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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第二章 『それぞれの道』
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24『俺だけ』


「ようい……! 今だ!」


 その掛け声と同時に、一斉にいくつもの弓矢が放たれる。その弓矢は、騎士の街でも足軽隊と呼ばれる中の弓隊によって発射されている。

 直人は始め、驚いた。騎士の街というぐらいなのだから、この街には剣を持つものしかいないと思っていたのだが、そうではないらしい。だいぶ前に知ったことだが、今知らずにいたら、きっとこの戦いは上手くいかなかったかもしれない。


「頼む……! 届いてくれ!」


 直人は、頭が良くない。故に、明日香や如月のように順序立てて策を練り上げることはできない。だから、この混乱の状況で何かが思いついたことでさえ、直人にとっては奇跡なのだ。

 これ以上、直人には何の案もない。まあ全くないといえば、嘘にはなるが、それも良策だとは思っていない。

 だから、弓矢があのリンゴをどうにかしてくれなくては、困るのだ。


 そんな直人の願いをよそに、エリスは槍を振り回し、飛んでくる弓矢を巧妙にかわす。最後に飛んだ矢も、後少しというところでリンゴには当たらなかった。

 それを見届け、この場の全員がため息をついたのを直人は察した。


「当たらなかったな」


「すいません……」


 声をかけてきてくれた団長にも頭が上がらず、目も合わせずに謝る。しかし団長は、気にすんな、と言った。


「あいつがそんな簡単に俺らの行動通りになると思うか? そうじゃないだろ? だったら、何度もやればいい。きっとあいつも体力尽きて降参する時が来るぜ」


 その励ましの言葉に、直人は笑ってやることも、前を向くこともできない。落ち込み、自分を責め立てる。


「じゃ、俺は別に指示出してくる。お前は……、お前にも出来そうなこと、探しとけや」


 偉丈夫が低い足音をならして去っていったのを確認し、直人はエリスを眺める。

 どうにも、巨女に対し対抗する策が思いつかない。勘があのリンゴを狙うべきだと訴えているが、それをずっとしていても埒が明かない。他に彼女の弱点を炙り出し、この状況を打開する策を見つけなければ。


「街ももう半壊。あいつのせいで、ここら辺の建物は全部壊れてる……。大体はあいつの起こす地響きのせいだったけど……」


 地響きは、彼女が大きくなったからこそ為せる技だ。それを止める方法も、避ける方法も、現状誰も持ち合わせていない。いつくるかも分からない地響きに、咄嗟の判断で耐えるだけ。

 でも、直人はその抜群の運動能力でかわす方法は生み出していた。彼女が足を踏み鳴らすタイミングを見計らい、それに合わせて跳ぶ。彼女の動きは実に遅い。やはり、大きくなれば動きが遅くなるというのは、この世界でも共通した常理らしい。


「あいつが足を上げた瞬間、俺も踏み込めば、地響きは避けられた」


 今もたまに起きるそれに、直人は同じようにしてどうにか地響きを避けている。それに気付いた周りの何人かが真似するようになってきたが、それをみんなに教えるべきか。

 いや、違う。今すべきは、それじゃない。何かが、頭に引っかかって取れない。後もう少しで、何か思いつきそうな。そんな感覚が。


「そうか……! 巨人は、動きが遅い……!」


 たった今この瞬間に思いついた策を、直人は忘れないうちに団長の元へ向かった。


「団長!」


 何やら弓兵と話していたらしい団長に、無理矢理割って入り話をするように懇願する。


「ああ、お前か。なんだ?いい案でも思いついたか?」


「それが……」


 万策とは言えない策を、団長に早口で説明する。それを最後まで聞いた団長は、は、は、は、と笑った。


「まさか、この時に思いつくなんてな。いいじゃねえか。たいみんぐ、と言ったけか? いいだろう。お前の案を通してやる。だが、それを実行する以上、お前もお前の命の覚悟が必要だ。死ぬ覚悟、生きる覚悟は出来てるか?」


「はい。俺の命は、もう無いも同然。この場で命を懸ける覚悟はできています」


「よし、いいだろう。ただ、最後に友人に挨拶ぐらいはしとけよ」


 団長は直人から目を逸らし、顎をしゃくる。彼が向いていた方向を見ると、そこには見慣れた茶髪の青年がいた。


「ナオト……」


「カンジ」


 青年は寂しそうに、こちらを見つめている。彼も、直人の策を聞いていたのかもしれない。


「おいおい。何で、お前が死ぬみたいな顔してるんだよ。死ぬかもしれないのは俺だぜ?」


「だってよォ。悲しいじゃねェか。トモダチが俺を置いて逝っちまったら……」


「大丈夫。死んでも俺、全然悲しくないし。むしろ嬉しいぐらいだ」


「何で……」


 友の質問に、直人は笑って答える。


「好きな人にまた会えるって、思ったらさ。嬉しいだろ? だから──」


 続きを言おうとしたが、それは叶わなかった。直人の頬を激しい痛みが殴打したせいだ。


「死を、馬鹿にしてんじゃねェぞ。その好きなヤツってェのも、死にたくて死んだ訳じゃねェはずだ。それをわきまえてから、言え。お前は、覚悟できてんのか?」


 問われて、直人はハッとした。

 ──そうか。そうだよな。

 胸の内でそう反復し、本当の想いを、彼に伝える。


「死にたくない。俺は、死にたくない。だから、あいつを殺しに行くんだ」


「ようし。なら、俺も協力してやる。おっさん、俺も直人と一緒に飛ばしてくれ」


「え?」


 あまりに突然話が変わったので、驚いて素っ頓狂な声が出てしまう。その上、団長をおっさん呼ばわりするだなんて。


「その心は?」


「直人の勘なんて、信じらんねェ。俺は、あいつの脳天をブチ抜いてやる。それと同時に、ナオト、テメエがあのヘンテコなリンゴを刺せばいい。それで決着がつくようなら、あいつもそれだけのやつだったってことだ。な? そうだろ?」


 同意を求められ、直人は茫然としながらも頷く。まさかこの危険な賭けにカンジまで協力してくれるとは、思いもしなかった。でも、ありがたいのは確かだ。今は足りない自力を、他力で補う。それで、あとでありがとうと言えれば、オールオーケーだ。


「じゃ、行くっぞ!」


「おう!」


 巨女との最終決戦が、ここに開始した。

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