番外編Ⅱ 4 BBQ
「わあ、ここが……」
「みなさーん、並んでください!」
かの有名な魔術師訓練施設、と言おうとしたところを、担任の大声で遮られてしまった。
この魔術訓練施設はその名の通り、魔術師の訓練・強化を行うための施設だ。そして、遠足はこの施設で行う、というのがこの学校の伝統らしい。
この施設を使えるのは有力な貴族か、国の支援した学校のみだ。そういう観点で見ると、国の支援を受けるには相当量の社会貢献を果たす人材を排出しなければならないので、それが出来ているこの学校はかなり高いレベルだといえる。
「あれ、蘭、何か言おうとした?」
「ううん。何でもない」
そしてこの学校の遠足は少し特殊だ。ただ遊ぶだけでなく、生徒の実践力を強化する、という名目でこの時期に設置されている。故に、これから教員たちから何かしらの指示があるのだと思うのだが……。
「よーしっ!並んだか!?じゃあこれから、遠足の一大行事、バーベキューを始めるための説明をするぞ!よーく聞いとけ!」
学年主任で体育担当の大柄な教師の声がこの、施設手前の草原に響き渡る。
──そう、バーベキュー。それが、この学校の遠足の伝統行事だ。その内容は至って単純。自分たちで食材を集めて調理しろ、というもの。
しかし、普通ではないところがこの学校の特色だ。そしてそれはこのバーベキューにも適用される。
「優勝したチームは、ポイントが入る!ポイントは成績にも大きく影響するから、せいぜいお前らは優勝目指して熱く燃え上がるんだな!」
このバーベキューは、一番美味しく出来た班が優勝と見なされるのだ。
「さ、どうしよっか。役割決めなきゃだよね。私は狩りがしたいなあ!」
マヌルが自らの肩を回しながらハキハキと喋る。この間挨拶をした彼女の友人達と私は班を組む事になったのだが、その中での役割決めを彼女はしたいらしい。
役割は恐らく、肉を取るための狩り、野菜組を採るための採集組、水を探すための探索組となるだろう。
「じゃあ、私も狩りがいいなあ。体、動かしたいし」
「マヌと蘭さんが狩りなら私は採集かしら。それに、この中で植物に詳しいのは、私だけですからね」
虹樹がそういうと、彼女の隣に立っていたラノも、
「私も採集で」
といったので残りは、イアとユーピテルのみ。
「そうなると、僕とイアが探索、ということか」
ユーピテルがイアの顔を見ながら言うと、彼女はコクリと頷く。
──なら、私も探索にすればよかったな。
と私が少し後悔していると、マヌルが元気よく甲高い声を鳴らした。
「決まりね!それじゃ、蘭行きましょ!」
「蘭!攻撃するのはいいけど、ちゃんと形は保たせてよ!じゃないと、食べれなくなっちゃうから!」
「分かった!」
私の魔法は全範囲殲滅型なので狩猟には実は向いていないのだが、何とか力を抑え込みつつ狩り用の動物達の命を奪っていく。
一方のマヌルは抜群の戦闘センスで、動物達をほとんど傷付けずに狩っていく。
やはり、小学校からこの魔法学校付属に通っていただけあって、私とはレベルが全然違う。一体狩るのに10分程蘭は掛けてしまっているのにも関わらず、マヌルはその半分とかからない。
「次の一体で休憩するよ!」
「了解!」
きっとマヌルはすぐに片付けてしまうので、蘭も急いで今目の前にいる牛と対峙する。
牛は大して動かないが、時折見せる突進攻撃が厄介だ。熱を操る蘭にとって、突進前に片付けることは造作もないのだが、そうしてしまうと牛の体は跡形も残らず燃え尽きてしまう。
その蘭の迷いを感じ取ったのか、同じく対峙中だったマヌルが背中を向けつつ声を掛けてくれる。
「熱の勢いを抑えたら炭にはならないんじゃない!?」
「ありがと!」
熱の勢いを調節し、牛の皮だけが焼けるようにする。後は、完全に命を絶つだけ。
「ごめん、マヌル!最後頼んでいい?」
「はーい!」
もう既に彼女が片付け終えているのを確認し、最後の仕上げを彼女に頼む。
声とともに彼女は勢いよく跳び上がり、くるくると回転しながら手に持っていたナイフで牛の体を一突きした。
「ごめんなさい……」
最後にマヌルが牛に向かって投げ掛けた言葉は、蘭には届かなかった。
「はあ〜っ!負けた負けた!」
マヌルが大きく背伸びしながらなんだかんだ気持ち良さそうに声を上げる。
「負けましたねー」
虹樹も、女神のような笑みを浮かべながらその言葉を発する。
負けたのにあまり悔しさを見せない2人に、蘭は苦言を呈する。
「でも、あの優勝した班、何もしてなかったよね?狩場でも全然見なかったし……」
今しがた終了したバーベキューは、縦巻き髪の女子だらけの班が優勝を飾った。
勝ち誇ったような笑みを浮かべた彼女達は表彰台の上で、まさに人類の頂点にでも立ったかのように高笑っていた。
「あの人たちは、いつもそう……」
蘭のこらえきれない不満に、イアがそう返す。
「どういうこと?」
その質問はイアに投げかけたつもりだったが、彼女が口を閉ざしてしまったので、代わりにユーピテルが答えてくれる。
「彼女達は上位貴族で、どの行事の時も課題は付き人にさせているんだ。今回もきっとそうだろう」
「えっ。それって違反じゃないんですか!?」
その私の驚きに、彼は即座に返答する。
「彼女達は上位貴族なだけあって、学校への寄付金額も膨大だ。それが減らされることを恐れて、教師達も咎めることが出来ないのだろう」
そのユーピテルの説明に、他の全員も私と同じように不満は持っている様だったが、きっとどうすることも出来ないのだろう。
「私は、嫌だな。出来るなら、自分の力で勝ちたい。きっとあの人たちは、そんなこと思ったことないんだよ」
思いを吐露する様に呟く。
──悔しい。負けたくない。
そんな思いが、胸の奥から這い上がってさらに溢れそうになる。
すると突然背中を叩かれ、上がってきた思いが中途半端なところで霧散する。
「なら、私達であいつら、負かしてやろうよ!次の行事は試験!私達でなら絶対勝てるって私は思うわ!」
マヌルが満面の笑みを、むせる私の顔の近くで覗かせる。
その笑顔に私の悔しさはどこかへ飛んで行ってしまった。
「よし!私、頑張る!」
「私も……!」
私のやる気に、意外にもイアが参加する。
そして、その輪は段々と広がる。
「僕も」
「私も頑張ろうかしら」
「仕方ないなー」
「じゃあみんなで!」
「「「「「「おー!」」」」」」
マヌルの掛け声に合わせて、この場にいる6人全員の声が揃う。
そしてあっという間に試験はやって来た。




