幕間『×××××××』
「夏目君、藤谷君、おめでとう!」
先輩が私達の肩に手を置きながら、目を輝かせる。
私は涙を浮かべ、礼を言う。
「ようこそ、──高校へ」
生徒会長である事がひどく似合う彼は、自分の高校をバックに両手を広げた。
私と直人は顔を合わせて笑い合ってから、ハイタッチをして抱き合った。
一年先に入学していた如月先輩と飛鳥先輩は、並んで私達を幸せそうに見つめていた。
「2人とも!危ないっ!」
後ろから如月先輩の珍しく焦った声が飛んできた。
その内容を理解する事ができないまま、私達は後ろから突き飛ばされた。
「えっ」
そのまま倒れこむかと思いきや、ふんわりと浮かんだような感覚がすると、向かい側の歩行路に私と直人は倒れ込んだ。
すぐさま上半身を起こし、何が起こったのか確認するため、後ろを振り向く。
「先輩!」
何が起こったのか、理解できなかった。
先輩が手を前に突き出し、安心したような顔で道路の上を飛んでいる。
その横には、物凄いスピードで迫るトラックが。
──やけにスローモーションに感じた。
しかし、私の体が素早く動くことはなく、あっという間に先輩はトラックに吹き飛ばされた。
やっと体が思うように動くようになり、肘を思い切り伸ばして半身引きずりながら、吹き飛ばされた先輩の元へ向かう。
息を荒げながら、先輩の元へたどり着くと、直人が駆け寄ってきた。
私は先輩の体を持ち上げ、呼びかける。
「先輩、如月先輩……!」
しかしその声に彼は応答しない。
何度も何度も先輩の体を揺らし、呼びかけるが、彼が目覚める様子は微塵もない。
──どうすれば……!
「明日香、救急車呼んだから、先輩を俺にっ」
先輩を抱えたまま涙を流そうとすると、直人が早口でまくし立てる。
「え?」
「先輩の体を歩道に移動するから、俺に渡して!明日香じゃ持てないだろ?」
私は涙ながらに直人を見つめて、一息吸う。
「……嫌だ」
直人は声も出さずに目を見張る。
幸い、意味は通じていたようだが、直人は異を唱えた。
「ダメだ。移動しないと、また轢かれるかも……」
「なら、私が運ぶ」
私は先輩の体をガッチリと抱えて、何とか膝立ちをする。
そのままの状態で、先輩の半身を引きずりながら歩道へ向かうが、どうにも上手く動けない。
直人は何も言わなくなったまま私の行動を見守っていたが、やがてくそっと言う声と共に先輩の半身を持ち出した。
「立って、明日香。じゃないと効率が悪い」
「……ありがとう」
ここで断ってしまっては、また直人の心を傷つけてしまうだけだ。
彼の優しさと気遣いを受け止め、立ち上がって先輩を運ぶ。
膝が思うように動いてくれなかったが、やっとの思いで先輩を歩道に運び込むことが出来た。
──しばらく待っていると、遠くから救急車の音が聞こえた。
救急車の中で、私達は黙って先輩の様子をじっと見ていた。
そして驚いたことに、彼は半目を開けたかと思うと、こちらを見て掠れた声を出す。
「良かった……。君達が無事で……」
「先輩……!」
直人と目を合わせ涙して、先輩に近寄る。
「先輩、死なないですよね? 私達を置いてなんかいかないですよね?」
「そう、したい、ところ、だけれど……。もう、見えた、聞こえたんだよ。僕はもう、助からない」
「何でなんですか!? 俺達、高校も一緒に、色んなこと、見つけよう、って約束したじゃないですか!」
「そうですよ! どうして助からないだなんて、そんなこと……」
止めようもない戸惑いと、怒りにも似たような感情で胸が詰まり、嘆くように責め立てる。
何故、こんなことになってしまったのだろう。
どうして、先輩は……。
「……すま、ないね。本当にごめん。約束、守れなさそうだ」
先輩は眠るように目を閉じ、そこから何も喋らなくなってしまった。
「如月先輩っ」
そう叫んだのは私ではなく直人で、私は以外にも何も叫ぶことの無いまま、真正面を虚ろに見つめていた。




