11『適正属性』
「さて、ルイさん。あなたの適正魔法属性を判断したいと思います。この台に両手を当てて下さい」
そう言われて示されたのは広い部屋の中にポツンと設置されているツルツルとした石の台。
恐らく、魔力感知版の類だろう。始まりの街にも同じような物があったが、きっとこの様子からするとこちらの性能の方ががだいぶ高いはずだ。
ルイが不可解な絵の描かれたその台に手を触れた途端、その絵が不気味に光りだす。
ルイは若干驚いたがそれは当たり前のことだったようで、傍らに立つ魔法実技担当だという教師は微動だにしない。
次第にその絵は形を変えていき、沢山の文字と直線が現れる。やがて光は消え、石板は先程とは違うものを映しながらも、元どおりになる。
「手を離して下さい」
ルイが手を離すと、教師は石板に浮かび上がった文字を覗き込んで、ふむ、と鼻を鳴らしながら言った。
「あなたの適正属性は土ですね。オド量も多いです。でもどちらかというと……。いえ、何でもありません。忘れてください。ええと、身体能力も高いですね。……分かりました。あなたの担当の先生はドギネンス先生が適任ですね。私から頼んでおきますので、次回の実技授業からはドギネンス先生を訪ねてくださいね」
「分かったの」
「では、まずはオドを使う練習をしましょう。基礎中の基礎ですから、すぐに出来ると思います。いいですね?」
「うん、なの」
その後すぐに部屋から出るように促され、ルイはみんなの元へ戻った。そこには、ルイを待っていたと思わしき2人がルイに手を振ってくる。ルイはそれに振り返し、駆け足で2人の元へ行く。
「どうだった?」
そう聞いてくるのは興味津々に目を輝かせるミラだ。ルイはミラの言いたいことをすぐに察し、答える。
「土だって!」
「わあ!すごいね!私達、本当に最強だよ!」
2人で手を合わせ、軽く跳びながらはしゃぐ。その様子を見ていたリアも嬉しそうに微笑んでいる。
「そう言えば、リアは何属性が得意なの?」
「すごいのよー、リアはねー」
「聖属性よ。バフを掛けたり、回復魔法を使ったりするのが得意なの」
ルイの、リアに対した質問に答えようとするミラを遮り、端的に説明するリア。
その反応にミラは少し不服そうだ。苦笑いしながら、ルイは会話を掘り下げる。
「バフってなになの?」
「バフっていうのは、掛けられた人の能力を上げる事が出来る魔法。例えば魔法攻撃のバフをかけたとしたら、使うオド量を上げなくても、威力を上げる事が出来るわ。他には、足を速くしたり、オドが回復するまでの時間を短くしたり出来るの。まだ私には出来ないんだけどね」
「へえ、すごいの!初めて聞いたの」
聖属性という分類があることはギルドにいるときにある程度聞いていたが、詳しい事はあまり教えてもらえなかったから、耳に新しくルイは感激する。
そんなはしゃぐルイに、背後から声が掛かった。
「ルイさん?」
「あ、先生……」
急に怯えた表情を浮かべたミラが、ばつが悪そうに目を伏せる。どうやら、ルイの背後に誰かが立っているようだ。
そう気付いたルイは、返事をしつつ振り向く。
「はあい、なの」
その先には口の端を引きつらせた教師が立っていた。その表情にルイは何故だか、怒ったリナンに対するものと同じ恐怖を抱き、後ずさりする。しかし教師はその、逃亡という行為を見逃さなかった。
「まだ、戻っていいとは誰も言ってませんよ?」
「ご、ごめんなさい、なの……」
「さあ、私について来て下さい。……あなた達もずっと待っていないで、それぞれの先生の元へ向かいなさい。そろそろ試験も近いです。赤点者は追試ですからね。遊びたければ、日々の学問を欠かさない事です」
「は、はい!分かりました!」
ひどく萎縮したミラは、ピンと反らせた右手を額の近くへ持っていくという謎の行動をとる。
何の恰好何だろう、と疑問に思いながらも、ルイは方向転換をした教師に早足でついて行く。
本格的に何かを「学ぶ」というのは初めてだったが、ルイは何の不安もなくウキウキしながら、学園の敷地内を駆けた。
「今日から1ヶ月後には学校対抗魔法祭が始まります。総合優勝目指して、皆さん努力を欠かさないで下さいね」
クラスの担任だと言う教師は、そう伝え終わった後に教室から出て行ってしまった。彼女とは初めに会った時と少ししか話していない。彼女の受け持つ授業は明日にはあるらしいので楽しみだ。確か、魔法化学といったか。
「今日は先生、忙しそうだね。いつもならもう少し話すのに、もう職員室に言っちゃった」
前の席を座っていたミラが後ろを向いてルイに話しかけてくる。
「そうなの?」
「うん。昨日嬉しかったこととか、悲しかったこととか。たまに、学会で発表された魔法化学の話もするの。だから、うちのクラスは帰りが遅くなるんだあ」
「ふーん、なの。……ねえ、魔法化学ってなに?」
ガッカイ、と言う言葉の意味も分からなかったが、前から気になっていた魔法化学について聞く。
魔法は分かるが、カガク、とは一体何なのか。
「あ、そっか。ルイちゃんは学校行ったことないんだったよね」
ミラから先程聞いたのだが、通常子供は学校、と言うところに通うものらしい。
そこで生きて行く上での最低限のことを学び、卒業して行くと言う。
期間は3年。無事卒業することが出来た子供達は、そのまま上の学校に進学するか、親の仕事を手伝うか選べるそうだ。
ルイの住んでいた始まりの街には無かったが、もしかしたら通ってる子はいたかもしれない。
まあ、必ず通わなければならないと言う事はないようなので、ほとんどは通っていなかったと、ルイは思う。
しかし、この魔法学園、いわゆる上級学校に通うには学校を卒業している事は絶対条件らしいので、学校に通っていないルイが通えている事は相当な特例と言える。
「魔法化学はね、オドはどうやって出来ているのかとか、マナは何で出来てるのか、考えたり学んだりする授業なのよ」
──なるほど。魔法そのものについて考えるのか。
「それは違うわ、ミラ」
ミラの説明にルイが納得しようとしていた所にリアが横入りする。
「魔法化学は、マナがどうやってできているか考えるの。オドじゃないわ」
「えー?大して変わらないじゃない。私は、存在する場所が違うだけで、2つとも同じ存在だと思ってるわ。それに、そうとも習ったし」
「そうだけど、マナがオドに変わることを考えるのは魔法生物の範囲よ。化学じゃないわ」
「むう」
そう言われて、ミラは言い返せなくなってしまったらしく、頰をぷくりと膨らませてむくれている。
そんなことより、ルイは頭が混乱していてそれどころではなかった。
魔法化学の次には魔法生物が出て来た。まだ聞きたい事は沢山あるのに、また増えてしまえばルイの頭はさらに混乱するばかりだ。
「それより、ルイも魔法祭参加するわよね?応募枠が私達2人だけでは後1人足りないのよ」
「えっと……。いっこ聞いていい?」
「ええ」
おずおずと申し訳なさそうに顔を上げたルイが右手を挙手する。それを見たリアはルイの発言を許可した。
「魔法祭って、なあに?」




