幕間『×××××××』
「やあ。君、世界探究同好会に入らないかい?」
そう声を掛けられたのが、如月先輩との初めての出会いだった。
やましい心は無かったつもりではあるが、あの爽やかな笑顔に心を射抜かれてしまったのは事実だ。
「……はい」
爽やかな笑顔を注視しながらぼんやり返事をし、それからチラシを受け取った。
「じゃあ是非、今日の放課後、3階の英語準備室に来てくれ」
彼は、またもや爽やかな笑顔で私に手を振った。
私はその笑顔に翻弄されたまま、人混みをふらふらと抜けて校舎内に入った。
「あ、明日香!また同じクラスだ!今年もよろしく!」
「やかましいわ」
またこいつに悩まされる日々が来るのか……。
それももう7年目かと思いきや、よく考えれば保育園からだし、家も近いので生まれた時からこいつと一緒だった。
何を考えているのか飛びついて来たので、直人の顔面を手のひらで押し返す。
すると直人は顔を、私にやられて赤くなった部分以外も赤らめて、
「明日香は相変わらずだねっ」
と言った。
それに対して私は顔を歪めて言う。
「いや、きもいんですけど」
「えっと……。ここかな?」
校内案内図を片手に教室の表示を見上げると、肩の後ろから声がした。
「英語準備室って書いてあるぜ。ここじゃん?」
「ほんとだ」
私達2人は、英語部なるものの様子を見るために英語準備室に来ていた。
本当は1人で来たかったのだが、案の定直人がついて来てしまった。
どうせ言っても聞かないので、無理に引き剥がすことはしないが。
ドアをノックし、あの人の声がするのを待つ。
「どうぞ」
「えっ」
しかし、予想を裏切り聞こえたのは、聞いたことのない女性の声だった。
その声に少し狼狽え、ドアを開けずにいると、向こうからドアが開いた。
「入られないんですか?」
開かれたドアの向こうでは、如何にも年上の美しい女生徒がこちらを伺っていた。
「あっ、すいません。……ここは、世界探求同好会の部室ですか?」
「ええ。そうですよ」
女生徒は、ニッコリと笑みを浮かべて私に中に入るように促す。
軽く一礼して直人と共に入室すると、彼女が話しかけて来た。
「如月君に誘われて来たんですか?」
「如月……?」
聞いたことのない名だ。そんな人、私の知り合いにいただろうか。
「ああ、ごめんなさい。眼鏡の男子生徒です」
──あ、あの爽やかイケメンは、如月というのか。
「そうなんです。あの、彼は今どこに……」
「やあ、すまなかったね。遅れてしまって」
直人の向こう側から、眼鏡の男子生徒が現れる。
──如月、先輩だ。
今も爽やかな笑顔で、私達に手を振っている。
「遅いですね。1組は帰りの会に時間がかかったのですか?」
「ああ。クラスメイトがやらかしちゃってね」
どうやら2人は、同学年らしい。
2人は楽しそうに会話を続けていて、その姿を見ていると不思議な気持ちになった。
私達がなんと言えばいいのか分からずに立ち尽くしたままでいることに気づいたらしく、如月先輩が会話を閉めた。
「君、朝会った子だよね?」
「覚えててくれたんですかっ?」
てっきり、私は多く声をかけた中の1人なだけで、彼も覚えていないだろうと思っていたのだが……。
「もちろんさ。入るかと聞いてうんと言ってくれたのは君だけだったからね。……そこの子は君のお友達?誘って来てくれたのかい?」
直人が目に移ると、彼は嬉しそうに目を輝かせたが、当の直人は微妙な顔をして、胸の前で両手を振る。
「いや……、俺は……」
「いやあ!嬉しいなあ!これでやっと僕達も安心して活動が出来るよ!」
そんな直人の反応に彼は気づかない筈も無かったが、彼はわざとらしく直人の肩を組んだ。
しかしそんなことより、彼の言動が少し気になる。
まるで……。
「ごめんなさいね。彼も必死なんです。部員がいなくて廃部だって先生方から言われてましたから」
やはりそうか。
どうりで、授業が終わってしばらく経つのに他の部員が来ないわけだ。
彼は直人の背中を叩き、嬉しそうに高笑いしていた。
「彼、部員が増えた事が相当嬉しいみたい」
「そうみたい、ですね……」
しばらく私と女生徒……飛鳥先輩は遠回しにその様子を眺めていた。




