↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

16.おっぱ……? え? メロンじゃなくて、これ、おっぱい?

 訓練期間が3週間目に突入するころには、A組の生徒たちは見違えるほどに成長していた。

 普通の学生だったはずの生徒たちは、異世界風の森を冒険する実習で、ゴブリンやオークといった人型モンスターを圧倒するほどの強さになっていた。

 俺は初期能力が高かったせいか、周りよりも成長が遅いような気がして、若干の焦りを覚えている。俺は異世界転移訓練学校に来てから、クッコロさんとの訓練でスキルが1つ増えただけだ。確かに世界を滅びしかねないほどの強力なスキルだが、却って使いづらい。

 ハッキリ言って普通のモンスター相手には使えない。

 こんなんじゃ、ごっちゃんを異世界に連れだすことなんて夢のまた夢だ。考え続けても打開策は思い浮かばないまま、卒業の日は近付く。

 《スキル創成》スキルでは、ごっちゃんを一緒に異世界に連れていく能力とか、記憶が消されなくなる能力は創れなかった。《運任せの乱発能力》を試してみても、望むようなスキルは増えない。

 だから、卒業式前日の夜、コモンスキルが出て落胆していたときに、突如として現れた乱入者を、俺は不覚にも歓迎した。

 ズバーンッとドアが吹っ飛び、空中でサイコロ大の細切れになって、壁にバラバラとマシンガンのように激突してから床に落ちた。


「私を恥辱の渦に引きずり込んでください!」


 不可視の剣を構えた、長身金髪の美女が立っている。

 クリストリス・ドッホ・コロイス。白いふわふわドレスの女騎士だ。

 訓練期間が終盤に近付くにつれて、ごっちゃんやクッコロさんとは会う機会が減っていた。ふたりとも担当する授業で忙しいのだろう。俺もひとりでA組生徒を相手にした戦闘訓練を実施したりしていた。


「誰も近づかずに、ふたりきりで過ごせるよう体育館を貸し切りました。そこで、朝まで私を恥辱まみれに堕としてください」


 彼女は恥ずかしい目に遭って新スキルに目覚めたから、再び同じ目に遭おうとしているのだろうか。クッコロさんは若干、というか、かなり脳筋なところがあるので、発言内容は怪しい。

 だが、彼女の提案に従えば、俺も成長できると思うんだ。

 だから。


「分かりました」


 俺はクッコロさんの提案を聞きいれた。

 しかし、いくらごっちゃんと過ごせる時間が残りわずかで焦っていたとはいえ、少し軽率だったのかもしれない。まさか、あんなことになるとは、その時の俺は思いもしなかったのだ。

 夜の体育館。

 明かりをつけているとはいえ、広い空間にたったふたりだけだと、ちょっと怖い。お化けが出てきそうだから、ついキョロキョロしちゃう。というか、体育館に続く廊下も、割とびびって、クックロさんの真後ろを歩いて、何度も「背後に立たないでください」と怒られた。


「さあ、私を辱めてください。私は今、新たな能力を必要としているのです。貴方の変態的な欲望を存分に発揮し、私を淫靡なる夜へといざなってください」


 ドーンと、体育館の中央で仁王立ちするクッコロさん。

 よくよく冷静になってみると、この状況でこの人に性的な悪戯するって、ハードルたけえ……。

 いや、そうじゃない。

 俺は自分の目的を果たすんだ。


「あの、ちょっと俺の要望を聞いてもらっても、良いですか?」


「ええ。何でしょうか? 訓練につきあっていただけるのです。何でも聞きましょう」


「あのですね。この前のやり方は、やっぱ問題だと思うんですよ」


「なぜでしょうか? 新技を編み出せたではありませんか」


「いや、でも、ごっちゃんがいないのに同じやり方をすると、俺が死ぬかもしれないじゃないですか」


「安心しろ。考えはある」


 クッコロさんは自身まんまんな様子。何か良いことを言うのかと期待したが、やはり、脳筋だった。


「今回は私が貴方を辱めましょう」


「は?」


「貴方を辱めて、私と同等の強さを手に入れるまで覚醒していもらいます」


「え、あれ?」


 なんか俺と思ってたのと違う方向へ、話が独り歩きしている。

 クッコロさんは深く何度も頷いて納得しちゃってる。


「貴方を辱めましょう」


「え、いや、ちょっと――」


 待ってと腕を伸ばしたら、袖が紙吹雪のようになって散った。

 何も見えなかった!

 不可視の攻撃はとっくに終わっているのに俺は反射的に腕を引っ込めて、仰け反った。そうしたら、ぱっくりと胸元が開帳。


「ちょ、止めて」


「心配する必要はありません。胸に触れる行為が決闘の申し込みではないと、理解しております。だから私は貴方の胸に触れるし、貴方も私の胸に触れてください。そうだ。こうしましょう。互いの胸を重ねあうのです」


 ヤバい! この人の頭と、俺の身がヤバい!

 俺はスキル《身体能力強化(フィジカルブースト)》でクッコロさんから距離をとろうとした。だが、スキルで強化した俺よりも、素のクッコロさんの方が圧倒的に速い。俺はあっという間に背中を体育館の角にくっつけた。

 必死で逃げていたから、いつ切られたのか気づかなかったけど、制服とシャツが細切れになってパラパラと落ちて、パンツいっちょになってしまった。


「さあ、力の覚醒はまだですか」


「ひいいっ……」


「まだ足りないようですね。ならば、これならどうでしょうか」


「わーっ!」


 次はパンツだと思って、股間を両手で庇う。

 股間を押さえるために必然的に下がってしまった視線の上の方で、クッコロさんが堂々とした声を張り上げる。


「何をしているのです。顔をあげて、見てください」


 言われたとおりに顔をあげて、即、逸らす。

 マスクメロンみたいなおっぱいが、ドッブルーンッと丸出しだったのだ。先端に実ったチェリーも、見た。一瞬だが、はっきりと目蓋の裏に焼き付いた。

 メロンもチェリーも朝の積み立てのように瑞々しく艶々していた。


「ほう。顔を赤くしましたね。やはりこれには羞恥心を抱くようですね」


「え、いや、ちょっと」


「さあ見てください。もっと間近で眺めるのです。互いに恥ずかしい思いをして、絶頂の果てに新スキルを見いだすのです」


 クッコロさんが俺の顔を両サイドからガシッと鷲掴みにして首をひねってくる。逆らいようのない腕力が、俺を巨大なマスクメロンの真ん前にぐいっと近づける。

 悲しいことに、俺は目をそらせなくて、つい、美味しそうに実った果実を凝視してしまった。甘い匂いが鼻孔をくすぐり、つい、喉の奥に唾液が溢れてきた。

 俺、スキル《偶発エロ体験(ラッキースケベ)》を使ってないはずなのに……。まさか、このスキルは常時発動タイプなの?!

 男子高校生の悲しい習性で、アレが、それで、ああなっては悲惨なので、視線を逸らそうとする。

 だが無理だ。

 クッコロさんの広く開いた指が俺の顔面の皮膚を押し広げるようにしているので、瞼さえ開きっぱだ。

 はっきり言って、おっぱいがくっきりと丸見えだった。

 デカい。エロい。いい匂い。


「クッコロさん! 何、考えているんですか!」


「ふっふっふっ。そのうろたえ様。やはり効果は絶大ですね。貴方は私の、薄皮一枚下にある無防備な心臓を目にしているのに、私の命を奪うことは叶わないのです」


 なに言ってんの。薄皮の下は、超大ボリュームじゃないですかー。


「戦士として、これほどの侮辱はないでしょう。さあ、尊厳を踏みにじられた貴方はいつまで耐えられますか」


「なんですか、その価値観! 分かんないですよ!」


 弱点を晒して挑発って、ボクサーがノーガードで対戦相手の前に顔を晒すようなものなのか? にしても、それを女性がおっぱいでやるなんて、なんて、うらやま、ではなくけしからん世界なんだ!


「むむっ。これほど侮辱したというのに、まだ耐えるとは、なかなかの精神力ですね。やはり貴方は私が見込んだことはあります」


「いやいや、精神力じゃないから」


「ならば、こうです」


 クッコロさんの視線が、俺が唯一身にまとっている布っきれに下がった。


「いや、これ以上は、ダメでしょ。僕、生徒。貴方、教師」


「はい。ですから、能力を覚醒させるための授業と言えますね」


「駄目ですって! 駄目ですって!」


 俺の身体は非常に言いにくい理由だが、紙一重でパンツを切られたら、それは紙一重では済まない状態になっているのだ。

 クッコロさんが想像している裸の俺よりも、今の俺は少しだけ身体が大きいのだ!

 大事な部分が切り落とされる可能性は高いし、仮にクッコロさんが俺の身体の状態に気づいたとしたら、それはもう顔から火を噴くくらい恥ずかしいことだし、仮にパンツだけ切り落とされたとしても、それはそれで、勝手に覚醒しちゃったアレを視線にさらすことになるわけで。

 とにかく、トランクスを紙一重で斬られると、あかん。あかんのよ!

 窮地に俺の中で何かが目覚めたのか、集中力が極限まで高まっているのか、今まで一度も視界に捉えることのできなかったクッコロさんの剣が見える。

 次元を切り裂くという物騒な剣の切っ先が俺のパンツへと向かい、不安適中!

クッコロさんは確かに紙一重を狙ってきているんだけど、それはついさっきまでの初期状態の俺であり、現時点の荒ぶる血に身を焦がす俺にとっては、致命傷となりうる軌道。

 逃げ場はないから、回避は無理。

 俺の股間、絶体絶命。

 だからこそ、肉体的にも精神的にも瀕死の、実は割と情けない状況だけど、一応人生最大の危機で《スキル創成》スキルを発動。俺は防御のための新スキルを獲得した。

 スキル《一握りの絶対防御》発動!

 バギイィンッという甲高い音ともに、クッコロさんの剣が勢いよく弾きあげられた。

 パンツは砂化したんじゃないかってくらい、さらさらとした粉になって落ちた。

 だが、あまり具体的に説明したくもないが、身体の一部が超硬質化して、空間切断だろうか防御無視だろうが運命改変だろうが、およそ害をなすありとあらゆる事象を無効化するスキルだ。

 うおお……。ビッグバンすら防げるだろう……。神の頂に立っただろうとすら思えてくる全能感、超越感が股間から溢れてくる。

 スキルの効果が下品で最低すぎて酷い!

 クッコロさんがしゃがみこんで、最低なそれに顔を近づける。

 俺はスキルを発動したとき、防御力を得たのが身体の一部だけだと分かっていたので、両手を離していたのだ。

 だから、思いっきり、ソレを晒していた。

 そして、クッコロさんは、ソレを間近で感心したように観察している。


「なるほど。肉体の一部を隆起させ硬質化する防御手段ですか」


 りゅ、隆起は違います……。

 身体の一部分のみを硬質化するスキルです……!

 なんか興味津々で、隠そうとした俺の手をペシッと弾き飛ばしたあげく、あろうことか冷たい指先で「ふむ」ちょんっとつついてきた。


「いやああっ!」


 ボーンッ!

 というわけで、羞恥心の限界に達し、俺の自我は弾け散り宇宙へと跳びだすような解放感ととともに、全能感すら抱き、とにかくクッコロさんの目の前で、それだけはいけないと、何もかもをうやむやに誤魔化すために、スキル《異次元圧縮熱波》を上空へと放った。

 他にも俺は何かを放っていたかもしれないが、それはスキル《異次元圧縮熱波》の余波が消し飛ばしていただろう。

 俺の放った光により、体育館は完全消滅。

 はるか上空で、まさに天が崩壊したかのような轟音が響き、流星空に亀裂が入った。

 俺は不可抗力とはいえ、異世界転移訓練学校を護っていた結界を壊してしまったのだ……。

 俺は知らなかった。

 地球人の学生が訓練している世界のすぐ傍に、魔物のクラスがあることなんて知らなかった。魔術師たちが力を借りるほどに強大無比で、異世界に名を轟かす魔王たちが何人も集まったクラスが、すぐ隣にあったなんて、想像すらしなかった。

 俺は、人間クラスの校舎がある空間と、魔王クラスがある空間の境い目を破壊してしまったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。