12『繋がり』
「よっしゃあ、今日は、地形変化の訓練をするぞ。やり方は前の授業で説明した通りだ。俺はちょっくら出てっから、気ィ抜くんじゃねえぞ。……ほら、ルイさんや、俺について来い」
焦げた肌の男性教師に言われて、ルイはどこかへ連れて行かれる。と言っても、そう離れた場所には行かなかった。他のみんなの声が少し遠くに聞こえる場所で、教師の低い声が響く。
「嬢ちゃん、ただの人間のくせに、地との繋がりが強いな。昔なんかやってたか?」
ルイは教師のその発言に違和感を抱きながらも、やってない、と答える。
昔やっていたのは盗みか追いかけっこかのどちらかだ。それに、追いかけっこも盗みの延長で、実際は盗みしかしていないとも言える。
人より高く跳ぶことも出来たが、その事は誰にも不思議られなかったので、別に大した事じゃないとルイは認識していた。
「ほお?じゃあ、天賦の才ってやつか。羨ましいぜ」
何が羨ましいのかルイにはよく分からなかったので、教師の次の言葉を、何も口に出さずに待つ。
期待した通り、教師はルイが何も返さないのを気にせず、次の言葉を続けた。
「各属性の授業ではな、その属性との繋がりを強くする事を最優先するんだ。だから、始めたばっかりの授業では、俺たち教師の説明に従って属性との繋がりを強くする。だが嬢ちゃんは確認するだけでいいかもな。……じゃあ、これから俺が見せるのを真似してくれ。そんなに難しい事はしないから心配すんな」
そう言いながら男性教師はルイの頭をグリグリと撫でると、突然力強く地面を踏み締めた。
そして大きく跳び上がると空中で手を合わせ大きな音を鳴らす。やがて、彼の足が地面に着地しゴゴゴッと激しい音がなると、先程まで平らだった地面から尖った山がいくつも飛び出して来た。
その山はルイのほど近くにも出現し、自分の身長よりも高いその山にルイは呆気にとられる。
「見たか?嬢ちゃんもやってみな」
「……」
初めて、土属性の魔法を見た。マスターもリナンもラリアンも闇専門だった上、ナツメやダイスケ、ナオトに至っては魔法もまともに使えなかった。
それなのに今実践しろと言われても、出来る訳がない。
ルイがその事を言うべきか口を開閉していると、男性教師が鼓膜に響く大きな声で思い至ったように言った。
「ああぁ!そうか。まだ術式を教えてなかったな。いいか、よく聞いとけよ。……ギ・エピテシだ。シはスに小さくイを付けるといいのが出来るぞ」
「いいの?」
ルイがそう聞き返してみるが、男性教師はやってみろと言わんばかりの顔をするだけで何も言わない。
恐らく、ルイの聞き返した言葉が聞こえていなかったか、聞き返したとも思っていなかったかのどちらかだろう。
取り敢えず術式を唱えてみようと決心し、教えてもらった術式を口の中で反芻する。
「ギ・エピテシ……」
これで最後にしようと、大きめに呟く。すると何故か近くの地面がガッと音を立てて突き出して来た。
ルイは予想外の事象にひどく驚き、突き出した地面から素早く遠ざかる。
「何で……!?」
「ありゃりゃ。思ったよりも繋がりが強かったみたいだな」
「繋がりって何?」
先程も同じ言葉を彼の口から耳にしたが、ルイ自身意味が全然分からなかったので、この場を借りて質問してみる。
すると教師は大きく目を見開くと、そんな事も知らねえのか、と小さく呟いた。
「繋がりってえのは、繋がりだ。それが強いほど、強力な魔法を操れる。大抵の子供は、その繋がりを持っていないか、持っていても微弱だ。それを学校の授業でどんどん強くしてく。詳しい事は精霊学か魔法学の授業で習うだろうぜ。今この授業ではさして重要じゃねえから、この説明はここまでだ。ま、要するに、嬢ちゃんは今、繋がりを踏まえた上でのコントロールが必要だって事だ。コントロールするには魔法を使い続けることが必要だから、覚悟しとくんだな。俺の訓練は厳しいぜ」
そんな訳で、ルイの最初の授業は魔法を使うのに失敗したことから始まった。
「先生、どうだった?」
「どうってなあに?なの」
授業と授業の間にあると言う休み時間にルイの机の近くまでやって来たミラは興味津々にそう聞いてくるが、彼女の言う「どう」の本意が分からず思わず訊き返す。
するとミラはルイの返しに驚いたのか軽く狼狽し、上目遣いになってからやっと口を開く。
「うーん。……怖くなかった?」
なるほど、そういうことか。とルイは納得する。
確かにあの教師は見た目は怖そうだったが、意外と中身は気さくでガハハ、と大きな笑い声を上げながらもルイの話を楽しく聞いてくれた良い人だ。
「怖くなんかないよ、なの。確かにちょーっと怖そうだけど、全然喋るし急に殴って来たりもしないの」
「へー?」
ミラは何だか納得が行かないのか疑念の色を目に浮かべる。
しかしこれ以上彼について喋る事もないので、ルイは彼女の目から逃れるため別の話を切り出す。
「えっと、さっき聞けなかった……」
「ああ!魔法祭ね!さっきは始業の鐘がなってしまったんだもの、仕方がないわ。……良いわ。私が教えてあげる。ほら、リアも来なよ!説明とかするのはリアの方が向いてると思うの」
「そうかしら?」
ミラが、近くに座っていた黒髪の彼女を呼ぶ。リアがルイの近くに椅子を引っ張って来たのを確認すると、ミラが説明を始めた。
「魔法祭って言うのはね、学校内の全学年が自分の魔法で闘ったり、見せっこしたりするお祭りなの。それでね、中央の街だったり、湖の町だったりの色んなお店がこの雲上の街にやって来てお店を出すのよ!去年食べたソラパン、美味しかったなあ……」
「こら。ミラ、途中から食べ物の話になってるわよ……。それで魔法祭では個人戦とチーム戦とクラス戦、学年戦があって、優勝した人には褒賞があるから、それが欲しくてみんな頑張ってるのよ」
「へえ。褒賞ってなあに?お金?」
思わず気になって聞いてみたが、例えで出したつもりの名前がお金でルイ自身もびっくりする。リアもミラも驚いた様だったが、そんな事は気にせず優しく内容を教えてくれた。
「クラス戦と学年戦では優勝賞金、つまりお金ね」
リアが答え、次はミラが口を開く。
「個人戦とチーム戦の目玉はただ一つ!──禁断魔法《どんな願いも叶える魔法》の行使よ!」




