57『ひとつの不安と希望』
ラリアンは、何かの為に素材を探しに行きたいとのこと。
そんな訳で、これから分かれて行動することになった。
と言っても、分かれるのはラリアンだけで、他はみんなで一緒に荷造りをする。
「直人、ご飯は買ってきた?」
「うん。買ってきた。ただ、この世界の食糧はあんまり長持ちしないから、途中でまた調達しないといけなくなるかも」
「あー、そっか。まあ、そこは後で考えよ。ありがと」
ラリアンに作って貰った大きめのリュックに、前に着ていた服と、食糧を入れながら、ラリアンの言っていたことを思い出す。
この地下の街から、中央の街の間には一切街は存在しなし、その上遠い。
それに加えて、2つの街は仲が悪く、交通の便も悪い。
そんな訳で、私達は物凄く長い道を歩いて進まねばならないのだ。
正直、ラリアンの魔法で飛行機でも造ってくれよ、と思わずにいられないのだが、この世界に飛行物体は存在しないので、ラリアンも知らないだろうと諦めざるを得なかった。
そんな訳で、食料の不足が心配されるのだが……。
「ルイね、ご飯いっぱい出してくれる魔道具知ってるの」
「え?」
「好きな料理を言えば、出してくれるんだって」
「へえ」
「あれみたいだね、22世紀のあの道具……」
「ちょっと」
直人がそう言った瞬間、あの青ダヌキが目線を引かれて頭に思い浮かばれた。
何となく直人がその先を言うのを止めたが、私もその魔道具が気になって仕方ない。
「それ、どこかに売ってないの?」
「んーとね、ここの街では見たことないの。でも、中央の街ならあるかもなの」
「それじゃあ、今回の移動では使えないか……。でも、気になるからついたら探してみよう」
脳内買い物リストに食料魔道具を書き込む。
「ルイはね、かきごおりが食べてみたいの」
「かき氷?俺も食べたいなあ。でも、最近暑くないからなあ」
「もしかしたら、中央の街は暑いかもよ。この世界、結構コロコロ季節変わるみたいだし」
「へえ。まあ、冬だろうと夏だろうと年中俺はアイス食ってたけどね」
確かに、直人が炬燵に入りながらアイスを食べてるのはみた事がある。
「でも、アイスとかき氷だとだいぶ違うでしょ」
「そうかなあ」
直人は唇を尖らせて考え込む。
一方のルイは目を輝かせて食べ物の妄想にふけっているようだ。
「こっち、準備終わった。2人は?」
「あ、ごめん。まだだ」
「ルイも……」
ため息をつく間に、2人はせっせと荷を詰めていく。
そんなに荷物は多くないし、対して時間はかからないはずだ。
問題は、ラリアンの荷物。
出来るだけ急いで戻ってくる、と言っていたのに、分かれてからもう1時間も経っている。
そんなに急いでいないし、遅さを心配する必要は無いのだが、何だか怪しい。
そんな風に考えていると、ちょうど問題の張本人が帰ってきた。
「すまん、遅くなった!」
「ちょっ……と?」
扉が激しく開かれ、その音に驚いた私はラリアンに怒りの声を飛ばそうとしたのだが、振り向いた光景が予想とは違ったせいで驚いて声が止まってしまった。
「その人誰?」
扉の横に立つラリアンの側には、見知らぬおじさんが立っていた。
「素材屋のおっちゃんだ」
「すまないな。いい、と断ったのだが……」
どうやら、ラリアンは頼み事をされてしまったらしい。
素材屋のおじさんは、新しい素材を手に入れに中央の街へ行きたいそうだが、2つの街の仲が悪いせいで許可が下されないらしい。
馬車は出すから、どうか代わりに行って来てくれないかとのこと……。
「そんなの、断る必要ないじゃん!是非、よろしくお願いします!」
おじさんの手を握り、ブンブンと振る。
こんな好条件なお願い、断れるはずがない。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。
おじさんはやや引き気味に、
「それでは、よろしくお願いします……」
と言った。
「では、また来ます」
「ええ。またお会いできる日を楽しみにしています」
その日の暮れ頃、私達は街の人々に見送られて旅立つこととなった。
いつの間にか街を守った英雄視されていたらしく、子供から大人まで、大勢の人が集まっていた。
その人達に手を振りながら、馬車に乗り込むと、御者から声がかかった。
「乗り心地が悪いと思いますので、座布団をお尻に敷いてやってください」
驚くことに、その御者は先程の素材屋のおじさんだったのだが、声に出すことなく、言われた通りにする。
全員がそうし終わると、おじさんの掛け声と同時に馬車は動き出した。
「楽しみなの」
ルイは、にっこり笑ってそう言った。
その笑いに笑って返してから、長旅の先を思い浮かべる。
楽しみなのもあるかも知れないが、実はというと凄く怖い。
講義の先に、戦い以外のものがあれば良いのだが……。
そんな私の不安を感じ取ったのか、直人が言った。
「大丈夫だよ。そんな頑固な世界じゃないさ」
「そう、だよね」
今はひとまず、新しい街への楽しい思いを馳せた。




