13『自分のためだけの願い』
「曰く、その魔法は唱えた者の願いを何でも1つだけ叶えるといわれているわ。曰く、その願いは切実なものこそ正しく叶うといわれているわ。曰く、その魔法の代償として命を落とした者さえいると言われているわ」
そう淡々と説明したのはリアだ。因みに今は放課後で、やけに広いのに誰もいない広場のベンチで3人並んで腰掛けている。
魔法祭で優勝すると、何でも願いを叶えることの出来る魔法が使えるそうで、その魔法はその万能さから禁断魔法の一つに加えられているらしい。
因みに、禁断魔法として登録されている魔法は多くない。
ルイが知っているのは、即死魔法、服従魔法あたりか。もう少しあった様な気もするが、思い出せない。どちらも邪属性魔法の一種なので、残りも邪属性に違いない。問題は、その《どんな願いも叶える魔法》だ。この魔法は、属性がない。直接世界と繋がることで願いが叶えられていると云われているが、これも諸説のひとつでしかなく、まだはっきりとした研究結果は発表されていない。しかしこれも、全知全能であると噂されるあの人なら知っているかも知れないが。
「じゃあ、リアとミラは何を叶えたいの?」
優勝を目指している様に見える2人なら、彼女達にも何か叶えたいものがあるはずなのだ。
予想通りミラは満面の笑みを浮かべ、「私はママとパパとおんなじ様にすごい人になりたいの!」と言う。しかしリアはうつむき黙ってしまった。
その様子を見かねたミラが彼女の代わりに彼女の願いを耳打ちでルイに伝える。
「リアはね、強くなりたいって言ってたわ。何でかは教えてくれなかったのだけれど」
「強く、なりたい」
強くなりたいにしても、何かしらの理由があるのだと、ルイは持論を持っている。
例えば、何かを倒したい。例えば、誰かを守りたい。
ナツメであれば守られるだけではありたくないと強さを求めただろうし、ナオトであれば、ナツメを守れる様になりたいとそれを求めていただろう。
しかし、リアはそのどちらとも違う様にルイには見える。
強くあれない彼女の身は、きっと誰かにずっと虐げられてきていたのだ。だから、彼女は強くなりたい。
そんな彼女を守ってあげたいと、ナツメを守れなかった無力な自分が訴えている。
「ルイも、強くなりたい。だけど、ルイの願いは違う。ルイは、お姉ちゃんを守りたい。守れなかったから、今度こそ……」
今度の魔法祭で頂点に立ち、ナツメを生き返らせるように神に誓わせてやる。ナツメを守るのは、その先からだ。もちろんその、リアをどこかから救ってみせるというのも忘れずに付け加えておく。
「私の願いは、誰かを守るためだなんて、そんな大それたものじゃない……。私の願いは私のためだけ。ルイみたいに格好良くないわ」
「それでもいいと私は思うわ。だって、願いなんてそんなものでしょ?私だって、リアと同じようなものだもの。ママとパパみたいになりたいのは、私のためだけよ。リアだけが自分のためだけに願っちゃダメなんて法はどこにもないわ」
「ありがとう、ミラ」
実はこのやり取り、ルイが来る前からも繰り返し行われてきていた。その度に、落ち込んだリアをミラが同じような言葉で励ましていたのだが、今回は少し違った。
「ルイもそう思うの。ルイだって、ほとんどルイのためだもん。ルイの力がないせいで守れなかったのがくやしくて、くやしい思いをなくしたいだけなの。だから、ルイもリアとミラと同じ。ルイのためだけに、願いを叶えたいの」
ナツメを守る力のなかった自分が不甲斐なかっただけ。そんな思いを、取り除きたいだけなのだ。
きっと、ラリアンもナオトも同じ気持ちだ。それなら代わりに、願いを叶えられる、ルイがそれをしなければならない。
「私、優勝したい……。優勝して、強くなって、自由になりたい……!」
リアが、心の奥から絞り出すように声を出す。
ルイとミラの2人は、そう言って拳を強く握りしめる彼女の手を1人ひとつ上から覆ってやる。
「みんなで、優勝しましょ!みんなの願いを叶えるために」
「3人合わさればいちばん強いんだって、教えてあげるの!」
リアが強く頷くと、3人は輪を作るように手を繋ぐ。
「頑張るぞー!」
ミラが音頭をとると、なんの示し合わせもなく3人は繋いだ手と手を天高くあげる。
「「「おー!」」」
それぞれの想いを含んだ小さな魔法使い達の掛け声は、雄大な青空に力強く響いた。
「ここは、どこ……?」
長く苦しい夢から覚めた■■■は、見知らぬ天井に動揺を隠せない。ただの天井ではないように見えたのも、原因の一つだ。何もない、虚無の天井。しかし、何もかも吸い込むような黒ではなく、逆に何もかもはじき返してしまいそうな白。柄も、凹みも、傷もない、純粋無垢な白色。
そして急に押し寄せてきた吐き気が、■■■の体を跳ね起こす。
「うっ……」
実際吐くことはなかったが、嗚咽感がいつまでも消えず、口元に手を添えたまま■■■は過呼吸を起こす。
原因の分からない居心地の悪さが、その嗚咽感を呼んでいることは、■■■は理解していた。
問題は、この居心地の悪さが消えないことにはこの吐き気もいつまでも消えないというところだ。
「あら、起きましたか?」
どこかから、聞き覚えのある声が■■■に向かって掛けられた。しかし■■■は、その声の主も、自分が誰であるのかさえ分からない。
「おはようございます夏目さん。そして、初めまして。私、女神と申す者です。以後よろしくお願いしますね」
そう言って慈愛の笑みを浮かべた白髪の美少女は、夏目に向かって初対面の意を伝えたのであった。




