで、何とも思わないわよ」
わーっ! 悪魔っ子まで変なこと言いだしたーッ。
「私の身体よりも大きなドラゴンのちんちんを切り落としたことがあります」
「ふふっ。私は、神々との戦いの際に、ゾニアルゲノムグルベノスゾンギ様の股間を護る栄誉を与えられたわ」
「む。貴方の仕える魔神とやらは巨体なのですか」
「ええ。世界そのものを覆い尽くすほどの巨体よ。股間にそそりたつ神具でさえ、惑流星よりも大きいわ」
なぜ異世界の救世主とエロ悪魔は、いままで見た中で最も巨大なちんこ自慢みたいな、低次元な応酬をしているのだ。
俺が救いを求めて隣のごっちゃんを見ると、伏せた顔を両手で押さえている。指の隙間からも、顔が真っ赤なのがよく分かる。
うん。
これが普通の女子の反応だよな……。
「ふ、ふん。大きさなどを自慢するようでは話になりません。男の肉体なら、やはり硬さが重要でしょう」
駄目だ。残念脳筋の人が混乱している。
もうその勝負は降りてよ。俺は、惑流星よりでかい魔神のちんちんと張りあいたくないよ!
「ゾニアルゲノムグルベノスゾンギ様の一物はダイヤモンドよりも硬いわ」
「くっくっくっ。たかがダイヤモンド程度の硬度ですか!」
ダイヤの硬度は異世界でも通じるのかよ!
「貴様、ゾニアルゲノムグルベノスゾンギ様の神具を馬鹿にすると言うのかしら?」
「当たり前です! この男のちんちんは、普段は柔らかいけど、次元を断裁する我が秘剣すらはじき返すほど硬くなるのです!」
「な、何ですって!」
どやっと俺の股間を手のひらで示す脳筋金髪女騎士。
そして、明らかに俺の股間を凝視する3つの目。というか、俺の手前に跪くような位置に近寄ってきている。怖い。怖いよ! 僕のちんちんに顔を近づけないで!
「この男のちんちんの硬さは、私がさっき触ったから、間違いありません。疑うと言うのなら女悪魔よ。その手で確かめなさい!」
脳筋馬鹿の発言が、ぷるぷると恥じらっていたごっちゃんの理性のダムを決壊させた。
「むにゃーっ!」
両手をぐーにして背伸びして、むにゃボーン!
「クリストリスは少し黙っててーっ!」
ごっちゃんがクッコロさんに向けて、何かしらの力を放った。
クッコロさんが悲鳴すら聞こえない速度で空へと吹っ飛び、遥か彼方で、キラーン、お流星さまとなった。
両拳を突き上げたごっちゃんから、ぷしゅーっと湯気のようなオーラのような、何かが噴いた。
「ぷっ。ぷくく。だっさ――ブベッ」
3つ目女悪魔の脇に隻腕の悪魔がやってきて、肘を打ちおろした。
間抜け顔の残像を残し、痴女悪魔は地下奥深くまでめり込んでいった。後には、漫画みたいに身体の形の穴が開いている。
「何と言うか、すまん。あいつは馬鹿だから」
悪魔に謝られたーッ!
隻腕の悪魔が刀の柄で頭をかきながら申し訳なさそうに頭を下げた。
「ゲッゲッゲッ。すまん。あいつ、脳みそピンク。略して脳ピン」
双頭の悪魔は片方の口から灰色の液体を吐いて、女悪魔型の穴を埋めた。
(俺も、ついでに、謝る……。別に、お前に力、与えるとか、ないから……)
離れた位置で傍観していた4本腕悪魔の手が1つ、ぐっと親指を立てた。
俺に力の契約を求めていたのはお前か……。
(ああ。俺、ひとみしり。だから、心の声で、語りかける……)
まさか、ひとりだけ離れた位置に立っているのは巨体ゆえんの距離感だったのではなく、単にひとみしりだからか……。
(くっくっくっ……。そのとおり……。そして、この……大物感溢れると、よく言われる、喋り方も……)
単に、どもっているだけか!
(くくくっ……)
いや、あの、分かったから、もう心の中に直接語りかけてくるの止めてくれません?
(くくくっ。分かった……)
なんというか、悪魔のくせに妙に親近感を覚えるやつだな。
脳筋と脳ピンがいなくなって、場も穏やかになった――とはいかないようだ。
「ゲッゲッゲッ。おしゃべりはここまでだ」
双頭の悪魔が涎を垂らしながら、ごっちゃんの前に迫る。
「ゲッゲッゲッ。さあ、これを受け取るがいい!」
ごっちゃんは気が緩んでいるのか油断しているのか、悪魔の繰り出す手を、まるで避けようとも防ごうともしていない。
駄目だ。俺は咄嗟にごっちゃんを護――。
「うむ。受け取ったのじゃ」
護ろうと……する。
した。
したんだけど、え?
ごっちゃんは悪魔から何か書類を受け取ったようだ。
「ふむ。ふむ。確かに、明日の交流会の参加者名簿、受け取ったのじゃ」
「あ。こっちの書類に、サインかハンコ、お願いします。ゲッゲッゲッ……」
「うむ。なあ、お主。悪魔クラスの生徒にあれこれ言いたくないんじゃが、お主のそれ、キャラ付けじゃと思うが『ゲッゲッゲッ』はどうかと思うんだよ。それだと噛ませ役の四天王みたいなんだよ。背後に真の魔王がおる雰囲気なのじゃ」
「ゲッゲッゲッ……。ゾニアルゲノムグルベノスゾンギ先生が、お前の外見には、この喋り方が似合うって……」
「召喚悪魔クラスも大変じゃのう……。ほれ、サイン、これで良いか」
「あ、ども。ゲッゲッ」
「うむ。ゾニアルによろしく伝えておいてくれ」
「ゲッゲッゲッ。分かりました」
悪魔は書類を懐にしまうと2つの首をぺこっと下げて、ふわっと浮かび上がる。
こうして、状況についていけなくなって傍観していた俺の前から、3人の悪魔が飛びあがり、上空の軍団と合流して異次元の裂け目に入り、帰っていった。
「さ。結界の張りなおしじゃ」
ごっちゃんがえいっと手を振り上げて、銀細工の蝶々が手の前で魔方陣のような形になり、眩い光を放射。しばらくして夜空の裂け目は綺麗さっぱり消えた。
そして、静かな夜が戻ってきた……。
「あの、ごっちゃん、今の……」
「うむ。いずれも1つの世界を支配できるほどの力を持った魔王候補生じゃよ」
「え、いや……。魔王……。戦う展開は?」
「いやいや、彼らも生徒じゃよ。たぶん、お主が想像しているような邪悪な奴らじゃないんだよ」
「でも、世界を滅ぼそうとしている魔王ですよね?」
「んー。人間の召喚に応じて代わりに戦ったり、魔法力を貸したりする気前の良い奴らじゃよ?」
「解せぬ……」
「ワシは流星がいつまでも全裸なことのほうが、解せぬのじゃ……」
こうして、俺の最大の危機は去った……。
だが、俺は大事なことをいくつも見落としていたのだ……。
告白するような雰囲気じゃないから、帰って寝ようと思っていた。
明日、異世界転移訓練学校での最終日に告白をすればいいと思っていた。
けど、ごっちゃんとの別れを控えた前夜、俺の最も長い夜の、最大の試練はこれからだった。




