4『再来・音楽の街』
「くそ……。何だったんだ、あいつは」
以前打ち滅ぼしたはずのワンが生きていた。その上、ナツメの体を奪おうとしている。
そして、この腕の中にナツメの姿はない。もしかしたら、彼女の体を抱えたままだった直人なら彼女の体を守りきれていたかも知れないが、おそらくその確率は低い。
今はとにかく、転移魔法で飛ばされた場所をはっきりとさせなければなるまい。
「何だか見覚えのある街だな……」
ラリアンの飛ばされた場所は、まだはっきりとしていない。
ただ、大通りにしては人がいない。全くと言える。
夜中だから、というのもあるかも知れないが、それにしては人も居ないし、暗すぎる。
「もしや……」
あの街なのではないだろうか。あの、不可思議で怪奇的なあの街。
もう少し歩いてみようと、ラリアンは帽子の鍔を上げる。
やはり、間違いない。少しの間しかここには居られなかったが、ここは、あの街だ。音楽の街。
「あやつの策略の末に滅んだ街、か……」
ラリアンは一先ずの寝所を探すために、石畳の道を再び歩みだした。
「さあて、これからどうしようか」
適当に見つけておいた家を出、噴水の縁で思考する。
取り敢えずは、ナツメの体を取り戻すことを目標とすることは決まっているが、その過程がまだ決まっていない。
もし、この音楽の街に飛ばされた理由があるのだとしたら、ラリアンはそれを達成しなければならないだろう。
あの老人、いや、少年が残した思いを、魔女として、仲間として、この街に何かを……。
「いや、柄じゃないな……」
しかし、柄じゃないとは言え、このまま仲間と共に作った街を、世界をそのままにしておくのは忍びない。
──大丈夫だ。ナツメはまだこの世界にいる。
直人とは違って確固たる確信を持ち、ラリアンは音楽の街の復興を目指す事にしたのだった。
「とはいえ、私にも出来ることの限界がある。まずは人集めか……?」
この街の問題点は、人が居ない、その点のみだ。
それ以外は何も問題のない普通の街だ。おかしいくらいに。
しかし、その人集めがラリアンにとって一番の難題なのだ。
魔女とは言っても、創世の魔女。世界の始めに建物類を建てたのは彼女だが、人を生み出したのは彼女ではない。
「あいつの力が必要だな」
キサラギと合わせて人を生み出すことを可能とする力を持っているのは、彼女しか居ない。
──《生物の魔女》鳥猫。旧友との再会は今度こそ喜べるものとなれば良いのだが。
《生物の魔女》は、《創世の魔女》とは対極的な存在だ。
あらゆる生命体を生み出すことが出来、思うように操ることができる。
使い方によれば武器となる能力を持った魔女。それの最大的な能力とも言える。
「おい、どら猫」
「……まったく、ご主人たらまたどら猫呼ばわりして……。うちの名前はアイだにゃん。今度またどら猫って呼んだら許さにゃいんだからね」
美しく伸ばした長髪を手櫛で解きながら、碧眼の少女は文句を垂れる。
「分かった分かった。……アイ。少し頼みを聞いてくれないか?」
「またかにゃん?うちら的にはもうちっとおしゃべりの時間増やして欲しいなーにゃんて。……あっちは出てこないの?」
「──」
「うにゃっ……!ごめんにゃん。ただの冗談にゃん。だからそんな怖い顔しにゃくても……」
「他にもお願いしてマオを探してこい」
「了解にゃん」
アイが両手をあげると、何処からともなく黒猫が現れる。
アイも黒猫の姿に戻り他の猫たちに指示を出すと、それぞれ別の方向に駆け出していった。
これで、何処にいるかも分からないマオの捜索の手間は省ける。
することがなくなったとも言えるが、まだラリアンにはすることが残っている。
──楽器の製作か……。
もっとも彼女が苦手とする分野でもあるのだった。
ラリアンは、見たことのないものに関しては創造力が乏しい。
この前は人の記憶を借りて補うことができたが、今回はそうもいかないので、別の方法を探すしかなかった。
「《音楽の街》として機能を回復させるためには、楽器の存在は必須。せめて楽器の構図でもあれば……」
──そうだ。構図を探せばいいのだ。
昔、楽器をここで作っていたのならば、構図ぐらい残っているはず。工場を探せば見つかるのではないか。
ラリアンはそんな推測をたて街の中を、工場を探して歩き回ることにした。
「ないっ……!」
いくら探しても見つからない。引き出しの中も、金庫らしきものの中も、もぬけの殻だ。
しかも構図だけでなく、作れそうな機械も、金属もない。そして、街の中の生活感でさえも、ない。
まるで、誰かが移住してくる前のように何もない。
考えてみれば、それは別におかしな話ではない。
この世界の街は、無くならないように設定されているため、ベースとしてある建物等は時間が経っても劣化しないのだ。
それに反して、ベースとならないものは当たり前のように劣化し、消滅する。
しかし、普通はこうはならないはずなのだ。まず、人が完全にいなくなること自体が、おかしい。
「まあ、やったやつの予想はついてるんだがな」
ラリアンは諦めて工場を出、夜空を見つめる。
──星が綺麗だ。
灯りのない街だと、それがよく分かる。
こうしてずっと見つめていれば、流れ星が見られるかもしれない。
薄く蘇る記憶を片隅に流れ星を待っていると、チカっと星が瞬いた気がした。
「お?」
その光は尾を引きながら降ってくるが……。
「なんか、近づいてきてるんじゃ」
巨大化したその光はラリアンの右手側、公園のある方に落下する。
街が激震したかと思うと、ラリアンはすぐに体勢を立て直しその公園に向かう。
何が落ちたのかは分からないが、いつの間にか足が動き出していたのだった。




