14『探しているもの』
「どうしてあいつが、武士のところに……」
一瞬見えたあの茶髪は、すぐに黒髪の波に飲まれてしまい見えなくなる。
あれは間違いなく、ナオトの相棒のカンジだった。どうしてあんな所に、彼がいたのだろうか。今日は罰則が嫌で修練をサボっていたのだと思っていたばかりに、その衝撃は大きい。それに、騎士側の陣ではなく、敵である武士側の陣にいた。
──どうして。
そんな言葉しか出てこなくなってしまった直人の後方から、怒声が飛んでくる。
「おい!ナオト!ぼーっとすんじゃねえぞ!剣はしっかり握っとけっ」
「はいっ。すんません!」
いや、勘違いかもしれない。あれはカンジによく似た人物で、本当のカンジは今、どこかで戦っているのだ。でないと、そうでなければ、そうであらなければ、彼は……。
「くっそ……」
こうなってしまっては、ただの傍観者ではいられない。あれがカンジでなかったという証拠を、ナオト自身が敵陣に赴いて確かめなければなるまい。
「よしっ」
初めてまともに握った真剣の重みを感じながら柄を握り締め、覚悟を決める。
もし彼が本当に───なら、その理由を問いたださねばなるまい。そして出来るなら、彼を連れ戻す。
唯一無二のこの世界での親友を、ここで失いたくはなかった。
「はあ、はあ……」
そろそろ限界だ。剣を振り続けた手は感覚がなくなってきているし、走り続けた足ももう棒のように動かない。
そんな中でも、直人は戦い続ける。
前方上空から飛んできた弓矢を弾き、腹部に向かってくる刀も受け流す。そしてすぐさま、聞こえてきた後方からのおそらく刀のものであろう風切り音を、振り向きもせずに自らの剣を振って止める。その隙を見てか、何人かの刀が、直人の体を狙う。もうこれは駄目だ、と直人は思いかけたが、間も無く救援が駆けつける。直人を狙っていた奴らはその救援に斬り付けられ、血を噴き出しながらその場に倒れる。
「大丈夫か!?」
駆けつけた救援は、どうやら直人の所属する班の隊長だったらしい。その偉丈夫の服は所々破け、まだ赤い血もいくばくかついている。
「すみません、迷惑かけました。すぐ、立て直します」
「いや、お前はしばらく休んどけ。その傷も、すぐ直してもらえるはずだ。救護所はあっちだ。無理すんじゃないぞ」
「了解です」
隊長の指差す方向を目視し、敬礼する。彼は軽く頷くと、すぐ戦場に戻って行ってしまった。
戦場を見るも、未だカンジの姿は見当たらない。もしかしたら、もう既に救護所に運ばれているのかもしれないと思い直し、直人は胸の切り傷の痛みを感じながら、戦場後方へ走って行く。
「まあ、大変!早くこちらへ!」
救護所に着くや否や患者を見ていた女性の目にとまり、直人は救護所の奥の方へ連れていかれる。
「よかった、まだ浅いわ。このくらいなら、魔法ですぐ治りますよ。少しお待ち下さいね」
白衣で身を包んだ金髪の女性は、直人の胸の傷口に手を当て、術式を唱えだす。傷口が光に包まれたかと思うと、その光は瞬く間に消えてしまい、彼女の手も直人の胸から離れる。
「はい。治りましたよ」
「ありがとうございます」
傷の痛みが消えたので、直人はすぐに救護所を出ようとするが、手首を掴まれて足を止める。
「お待ち下さい、騎士様。少し、休んでいって下さいね。この救護所は、体を休ませる効果があるんですよ。少しだけでも、いいですから」
「あ……。分かり、ました」
確かにこの場所に来てから、体の中心から温まるような感じがする。
これもきっと魔法だろう。まだこの世界に来てから3ヶ月も立っていないはずだが、魔法の感覚にも慣れてきた。未だに直人自身は魔法を使えないが、この世界の魔法の知識は増えてきている。
例えば、この真剣。これはこの戦いのために急造されたもので、耐久度は低いが本物の剣とはなんら変わりない。
それと、この服。この服にはある種の魔法が仕掛けられているらしく、布の重みはほぼ無いし、暑くならないので汗もかかない。
そして疑問なのが、どうしてこの世界はこんなに発展していないのか、と言うことだ。魔法で全て終わらせることが出来るのならば、もう少し街の景色も新しいものになっていてもおかしくないのに。
いや、魔法で全て出来るからこそ、発展しないままなのかもしれない。
「よし、行くか」
少し休憩したし、カンジも探したがここにはいない。ならば、ここに長居する必要はもうないだろう。
座っていた椅子から立ち上がり、腰に下げた剣の柄に手を当てる。
──あと、もう一踏ん張り。
もう少し頑張って探してもカンジがいなかったら、もう戦うのはやめよう。もしかしたら、明日になってひょっこり顔を出して来るかもしれないし。
「ふっ……」
気合いを入れ直し、ブーツの踵を鳴らしながら直人は走る。
最前線で戦っている仲間の元に辿り着くと、勢いよく剣を剣帯から抜き、向かって来る刀を次々に弾く。
相手に致命傷を与えることは直人には出来ないが、怪我をさせて後ろに下がらせるぐらいの事は出来る。人の命を奪う事は恐ろしい事だ。しかも、この戦いにおいてその必要はほとんどないというのに。
──明日香を殺してしまった自分には、これ以上人を殺すことなど許されない。
彼女を取り戻すことがもう出来ないのならば、もう自分はここで死んでしまってもいいのかもしれない、と思っている矢先、直人の横腹に激痛が走る。
見ればそこには、刀が貫いていて。まるで自分のものとは思えないほどの鮮血が、真新しい制服を汚しているのだった。




