20『悲しみの記憶』
「現在、この街は非常に危険です。私共街の住民は、誰一人としてこの街へ入ることをお勧めしておりません。旅人様方は、この《妖精の街》にどのようなご用件がおありでしょうか?」
閉ざされた門の端に立つ門番らしき人物は、困ったような表情を浮かべ、ラリアン達に言った。
その様子を見たラリアン達魔女は、お互い顔を見合わせる。アテラノはどうするか決めあぐねているようだが、マオの心は決まっているようだ。
「私たちは、人を探しにここまで来たのよ!どれだけ危険だろうと、私たちだもの、きっと大丈夫だから、通してちょうだいっ」
「おい、顔が近いぞ。マオ」
彼女に急接近された門番は、恥ずかしそうに顔を赤らめて彼女から目を背けた。
マオは相手がどんな人であろうとすぐに距離感を詰める性質があるので、接近された門番に同情する。ラリアンも同じことをされた経験があるのだ。
「あら、ごめんなさいっ。……分かってくれたかしら?」
「あっ、いや、その……」
謝ったはものの距離感は大して変わらないマオの様子に呆れつつ、ラリアンも後援する。
「私たちなら、大丈夫だ。それに、私たちであればその危険を排除できるやも知れん。この街の中で何が起きているか教えてくれやしないだろうか?」
その言葉に、門番はほんの一瞬だけ目を輝かせたように見えたが、その目はすぐに暗くなってしまった。
一体、この街で何が起きているのだろうか。完全に閉ざされてしまっている扉を睨みつけ、中の様子を想像する。
危険とは、どういうことなのだろう。原則、街の区画内には外のモンスター達は侵入してこないはずなので、街の中にいる限り、危険にはそうそうならないはずなのだが。
「実は、街が襲撃を受けたのです」
やっとのことで門番が話し始めたので、みんなして耳を傾ける。だが、門番の言葉にマオは黙っていられなかったようだ。
「襲撃っ?そんなの、ありえるわけないじゃないっ。だって、街にはモンスター達は入れないはずっ」
「いえ、それが、要因はモンスターではないのです」
「モンスターじゃないっ?じゃあ、なんなのっ?」
門番は深呼吸をすると、息を吐き出すように告げる。
「ニンフと名乗る女に、妖精にっ、街は現在、襲撃を受けているのです……!」
「フフ、フフフフフフフフフ……ッ!」
誰一人としていない街中に、甲高い笑い声が響き渡る。
出来ることなら耳を塞ぎたいが、塞いでしまうと連携が取れなくなってしまう。苦渋の選択で耳を擘くその音を堪える。
「なんなのっ!?この声!耳が、痛い…っ!」
「脳に直接入ってくるみたい……っ」
「しかしっ、この声聞いたことがあるぞ!」
甲高い声が頭に響きながらも、深く奥に収納された記憶が、ラリアンに訴えかけている。
その記憶を何とか掘り返そうと、頭を抱えて探し出す。
『アナタ、記憶に触れたワネ?フフフ、ウレシイ』
何処からかそんな声が聞こえると、ラリアンはどさっという音とともに街の芝生に倒れ込んだ。
「ラリアン、ラリアンっ……!?」
そんな風にラリアンを心配する魔女二人の声も、遠のいていく。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!」
繰り返し繰り返し、泣きながら、謝る。そんな声が聞こえた。
この声は、ラリアンの昔の声だ。だが、記憶にはない。誰に謝っているのかも、何で謝っているのかも、“ラリアンの”記憶にはない。
次いで、視界が開けると、ラリアンの目の前に、“誰かの”死体が現れる。
誰だろうかと首を傾げていると、死体がラリアンを見つめた。
──そして、笑った。
『アナタの悲しみの記憶、モットミセテ?』
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ラリアンの知らない記憶を、何度も何度も何度も見せられる。
──記憶に、溺れる。
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「……っく」
「ラリーっ!目を覚ましたのね!」
「マオ……。一体、何が……?」
「ごめんなさい。私にもわからないわっ。ラリーが急に倒れて……。私の治癒能力でも、原因が分からなくって。それにラリー、あなた、眠りながらもずっと、知らない、分からないって繰り返してた。何を見てたの……っ?」
マオに支えられて、体を起こす。彼女の必死の問いかけに答えるべく、あの後のことを思い出そうとするが、ひどい頭痛で何も考えることができない。
やがて頭痛は頂点に達し、まるで頭蓋を貫かれたかのような衝撃が走る。
「あ゛っ……!」
「ラリーっ!大丈夫!?ああ、こんな時に、ユーがいてくれたら……」
ラリアンは、そんな軽率なマオの言葉に目を見開く。一方彼女も、とっさに出た言葉に自分でも驚いたのか、口元を手で覆う。
「あいつは、もうここにはいない。二度と、その名前を口にするなよ。今度口にしたら……」
珍しく悲しそうな表情をして目を逸らすマオに、はっきりと忠告する。
「あいつの記憶丸ごと、消去してやる」




