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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第二章 『それぞれの道』
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23『二度も死なせない』

 真紅の輝きが、星の輝く夜空に舞った。それを茫然と見つめながら、直人はこの場には相応しくない考えを、頭の中にぼんやりと浮かべていた。それは、あの真紅の輝きを見れば、誰でも抱きそうな考えではあったが、その考えに囚われている直人には分からない。

 巨大な赤髪の女が、どれほどの人を殺してきたかなんて、血のような髪の色を見れば、誰でも抱く感情だ。

 実際、彼女の赤髪が舞う様子を見ていたその場の全員が、直人と同様に漠然とそう考えていた。そして、時間が止まったように、誰も動かなくなる。

 それは十分な隙であったはずだが、赤髪の女人──エリスは、ただ息を吐くだけだった。


「せっかく纏めてきたのに、解けちゃったじゃないですかぁ。まったくぅ……、どうしてくれるんですかぁ?」


 かったるそうに、彼女は肩にかかった髪の毛を払う。そして彼女はこちらを嘲笑うように見下すと、


「弱い、ですねぇ」


と、そう、侮辱の言葉を何の関心もなさそうに口にした。


「どうしてこうも、人間というのは、弱いんですかねぇ。戦争をさせても、全員死ぬまではいかない。負けそうになったらすぐ諦める。戦争させがいがありません。あなたたちも、そうですね。せっかく戦争させてあげたのに、それを放り出して、感謝の対象であるワタクシに牙を向けるなんて。……それは、脳のない獣がすることです。恥ずかしくはないのですか? 人間がすべきことは、ただただ争って、自分たちが良い思いをして、相手を殺して、満たされることだけで良いんです。他には何も要りません。人間の存在価値は、それだけなんです。それだけの人間が、ワタクシに抗うだなんてこと、ワタクシは絶対に許しません。あなたたちがワタクシに抗うならば、ワタクシはワタクシの本意に従い、あなたたちと戦争をいたします。賭けるのは、土地ではなく……、そうですね。あなたたちの、ココロ、ということにしましょう。ワタクシが負ければ、あなたたちは再び平和、安寧、安心を得ることができます。逆に、ワタクシが勝てば、あなたたちの脳味噌を、戦争一色に染めてあげます。どうですか? いいですよね? ワタクシはどちらでも、あなたたちに悪いことはないと思いますよ? だって、戦争は楽しいものですもの。戦争のことしか考えられなくなれば、すっごく楽しいんですよ? 尽きることのない高揚感が、あなたたちを満たしてくれるでしょう。この場にいるみなさんが、そうなってくださることを、ワタクシはとても楽しみにしておりますわ」


 息をつくこともなく、誰の言葉も挟ませることもないそれは、その場にいる全員を動けないほどに震えあがせるには十分すぎるほど十分であった。

 要するに、彼女は戦争をする気であるようだ。どうしてそれほどまでに争おうとするのか。どうしてそこまで争いをさせたがるのか。きっと、直人には理解の出来ない次元での彼女の論旨を、彼女は持っているに違いない。何故、とは思っても直人はそれを理解しようとは思わない。戦争が不幸を呼ぶことを、知っているから。


「俺は、そうは思わないな。戦争は、したくない。できるなら、これで終わりにしたい。さっきので、終わりにしたい」


 ──明日香なら、こう言うよな。

 一種の、正義感とは言えないような、憧憬とも呼ぶべき思いを、直人は抱く。

 直人がこれほどまでに彼女を想う理由は、幼なじみという長い付き合いなだけではなかった。


 彼女に救われたことがある。彼女を頼ったことがある。彼女と笑ったことがある。彼女と泣いたことがある。彼女に突き放されたことがある。

 それだけで、それでも、直人は彼女を好きになった。愛していた。

 彼女を失った今でも、直人は彼女を想い続けている。そしてきっと、直人は彼女を想い続けることをやめない。彼女を忘れないために、彼女との思い出を覚えているために、直人は彼女を想い続ける。


「明日香を、二度も死なせない」


 人の死に関しての有名な話を、直人は思い出す。


「みんなに忘れられて、二度も死ぬなんて、明日香には、絶対にさせられない」


 直人は握る剣の感触を確かめ、高いところにある赤い瞳を見つめる。哀れんで、蔑んで、見下すその目は、もう直人には通じない。今ここでの恐怖なんて、明日香が抱いたはずの恐怖に比べれば、どうってことない。

 戦いへの意志を再び己の心に確かめ、直人は剣をしっかりと構えなおした。

 狙いは、あの金のリンゴ。直人は、彼女の饒舌を聞きながら確かめたのだ。

 本来はあの、紋章に思われた金のリンゴが本物であったなんて、誰も気付かなかっただろう。直人の目の良さが生んだ、奇跡であったのだ。そして、直人がそれを知ることはない。ただ、目の良さでは及ばない力を他人に借りるだけだ。


「……団長! 弓隊に、あの紋章の金のリンゴを狙うように言ってください!」


「はぁ?」


 疑うような目を向ける偉丈夫に、直人は偉そうに命令する。が、それに構っている暇はない。あともう少しで、エリスの本格的な攻撃が始まる。それまでに、やれるだけのことはやっておきたい。

 その真剣な直人の目線に気が付いたのか、団長は悪戯な笑みを浮かべた。これでカッコいいのだから、羨ましい限りだ。


「分かった。お前の言う通りにしようじゃないか。これで失敗したら、許さねぇからな」


 冗談とも本気ともとれないその釘刺しに、直人は至って真面目に返す。


「失敗したら、俺が命を賭けます。……取り敢えず、お願いします」


 団長が指示を出しに行っている間に、直人は輝くリンゴを見つめる。

 どうにか成功してくれ──と願うしか、なかった。

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