1『騎士の街』
「どこだ、ここは?」
暗闇が晴れると、直人は見たこともない場所にいた。
また日本に来たのかと思ったが、今度ははっきりと断言できるほど日本とは程遠い場所だ。
煉瓦造りの建物に、耳をすませば金属同士がぶつかり合う音が聞こえる。
足下を見ると、ここも煉瓦造りの道だ。周りを見渡すと、鎧を着た人達がコツコツと足音を鳴らして歩いている。
──まるで、中世ヨーロッパだ。
直人は恐る恐る一歩踏み出し、自らもコツ、と足音を鳴らす。
人々はそんな直人を避けてすれ違っていく。
「何がどうなってるんだ……?」
「ここはどこですか?」
少し歩いたところにあった露店で店員にそう聞くと、幸い言葉が通じないということは起こらず、強面のおじさんは優しく教えてくれた。
「兄ちゃん、ここがどこか知らないでここに来たのか?騎士の街だよ。最高の騎士を目指す奴らが集まる街だ。兄ちゃんもそんな格好してるんだったら、騎士を目指してるんじゃないのか?」
「あ、いや……」
「まあ取り敢えず、この街で暮らしたいんだったら、ギルドに行くんだな。そこを曲がった先にあるぜ」
おじさんは腕を伸ばして道を示す。
直人はおじさんに礼を言い、取り敢えずギルドを目指すことにした。
ギルドに行けば誰かが何かを教えてくれるかもしれない。
──もう何が何だかも掴めていないので、直人自身も何が知りたいのかは分かっていないが。
「騎士の方ですね。ギルド登録ですか?クエスト受注ですか?」
「えっと……」
これは、何を答えればいいんだ?
何となく来て何となく辿り着くと、すぐさま受付嬢に話しかけられてしまった。
なので、そう聞かれても何と答えるのが正解なのか……。
「見たことない顔ですね。まず、ギルド登録をしましょう。この紙に手を当てて下さい」
彼女はさっと紙を取り出すと、直人に手を置くように促した。
言われるがままその紙に手を置き、時間の経過を待つ。
「では、マスターに会いましょう。2階にいらっしゃいますから」
「あ、はい」
──ん? 今なんて言ってた?
ぼーっと言われるがままに行動していると、いつの間にか何かの手続きが終わっていた。
取り敢えず、2階に上がればいいのか。
近くに階段を見つけて上り終えると、2階には扉がいくつかあったがひとつだけ色の違う扉があった。
多分、あれが”マスターの部屋”だろう。
扉をノックし、中から声が聞こえるのを待つ。
「入れ」
空気が低く振動し、声が直人の耳にビリビリと響く。
一瞬で萎縮しかけてしまったが、勇気を出して扉を開く。
「し、失礼しますっ」
中には、先程の強面のおじさん以上に強面な男性が、机越しに堂々と座っていた。
彼は直人の姿を視認してすぐにまた、あの声を響かせる。
「お前、体重は何キロだ。身長は?視力はいくつあるんだ」
「は、はいっ。た、体重は、70キロ、身長は176センチ、視力は左右どっちも2,0です!」
「よし、まあ、いいだろう。お前、どこから来たんだ?」
「えっと。それは……」
どこからきたと聞かれて、出身地を伝えるべきか、今までいた所を言うべきなのか。
迷っていると、強面な男性の方が先に切り出してしまった。
「言えないなら別にいい。大事なのは、やる気があるかどうかだ。……お前、騎士になりたいか」
「は、はいっ」
その場のノリで適当に答えてしまったが、選択ミスはしていなかったようで、強面な男性は満足したように頷いた。
「武士の奴らに勝ちたいかー!?」
「おー!って、……んん?」
──武士ってなんだ?
あの後直人は、急に聞き覚えのある言葉が耳に飛び込んできたので、受け入れられずに首を傾げてしまった。
すると、強面な男性は「そんなことも知らないのか!」と、唾がかかりそうな程の勢いで武士のことを軽蔑しだしたのだ。
直人があの言葉から適切でない言葉を除いてまとめた結果、「武士の街というのが隣にあって、長年騎士と武士は競い合っていること」しか残らなかった。
思わず耳を塞ぎたくなるような内容を聴き切れたのはすごい、と自分を褒めたいと思うぐらいだ。
さて、今直人が何をしているのかというと。
──ひたすら剣を振っていた。
「騎士たるもの、基礎練習が大事だ!」ということらしい。
流れで騎士になることになってしまったが、別にそれも悪くない。
──明日香はもうこの世界にはいない訳だし……。
騎士となってどこかの戦場で息絶えることができたのなら、それが今の直人の本望なのかもしれない。
戦場がどこにあるのかは知らないけれど。




