10『制服』
「ルイ!起きて!」
「んん……」
「大丈夫?」
目を開けると、ルイを覗き込んでいる顔があった。
「ん?」
「泣いてる。悪い夢でも見た?」
どうやら、ルイは涙を流しているようだ。きっと、よく見るあの夢のせいだろう。
ナツメと出会ってからあまり見ることは無くなっていたが、久し振りに見たせいで涙を流してしまったのだとルイは思う。
「大丈夫なの。大丈夫っだから……」
溢れてくる想いが胸に詰まって、声が出せなくなる。
その様子を見たミラは大きい目をさらに見開き、慌ててルイの背中をさする。
「大丈夫、大丈夫だよ」
しばらくそうしていると気持ちが落ち着いたのか、嗚咽が止まる。
ミラはハンカチをポケットから取り出し、ルイの頰に伝う涙を拭く。
「がっこ、行けそう?」
がっこ、とは何かが良く分からなかったが、取り敢えず頷く。
「うん。じゃあ、準備しよ。でも、ルイちゃんの荷物はほとんど無いから着替えるだけでいいね。私はママのお手伝いしてくるから、これに着替えててっ!」
そう言って彼女はルイが何故泣いていたのかも聞かず、紺の衣服を押し付けると、どこかに行ってしまった。
渡された衣服は複雑なつくりをしていそうだったが、似たような服を冬になるとリナンがよく着ていたので、着方はなんとなく分かる。
昨日ミラから借りた寝間着を脱ぎ、バラバラに散らばった衣服の中から薄い生地のものを手に取り、身に着ける。
大きさはルイの体にちょうど合っている。淡々と着替え、最後に蝶型の首紐を巻き、着替えは終わる。
鏡を見るとそこにはいつもとは違うルイの姿があって、その鏡の隣には今までルイの着ていたワンピースがぶら下げてある。
──しばらく、あの服を着ることもなさそうだ。
ナツメとの思い出を心の中に感じながら、ルイはミラが去って行った方向へ向かう。
「あ!着替え終わった?いい感じじゃない!ねえママ見てよ、ルイちゃん、すっごく制服が似合ってるの!」
「あら、本当ね。おはよう、ルイちゃん」
そこにはミラと昨日少し会っただけのミラの母親が立っていて、ルイのことを笑顔で迎えてくれた。
ルイはそれに朝の挨拶で返す。
どうやら、ルイの今着ている服はせいふく、と言うらしい。
「おはよう、なの」
ルイの返事にミラの母親は笑顔で返すと、ルイを椅子に座るよう促した。
机には、トーストが2枚載った皿が置かれている。
「さ、朝ごはんにしましょう」
そうしてしばらくの間ルイは、あの夢を見、起きて制服に着替えて朝食を食べ学園に向かうという、この変わらぬルーティンをこの家で繰り返すことになったのであった。
「ところでルイちゃんはさ、なんの魔法が使えるの?」
「ルイ?んーとね、分かんない」
ルイのその返答に相当驚いたのか、ミラは道でええっと大きな声で叫ぶ。
「どうして!?……もしかして、一回も魔法使った事ないの?」
「ううん。そんなことはないの。でも、ルイ、オドで魔法使った事なくて、どれが得意とかは、よく分かんない」
「え!?じゃあ、マナを使ってるってこと?すごいね、ルイちゃん!今度、私にもやり方教えてよ!」
「うん、教えてあげる、なの」
実際は、相当特別な人でないとマナを使うことは出来ないが、そんなことは露知らず、ルイはコックリと頷く。
ミラも、本来ならばそのことに気がついているはずだった。しかし、気が付かなかった。このことが、今後2人の、いや3人の間に亀裂を入れるだなんて、誰も考えてもいなかった。
「ミラはなんの魔法が使えるの?」
「私はねー、炎!かっこいいんだよー。ほんとはここで見せてあげたいんだけど、学園の外で魔法使っちゃいけないから、授業の時にね!ルイちゃんの得意なのも、その時に分かると思うよ」
「楽しみ、なの」
ルイがそう小さくいった声はミラに届かなかったのか、すかさず彼女が独り言のように呟く。
「土だといいなー」
「どうして?」
そのルイの疑問に、ミラは興奮気味にこう答えた。
「だって、私が炎に強いのは水でしょ?で、水に強いのは土!しかも、回復もできるから、私達、最強になっちゃうじゃん!?」
「私達?」
「初めまして、私はミラの友達のイリリアナ・ハテラフルです。リアって呼んでくださいね」
ミラに紹介された彼女の友達は、すごく身長が高かった。ルイがかかとを上げても届く気配は全く無い。
「リア……。ルイは、ルイナ・アルベラなの。ルイって呼んで、なの」
「ルイ、ね。よろしく」
彼女が腕を伸ばし、ルイに手を差し出してくるのでその手を掴もうとするも、ギリギリ届かないので仕方なくかかとを上げて手を伸ばす。
やっと掴めたその手は思いの外冷たく、ひゃ、と驚く。
「ああ、ごめんなさい。冷たかった?」
「う、うん。ちょっとだけ冷たかったの……」
「ごめんなさい。私、冷え性で……」
彼女はすぐに手を引っ込め、自分の手で手を包む。
そのやり取りを見ていたミラはここが会話の区切れだと判断したのか、リアとミラの両方の手を掴み引っ張った。
「さ、リアの手が冷たいのはいつものこととして、早く学園に行こ! いつまでもリアの家にいるわけにも行かないでしょ?」




