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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第二章 『それぞれの道』
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15『ぽろぽろ』


「ねえ、直人」


「なあに?」


振り向くと、何故か真顔の可愛らしい黒髪の女の子がそこにいた。

その姿に狂おしいほどの愛おしさを感じつつ、笑顔で応えてあげる。

すると彼女は、本当に分からない、とでも言うように、


「直人はどうして、いつもそんなに元気でいられるの?」


と言った。

直人は少し考えて、彼女の笑顔が見られるであろう返答を探す。


「そうだなー。明日香が隣にいるから?」


「バカ」


彼女は頬を膨らませてぷいっと横を向いてしまったが、直人は予想通りの反応に満足する。

ふと、直人は今まで歩いていた足を止め、彼女の後ろ姿を見守った。

直人が隣から消えたのに気が付いたのか、彼女は振り返る。


「……直人」


──そう俺の名前を呼んだ、夕陽の反射する彼女の姿があまりにも美しくて。


「明日香。俺さ……」


続いた言葉は、彼女には届かない。だんだんと夕日にかき消されていく彼女を引き止められないまま、直人は必死に叫ぶ。



「明日香……」


「おい、ナオト、ナオト!大丈夫か!?」


「ん、んん……」


目を覚ますと、そこには見慣れた顔があった。茶髪を短く切った髪には少量の血が垂れている。


「カンジ……」


「直人、大丈夫か?」


直人の顔を覗き込むカンジには、罪悪感というものは浮かんでいないように見える。

どうやら、カンジは街の裏切り者だという直人の推測は、間違いで終わってくれていたらしい。


「すまない。俺の仲間のせいでお前をこんな目に合わせちまった。でも、もう大丈夫だ!傷は全回復したし、傷跡も残っちゃいねえ。この後に問題はねえよ」


「俺の仲間って……」


「……さ、お前は戻れよ。お前は元の場所に戻るべきだ。こんなとこにいちゃあ、またいつ刺されるか分かんねっからな」


カンジは、直人の疑問には応えない。起き上がった直人の背中を叩いて帰るように促すだけだ。

そして、その行動だけで直人は察する。彼はもう、直人の仲間ではないという事を。


「お前、本当に、武士の街の人間なのか?」


「……」


直人の質問に対して、カンジは口を噤む。

それに構わず直人は怒りをぶつける。


「じゃあ、今までのはなんだったんだよ!一緒に騎士の街で練習頑張ったじゃないか!あれは嘘だったのかよ!?2人で頑張って強くなって、一緒に団長目指そうって!そう約束したじゃないか……っ!」


「……」


それでも、カンジは何も言わない。ただただ、口を結んで俯くだけだ。


「なんで何も言わねえんだよ!俺は、お前のこと親友だって、仲間だって思ってたのに……!」


「……すまない」


やっと口を開いたかと思えば、出てきたのはその言葉だけだ。

──違う。

直人が聞きたいのは、そんな言葉じゃない。聞きたいのは……。


「もういいだろ。……帰ってくれ」


「……っ。あぁ、分かったよ、帰る」


半ばやけくそだったが、カンジからそれ以上の言葉は聞けなさそうだったので、直人は勢いよく彼に背を向ける。

気付けば、直人達2人に周辺の目が集まってきていた。今は遠巻きに見ているだけだったが、時が経てば直人を襲ってくるだろう。何故なら、直人は彼らからすれば敵側の人間なのだから。

そしてとにかく直人は今、このむしゃくしゃした気持ちをどこかにぶつけてやりたかった。






「そうか。やはりか」


カンジが武士の街の人間であった事を隊長に報告したところ、返されたのは端的で簡潔なその言葉だけだった。


「え?隊長、知ってらっしゃったんですか?」


「まあな。だってあいつ、あからさまな名前だろ?カンジ、なんて、武士の街にありがちな名前だ。ナオト、言っとくがお前も疑いの対象なんだからな。まあ、この報告でその疑いは晴れたが」


隊長は直人の目を真剣に見つめそう言った。

武士の街にありがちな名前、というのがよく分からなかったが、直人とカンジが該当するということは、日本にありそうな和風な名前、ということなのだろう。

どうして異世界であるここにそんな名前が存在するのか直人は分からなかったが、武士の街では和風の名前が一般的らしいのはよく分かった。

そして、そんな名前同士仲が良かった直人達がいかに怪しかったのかも。


「なら、どうしてそんな怪しい俺達を放って置いたんですか?分かってたなら、追い出すなりなんなりしたら良かったのに」


「……別に、争ってる関係とはいえ、そこまでする必要はねえと俺達は思ってるからな。実際、あいつが密通者だとしても、大した情報はあいつらにはいかなかったはずだしな。基本、密通者に対しては俺達はなんも言わない事にしてるんだ。絶対漏れちゃいけない情報なんて俺達にゃないしな」


「そう、ですか」


腑には落ちなかったが、直人が口出しする問題ではないのでそれ以上は何も言わないし、言えない。

でもその、彼等の考えが直人の常識とは少し違っていたものだったので、首を捻らざるを負えない。

直人の元いた世界では、スパイは絶対悪だった。スパイはバレてしまえば即刻殺されるし、バレないように彼等は行動していた。

でも、この街では違う。別にスパイがいたって構わない。

信じられない事だが、彼等の考えは実際そうなのだ。


「でもまさか、カンジがスパイだっただなんて……」


今まで一切、疑いもしなかった。

どうして疑えようか。あんなに明るくて、悩みなんて、隠し事なんて何もなさそうなあいつが。


「カンジとは、もう会えないですかね」


「だろうな。向こうだって戻りたかないだろ。お前にバレてなきゃ分かんなかったかもだが、もうバレちまって居辛くなることは確かだろうしな」


「そっすよね……」


カンジはもう、この街には戻ってこない。前のように笑い合って剣を打ち交わすことはないのだ。

そして今の直人に残るのは、全てを失ってしまったかのような虚無感だけなのだった。

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