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13.クリストリスは数多ある異世界の中でも最強の剣士なんだよ

「さて。気に食わない男に致命傷を負わせる訓練と聞いていましたが、なるほど、訓練ではなく実戦のつもりで構わないようですね」


「うむ!」


「うむ! じゃないでしょ、ごっちゃん! 致命傷って何! 致命傷って何!」


 ごっちゃんが隅からとととっと逃げていく。

 俺はクッコロさんの気迫にあてられて、迂闊に立ち位置を変えることすらできない。

 クッコロさんが剣を構えて、切っ先に並々なら気を込めていく。すると、空間が歪むかのような錯覚が生まれ、俺はクッコロさんとの距離感を喪失しつつあった。先ほどまでは気にもならなかったのに、クッコロさんと相対してからは、部屋の間取りすらはっきりしない。トリックアートの部屋に紛れ込んでしまったかのような居心地の悪さを覚える。


「いやいやいや、冗談でしょ。ちょっと、待って。クッコロ先生、本気モードでしょ。既に何か仕掛けてきているでしょ」


「私は本気ではなく、短気です」


「ごっちゃん、助けて、この人、やばい!」


「ふっ。やばいという貴方の世界の言葉は理解できませんが……やばいのは貴方の命です」


「ごっちゃん、タイム! タイム!」


「実戦にタイムなんて存在しないんじゃよ。あ、あと、ワシ、聞こえんから。巻き添えを食らわんように、バリアじゃから」


 ごっちゃんは部屋の隅っこで、今にも巻き起こるであろう大爆発に備えているらしく、身体を丸めて耳を押さえている。


「聞こえているじゃん! ちょっと、クッコロさんの剣技って空間を捻じ曲げるとか断ち切るとか、そういう系統でしょ。身体能力強化や転移スキルじゃ、どうにもならないじゃない!」


「安心してください。致命傷を与える訓練と聞いていますから、手加減します。遠慮なくイヤボーンしてください」


「致命傷って、死ぬやつだよ! それにイヤボーンするの僕なの? 逆じゃないの?」


「些事にかかずらうことなどありません。私は久しぶりに、これを振るえる機会が与えられただけで、もう十分です」


「十分なら訓練を止めようよ!」


 クッコロさんが手にしているのは異様な武器だ。

 細身の剣らしい。というより、見えたり消えたりしている。たまにちらっと、銀色の刀身が残光を現す。


「ん。これは、刀身の切れ味が鋭くて、常に次元の境界を切り別世界に落ち続けているのだ。無様な見た目と、世界を断つ耳障りな音は容赦してくれ」


「そんな物騒な物を訓練に持ち込むなよ!」


 脳筋だ。クッコロさん、脳筋だから会話が通じない。

 俺は会話しながら後ろ手でスキル《運任せの乱発能力》を使用し、何か激レアスキルが出ないか試していた。これは、ランダムでスキルを増やすためのスキルだ。たまに強力なスキルを創ることができる。しかし、何度か試しても、過去に出現したことのあるコモンスキルばかりだ。


「まったく……。貴方が何か準備をしているのは分かっています。こうして雑談に興じるのは訓練だけですよ。実戦ならとっくに貴方の全身はバラバラになって全て異なる世界に落下して再生すら不可能になっているところですよ」


 物騒すぎる!

 しかし、これはあくまでも訓練。実戦でも何とかして時間を稼いで、レアスキルを当てるのが俺の戦闘スタイルになるのかもしれない。

 俺はガチャで輩出したスキル《緊縛する邪眼(メデューサ・アイ)》を発動した。これで俺と目が合ったクッコロさんの全身は石のように硬くなったはずだ。

 けど、クッコロさんは「む」と僅かに眉をひそめただけで、すぐに拘束を解いたらしく、手首をぷらぷらと振る。


「ごっちゃん、助けて! もうギブアップ! 死ぬよ。クッコロさんの剣、触れただけで死ぬやつだよ!」


「えー。でも、訓練だしー。流星にも強くなってほしいし。特別扱いは駄目だしー」


「平等にするなら、女子が縛られているところからスタートしてよ!」


「えー。クリストリスは女子じゃないからのー」


 ごっちゃんは聞く耳持たずで、もう八方ふさがりで途方に暮れつつあったけど、光明は意外なところからやってきた。

 空間をねじまけていたであろうクッコロさんの剣から、気があっさりと雲散霧消したのだ。俺の空間認識も正常に戻り、不思議なことだが、自分が立っている場所が曖昧な空間ではなくコンクリートの地下室だと再認識できた。


「私が女子ではない……?」


 おおっ。クッコロさんが、ごっちゃんの言葉の変な所に反応しているぞ。

 クッコロさんがドレスのような衣装のスカートをつまんで、お上品な仕草でくるっと回転した。まさか、あれは異世界の戦闘装束ではなく、本当に見たままの可愛い系のドレスなんだろうか……。


「護国殿。私は女子ではないのか?」


 何という幸運。今度は追い詰められてうろたえるのは、ごっちゃんの番だ。

 俺の対角線上の角で丸まっていたごっちゃんの元に、スカートをふわふわさせたクッコロさんがゆっくりと近づいていく。


「女子! 女子じゃよ! 胸がばいーんですっかり忘れておった。お主は少女じゃ。可愛い少女じゃ。ただ、お主は、ほれ、世界を救った勇者じゃし、ひとり立ちしておるから、そこらの女子とは違うし、立派な女じゃ。女騎士なんだよ?」


 珍しくごっちゃんがうろたえて、あわあわ言っている。


「私は、その……。もう少し年齢相応の女の子として扱われたいのです……」


 もしかしてクッコロさんは脳筋ではなく『可愛い』のに憧れる乙女病を拗らせているのか!


「うむ。そうじゃな。かよわい女子じゃな。となると、手足を縛った状態で、男に性的な悪戯を迫られる必要があるけど、良いのか?」


「む。なぜ、女子はそのような目に遭うのですか」


「ほれ。迫った恐怖で精神状態が不安定になったとき、それまで無意識のうちに押さえこんでいた理性が消え、隠されていた力が目覚めるのじゃ。かよわい女子とは、そういうものなんだよ」


「なるほど。得心いきました。護国殿。私の手足を縛ってください。私も窮地に陥り、さらなる能力に覚醒してみたいです」


「え。ええーっ」


「そう簡単にほどけないように《異世界喰い(ワールドイーター)》すら拘束するという護国殿の力で封印を施してください」


「ええーっ」


 困惑しつつもごっちゃんは厄介事を避けたいのか、もうどうにでもなれモードなのか、言われたようにクッコロさんの両手足を縛り、何かしらの能力で封をしたようだ。


「ありがとうございます。なるほど。これなら上手く身動きがとれません」

 クッコロさんは手足が不自由になったのに、体幹が鍛えてあるからバランスが取れているらしく、平然と立っている。


「さあ、そこの貴方。そういえば名前を知りませんね。ヘロモンジャのような男、私に性的な悪戯とやらをしてください」


「ええーっ」


 俺もごっちゃんのええーっが伝染した。

 どうしろってんだよ。両手足を縛られたくせに平然と立って胸を張って堂々としている金髪女騎士って、いったい、これ、どういう状況なんだ。何をすればいいのか正解を教えてくれよ。あと、ヘロモンジャって何だよ。


「あ、あの、ごっちゃん、僕はどうすれば」


「ワシに振られても……」


「さあ、早く、悪戯してください。私の秘めた力を覚醒させ、さらなる高みへと誘ってください。ともに絶頂へと至りましょう。貴方に身体を触れられるだけで能力に目覚めるとは……楽しみです」


 げえっ。自称少女の脳筋女騎士がどや顔で、胸を突きだしている。あと、言葉のチョイスが微妙にエロい。

 クッコロさんが足先だけを駆使して滑らかに迫ってくる。あっという間にごっちゃんの前から、俺のいる部屋の隅までやってきた。


「ごっちゃん、僕は何処を触ろうとすれば良いんです……」


「う、うむ。ちょっと、待つのじゃ。胸以外に触れることの意味はな……」


 ごっちゃんはマイ・パッドを取りだして、読み上げる。


「『顔』お前の顔がめちゃくちゃになるまで殴ってやる。『首』頸動脈を切り裂いて貴様の生き血をすすってやる。『尻』貴様の尻穴が裂けるまでピーしてやる。『股間』俺の子供を孕むまでピーしてやる」


「全身、爆弾じゃねえか! ちょっとクッコロさんの世界、殺伐としすぎ!」


「お。おおっ。触れても安全そうなのが、あったのじゃ」


「何処ですか! もう何処でも良いから、そこ教えて!」


「かかと。かかとじゃ!」


「よし」


 かかとなら大丈夫だ。触れることに恥じらいはないし、どういう意味かは知らないが、性的な不快感を相手に与えることはないだろうし。


「ええと、じゃな。『踵』私は貴方の下僕です。一生を捧げます。是非、私を豚と呼んで踏んでください」


「ダメじゃん!」


 俺はクッコロさんの踵に触れかけていた手を慌ててどかす。

 そのとき、偶然にも俺の手がクッコロさんのふわふわスカートに引っかかってしまい、盛大にめくり上げてしまった。

 長く引き締まった脚。綺麗な太ももの先に魅惑の香り漂う白い下着……は無かった。

 というか、なんだこれ。

 きわどいところが、きわどい形がくっきりとわかるくらい、きわどい感じに、白いテープのようなきわどいものが、ぴったりと貼ってある。エッチな漫画の際どい『消し処理』よりもきわどい。

 ヤバい!

 諸事情により俺は立ち上がれないというか、身体を動かすことが不可能になってしまった!

 なんかスカートが巻き上がったせいで、俺の周りに洗い立てのタオルみたいなフワフワした匂いが漂ってきて、脳内で幸福感を生む物質が大量発生しているのが分かるくらい、鼻や頬がニヤニヤ緩んでくる。

 ああ、幸せだな。ゆっくり幸せを堪能してから、ふわり、ふわりと時間をかけてスカートが下がって脚を隠した。

 何気に見上げたクッコロさんの顔は、羞恥か憤怒か、まあ烈火と呼びたい色で煮えたぎっていた。

 

「あー。下着を見られることにたいする羞恥心は、共通じゃった……。流星、今までありがとう」


「な、なんでお別れ――」


「貴様ーッ」


 ズギャーンッ!

 イヤボーンではなく、キサマズギャーンだった。

 鼓膜が破れるんじゃないかというほど凄い音が鳴った!

 暴風はあるけど、痛みはない!

 目の前を覆っていた腕を恐る恐るどかすと、クッコロさんの両手……ではなく縛りつけているロープが輝いている。

 ごっちゃんが封印したというスキルが、クッコロさんの能力を抑え込んでいるんだ!

 しかし、ロープはチリチリとほつれていき、次第に細くなっていき、徐々に熱風が吹きだし始めた。

 あ、死ぬな、これ……。

 ごっちゃんは両手を構えて、多分、結界作成能力か何かでクッコロさんを抑えようとしているみたいだけど、限界のようだ。

 クッコロさんの両手を縛っていたロープが切れ、俺は全身に針が刺さったかのような圧力を覚え、死を覚悟した瞬間、スキルがパワーアップした。

 スキル《運任せの乱発能力》で獲得できるスキルのレア排出率が微増。。

 駄目じゃん!

 激レア排出確定とか、防御スキル限定ガチャとかに進化してくれないと助からないじゃん! どうすんのこれ!

 こうして、クッコロさんの新スキル《異次元圧縮熱波》『効果:異世界を一つ圧縮することにより発生した熱で、別世界を攻撃する』とかいう、恐ろしい攻撃によって俺は死……んでない。

 あれ?

 というか、なんで、クッコロさんのスキルの内容を俺は理解できたんだ。


「ふう、すっきりした」


 ひたいの汗をぬぐって、クッコロさんはめっちゃ爽快な笑顔だ。傷1つついていない白いドレスをふわふわさせている。


「どうやら私は、何か身体の奥底から熱いものが込み上げてきて、新たな能力《異次元圧縮熱波》を得たようだ」


 クッコロさんは何やらご満悦。

 って、ちょっと待って、《スキル共有》スキルをいつのまにか発動していて、俺も《異次元圧縮熱波》を使用可能になったっぽい?


「あ、あの……」


 ごっちゃんに相談しようかと思ったけど、ごっちゃんも俺と同じように疲弊しきっていた。 肩で息をしながら「疲れたのじゃ……」とふらふらしている。

 ああ、疲れた。

 俺も、もう、寮に帰って風呂はいって寝たい……。

 ってか、まだ連続授業の2時間目だ。

 と、うんざりしたところで、いつのまにか帰る場所として寮を自然と思い浮かべるのがあたりまえになっていることに、我知らず苦笑してしまった。

 ああ、限界。意識を失う……。


「だ、ダメなのじゃ、まだ授業が残っているのじゃ!」


 寝かせて……。少し楽になりたい……。


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